星の降りたこの街で   作:わし座53番星

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理想のあなたには

あの日から、エリックにはたびたび相談を持ちかけるようになっていた。彼も大学の研究がひと段落着いたようで、時間があるみたいだった。だから、私のことも気にかけてくれて。ふと困ったことを相談していた。

同族の男女が二人。白昼堂々会っているのだから、はたから見ればカップルのように見えると思う。でも、そう勘違いされてもいい。きっとこれで、あの傷を忘れられる。

 

「おはよう。オリビア。」

 

今日は、舞台を一緒に見る約束をした日だ。この間、ふと話の流れで見たことないといったら、あれよあれよという間に席を予約されて、いつの間にか、今日のデートを取り付けられていた。昔は情けないお坊ちゃんのように思っていたけれど、意外と彼は手際が良かった。

 

「今日もかわいいよ、オリビア。」

「もう。ほめても何も出ないんだからね。」

「特にそのリボン。」

「え、ああ。これ。」

「初めて見た。よく似合ってるよ。オリビア。」

「これは…。そう。よかった。私も気に入ってるの。これ。」

 

彼は、細かいことに気が付く。それを惜しげもなく私に伝える。あの狼と違って。

 

「ごめんね、ほかの劇は予約が先まで埋まってて。簡単なミュージカル作品しかなかったけれど。」

「え、いいよ。わたしこういうの初めてだもん。いきなりだとちょっと敷居高いもの。」

 

その日、初めてみた舞台は、子供の頃絵本で聞かされた物語だった。悪い魔王にお姫様がさらわれて、それを救いに行く勇者の物語。どこにでもある英雄譚。だけど、舞台での演出は、とても華やかなものだった。高価な楽器の音色に合わせた、コーラスのハーモニー。動きを追うことも大変な、大胆なダンス。私がかつて憧れた夢物語も忘れて。食い入るように見つめていた。

 

ふと、隣を見つめる。あの灰色の毛皮を追って。あの高い背を思い出して。あの人はどんな表情をしているのか。退屈そうに見ているのか。食い入るように見ているのか。

 

私の眼に入ったのは、白い毛皮の優しい表情だった。

「どうした。大丈夫。」

彼が小声でそう答える。

「ううん。何でもない。」

私はそう答えた。

 

彼のデートは。まるで、理想のデートそのものだった。いつだったかアビーが言っていた、いつかしてもらいたいデートプラン。細かな気遣い。そして舞台やレストランの予約。全てが私優先で、だけど、私がやることはほとんどない。それはとても嬉しくて。でも、どこか寂しかった。

 

「ありがとう。エリック。」

「え。」

「舞台だけじゃなくて、レストランまで予約してあるとは思わなかったから。」

「いいや、いいよ。僕がやりたかっただけだから。」

「そっか。ありがとう。」

 

彼は私のことをとても大切に扱う。それは、私のことが好きだからだ。下心があるのは分かっているけれど、それを感じさせないくらい、彼は私に優しくしてくれる。

彼とは、きっとこれから長い付き合いになるのかもしれない。もしかしたら彼とこのまま結婚するのかもしれない。

それでいい。それがいい。あんな恋。もうしたくはないのだから。あの狼のことは忘れるべきなのだから。

 

「ねえ、大丈夫、気分悪くない。オリビア。」

「え、急にどうしたの。」

「いや、さっきから、ごはん食べてないから。」

「…なんでだろう。食欲わかなくって。」

「大丈夫。もしかして、体調悪いのに無理して僕に付き合ってた?」

「いいえ。そういうのじゃないの。ただ。食べたくないだけ。」

 

なんでだろう。ユージンといた時は、あんなにご飯が美味しかったのに。今はただ、味がしない。のどに何かをつっかえたような気分だった。

 

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