さくら さくら
白い校舎を色づかせるように桜がなびく春の校庭。その桜吹雪のなか、小学3年生の
のやまも やまも
輝乃に注がれる呆れた目、期待する目、逸らされる目。その全てが暴力となって輝乃の心をプレスし、それどころか地面奥深くへ埋めようとする勢いで。
みわたす かぎり
「輝乃」古鳥のつぶやきはもう届かない。膝から崩れ落ちた輝乃は持っていた紙を縦に引き裂いた。
それから3年後の4月20日、日光を乱反射する海を背後に、俯きながら歩いているのは中学生になった輝乃。それは東方中学への通学路、車道を彩る桜並木の花びらがふと輝乃の鼻にかかり、
「へっくし!」
「あ!輝乃くんだぁ!ぉはよぉ!」
「……むむ?」
振り向くとフラフラと走ってくるものが見える、ぼーっとしているうちにそれは近くまで寄ってきて、正体が同級生の
「うぎゃあ!?」
輝乃は五雨に飛びつかれて倒れてしまう。そこに声をあげてやってきたのは、生徒会長の
「あー!だから話したじゃないか!」
「お、おはようございます韋駄先輩……」
輝乃に抱きつく五雨は犬のように頬を擦り付けており、そんな彼をため息まじりに學天は強引に離そうとする……が、離れない。
「こーら!海宝くんが怖がってるだろう!離れなさい!」
「やぁ!輝乃くんはぼくの友達なのぉ!」
「あ、あの、ふたりとも、わ、私になにか用ですか……?」
「いやぁ、用と言おうかなんと言おうか……」
「あのねあのね!ぼくたち!輝乃くんのお手伝いしようと思って!」
「おてつだい?」
「こほん、前、学校に怪人が攻めてきた時があっただろう?そのとき、海宝くんがヒーローになって守ってくれたじゃないか」
「あー……」
すっかり忘れてた、と輝乃の心の声。初登校の日、赤いヒーロー、ギラギラザウルスに変身した輝乃は、学校に飛び込んできたヂバジデと戦うため、ふたりの前で変身してしまったのである。
「海宝くんが怪人が倒した後、壊された校舎も、ケガした人も、なんなら小生たちの負った傷ですら、みんな元通りになって、何もかも夢だったかのようになったわけだが、あの日、怖いと思ったことは今日まで決して忘れられない。もちろん、君が小生たちを助けてくれた、ありがとう、そんな気持ちも」
「それでね、それで、ぼくたちもなにか助けになれないかなって……」
「そ、そんなこと……!」
「そう!!!!」
「ひっ……!?」
學天の大声に輝乃と五雨は跳ねた。
「失礼!余計なお世話かもしれないけど、なにか手伝わせてはもらえないだろうか?小生たちには力はないが、海宝くんひとりに戦わせておくのは、なにか違うんじゃないかっと思ったんだ」
「気持ちは嬉しいですけど……」
「な、なに?なにかあるの?」
「わ、私も実はあまりギラギラズについて知らないというか、そういう話だったらあげはさんに聞いた方が……?」
「あげはさんって、保健室で輝乃くんに謝ってた人だよね?じゃあなに?あの人もヒーローだって言うの?」
「え?いや、まあ、そのぉ……」
これって言っちゃダメなやつだったっけ……と輝乃の心の声。
「どぉなの!?」
あげはさん、ヒーローの正体はバレちゃいけないものとか思ってそうだもんね……と、もうひとつ心の声。
「なんかムカつく!今日はずーっと輝乃くんにこーしてる!離れない!」
「もぉー!」
なかなか輝乃から離れない五雨にしびれを切らした學天は、腰に両手を当てて、ふと、
「仕方ない、このまま運ぼう」
「「ゑ?」」
「ふんぬっ」
「「わー」」
