ドイツ軍人になった一夏くん   作:強い一夏すこすこ侍

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始まりの日

 ドイツのとある山岳地帯。

 とある特殊部隊の為に用意されたこの場所では、現代における最高の能力を誇る兵器の試験運用がされていた。

 その兵器の名前はインフィニット・ストラトス。通称IS。

 もともとは宇宙空間での活動を想定し開発されたマルチフォーム・スーツだった。

 だが、発表からしばらくして起きた【白騎士事件】により、従来の兵器を凌駕する性能が示された事により宇宙への進出ではなく、軍事転用されてしまったのだ。

 宇宙空間での活動の為、デブリ等の被害を受けぬよう搭載されたシールドバリアは現行の実弾兵器を実質無効化できてしまったのも、拍車をかけた。

 ISの攻撃を防げるのはISだけ。この事実は軍事パワーバランスを大きく変えたと言っても良い。

 というわけで、各国共に躍起になってISの研究を進めており、ここドイツでも積極的ににISの開発、試験を行っていた。

 

『ハーゼ1。こちらコマンドポスト。調子はどうか?』

「こちらハーゼ1。武装なしの時は良かったが、レールカノンを載せたせいか機体バランスが右側に傾く。すこし面倒だな」

 

 ハーゼ1と呼ばれた少女。

 銀髪を腰のあたりまで伸ばし赤い目。

 なによりも左目には眼帯を着けているのが大きな特徴だ。

 彼女の名はラウラ・ボーデヴィッヒと言い、十五歳という若さでドイツ軍最強の部隊、『シュヴァルツェ・ハーゼ(通称黒ウサギ隊)』の隊長を務める実力者だ。

 そんな彼女が纏うISもまた特徴的な見た目をしている。

 黒を基調とし赤いラインが所々にはしる見た目。右肩にマウントされた大口径のレールカノンは見るものに威圧感を与える。

 この機体の名前は『シュヴァルツェア・レーゲン』。ドイツが開発を進める第三世代型のISだ。

 

『ハーゼ2。そちらはどうか?』

 

 ハーゼ2と呼ばれた機体は、ラウラに続くように飛行していた。

 白と青を基調としたその機体は、シュヴァルツェア・レーゲンと対象的だ。

 そしてなによりも目を引くのは操縦者の全身を包むように展開されている装甲。

 あらゆる兵器をシールドバリアによって無効化出来るISにおいて、全身に隈なく装甲が展開されているのは珍しい事のなのだが、操縦者のある事情によって採用されていた。

 名前を『ヴァイスリッター』。畏れ多くも『白騎士』の名前を冠したこの機体はその何恥じぬ騎士然とした風格を携えてた。

 

「ハーゼ2。こちらは問題ない」

 

 若い男の声。

 これこそが、ヴァイスリッターが全身装甲を採用している理由。

 現在この操縦者を除いて、ISを動かすことの出来る男性は存在しないのだから。

 彼にISの適正があると判明したのは、三年前。その日から彼を取り巻く環境は一変したのだ。

 いつの間にかドイツ国籍に変わり、知らぬ間に軍属にされていた。

 彼の姉は彼の扱いについて大きく反対したが、ただの一個人に国が作った流れを変える術はない。

 故に彼女は彼の処遇改善を諦め、弟を鍛える事にシフトしたのだ。

 名前を織斑一夏。

 世界最強のIS操縦者・織斑千冬の実弟であり、姉の指導を受けた彼もまた黒ウサギ隊の上位戦力として名を連ねている。

 

『では次に、対地攻撃を想定した各種装備の性能試験を実施する。目標の座標を転送した』

「ハーゼ1よりコマンドポスト。目標ポイントに向かう」

「ほう。たかが性能試験に旧式とはいえ戦車を持ってきたか。随分と仰々しいことで」

「ハーゼ2。危険度の低い訓練とはいえ作戦行動中だ。緊張感を持て」

 

 軽口を叩いた一夏をラウラが鋭く睨む。

 一夏は肩を竦めて「失礼しました! 隊長殿!」と真面目ぶって返した。

 しかし、目標に近づくにつれ彼も表情を引き締める。

 眼下には十数台の戦車──レオパルト2A5、そしてゲパルト自走対空砲まで並んでいた。

性能試験としては明らかに過剰だ。

 

「ハーゼ2よりコマンドポスト。目標を視認。──念の為聞いておくが、後から請求書が届くとかないよな?」

『コマンドポストよりハーゼ2。そちらに関しては心配しなくていい。むしろ、盛大にやってくれた方が都合がいいみたいだ。ドイツ軍が誇る最強の力。とくと見せてくれ』

 

 オペレーターの指示を聞いた一夏はフルフェイスの下で好戦的な笑みを浮かべる。

 そういう事なら遠慮は要らないだろう。

 ラウラの様子を伺い、行ってこいと言わんばかりに頷くのを見るとすかさず目標の戦車軍に向かって降下をはじめた。

 

「──ッ!」

 

 降下をはじめた直後から少しの間を空け、戦車部隊からの対空射撃──35mm対空砲と7.22mm機関銃──が撃ち上がる。

 撃たれることを想定していなかったのか、ほんの少しだけ一夏の動きが乱れた。

 しかし、すぐさま気を引き締め直すと簡単に回避する。が、そこで違和感に気付く。

 

(今のは……実弾か……!)

