アンダーボスはキヴォトスへ   作:ただの紅茶好き

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7スレ目/ダインスレイヴ

「ーーーーーーーーーーー!!」

 

 キンクが声にならない叫びを上げると同時に完全に姿が変貌する。その体躯はおそらく縦が身長185cmのアルクの倍以上はあり横幅はぱっと見でもカイザーの戦車と同等はあるとわかる巨体であり、アルクのガンブレードによって切り落とされた右腕も再生しており、まるで大砲を思わせる程の太さに肥大化しその全身に大量の薄く紫色に光り輝く刺青が刻まれていた。また顔も狼のように変化しており長く前に突き出された口にその中から僅かに光り輝く鋭い牙が見え、頭のてっぺんの辺りに2つの獣の耳が生えていた。しかし顔にはそれ以外を覆い隠す様にズタ袋のようなものが被せられており、決して剥がせないように鎖が巻きつけられていた。

 ねじれたキンクは緩慢な動きで腕を振り上げ振り下ろす。アルクはそれをまるで興味深く観察した後ガンブレードで受け流そうとする。しかしねじれたキンクの腕力はアルクの想定を超えておりなんとか受け流すことは出来たものの刃毀れした部分からガンブレードにヒビが入る。そして振り下ろされた腕が地面に叩きつけられると同時にまるで戦車の砲弾が炸裂するときのような轟音が鳴り響き地響きが周囲を揺らす。そしてその音や揺れはその場にいた全員が感じ取っていた。アルクは咄嗟に跳躍することでダメージを最小限に抑えていた。

 

「アルク!?どうしたの?ていうか何その大きい狼!?」

 

 そしてどうやら回避のために跳躍した結果自社の兵器、ゴリアテに騎乗したカイザーPMC理事と戦闘をしていた先生たちに見つかってしまった。アルクがその声に気づきそちらの方に目線を向けるとその場にいる者たちは様々な反応を浮かべていた。驚きの表情を浮かべる者、困惑の表情を浮かべる者、ねじれたキンクの危険度に気づき即座に銃口を向ける者、他の勘定や行動を見せる者。そしてねじれたキンクも何かに気づいたのか狙いをアルクから先生たちの方に切り替え走り出す。アルクはその動きに気づいたが着地まで待ってからでは間に合わない。そんなことに思考を割いているとねじれたキンクが先生の前にたどり着きその凶刃を振るう。

 しかしその一撃を防ぐようにアルクが着地と同時にガンブレードを投げねじれたキンクの攻撃を弾く。しかし先程までの戦闘で破損していたガンブレードはその行為によって完全に刀身が折れる。

 

「逃げろアイリス!!」

 

 アルクはその言葉を叫んでからしまったといった表情を浮かべ、先生は一瞬困惑の表情を浮かべたが即座に後方に引く。しかしそれをカイザーPMC理事は見逃さず先生に向かって追撃を放とうとする。しかしそれを妨害するようにアビドスの生徒たちがゴリアテを攻撃する。おそらく今までの戦闘ですでに限界まで破損していたのであろうゴリアテは黒い煙を噴き上げ崩壊していく。

 

「みんなは先生と一緒にホシノの救出に向かってくれ、俺はコイツの相手をしておく」

 

「ん、分かった。みんな急ごう」

 

 アルクがそう言うとシロコが即座に応答し先生たちと一緒にカイザーのビルの中に入っていく。アルクは全員がビルの中に入って行ったのを確認すると一息つき、背中に掛けていた剣の柄を握る。

 

「起きろ、ダインスレイヴ。久しぶりに血を吸わせてやる」

 

 アルクがそういって剣を鞘から抜き出すと剣が一瞬脈打ち光を一切反射しないような漆黒の刃に赤いラインが迸る。直後、空気が重くなる。濃密な死の気配が辺りを支配する、その根源はアルクの握る漆黒の刀剣である。しかしアルクは何やら不満そうな表情を浮かべる。

 

「チッ、相変わらず寝覚めが悪いな…まぁいいか、来いよ、キンク」

 

「ーーーーーーーーーーー!!」

 

 ねじれたキンクのその叫びを合図に戦闘が再開する。キンクは相変わらず緩慢な動きで腕を振り上げ振り下ろす。しかしそれより早くアルクが剣を振るう、それと同時にまるで空間が抉れるようにねじれたキンクの腕が消し飛ぶ。それと同時にダインスレイヴの刀身に返り血のようなものが浮かび上がる。ねじれたキンクが声にならない叫びを上げながら残った腕を振るう。しかしその一撃もダインスレイヴの攻撃によって消し飛ばされる。

 

「終わりだ、キンク。できれば俺を許さず死んでくれ」

 

 アルクはそう呟き、ダインスレイヴを3度振るう。その連撃によってねじれたキンクは完全に消し飛ぶ、残されたのは刀身が真紅に染まったダインスレイヴを握るアルクとねじれたキンクがダインスレイヴの攻撃によって流した血溜まりだけであった。アルクはダインスレイヴの刀身が漆黒に戻ったのを確認すると鞘に納める。

 