學天、絡まったままの2人を掴んで引っ張りはじめ、彼らは気の抜けるような声を出して引きずられていくのだった。
そうして学校に近づいた3人は、生徒も近所のおじいさんも混じって、校門まで人で溢れている東方中学の様相に首を傾げた。
「どうしたんだろう、こんな」
「あ!輝乃〜!おはよ〜!」
人混みをかき分けて
「そっちもなにやってんの?」
「敵!?」
「違う違う、私の友達」
「おはよう!稲杜くん!小生たち、実はカクカクシカジカで!」
「シカジカカクカクかぁ……じゃなくってぇ!ほら輝乃こっち!」
「むむ!」「ひゃあ!」
輝乃は古鳥に強引に手を引っ張られ五雨から脱出した。そのまま連れられてみると、なんとあげはが青少年の主張とばかりに拡声器を片手に屋上に立ち、周囲の注目を浴びていたのだ。
「あげはさん、なにしてんの!?」
「コラー!下りなさーい!」
ついに飛び出した教師の怒号、しかしあげは、息を吸い、拡声器を顔の前に出して、
「わたしはーーー!!この学校にーーー!抗議しまーーす!!!」
「やっ!?抗議!?」
「いいですかーーー!!わたしはーーー!!この学校にヒーロン部の設立を要求するーーーー!!学校の教師たちはーーー!!今すぐヒーロンを遊びでないと認めーーー!!部活として正式な……」
しかし甘かった、背後から近づいていた教師たちに彼女は取り押さえられ絶叫。
「あわわーーっ!!???」
「おとなしくしろ!」
「やだーーー!!!!」
「やだじゃない!」
「いーーーーやーーーーだーーーーーー!!!!!わたしは権力には屈しなーーーい!!!!!!」
「……あげはさん、疲れてるのかな」
視界からフェードアウトしていくあげはに、生徒たちはポカンと口を開けるばかり。見ていたおじいさんは犬を撫で、輝乃のつま先に桜の花びらがまたひとつ落ちる。この日はそんな騒がしい朝からはじまった。
「失礼しましたー……」
数十分後後、職員室で散々絞られたあげはが落ち込み半分に出てくると、なんと言うことでしょう、入り口のあたりで輝乃と古鳥が待ち構えていた。
「屋上に出られるのってアニメや漫画だけだぞ」
数日前まで他人だった3人は歩きながら話しはじめる、珍しく浮かない顔のあげはにどことなく楽しそうな古鳥、バツが悪そうに俯くあげはは「あわわ」と小さく声をあげると、
「ごめんなさいです……反省してます……」
そう目を瞑った。
「どうしたのあげはさん、あんな三島由紀夫みたいなことして」
「「三島由紀夫??」」
「ん?」
「あ、いやぁ、そのぅ……」
輝乃の言葉に少し戸惑いながら、あげはの言い訳がはじまる。
「この学校って、新しく部活を作ってもいいわけじゃないですか?それでヒーロン部を作ろうと思って、資料まで作って先生たちにプレゼンしたのに、そしたら遊びだって言われて、つい、ムカってなって……」
「いや遊びだろ」
「違いますから!!」
クリアファイルに入れた10枚以上の紙の束を出しながらあげはは叫んだ。
「ヒーロンは野球とか水泳とかと同じです!ハラハラして、ワクワクして、あんな楽しいこと、ただの遊びじゃないですから!!」
「あー分かった分かった、お前のヒーロン愛はよーく分かったから。とにかくあれ逆効果だからな、やめな」
「あわす……」
ため息を漏らしながら資料をしまうあげは。
「大丈夫かな……」
「いいのいいの」
あげはに心配そうに手を伸ばす輝乃、古鳥はそんな彼の右肩に手を回して止める。
そんな3人のことを階段の陰から五雨が見つめていた。
輝乃たちの住む街、
