校舎裏を抜けて、人気の少ない裏門へ向かう道を二人で歩く。
沈黙が数歩分続いて、先に口を開いたのはスバルの方だった。
「……あー、その、さ」
頭をかきながら、少しだけ前を歩く彼女の背中に声を投げる。
「助けてもらったし、ちゃんと名乗っとくわ。俺の名前はナツキ・スバル! 右も左もわからない上に天衣無縫の無一文! ヨロシク!」
最後だけ小さく付け足す。
少女は足を止めず、少しだけ横目でこちらを見る。
「エミリア」
短く、それだけ。
「……以上?」
「以上よ」
あまりにも簡潔な返答に、スバルは思わず苦笑する。
「もうちょいなんかないのかよ」
「必要?」
「いや……まあ、いいけど」
それ以上は踏み込まず、スバルも歩調を合わせる。
しばらくして、エミリアがぽつりと口を開いた。
「さっきの話」
「ん?」
「パック。たぶん、あいつらの手にはないわ」
「マジで?」
「雰囲気が違った。あれはただのPDF販売屋。盗みはしてない」
言い切る口調。
確信があるらしい。
「じゃあ犯人は別ってことか……」
「ええ。でも、流れは読める」
エミリアは前を見たまま続ける。
「盗んだやつが、そのまま捌こうとするとは思えない。足がつくもの」
「じゃあ、どっかに流す?」
「そう。こういうのは“集まる場所”があるの」
少しだけ間を置いて、
「メルカリ蔵」
その名前を口にした。
「……なんだそれ。名前からして終わってるな」
「盗品とか、グレーなものばかり扱ってる場所。表には出てこないけど、知ってる人は知ってる」
「完全にアウトじゃねぇか」
「ええ。だからこそ、ある可能性が高い」
淡々とした説明。
だが、その足取りは少しだけ速くなる。
「そこに行くのか」
「他に当てもないもの」
迷いのない答え。
スバルは少しだけ考えて、肩をすくめた。
「まぁ、わかりやすくていいわ。RPG的に言うと“次のダンジョン”って感じだな」
「……なにそれ」
「気にすんな」
軽口を叩きながらも、スバルの表情は少し引き締まる。
「で、そのメルカリ蔵ってのはどこにあんだ?」
「駅の反対側。古い倉庫街のあたり」
「あー、あそこか……なんかそれっぽいな」
納得したように頷く。
昼でも薄暗くて、人通りも少ない場所だ。
「危ない場所よ」
エミリアが一言、釘を刺す。
「さっきみたいなの、もっといる」
「知ってる知ってる。さっきのでだいぶ実感した」
苦笑しながらも、スバルは歩みを止めない。
「……それでも来るの?」
「行くって言ったろ」
即答だった。
「借りっぱなしっての、気持ち悪いしな」
少しだけ視線を逸らしながら、
「それに――」
一拍。
「パック、ないと困るんだろ?」
その言葉に、エミリアはわずかに目を細める。
「……ええ。困る」
短く、しかしはっきりと。
「じゃあ決まりだな」
スバルは軽く笑って、
「取り返しに行こうぜ。メルカリ蔵」
そう言って、足を一歩前に踏み出した。
エミリアも何も言わず、その隣に並ぶ。
夕方の光が、二人の影を長く伸ばしていた。