「…終わったか、また…殺してしまったか。あぁ、やはり気持ち悪い。殺しの感覚も、俺も」

 

 その日、アルクは先生たちがホシノを連れて帰ってくるまで淡々とカイザーの残兵を気絶させ続けていた。ホシノを連れて帰ってきた先生が見たアルクの目はどこか、孤独に満ちていたように感じてしまうようだったと、後に先生は言っていた。

 


 

 その日の夜、先生はアルクをアビドス高校の校舎の屋上に呼び出す。アルクは指定された時刻より少し早めに屋上に向かったが先生はすでに屋上の縁に腰掛けて待っていた。先生は手招きしながらアルクに自身の横に座るように促す。

 

「あれ、早いねアルク?まぁ私が言えたことじゃないかもね」

 

 先生はくすくすと笑いながらそう言うと、少し真面目な表情を浮かべ話をし始める。

 

「んーいくつか聞きたいことがあるんだけどさ、とりあえず私があの大きい狼に襲われそうになった時に咄嗟に『アイリス』って叫んだよね?あれ私の名前だよね?こう言ったら大人として失礼だけどさ、アルクが来てから色々ありすぎて私名乗れてなかったよね?なのにどうして私の名前を知ってるの?」

 

 先生はどこか抜けてるような雰囲気を漂わせながらもアルクの目をしっかりと見据え、そう問いかける。アルクはその質問に何処か罰が悪そうな表情を浮かべながらも答える。

 

「…アイリスは昔、死んだ俺の妻の名前なんだよ。先生と瓜二つの見た目で、どこか抜けてるようで、物事の本質を見抜いて、誰にでも笑顔を浮かべてた都市の人間としては異端とも言えるような眩しい太陽みたいな人だったよ」

 

「…そっか、じゃあ2つ目の質問。なんで私達が帰ってきた時にあんな悲しそうな目をしていたの?それにあの大きな狼もいなくなってたし」

 

 先生はそれ以上アイリスについて何も聞かずただ淡々と次の質問をしてくる。

 

「…先生は気づいているんだろ?俺はあのデカい狼、昔から恨まれていた男を殺した。悲しそうな目ってのはよくわからないが俺はもう殺したくないんだよ。殺し続けたらあの時の、死なないために殺し続けてた時の俺に戻ってしまう気がしてしまうんだ。殺し続けたらまた大切なものが自分から離れていってしまう気がするんだ。俺はそれがどうしようもないくらい怖いんだよ。なのに過去は俺を掴んで離さない。なぁ先生、俺はどうしたら良かったんだ」

 

 後悔の念が含まれたその言葉をアルクはただ愚痴るように呟く。罵ってくれ、批判してくれ、拒絶してくれ、アルクは心のどこかでそう思いながら先生の目を見据える。先生は何も言わない。ただアルクの顔を自身の肩に乗せるように動かし頭を撫でる。

 

「アルクの昔のことはよくわからないし、私は人を殺したことは無いからアルクの気持ちは理解できないけどさ、アルクはあの大きな狼のことを殺したくて戦ってたの?」

 

「違う、俺は出来ることなら殺したくなかった」

 

 アルクがそう言うと先生は微笑み、アルクの頭を撫でる手を止め、言葉を続ける。

 

「そっか、辛かったね。でも殺すのは良くないね、だから先生と約束して。本当にどうしようも無い時以外は絶対に殺しなんてもうしないで」

 

 先生が静かに、されど確固たる意志がこもったその言葉をアルクに伝える。アルクはただその言葉に対して肯定する。本来都市において口約束などなんの効力を持たない約束だ、しかし先生はこの約束をアルクが破ることになるなんて微塵も思っていないし、アルクも破るつもりなんて無いことだけは分かっている。

 

「帰ろうか、みんなのところに」

 

「そうだね、帰ろうか、先生」

 

 二人はどこか清々しい雰囲気を漂わせながら月の光が照らすアビドスの校舎の中に戻っていく。

 


 

『神託代行者■■■へ、トリニティ総合学園のシスターフッドの大聖堂へ向かうように。期限はエデン条約調印式の2ヶ月前まで』

 

 キヴォトスの何処かでビープ音が響き指令が下される。

 

『ーーーへ、C&Cと接触するように、期限は一週間』

 

 同時刻、異なる場所で指令が下された




ということで第一章 対策委員会編完結でございます!
まずはここまでコメント、お気に入り、評価してくださった皆様、大変励みになりました。この場を借りてお礼申し上げます。
ですがやはり幾つか反省点もあり、まずは生徒達をあまり描写することが出来ず都市のメンバーにフォーカスが当たっていたのは個人的に改善すべき点かなと思います。このあたりはパヴァーヌで改善するように心がけていきます。
また、後日に今回のアビドス対策委員会編に出てきたキャラクターの情報まとめでも書こうかなと思っています
それでは改めてコメント、お気に入り、評価してくださった皆様に感謝を申し上げます。それでは後書きもここでおしまいとなります。次に書くとしたらパヴァーヌ1章完結後になると思います。それでは、ラマンチャ〜(気さくな挨拶)
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