Re:ゼロから始める浪人生活   作:猫色鼠

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第一章4  『メルカリ蔵』

 校舎裏を抜けて、人気の少ない裏門へ向かう道を二人で歩く。

 

 沈黙が数歩分続いて、先に口を開いたのはスバルの方だった。

 

「……あー、その、さ」

 

 頭をかきながら、少しだけ前を歩く彼女の背中に声を投げる。

 

「助けてもらったし、ちゃんと名乗っとくわ。俺の名前はナツキ・スバル! 右も左もわからない上に天衣無縫の無一文! ヨロシク!」

 

 最後だけ小さく付け足す。

 

 少女は足を止めず、少しだけ横目でこちらを見る。

 

「エミリア」

 

 短く、それだけ。

 

「……以上?」

 

「以上よ」

 

 あまりにも簡潔な返答に、スバルは思わず苦笑する。

 

「もうちょいなんかないのかよ」

 

「必要?」

 

「いや……まあ、いいけど」

 

 それ以上は踏み込まず、スバルも歩調を合わせる。

 

 しばらくして、エミリアがぽつりと口を開いた。

 

「さっきの話」

 

「ん?」

 

「パック。たぶん、あいつらの手にはないわ」

 

「マジで?」

 

「雰囲気が違った。あれはただのPDF販売屋。盗みはしてない」

 

 言い切る口調。

 

 確信があるらしい。

 

「じゃあ犯人は別ってことか……」

 

「ええ。でも、流れは読める」

 

 エミリアは前を見たまま続ける。

 

「盗んだやつが、そのまま捌こうとするとは思えない。足がつくもの」

 

「じゃあ、どっかに流す?」

 

「そう。こういうのは“集まる場所”があるの」

 

 少しだけ間を置いて、

 

「メルカリ蔵」

 

 その名前を口にした。

 

「……なんだそれ。名前からして終わってるな」

 

「盗品とか、グレーなものばかり扱ってる場所。表には出てこないけど、知ってる人は知ってる」

 

「完全にアウトじゃねぇか」

 

「ええ。だからこそ、ある可能性が高い」

 

 淡々とした説明。

 

 だが、その足取りは少しだけ速くなる。

 

「そこに行くのか」

 

「他に当てもないもの」

 

 迷いのない答え。

 

 スバルは少しだけ考えて、肩をすくめた。

 

「まぁ、わかりやすくていいわ。RPG的に言うと“次のダンジョン”って感じだな」

 

「……なにそれ」

 

「気にすんな」

 

 軽口を叩きながらも、スバルの表情は少し引き締まる。

 

「で、そのメルカリ蔵ってのはどこにあんだ?」

 

「駅の反対側。古い倉庫街のあたり」

 

「あー、あそこか……なんかそれっぽいな」

 

 納得したように頷く。

 

 昼でも薄暗くて、人通りも少ない場所だ。

 

「危ない場所よ」

 

 エミリアが一言、釘を刺す。

 

「さっきみたいなの、もっといる」

 

「知ってる知ってる。さっきのでだいぶ実感した」

 

 苦笑しながらも、スバルは歩みを止めない。

 

「……それでも来るの?」

 

「行くって言ったろ」

 

 即答だった。

 

「借りっぱなしっての、気持ち悪いしな」

 

 少しだけ視線を逸らしながら、

 

「それに――」

 

 一拍。

 

「パック、ないと困るんだろ?」

 

 その言葉に、エミリアはわずかに目を細める。

 

「……ええ。困る」

 

 短く、しかしはっきりと。

 

「じゃあ決まりだな」

 

 スバルは軽く笑って、

 

「取り返しに行こうぜ。メルカリ蔵」

 

 そう言って、足を一歩前に踏み出した。

 

 エミリアも何も言わず、その隣に並ぶ。

 

 夕方の光が、二人の影を長く伸ばしていた。

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