星の降りたこの街で   作:わし座53番星

7 / 16
霧の中の出会い

目的もなく。町の中をさまよい歩く。霧の奥に見えるのは、様々な人影。あっちはリス獣人で、あっちは狐。体の大きな熊獣人に、外国生まれのライオン獣人にトラ獣人。でも、改めてみると、みんな隣にいるのは同属の獣人ばかりだ。

都会に来て、最初は驚いたものだ。いろんな種族の動物がいて、みんながみんな自由に生きている。そんな風に感じてた。でも実際は自由ではなかった。実力のある人はそれなりにいろんな仕事ができるけれど、大体の仕事は種族の特徴にあったものを選んでいる。そして、自然と自分たちと同じ種族で固まっていく。それは田舎暮らしともほとんど変わらなかった。だから、ウサギと狼が一緒にいるのは、最初からおかしなことだったのだ。

前から人が歩いてくる。あの長い耳はきっとウサギ獣人だ。きっと私は本当は、あの人みたいなウサギ獣人と付き合うべきなのだろう。結婚して子供を産んで。それは、大っ嫌いな田舎の人たちと何も変わらない。きっと私はこの街でも、何者にも慣れない。

そんな風に人ごみの中を歩いて行った。

 

「……オリビア。」

「え」

 

そのウサギに声をかけられた。なぜか彼は私の名前を知っていた。

 

「ああ、やっぱりオリビアだ。」

「えっと、どなたですか。」

「あ…、ごめん。少し浮かれすぎてしまった。」

 

何処で会ったんだろう。人の好さそうな顔立ちに、真面目そうなたたずまい。きっちりとスーツを着こなして、お金持ちそうな姿をしていた。

 

「忘れちゃったかな。ほら、同郷の。」

 

記憶の端を思い出す。地元で知り合いだった男の子は結構いたけれど、確か、こんな丁寧な人は。

 

「もしかして、エリック。」

「そう。そうだよ。エリックだ。うれしいな。覚えてててくれたんだ。」

「ふふふ。」

「っといけない。立ち話もなんだし、どこかカフェにでも寄ろうか。」

「何それ。ナンパでもしてるの。」

「あ、いやっ、そういうわけじゃなくて。」

「どういうわけ。」

「みんな心配してたんだ。3年前、急に君がいなくなって。だから、話を聞きたくて。」

「そう。私。高いわよ。」

「望むところ。」

 

カランと、ガラス細工の音が聞こえる。落ち着いた雰囲気のある店で、客層はまちまち、年上の労働者もいれば、きっちりとスーツを着込んだ若者もいる。新聞を読んだり、同僚と話したり。そんな人たちが一緒に紅茶を飲んでいる。

 

「3年間、村の人たちは、みんな君の身を案じていたよ。」

「よくまあ律儀に。もうとっくに忘れられていると思った。」

「突然いなくなっちゃうんだから。森の中で死んでしまったのではと、うわさする人もいた。だけど。僕は信じてたよ。君がどこかで頑張って生きてるんじゃないかってね。」

「そう。」

「ねえ。どうして急にいなくなったりしたんだい。」

「べつに。大した理由はないわ。あの場所が嫌だっただけ。」

「そっか。」

 

エリックは、いわゆるお坊ちゃんだった。私たちの村の土地を管理している貴族の家系で、彼は長男として生まれた。貴族といっても、彼らは質素な暮らしをしていた。いつも村の畑仕事を手伝っていたし、冠婚葬祭は積極的に参加して。家だって大きくはあったけれど、質素な外観をしていた。地域に根差した貴族。そういえば聞こえはよいだろう。だから、村人たちからは慕われていて。彼もまた、村の年頃の女の子が狙っているような人気者だった。

 

「エリック。あなたはなんでこんなところにいるの。」

「ああ。今は大学に通っていてね。こっちでいろいろと勉強しているんだ。」

「へぇ。やっぱり真面目なのね。エリックは。」

「おかげさまで。ねえ。オリビア。」

「なに。」

「今度、また地元に帰るんだ。そのとき、一緒に帰らないか。」

「え。どうして急に。」

「オリビアは地元の人気者だから。帰ってきたらみんな喜ぶと思う。それから…」

「…私今、順調なの。」

「えっ。」

「仕事だって忙しいし、付き合っている人だっている。だからまだ、帰りたくないかな。」

「そう、そっか。そうだね。」

「またどこかで会ったらお話ししましょう。」

 

嘘をついた。私は都会で、うまくいくほどの人間じゃない。でも、あの田舎にいるよりはましだった。あんな場所で枯れるくらいなら、まだこの街で咲いていたい。ユージンのことを思い出すと、少しだけ心は揺れ動いていたけれど。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。