あれから、私たちは、何度かデートを重ねた。ユージンとは、あんなにも進展が遅かったのに、エリックとはとんとん拍子で話が進んでいった。
「ここって。」
「この、ブティックはね。このスノーフォード商店街で一番人気なんだ。」
今日は、彼と服を選ぶ約束だった。てっきり、近くの呉服屋でちょっと高いものを買ってくれる程度に思っていたけれど、まさか、こんな高そうなところに連れてこられるとは思ってもいなかった。しかもここは、因縁のあるあのブティックだ。
「いや、いいわよ。私、庶民だし、こんな場所入れない。」
「いいや。大丈夫。ここの店長には話を着けてるから。」
「そういう問題じゃなくって。私じゃ似合わないわよ。こんな服。」
「ううん。きっと似合うよ。オリビアにはきっと似合う。僕が保証する。」
そうやって、押し込められた先では。あのキラキラなドレスたちが私を待ってた。
でも結局。
「はあ。」
「そんなに落ち込まないで、エリック。」
あの店に入って、ドレスを選んで、試着しようとして初めて気づいた。
私のスタイルでは、服が入らないということに。
当り前だった。私は庶民だ。コルセットなんて言うもの初めて知った。あんなに貴族が痩せているのは、無理やり作った物だったと、私は今初めて知ったのだ。
「ごめんね。オリビア。ぼくがもうちょっとしっかりしていれば。」
「いいのよ。別に。」
彼にしては珍しく失敗して、自信をなくしている彼を見ながら。ふと、疑問に思ったことを口にしてみた。
「ねえ、エリック。」
「どうした。」
「なんで、こんなに色々気を遣ってくれるの。」
「それは、女の子に優しくするのは当り前じゃないか。」
「そうかもしれないけれど。あなたは、ほかの人たちと違って、細かいところに気づくから。ほかの男の人って、こんな細かいところには気付かないし、気付いても恥ずかしがって言ってくれないもの。」
「それは…。たぶん父さんのおかげだよ。」
「というと。」
「昔からよく言われてたんだ。女の子には優しくしろって。細かいことにも気づいたら即い言うように。女子の気持ちにはぜんぶ答えるようにって。」
「へぇ。」
「母さんを落とした方法とかも、一通り全部教え込まれてさ、大変だったよ。でも、君のために役立ったのならよかったかな。」
「そう。やっぱりあなたって、故郷のことが大切なのね。」
「どうしてそう思うんだい。」
「だって、あなたが故郷の話をするとき。いつもそんな顔をしてる。とっても嬉しそうな笑顔を。」
「…そうだね。あの村は、僕にとって大切な物だ。」
「そう。」
彼は、きっと私とは違うのだろう。あんな村に思い入れがある。
「僕はね。夢があるんだ。」
「え。」
「オリビアには言ってなかったよね。僕はね。この街に来て、心底辛かった。みんなが希望を持って、この街にやってくる。この街ならば、貧乏暮らしとおさらばできる。もう二度と飢えに苦しまなくていいと。でも実際はどうだろう。労働者たちはいつも過酷な環境におかれてる。危険なのは当たり前。朝から夜まで働くのは当り前。時には子供すら、働き手として外に出される。そんなのよく見る光景だろ。」
「ええ、そうね。」
「だからさ、僕は地元に帰ったら、新しい工場を作るんだ。お金のためじゃない。労働者たちのための。けっして労働者たちに無理をさせない工場を。そうすれば、あの村は、きっと今より豊かになる。みんながみんな、無理のない仕事をして、休日は娯楽を楽しんで。きっと、この街なんかより、希望がある場所だって、思ってもらえるように。それがきっと、僕の使命だから。そのために僕は、今経営学を学んでる。」
この人は、きっと、とても理想的な人間なのだ。他者をおもいやり、好きな人をとても大切にする。そして何より、誰にも破れない信念を持っている。
私がなれなかった、自立した獣人。誰よりも将来を約束された人。
「ごめんねオリビア。こんなつまらない話をして。でも、君には話しておきたかったんだ。だって、君は僕にとって……一番大切な存在だから。」
そんな獣人が、私に惚れている。私を一番大切だと言っている。私には今、恋人はいない。婚約者もいない。ただ、忘れるべき相手だけがいる。だから…
「ねえ、オリビア。」
「え。」
「今日は、夜まで、一緒にいてくれるかい。」
断るほどの勇気は、私にはなかった。