オーバーロード:亡国の賢者   作:散弾アイスクリーム

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初の連載ですので暖かく見守っていただければありがたいです。

大体のプロットは決まっていますが、こんなシーンが見たい(戦闘シーン等)とかあれば、どしどし教えてください。誤字や名前間違いなども指摘していただいたら大変助かります。

また本作は亡国の吸血姫の時代を背景としてますが、私は亡国の吸血姫読んだことがなく、大体の流れとWiki程度の知識しかないので、「ここおかしいだろ!」と思ってもご容赦ください。一応指摘をいただいたらプロットに支障が出ないものなら修整いたします。

それではよろしくお願いいたします。



終わりの日の花火

DMMO-RPG『ユグドラシル』――かつて国内で圧倒的な人気を誇り、無数のプレイヤーたちが青春と情熱を注ぎ込んだその仮想現実は、十二年という長い歴史に幕を下ろし、ついに静かな終焉の時を迎えようとしていた。

 

栄華を極めた『ナザリック地下大墳墓』の最深部で、偉大なる死の支配者がかつての仲間たちとの輝かしい記憶を胸に、玉座で孤独な最後の時を過ごしていた頃。

 

そこから遥か遠く離れた、極寒と氷雪が支配する世界『ヨトゥンヘイム』。絶え間なく吹き荒れる猛吹雪が視界を白く染め上げ、並のプレイヤーであれば環境ダメージだけで命を削られる峻険な霊峰を、一歩、また一歩と、雪を深く踏み締めるように登っていく巨大な影があった。

 

「……他の連中は今頃、ヴィグリード*1辺りで馬鹿騒ぎでもしてるのかね。いや、俺にはもはや関係ないか……」

誰に聞かせるでもない独り言が、冷たい風に掻き消される。

 

分厚く豊かな毛皮に覆われた、丸太のように太く筋骨隆々の肉体。頭部には猛々しく天を突く二本の角を備え、鼻息からは濃密な白い蒸気のエフェクトが荒々しく吹き出している。腰には巨大な戦斧を提げ、その威圧的な巨躯は周囲の吹雪すらも撥ね退けるかのようだった。

 

彼のアバターは、亜人種の中でもとりわけ強靭なフィジカルと腕力を誇る『牛頭人(ミノタウロス)』のものである。

 

彼のプレイヤーネームは『アステリオス』。

ギリシャ語で「星」や「雷光」を意味し、ギリシャ神話の怪物「ミノタウロス」の本名から名付けたという。

 

しかし、その恐ろしげな名前や凶悪な亜人そのものといった外見とは裏腹に、彼は積極的なPKやギルド間抗争には一切興味を持たない、ロールプレイと未知の探索を愛するソロプレイヤーであった。

 

現実世界(リアル)の淀んだ空気と過酷な労働から逃れ、ただ己のペースで広大な九つの世界を旅し、未開の地を踏破すること。それこそが彼のユグドラシルでの至上の喜びだった。長年連れ添ったこの牛頭人(ミノタウロス)のアバターも、彼にとってはただのデータではなく、もう一人の自分自身と呼べるほどに愛着のある存在だ。

 

だからこそ、彼はこの世界の最期を誰に邪魔されることもなく、空に一番近い場所で、彼なりの最高の形で看取るつもりでいた。

 

「……ふぅ、着いたな」

 

やがて荒れ狂う吹雪を抜けたアステリオスは、ヨトゥンヘイムの星空を一望できる絶頂の雪原へと辿り着いた。

空中に半透明のコンソールウィンドウを呼び出し、手慣れた手つきでインベントリを操作する。そして、この日のために集めていた膨大な量のアイテムを、真っ白な雪原の上に次々と並べ始めた。

 

それは、ユグドラシルの長い歴史の中で、数々のイベント報酬や課金ガチャのハズレ枠として実装されてきた『魔法花火』の数々であった。

ただ光るだけの物ではない。上空で巨大な炎の魔法陣を展開して爆発するもの、星屑のように煌めく光の粒子が雪のように降り注ぐもの、果ては神話の幻獣――火竜や不死鳥の姿を夜空に描き出す特級品のギミック花火まで、種類も数も尋常ではない。

 

彼はこれらを山頂に円を描くように配置し、一斉に点火するための仕組みを綿密に設定していく。凍てつくヨトゥンヘイムの孤独な夜空を、サーバー内で誰よりも華やかに彩って、自身の冒険の幕引きとするつもりだった。

 

全てのセッティングを終えたアステリオスは、雪の上にどっかと腰を下ろした。

空を見上げると、これまでの十数年間に及ぶユグドラシルでの思い出が、走馬灯のように脳裏を駆け巡っていく。

 

一人で未知のダンジョンに潜り、手強いボスモンスターから命からがら逃げ回った記憶。行きずりの見知らぬプレイヤーと一時的なパーティーを組んで、他愛のないチャットで笑い合った記憶。レアアイテムのドロップを求めて、何日も同じ狩場に籠り続けた記憶。そのどれもが、今の彼にとっては掛け替えのない宝物だった。

 

ふと、彼は太く無骨な指先で、自身のアイテムボックスの最奥――厳重なロックが掛けられたスロットに保管されている一つのあるものに触れた。

 

