Re:ゼロから始める浪人生活   作:猫色鼠

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第一章5  『足狩り』

 

「ここ、か……」

 

 雑居ビルの奥。

 看板も出ていない、シャッター半分の倉庫。

 噂の“メルカリ蔵”。

 エミリアは周囲を警戒するように見回し、スバルの隣に立つ。

 

「ここに、本当にあるの?」

 

「さっき話を聞いた人はそう言ってた。盗品の行き着く先、ってな」

 軽口のつもりだったが、自分の声が少しだけ硬いのがわかる。

 エミリアは小さく頷き、視線を扉へ向けた。

 

「……開けるわよ」

 

 軋む音。

 鍵は、かかっていなかった。

 ゆっくりと扉が開く。

 中は、思ったよりも広い。

 棚、段ボール、無造作に積まれた箱。

 参考書、タブレット、制服、時計。

 どれも“誰かのものだった”気配だけを残している。

 

「……ほんとに、蔵だな」

 

「パック、どこに……」

 

 エミリアが奥へ進む。

 スバルもそれに続きながら、周囲を見回す。

 静かすぎる。

 人の気配が、ない。

 足音だけが、やけに響く。

 

「こういうのってさ、普通は見張りとかいるもんじゃねえの?」

 

「……逆に、油断させるためかもしれないわ」

 

 短く返しながら、エミリアは棚の中を確認していく。

 箱を開ける。

 中身を確かめる。

 違う。

 また別の箱へ。

 

「参考書ばっかだな……しかも微妙に古いの混ざってるし」

 

「盗品だから、全部が新しいわけじゃないでしょ」

 

 淡々と返しながらも、その動きにはわずかな焦りが混じっている。

 時間がない。

 それはここに来る前からずっと同じだ。

 

「……あったらすぐわかるのか?」

 

「ええ。パックは一式でまとめてあるはずだから」

 

 奥へ。

 さらに奥へ。

 棚の並びが変わる。

 置かれているものの“質”が、少しだけ上がる。

 だが――それらしいものは、まだ見当たらない。

 

「……ねえ、スバル」

 

 ふいに、エミリアが足を止める。

 

「なんか、変じゃない?」

 

「変って……いや、ずっと変だろここは」

 

「そうじゃなくて……」

 

 言いかけて、彼女は口を閉じる。

 視線が、ゆっくりと背後へ向く。

 遅れて、スバルも気づく。

 さっきまで“何もなかった”はずの空間に、

 確かに“何かいる”。

 

「――あら」

 

 声。

 すぐ後ろから。

 柔らかくて、妙に楽しげで。

 なのに、温度がない。

 振り返る。

 そこにいたのは、ひとりの女。

 黒い服。

 細い体。

 笑っているのに、目が笑っていない。

 

「こんな時間にお客さんなんて、珍しいわね」

 

 一歩。

 ゆっくりと近づいてくる。

 足音は、ほとんどしない。

 なのに距離だけが、確実に詰まる。

 

「ここ、関係者以外立ち入り禁止なの。知ってた?」

 

 視線が、二人をなぞる。

 値踏みするように。

 

「……誰だよ、お前」

 

 スバルの声が、わずかに低くなる。

 喉が乾く。

 女は、くすりと笑った。

 

「失礼ね。名乗りもしないなんて」

 

 わずかに首を傾ける。

 

「私はエルザ」

 

 一歩、踏み込む。

 

「『足狩り』エルザ・グランヒルテ」

 

 空気が、張り詰める。

 背筋に冷たいものが走る。

 

「ねえ」

 

 エルザが、微笑む。

 

「探し物をしてるみたいだけど……」

 

 視線が、棚の奥へと向く。

 そして、再び二人へ。

 

「見つける前に、終わっちゃうかもしれないわね」

 

 意味深に、そう言って。

 その手が、ゆっくりと持ち上がった。

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