星の降りたこの街で   作:わし座53番星

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星の降りたこの街で

「お前はいいのかい。これで。」

おかみさんが、あきれたようにそう問いかける。

「ええ。すみません。やめることになってしまって。」

最初から、選択肢何て決まってる。でも、少しだけ寂しかっただけだ。

「まあ、連絡なく辞められるよりはいいけれど。今日が最後なんだ。そんな顔しないで。」

「えっと。どういうことですか。」

「しょげてるのが伝わってくるよ。だから聞いてるんだ。」

「ごめんなさい。仕事はちゃんとしますので。」

「ま、頑張りなさいな。」

 

泣いても笑っても、今日が最後の晴れ舞台だ。きっともう。こんなに大勢の前で踊ることはないのだろう。だから、もっと笑って。舞台に立った。

 

全てを出し切って踊る。もしかしたら、彼が来てくれているかもしれない。彼が見ているかも知れない。そう思いながら、踊りだす。

だって、ここはあの人と出会った場所だから。ゆっくりと席を見渡す。

 

彼はどこにもいなかった。

 

「辞めちゃうの、オリビアちゃん。」

常連さんがそう問いかける。

「ええ、ごめんなさい。」

「明日から、オリビアちゃんの踊りが見れないなんて。僕は、どう生きていったらいいんだ。」

「お前はまた馬鹿なこと言って。またおかみさんに締め出されちまうぞ。それよりも」

「えっ」

「結婚相手は誰なんだ。」

「あ、それは俺も気になる。あの若坊主の狼か。それともあのウサギの坊ちゃんか。」

「おいおい。結婚するとも限らないだろう。」

「でも、そういうことじゃないか。このタイミングでやめるって。」

常連さんたちの話題の的が、私に向かってくる。

「そんなに気になりますか?」

「気になる!」

「もちろん!」

「だって俺たち。」

「オリビアちゃんが誰と結婚するか、賭けているんだから!」

大勢の声が一致する。まったくこの人たちはいつも懲りないんだから。でも、まあ。

「で、誰なんだ。」

「それは…。」

「それは…。」

「ヒミツ。です。」

 

「アンタたち、馬鹿なことやってオリビアを困らせるんじゃないよ。」

おかみさんの一声で、皆が一斉に席に着いた。

「オリビアも、後悔ないようにね。」

「えっと。」

「まあ、今日は早く上がりな。」

「…ありがとうございます。」

 

帰り道。街の中を歩く。街灯のそばの道を歩く。星の降りたこの街に別れを告げながら。

ふと、後ろからついてくる足音を聞く。

その気配を私はよく知っていた。きっと嘘じゃない。彼が来てくれた。でも、私はもう振り向かない。だって、もう決めたことだから。彼に迷惑をかけないって。

だから、冷たい言葉で引き離す。

 

「ついてこないでよ、ストーカー。別れた女になんか用。」

ひたひたと足音は止まらない。私のそばに近づいてくる。

「婚約者ほっといて、浮気でもする気?」

足音は止まらない。ただ、石畳のうえで、コツコツと音を鳴らしていた。

何も言い返してくれない彼を不気味に思って。私は振り返ってしまった。

「ねえ、何か言ってよ。」

そこには、今にも襲い掛かってきそうな狼がいた。

私は、怖くて、少し身を引く。

 

「なあ、あいつは誰だ。」

まるで図星を着くかのように、私の浮気に気付いたのだろうか。

こわくなって、聞き返す。

「あいつって…なに。」

「さっきまで話していたやつだ。」

「それは、ただの客よ。」

 

「そんなわけないだろ!!!!!」

 

彼の大きな声で、私は後ろに身を引いた。

そのすきに私の手を彼がつかむ。

「なあ、オリビア。」

「な、に…?」

「君を食べたい。君を食べて独り占めしたい。君と一つになりたい。」

 

その言葉を聞いたとき。私のたりないピースが埋まったような気がした。

そうだ。私は、彼に食べられたかったのだ。昔話の狼とウサギのように、食べて、食べられて。この関係は、きっと異種族の愛のカタチ。あなたと決して離れないように。何があっても、そばに入れるように。心の奥底で、求めていたものが形になった。

 

だから、私は笑顔であなたに顔を向けた。

 

「うれしいわ。」

「なぜ、喜ぶ?」

「だって、私を食べてくれるんでしょ?」

「なぜ、うれしい?」

「だってわたし、すごく寂しかった。だれと話しても、心にぽっかり穴が開いてた。ご飯だって、あなたと一緒なら、あんなにおいしかったのに。今ではすごくおいしくない。でも、あなたと一緒にはいてはいけないって、そう思ってた。あなたの婚約者は、すごくきれいな人だもん。二人とも、お似合いで、私の入る隙間はない。」

「だからうれしい。私がさみしくないように、食べてくれるって。ずっと一緒にいてくれるって。」

 

「さあ、私をたべて」

私は。万感の思いでそう告げた。

 

「いいや。食べない」

彼から出た言葉は予想外の物だった。

 

それと同時に彼は身を乗り出して、私の唇をふさいだ。

 

突然、何が起こったのか分からなかったけれど、すこしずつ。彼とキスをしている事がわかった。その瞬間はあっという間で、冷静になるには、少しだけ時間がかかった。

 

私は彼の胸を叩いて、答えを聞く。

「ねぇ…食べないの?」

「ああ。食べない。」

「…私のこと、嫌いになった。」

「いや、違う。俺は。オリビアが好きだ。愛している。」

「じゃあ、どうして?」

「君を食べてしまったら、もう二度と君と会えない。二度と君の顔を見れない。」

「そう…。」

「なあ、オリビア。…ロザリンドと、婚約者との、婚約をやめるよ。」

「いいの?それで?」

「ああ。だからオリビア。俺とずっと一緒にいてくれるか?」

「うん。いいよ…。ねぇユージン。また一緒に、あの丘の上に行こう?」

「ああ、今すぐにでも行こう。」

「今日じゃないよ。今日は遅いもの。」

「じゃあ、明日にでも行こう。」

「うん。」

 

道端での逢瀬は突然で、自分でも何が起こったか分からなかった。でもただ一つだけ。私が進むべき道ははっきりした事だけが分かった。

 

 

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