それは、この広大無辺なユグドラシルに僅か二百個しか存在しないとされる、システムさえも改変し得る究極のアーティファクト、『ワールドアイテム』であった。

ギルド単位で血みどろの争奪戦が繰り広げられることもある、その世界が一つをソロプレイヤーである彼が手にしたのは、本当にただの偶然であった。手に入れた当時は、そのあまりの価値に手が震え、奪われることを恐れて、ログアウトすら躊躇われたほどだ。

 

「……結局、お前を最後まで一度も使わなかったな」

 

誰に聞こえるでもない独り言が、冷たい夜風に溶けていく。

 

アステリオスはワールドアイテムの放つ微かな温もりを掌のデータ越しに感じながら、視界の隅にあるシステムの時計へと目を向けた。

 

時刻は、23時59分。

いよいよ、終わりの時が来た。

 

「さようなら、俺の青春」

 

アステリオスは起動コマンドを入力し、並べた魔法花火の全てに一斉点火のシグナルを送った。

 

次の瞬間、ドンッ! という腹の底に響くような重低音と共に、ヨトゥンヘイムの暗く凍てつく夜空に、無数の極彩色の光が打ち上がった。

 

赤、青、金、翠。星々を覆い隠すほどの圧倒的な光の奔流が、重なり合い、弾け、氷の世界を真昼のように染め上げる。炎の軌跡が夜空に大樹の幻影を描き出し、光の粒子がオーロラのように揺らめきながら降り注ぐ。

VRMMOのグラフィックの極致とも言えるその光景は、涙が出るほどに美しく、そして儚かった。

 

「はは!綺麗だ!最高じゃないか!!……ありがとう、ユグドラシル」

 

カウントダウンが最後の時に近付く。

アステリオスはその華やかで壮大な終焉の余韻に全身で浸るように、ゆっくりと両目を閉じた。視界が暗転し、次に目を開けた時には、見慣れた自室の天井とダイブデバイスのインターフェースが広がっているはずだった。明日の仕事のことを考えれば、少し憂鬱な朝が待っている。

 

――しかし。

 

「……ん?」

どれだけ待っても、強制ログアウトを告げる冷たい電子音が鳴らない。

それどころか、生温かく、どこかカビと土埃、そして血と腐肉の入り混じったような、ひどくリアルな『死の臭い』が鼻腔を突いた。

 

アステリオスは勢いよく目を見開いた。

 

「な、なんだここは……?」

 

彼の目に飛び込んできたのは、煌びやかな花火が散る雪山の頂ではなかった。

崩れ落ちた石造りの建造物、風化して原型を留めていない塔、そして赤黒く淀んだ薄暗い空の下にどこまでも広がる、見知らぬ廃都の光景だった。

 

(バグか……?)

 

そう疑い、即座に右手で空を叩いてコンソールを呼び出そうとする。しかし、何も起きない。普段であれば空中に展開されるはずの半透明のウィンドウが、何度手首を振っても現れないのだ。GMコールはおろか、ログアウトの項目すら選択できない。

 

「ヘルヘイムの……ネクロポリスか? いや、違う……」

 

常闇と冷気の世界『ヘルヘイム』にも似たような都市エリアは存在した。ソロでマップを埋め尽くしてきた彼だが、このような意匠の都市の記憶はなかった。

 

何より、彼の足元に転がる石の質感、吹き抜ける風が運んでくる廃墟の生々しい匂い、そして牛頭人(ミノタウロス)の重い肉体が地面を踏みしめる感覚が、今まで体験してきたVRMMOのそれを遥かに凌駕するほどの『現実味』を帯びている。

 

花火はどこへ行った。ここはどこだ。俺はどうなった。

 

自身の身に何が起きたのか。牛頭人(ミノタウロス)の肉体に宿った人間の精神は、未だその決定的な現実を理解できず、広大な廃都の中心で呆然と立ち尽くしていた。

 

――ズル、ズリィ……。

 

その時、静寂に包まれた廃都の路地裏から、何かを引きずるような不気味な音が響いた。

アステリオスがハッと我に返り、腰の巨大な戦斧に手を掛ける。音は一つではない。崩れた建物の陰から、ひび割れた石畳の向こうから、無数の影が揺らめきながらこちらへとにじり寄ってくる。

 

「ほかのプレイヤーか……? いや、NPCか?」

 

暗がりから姿を現したソレを見て、アステリオスは息を呑んだ。

それは、かつては豪華だったであろうドレスの残骸を纏う貴族、鎧が錆びついた衛兵、そして小さな子供の姿をした――虚ろな眼窩に生者への憎悪の光を宿した、数え切れないほどの不死者達の群れだった。

 

ここがユグドラシルではない未知の現実であり、全てが死に絶えたインベリアという死都であるという残酷な真実をアステリオスはまだ知らない。

*1
オリジナルの街の名前。プレイヤーが多く集まるメインの街。




次回は本業が忙しくなければ、金曜日までに投稿予定です。

感想お待ちしております。

皆さん、アステリオスの細かいキャラ紹介(ステータスや現実での職業など)は見たいですかね?

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