「メイド喫茶、めもりーずでーすっ♪ お姉さん、よかったらお茶しませんか〜♪」
「ほう、アン人の娯楽施設か」
チラシを覗き込むレイだったが、キャピキャピした笑顔を浮かべたメイドを見てばっさりと、
「ふん、嘘くさい、自分に仮面を被ることしかできないアン人にはお似合いか」
チラシをポイ捨てして去っていく。
「ありがとうございました〜♪」
笑顔でそう返したメイドだったが、レイに捨てられたチラシを拾うと、
「けっ!」吠えた。
数分後、駅に近い充戸大橋の下で両手に泡立て器をつけたヂェスター、ヂアワダテキが鼻歌を歌いながら空間をかき混ぜて黒い電撃の走る渦を作っていた。
「こういう人目のつかない場所こそ邪電が貯まりやすいんだよな〜、うっふふ、足元をかき混ぜられてるなんて、アン人のおバカさ〜ん」
「おい」
「わっ!?」
レイに後ろから蹴られヂアワダテキは川に頭から突っ込んだ。踏まれた場所は徐々に凍っていき、慌てるヂェスターにレイは淡々と話しはじめる。
「もごごっ!もごごごごっ!?」
「ヂアワダテキ、テメェの任務はアンに攻め入るための邪電トンネルを作ること、それも巨大なものをだ。テメェごときが、そんな面白そうなもの、なあ、作れてんのか?」
「み!見て!前見て!作ってる!作ってますから!」
「あ、ほんとだ」
レイが足をどけるとヂアワダテキの氷は溶けホッとした様子、だが次にはレイに首を掴まれ手足をバタつかせもがく。
「なんか小さいな、つまらん、こんなつまらんものを何個作ったんだ?言ってみろ」
「ご、5個!5個作りました!この街の5箇所!作った渦を同時に起動させれば共鳴作用で上空にオンとアンを繋ぐ巨大トンネルが発生する計画でして!」
「地味すぎてつまらん、レイちゃん退屈だ、もっと面白いことをしろ。やらないとテメェを凍らせ、砕き、溶かす」
「ひ、ひぃっ!?ムチャぶり!!」
「あ?ヂェスターは我々を楽しませるのが仕事だろう?」
「や!やります!やりますから離して!死ぬっ!死ぬっ!死ぬぅ!!」
川の水面には、冷蔵庫のヂェスターがヂアワダテキの首を締める姿が映っていた。
理科室での授業を終え、教科書を抱えて近くの男子トイレの前を通ろうとした輝乃の前に、突然トイレの陰から五雨が顔を出して、
「ねえねえ輝乃くん!」
「むっ!?」
「ギャアッ」
輝乃が驚いて落とした教科書は二人のつま先に命中、足を抱えて軽く悶絶する。
「な、なんなの五雨くん……イタタ……」
「ご、ごめん輝乃くん……や、そのぉ、今日の帰り、い、一緒に帰らない?」
「一緒に!?」
「うん!一緒に!」
「あ〜……」
輝乃は目を逸らした、ふと朝のことを思い出す、それはあげはが怒られて、1時間目の授業がはじまる少し前のこと。
「わたしやっぱり納得できません!今日の放課後、先生たちの前でヒーロンチェンジしましょう!」
「はぁ!?なに言ってんの!?」
「ヒーロンが本気だってこと、先生たちに見せるんです!きっと分かってくれるはず!分かってくれなくても、知ってもらえるだけでいいんです!」
「いやいやいや!?てかさ、怒られたばっかだよね!?懲りないの!?」
「懲りません!」
「あーもう!」
突然起こった叫びあいに動転する輝乃、何も言うことが思いつかなかった。
そうこうしているうちに古鳥に左腕を掴まれる。
「勝手にしろ!だけど俺はパスだからな!ほら輝乃も!」
「むっ!?」
「今日こそ輝乃に俺の水泳見てもらうんだから!お前ばっかに独占されてたまるか!」
「あわわ!?ムー!輝乃!」
「はい!?」
