この街の夜はどこでも明るい。ちょっとした橋の上でも舞台のようになる。スポットライトに照らされて、多くの獣人たちが、各々の物語を演じている。きっと今日は、街灯に照らされた私たちも、登場人物になるのだろ。
橋の上で、彼の後ろを追いながら、ぼーっとそんなことを考えていた。
「…あのさ、オリビア。」
「なに。」
「僕はさ、村にいるときから、ずっと君のことが気になってた。」
「ええ。知ってるわ。ずっとそんな気がしてた。」
「でも君は、僕の事は眼中にないようだった。いいや、僕、というより、あの村の男全員。それ以上にあの村全体に、君は嫌悪感を抱いていた。」
「…そうよ。私はあの村が嫌い。」
「だから、きっと君は、この村を出ていくべきだって。この村を出て正解だったって。あの時まではそう思ってた。」
「あの時って、いつ。」
「きみと、この街で再会した時だよ。あの時、君は、心の中に傷を負っているようにみえたんだ。」
「そんなことはない…はず。」
「僕はさ、気付いてたよ。この街で、君が大変な思いをしていることに。仕事だって、恋人だって、ずっと悩んでいたんだろう。」
「なんだ。分かってたんだ。」
「だから、あの時決めたんだ。僕は、君を幸せにするって。きっと君は、この世界に苦しめられてきた。だから、僕が君を守ろうって。だって僕は、君が一番大切だから。」
「エリック...。」
「結婚しよう。オリビア。地元に帰ろう。帰って、あの村が発展するのを一緒に見届けよう。」
ああ、そうだ。私が、あの場所が嫌いだったのは。きっと、あの嫌な思い出のせいだ。お母さんが死んで。お父さんは私を捨てて。村のみんなは優しかったのに。それを無視した。皆が信じられなかった。男が信じられなかった。でも。彼となら。
「ありがとう。」
「え。じゃあ。」
「結婚しましょう。エリック。それと。」
「それと…。」
「私を。今すぐ抱いてほしい。」
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うわさには聞いていた。恋人たちの宿屋。いつも、変なお客さんが誘ってくる嫌な場所。でも、今は、私の意思でここにいる。
私は、窓際に立って、外を見つめながら。彼に話しかける。
「エリック。私ね。怖いの。また、あの時みたいに捨てられるんじゃないかって。」
「僕はそんなことはしない。」
「ええ。知ってる。だけどね。まだ不安なの。私は愛されてるって実感が欲しい。だから、今すぐあなたで上書きさせて。私の過去も、嫌な思い出も。あの人の顔も。全部。忘れさせて。」
「ああ。」
彼が私を抱きしめる。彼の顔が近づく。
こんな時にも、私はユージンの顔を思い出していた。彼の、あの瞳を。
アビーがいつか言っていた。初めてはとても痛いものだと。愛する人でなければ、耐えることの出来ないものだと。
私は、エリックを愛しているのか。そう、頭に問いかける。答えは帰ってこない。
でも、きっと、一つだけ、言えることは。
ユージンに私を食べてほしかった...。どんな姿でもいい。どんなことになってもいい。私は。全てを投げうって。彼と一つになりたかった。
「ごめんね。」
「オリビア。泣かないでくれ。オリビア。」
「本当に。ごめんなさい。」
「いいんだ。でも、僕は、今の君を抱けないよ。」
「そう。だよね。」
「今日から1週間後、僕は、朝8時の汽車に乗って故郷へ帰る。だから、それまでに、君の答えを教えてほしい。君が僕と、一緒に来てくれるなら。一緒にあの場所に帰ろう。それまでに答えを教えてほしい。」
彼はそう言い残して、私の体から離れていく。
私には、ほとんど選択肢はないのに。