「おはよう。朝帰りなんて随分といいご身分ね。」
「おはよう。相変わらずあんたは嫌味ね。アビー。」
結局あの後眠ってしまって、帰ってきたのは日の出始めた所だった。帰りはエリックに送ってもらったものだから、アビーに小言を言われている。まあ、いつも通りの朝だ。
「しかも、いつもとは別の男と帰ってくるなんて。男に困ってないなんて良く言えたものね。」
「あ、そのことなんだけど。」
「え。」
「あの狼とは別れた。」
「はぁ!大丈夫なのあんた。あんなにラブラブだったのに、よく普通に過ごせるわね。」
「ラブラブって。それに、私。アンタみたいに男に依存したりしないから。」
「はあ。図太いというかなんというか。」
余計なお世話だ。ただ、今日は、ふと聞いてみたいことがあった。
「アビーてさ、何だかんだ私のこと心配してくれるよね。」
「はぁ!何よ急に。」
「この間だって、私にアドバイスくれたじゃん。それに、傷ついたときに色々話聞いてくれるし。」
相変わらず口は悪いけれど。
「…見てられないのよ。昔の自分を見るようで。」
「え。」
「私だって21歳。アンタより4年も長く生きてるの。私だって昔は故郷が嫌いだったし、身の程知らずの恋だってした。そう言うときの傷は私が一番よく知ってるから。」
「アビー。」
「まあ、アンタは先輩に対してすっごく態度悪いから。いつもは嫌いだけど。なんだか放っておけなくてね。」
「…ありがとう。」
「なによ。今日はやけに静かじゃない。張り合いがないわよ。」
「いいの。私は正直に生きたいって決めたから。」
こうやって、私たちの日常は過ぎていく。少しずつ。みんなが寄り添いあって生きていく。
心の傷は癒えないけれど。きっといつかは。
「オリビアちゃん。なんか吹っ切れたみたいな顔してるね。」
「え。何ですか急に。」
常連さんの図星に笑って答える。
「いやぁ。最近はなんか疲れた顔してたからさ。まあ、昔に比べて辛そうなのは変わらないけれど。」
「そうですか。」
「こうやってオリビアちゃんも成長していくんだろうな。いつか俺の手の届かないところに。」
「ばか言ってんじゃないよ。オリビアは今だってあんたじゃ届かないんだからさ。」
「おかみさん。」
「オリビア。アンタに何があったかは知らない。ただ、今は仕事中だ。泣いたら容赦しないからね。」
「はい。今日も頑張ります。」
辛い恋だった。苦しい恋だった。でも、それも今日で終わり。私はいまできる最大限の仕事をするし、この街で生きていく。きっと彼のことも、どんどん忘れていくのだろう。
でも。そう思うと、心の奥がちくっとした。