今度はあげはに右腕を掴まれ目を回す。輝乃は混乱しはじめた。
「輝乃は分かってくれますよね!?わたしの本気!一緒に先生たちに見せつけてやりましょう!目指せ!ヒーロン部設立!ヒーロン革命ッ!」
「む!?むむむ!?むむむむむっ!!???」
二人に両腕を引っ張られ、あ、よくこれ漫画で見るやつだ、自分が巻き込まれるなんて思わなかったけど、あーダメだ、どっちも味方したいし、どうしたらいいんだろう、わっかんない、そんなことが次々と頭に浮かんでは消えてゆき、あげく混乱が極地に達した輝乃は毎度の結論に至る。よし逃げよう。
「や、ヤダー!!」
「あコラ待て!」
疾風の勢いで教室まで逃げていく輝乃、その様子を五雨も見ていたのだが、輝乃はそれを知らない。そして現在に戻る。
「そのぉ、今日の放課後はちょっと用事があるかもって言うか、なんというか……」
「それって大切なことなの?」
「えっと……?」
首を傾げる五雨に目をそらすと、五雨は輝乃に抱きついてくる。
「嫌なことは我慢したってしょうがないよ、ねえ輝乃くん、一緒に逃げよ?ぼくが君の味方になってあげる、守ってあげる、大丈夫、だから今日は一緒に帰ろうよ、ね?」
背中をトントンされてバクバクしていた心臓が落ち着いてきた。輝乃の脳裏に昔のことがフラッシュバックする、それは泣いていた輝乃の頭を古鳥が撫でてくれたこと。
「うん……」
「じゃあ6時間目終わったら校門近くの初代校長像の前で!あ、それと部活は一緒のところに入ろうよ!ぼくたち、友達なんだから!じゃあねー!」
「うん、考えとく……」
走り去る五雨の後ろ姿に輝乃は放心していた。
「ぐるぐるぐるぐる……」
川の水をかき混ぜるヂアワダテキ、混ぜられた水は紫色の渦になってゆき、表面がプツプツ泡立っていく。
「で、で、で、出たー!!!」
ヂアワダテキが両手を上げたとたん、水は黒い柱となって空へ向かって伸びていく。同じような柱が充戸のいたるところから5本立ち、怪しく聳え立つが、それは人には見えないのか誰も気づかない、その様子を見ていた怪人はケタケタと笑いながら去ろうとするが、そこに地鳴風水が立ち塞がった。
「ダァれ?」
「潰す、ヒーロンチェンジ」
《リズムスタート!輝け!ドラゴンスキーーンッ!シビレちゃえーーーッ!!》
風水は稲光と同時に金色のヒーロー、ギラギラドラゴンに変身。ぱちぱちと手を叩くヂアワダテキにドリル付きメリケンサック、ドリゴンサックを握りしめてギラギラドラゴンは殴りかかる、が、ヂアワダテキはそれをギリギリで避けていった。
「貴様ら何をしている!」
「助けて〜怖いよ〜変な人が変なこと聞いてくる〜」
「吐けッ!!」
ギラギラドラゴンの回し蹴りがヂアワダテキに命中、コンクリートに激突し目をまわす怪人の首元に、ギラギラドラゴンはドリゴンサックのドリルを突きつけ、回して見せた。
「早く吐けヂバジデ、早くしないとお前の首をマシマシにバリバリするぞ!」
「ひえ〜!何言ってるか分からないけどなんか怖いこと言ってる〜!?た、助けて〜!レイ様たすけて〜〜〜っ!!」
「バカが、仕方ない」
「ッ……!?」
「さ、さむ〜っ!?」
突如猛烈な冷気が吹きかかりギラギラドラゴンは強制的にヂアワダテキから離される、冷気の放たれた方向にはレイがいて、氷のような生気のない目でヒーローと怪人を見下ろしていた。
「貴様は何者だ!」
「
「3C……?ならばボクがバリバリに倒してやる!」
