「見て、また彼が外郭に向かっているわ」
「まともな武器も持たずに何故毎回無事に帰ってこれるのでしょうね。不気味でしょうがないわ」
薬指のスチューデント達が子供の陰口を話す。子供はそんなことは意に介さず自身に必要な画材を持って外郭に向かう。
「おや、アルクではないか。また外郭に向かうのか?」
野獣派のマエストロが子供に話しかける。子供はめんどくさそうな表情を若干浮かべながらも冷静に話す。
「ええ、まぁ3日もすれば帰って来ますよ」
「そうか、まぁそれが君の遺作にならないことを祈っておくよ。写実派のマエストロ、アルク」
「あなたこそ、インスピレーションが枯れないと良いですね」
子供はそう言ってその場を後にする。残ったのはマエストロと数名のスチューデントだけであった。
「あの…マエストロ様、何故彼はたった一人で派閥を持つことが許されているのですか?しかも写実派なんて誰でも出来そうな派閥で…」
一人のスチューデントがマエストロにそう問いかける。マエストロはその質問について少し悩みながらも答える。
「まず前提として彼の派閥は一人であって一人ではない…というのが正しいな。そして写実派は誰にでも出来るものではない。あれは見た目以上の難しさがあるのだよ。それに…いや、これは語るべきではないな」
「一人であって…一人じゃない?でも事実彼の運営するギャラリーには彼の作品しかないじゃないですか」
「そうだ、彼のギャラリーには彼の作品だけが並んでいる。ソレは何故か分かるか?」
「だからそれが写実派には彼しか所属していないからなのではないのですか?」
「違う。彼のギャラリーには作品を展示できるのが彼しかいないのだよ」
「は、はぁ…」
スチューデントは未だにマエストロの言っていることの意味が理解できない様子でいた。
「そうだな、彼のギャラリーにはある呼び方がある。それはなにか知っているか?」
「は、はい。確か…竜の巣…でしたっけ?」
「それも間違っていないが、我々マエストロの中では別の呼び方があるのだよ。かつて霧の国や原初の領域と呼ばれていた場所の名、ニブルヘイムと」
写実派のギャラリー、竜の巣
「こちらが、先日私が外郭で撮ってきた写真。題して狼王の玉座です」
子供がそう言って観客たちに見せる写真にはあまりにも巨大な狼が丘の上に座す物であった。子供はその他にも様々な外郭の写真を観客に紹介していく。
「そろそろ良いお時間ですので。このあたりで閉場とさせていただきます。またのお越しをお待ちしております」
子供は深く頭を下げて観客の退場を待つ。やがてすべての観客が退場しギャラリーの電気がすべて消えると子供は貼り付けていた笑みを解き、未公開のエリアに入る。
そのエリアは全面が氷に覆われており、その最奥にたった一つの作品が飾られていた。その絵には眠りにつく一体の黒竜と幼い子どもの絵が飾られていた。
「どれだけ過去に手を伸ばそうとも、どれだけ過去の再現をしようとも、誰にも本物を作り出す事はできない。だから私は過去を残すために、今を撮るのです」
子供は一人でそう呟く。まるで誰かに説明するように。
「なぜ、こんな事を言ったのか…ですか?世界線は時に枝として表されることがあります。ですが私は世界線は枝ではなく、根であると主張させていただきます」
「ですから、あなたもどうか、このギャラリーに来てみてくださいね」
そういう子供のギャラリー霧に包まれ、無数の黒い人影が、子供の作品を見物する。
私たちにはこの作品は見れないけどね。あなたは見てみたい?