息巻いてドリルを回し突っ込むギラギラドラゴン、その攻撃を手から出した巨大なツララで受け止めたレイは息を吹きつける、するとギラギラドラゴンの腕はたちまち凍り、それを電撃で溶かしたギラギラドラゴンは距離を取らざるを得なくなる。
「くっ!」
「あまりレイちゃんの手を煩わせるな」
レイは両手で作った円を口の前に持っていき、ギラギラドラゴンに息を吹きつけていく。
「来ない……」
放課後の校舎、職員室の前、腕を組みながら待っていたあげはは不機嫌に呟く。そうしていると焦った表情で走ってきたのは古鳥。
「佑月ィ〜!輝乃どこにやった〜!?」
「あわっ!?知りませんよ!?そっちに行ってなかったんですか!?」
「ややっ!?お前が拉致ったと思って」
「人聞きの悪いこと言わないでください!」
「ごほん!二人とも!職員室前ではお静かに!」
「「すいません!!」」
「……あれ?」
あげはたちの口喧嘩を制したのはプリントを抱えた學天だった、ふと朝のことを思い出した古鳥は、口をヘの形にして學天の左腕を掴む。
「とりゃーっ!」
「えっ!?な、なんだい!?」
「佑月!やれ!」
「ラジャです!」
「いやいや!?なになになにっ!?」
次はあげはが右腕を掴んだ、こうして捕まった宇宙人のようになった學天に、二人は両肩から囁きかける。
「分かってるんですからね、ガクセン」
「ガクセン!?」
「そうですよ!輝乃の居場所を吐くまで離さねぇですから!」
「ま、待ちたまえ、小生はそんなこと」
「はいはい、話はプールサイドで聞きますからね〜」
「聞きたまえ〜〜!!!」
先輩としての尊厳もどこへ行ったのか、過激な後輩二人に學天は拉致されていく。それを見ていた生徒たちは巻き込まれたくないとばかりに目を逸らす。
その頃、初代校長像の前にやってきていた輝乃に、五雨が笑って手を振っていた。そんな五雨の笑顔に、輝乃は思わず目を逸らしてしまう。
「……二人ともごめん」
「輝乃くんっ!」
五雨は輝乃の両手を掴み、首を傾げてみせる。
「き、来てくれるって信じてた!ね!一緒に帰ろ?」
「う、うん!」
それから二人はバスに乗り、夕日に包まれる充戸の街、無邪気な五雨に引っ張られるように、輝乃たちは街の至る場所を歩き回っていた。
まず充戸駅に停車したバスから降りてすぐ、駅前ビルの2階のサブカル専門店に行き、二人は漫画やグッズの類を漁る。五雨は春の覇権アニメとされている、宇宙人と地球人の女子高生の日常を描いたアニメ「こすもガールズ」のキーホルダーを買い、一方、王子様系美少女に心を堕とされる内容の同人誌を買った輝乃は、五雨にバレないように微笑みかけて誤魔化していた。
ビルから4分程度歩いた場所にある充戸ギンザ商店街にある団子屋で二人はみたらし団子を食べている。団子分の金は持っていなかった五雨だったが、輝乃が無意識に財布から小銭を出して奢っており、気づいた輝乃は「やっちゃった」と呟くも、五雨に「ありがとー!」と感謝しながら勢いよく突進ハグをされ、初老の団子屋の店主に微笑まれた。
あたりが赤くなりはじめた頃、水色にピンクの斑点が入った象の遊具があるグミゾウ公園で、輝乃と五雨の二人はベンチに座って話し込んでいた。学校で待ち合わせをしたときにあった緊張はすっかり解け、輝乃も五雨に自然な表情を浮かべている。
「ぼくね、ずっとぼっちだったんだ。幼稚園の時からずっと。体も弱くて、運動も勉強もできなくて、だから誰も相手にしてくれないし、それでね、好きなことも話せなくて、自分の中で留めておくしかなくて……だから友達と一緒に帰るなんて、これが初めてなの!だから、うん、今日ね、とっても楽しかった!輝乃くん!ありがとお!」
「そんな!お礼なんて言わなくてもいいよ!?でも……そうだね、今日、初めてこうやって五雨くんのこといろいろ知れた気がする、こすガルじゃライちゃんのことが好き、とか」
「うへっ!?恥ずかしいよぉ!」
「あはは、でも、私も楽しかったよ!ねえ、
「そ、そんなの全然O Kだよ!ぼ、ぼくと友達になってくれるだけで嬉しいのに、そんな、下の名前で……うへ、うへへへへ!」
ヨダレを垂らして年齢制限のかかりそうな顔で笑う五雨、初めて五雨のその顔を見たときと違って心から笑えている輝乃の顔は、どこか母性を感じさせるもの。
「……私もね、自分には何もないって、いてもいなくても同じだって、思ってるんだ」
「うへへ!……へ?」
「宙くんと同じだよ、私も勉強なんて分からないし、運動もダメ。できることは妄想してそれに浸ることだけで、古鳥以外、誰も味方なんていない、ずっと独りぼっちで生きてくんだって思ってた。だからかも、宙くんのこと、なんか放っておけないって、今日思っちゃったのは……」
「輝乃くん……」
「あ、ごめん、なんか変な話ししちゃって。忘れて、なんか恥ずかしいし」
「だ、だったらぼくは!」
五雨は叫んで立ち上がると、輝乃の足元に跪くように座り込んだ。
「にゃ、なにっ!?」
「ぼく、これからずっと、輝乃くんのこと守るよ!支えてあげる!たとえ世界中が敵になっても、ぼくだけはずっっと味方でいる!約束する!絶対に守る!だから輝乃くんも、ぼくのこと、見捨てないでいてくれますか?」
差し出される小指、それは震え、頼りなさげにも見えるが、輝乃を見るその目は真っ直ぐ槍のように輝乃に突き刺さり、本気、その二文字が輝乃の脳裏に浮かぶ。
「宙くん……分かった」
小指と小指が絡みあう、赤陽に照らされた二人を、街路樹の木枯らしが撫でる。
と、その時だった。
ドゴーン!公園の裏にある倉庫で爆発音が轟き、黒煙が立ちはじめる。そして作業員たちが叫びながら逃げていた。「バケモノが出たぞー!」と。
「輝乃くん、もしかして……!」
五雨の言葉の意味を理解した輝乃は頷く、自分にできることを、試すため。
「……いこう!やれるんだ、今の私は!」
同じ頃、プールで泳ぐ古鳥を見ながら、學天の言葉にあげはは驚く。
「あわわっ!?ガクセンも輝乃のこと知らないんですか!?」
「うん。全く、朝に一緒に登校したからと小生を疑って、稲杜くんも強引な……佑月さんも」
「ご、ごめんなさい!だけど、すると輝乃は今どこにいるのですか?」
「五雨くん……」
「ほえ?」
「朝、輝乃くんと一緒にいたのは小生だけではないんだ、一年の五雨宙くん、君たちとは別のクラスの子だけど、実は小生とその子は、前に怪人から輝乃くんに守られて、それで何か輝乃くんの助けになれないかと思って、朝に話しかけに行ったんだ。もしかしたら五雨くんが輝乃くんと……」
そして起きる爆発音、競技に熱中していたプールは急に騒然となり、古鳥とあげはは偶然にも同じ時の輝乃と同じ結論を抱く。
「……ヂバジデ!」
運送業者パインロジスティックスの充戸第五倉庫、ヂアワダテキとレイを相手に立ち回るギラギラドラゴンの昼間から続く戦いは、大橋から遠く離れたこの倉庫に戦場を移していた。
稲妻をまとい手足をぶつけるギラギラドラゴンの火力は、確かにヂェスターにダメージを与えていたが、3Cたるレイの冷気によるサポートもあり、拮抗の状態も徐々に崩れようとしていた。
「貴様ら……何をしようとしている!」
「言ってもいっか、我々ヂバジデはアンに大規模なゲート、邪電トンネルを開こうとしている」
「邪電トンネル……?」
「巨大なヂェスターすら送れる侵攻用のトンネルだ、これを使い、我々は貴様らのように
抑揚のないレイの言葉が少し早くなった。それをギラギラドラゴンは見過ごさない。
「興奮してるのか?」
「当然だ、壊獣のもたらす破壊、崩れ落ちる文明、咆哮、その脅威。そして泣き叫ぶアン人どもの苦悶に歪んだ顔、悲鳴、反応の全てが、実に美しく、甘美で、優雅。想像するだけで[[rb:絶頂 > アガ]]るだろう」
「バリ……邪悪!」
《テンポアップ!》
ドリゴンサックにヒーロンアイコンをセットしたギラギラドラゴンの体に、凄まじきほどの電撃がまとわれ、倉庫内の電灯が点滅をはじめる。そこに現れた輝乃と五雨は電撃に小さな悲鳴をあげた。
「
《ノリノリだぜ〜〜〜ッッッ!!!!》
三つ首のドラゴンの幻影がギラギラドラゴンに重なり、そのまま電撃をまといギラギラドラゴンはレイに突っ込んでいく。攻撃は命中し、ほとばしる閃光。だがギラギラドラゴンは目を丸くした、ドリゴンサックの一撃は氷の壁に阻まれていたのだ。
「テメェらの遊びも飽きてきたな」
レイの言葉と同時に氷が崩れる、ヂアワダテキが悲鳴をあげる、レイがいたそこには天使を思わせる純白な冷蔵庫のヂェスター、ヂレイゾウコがいたのだ。
「それが貴様の真の姿か!」
「くたばれ」
ヂレイゾウコの胸のドアが開く、そこに白い光と冷気が集まり、ギラギラドラゴンは離れようとするが、逃げ切れる前に白いビームが放射、命中した荷物は一気に凍りつき、ギラギラドラゴンの右足も凍ってしまう。
「あぁぁっ!?」
「アワアワアワ……」
苦しむギラギラドラゴンに、その威力に呆然とするヂアワダテキ。それを見ていた五雨は倉庫内にあったノコギリを持つと、
「見ててね、ぼくが輝乃くんのこと守れるって、見せてあげるから!」
「えっ!?」
呆然とするヂアワダテキにそろりそろりと近づく五雨は、背後からノコギリを振り下ろす。だが刃はヂェスターの体を傷つけることができず、むしろ折れてしまい、ヂアワダテキに腰が抜けた五雨は見下ろされた。
「なにお前、何の用?死ぬ?」
「わぁ!わぁああああ!!??」
ヂアワダテキの腕についた泡立て器が回転をはじめ五雨に迫る、ヂェスターの恐ろしさを体験した五雨は悲鳴をあげ地団駄を踏むが、腰が抜けて動けない。
「ヒーロンチェンジ!」
《火を吹け!怪獣スキーンッ!ノっちゃえーーーっ!!》
振り下ろされる泡立て器、それは輝乃が変身したギラギラザウルスのザウルスォードの刃に受け止められ、ヂアワダテキは舌打ちをした。
「宙くん!下がって!あとは私が倒すから!」
「わ、ああ、ああああ!!」
ヂアワダテキを蹴飛ばし、ザウルスォードで切り裂いていくギラギラザウルス。その一撃一撃に確かな怒りがこもり、ヂェスターは火花をあげながら倉庫を転がっていく。
「よくも、よくも私の友達を!」
「なにぃ?何なのもぉ!!」
《テンポアップ!》
剣にヒーロンアイコンをセットし、ギラギラザウルスに赤いティラノサウルスの幻影が重なる。刃先には炎がまとわれ、ヂアワダテキはヂレイゾウコに助けを求めた。
「た、助けてください!レイ様!」
「知るか、死ね」
「そんなぁ!?」
「ザウルス
《ノリノリだぜェ〜〜〜〜ッッッッ!!!!!》
ギラギラザウルスの炎の刃はヂアワダテキを横から縦へ、縦から横へと縦横無尽に切り刻み、体に火花を走らせて、
「アワアワアワ!これで水の泡〜〜!!」
ヂアワダテキは爆発四散した。だがその爆炎にノイズがかかり、中央に黒い稲光が発生する。
「え、なに?」
「バカだな」
ヂレイゾウコはレイに戻ると、フォークリフトに座って言い放つ。
「邪電トンネルはヂェスターの生贄と引き換えに発生する、お前は自分の世界を滅ぼす最後の引き金を自ら引いたのだ、笑えるな」
「……え?」
爆炎の中心の稲光が天に昇り、ヂェスターにしか見えなかった黒い柱と合体、上空に魔法陣が生まれ、ブラックホールのごとき巨大なゲートが開き、煙が発生する。レイは無機質ながらも、どこか興奮したような様子で、淡々と言い放つ。
「出でよヂ壊獣、侵略せよアンを、アン人の文化を破壊し、オンを邪電で彩れ」
突如現れたゲートに人々は唖然となるが、煙が迫るのに気がついて蜘蛛の子を散らすように逃げていく。そうして煙が充戸大橋に辿り着くと、水面がグツグツと煮え立ち、白く点滅する頭部とリクガメのような甲羅を持った、カッパのような巨大な壊獣が姿を現した。
「何だよあれ……」
倉庫に向かう間に現れた壊獣に驚く古鳥、その裏であげはは小さく呟いた。
「ヂ壊獣……ついに現れてしまったんですね」
頭部の点滅が激しくなり、甲羅が青白く発光、そしてミナメドヅがクチバシを開くと水色の水光線が吐かれ建築物が次々と爆散。夜の充戸は火の海に照らされ、緊急車両のサイレンがけたたましく響きはじめた。
「そんな……私が……あれを……?」
歩みだすミナメドヅ、足を踏み出すたびに足元の全ては砂の城のように崩れ壊されてゆき、警官たちは一斉に拳銃を発砲するが、壊獣の表皮には効かず、悲鳴をあげる隙もなく警官たちはパトカーごと踏み潰され、小さな炎が上がった。
「やはり壊獣は最高だな、聞こえるか、この悲鳴が。全てを破壊するこの力、生きる天災、実に素晴らしい。なんだテメェら絶望しているのか、これを喜べないとは、アン人はやはりバカだな」
「お前ぇっ……!」
凍らされた足のせいで動けないギラギラドラゴン、だがその怒りの矛先はレイだけでなく、愕然とするギラギラザウルス……輝乃にも向けられていた。
「なんてことしてんだよ!!これ全部お前のせいだぞ!!お前がヂェスターを倒さなきゃ、こんなマシマシな被害、出ることなかったんだ!」
「私の、私のせい……?」
変身を解除し、輝乃は膝をついてしまう。街を蹂躙していくミナメドヅの姿に、輝乃の頭にヂアワダテキを倒す自分の姿が、「あの頃」の無数の目線が、軽蔑の目線が、紙を引きちぎる自分の姿が重なり、視界が揺らぎ、心音が激しくなっていく。
「私のせい、私のせいで、私の、私の……」
悲鳴をあげてうずくまる五雨、楽しそうに壊獣を見るレイ、輝乃に冷ややかな目を向けるギラギラドラゴン、サイレンの音、炎、壊獣の咆哮。
身の回りの全部が責めている、輝乃の驕りを責めている、輝乃の失敗を責めている。
お前はいらないと、責めている。
「うわ……うわっ……あああああああああっっっっ!!!!!!」
絶叫は、壊獣の暴走にかき消され、聞こえなかった。
見たまえイロくん!水性樊然壊獣ミナメドヅ!この威力!吾輩の芸術が爆発だ!
今回微塵も出番がなかったので予告で自慢ですねナガレ
さあ来週もミナメドヅは暴れるぞ!そして吾輩の作品がさらに2つも!?このナガレ、一世一代の大仕事!乞うご期待!
ところで言ってもいいですか
なんだねイロくん
これ、次も私たちの出番はないですね
うそ
次回、「輝乃物語」