 

 次いで飛来してきたスティンガーミサイルを左腕にマウントされた三連ビームキャノンで迎撃する。

 これは少し引き締めねばと切り替えると、ヴァイスリッターの背部からコンテナを射出。

 射出されたコンテナが開き、小型ミサイルが発射される。

 地表に達する前に全て対空砲によって迎撃されてしまうが、一夏からは落胆の色は感じられない。

 もともと、このミサイルは時間稼ぎ。本命のためのつなぎでしか無いからだ。

 迎撃される間に、高度を上げた彼の手には、いつの間にか新たな武装が具現化されていた。

 身の丈より大きなそれは、一見すると槍のような形状に見える。だが、穂先のついているはずの先端には刃がなく、代わりに銃口のような物が二つ空いている。

 

「オクスタン・ランチャー。Eモードにセット。まずはうるさい対空砲を黙らす!」

 

 瞬間、銃口の下からエネルギービームが発射された。

 彼の宣言通り、発射されたビームはゲパルト自走対空砲を貫いていく。

 全てのゲパルト自走対空砲が沈黙したのを確認すると、再び降下。

 降下中にオクスタン・ランチャーをくるりと回転させ、持ち手を変えた。

 

「装甲の厚いレオパルトだが、Bモードなら!」

 

 引き金を引くと、先程とは違い、実弾が放たれる。

 通常弾頭ではなく、特殊徹甲弾仕様のそれは分厚い装甲を物ともせず簡単に貫く。

 驚くことに、降下中の猛スピードの中、一夏は殆ど外すことなく砲弾を命中させていった。

 そのままスピードを落とすことなく一夏は降下を続ける。

 地面にぶつかるかと思ったその瞬間、彼は制動をかけ着地。

 

「ハーゼ2よりハーゼ1。こちらの仕事は終わりました。後はお任せします」

「ハーゼ1だ。上官に尻拭いをさせるとはいい度胸だな」

 

 セリフとは裏腹に、彼女の表情は柔らかい。

 それでも、レールカノンを銃口をレオパルトに向けた瞬間、一変した。

 

「Feuer!」

 

 声とともに放たれた砲弾。

 オクスタン・ランチャーのBモードの砲弾よりも大きな砲弾がレオパルトを命中。

 命中した瞬間、爆発。黒煙を立ち上らせた。

 はるか高空に佇むラウラを落とす術は無い。漆黒のISを纏ったラウラが残存部隊を全滅させるのに時間はそうかからなかった。

 

「ハーゼ1よりコマンドポスト。目標の沈黙を確認。いいデータはとれたか?」

『こちらコマンドポスト。完璧な戦果だ。これでISの開発に文句を言っていたオエライサマも静かにしてくれるだろう』

「それは良かった」

 

 和やかな空気が流れた瞬間、二人のハイパーセンサーに反応。

 高速で接近する物体の存在を伝えていた。

 この空域に、自分達以外のISは存在しない。そしてまた、航空機も飛行しない。

 その事実から導き出される答えは一つ。

 

「ハーゼ1よりコマンドポスト! 高速で接近する反応アリ! そちらで反応は捉えているか!?」

『こちらコマンドポスト。こちらでは何の反応も示していない。そちらの誤認ではないか』

「ハーゼ2よりコマンドポストへ! こちらでも確認している! ハイパーセンサーのデータを送るから見てみろ!」

 

 一夏がデータを送ろうと接近する機体にヴァイスリッターを向ける。

 青空に溶け込むような青い機体。その機体は既に目視出来る距離まで飛来していた。

 

「ハーゼ2! データ照合を!」

「やっています!……しかし、データには登録のない機体です!」

 

 データにない。

 基本的に、ISに関する情報は須らく公開しなければならないという事はISに関する運用条約のアラスカ規定で決められてる。……まあ、律儀にそんな事を守っている国などそうは無いのだが。

 ドイツも、現時点で開発中のシュヴァルツェアシリーズにヴァイスリッターの情報は公開していない。

 とはいえ、だ。他国の、それも軍事拠点にノコノコと出向いてくるのはおかしいことなのだ。

 本来は秘匿するべき未登録の機体。それなのにこの場に来ているというのはある種矛盾した物を感じる。

 ラウラが所属不明機に向け、所属と当該空域への侵入理由を聞こうと回線を開こうとしたその瞬間──

 

「──ッ!? 所属不明機、撃ってきます!」

「畜生め!」

 

 一夏が警告を放った時には既に所属不明機からレーザーが放たれていた。

 それを躱したラウラだったが、表情は険しい。

 警告も無しに撃ってきた事もそうだが、現時点で試作段階の二機で応戦せねばならない事実。

 というより、応戦して良いという指示が出ていない現実に歯がゆさを感じていた。

 

「ハーゼ1よりコマンドポスト! 正体不明機による攻撃を確認! 交戦の許可を!」

『コマンドポストよりハーゼ1へ。交戦は認められない。現在そちらに向かって援軍が派遣されている。現戦域からの撤退をせよ』

「くそッ!」

 

 叩きつけるように通信を切ったラウラは尚も降り注ぐレーザーを避ける。

 それは一夏の方も同様だ。反撃することなく、ただただ回避行動を続けていた。

 ラウラも一夏も当然わかっている。二人の機体は未だ試作段階なのもそうだが、なにより現時点でドイツの最高機密の塊なのだ。武装を使ったとして、そこから情報が漏れないとも限らない。故に、兎にも角にも逃げの一手を取り続ける。

 

(だが、足の速いヴァイスなら可能だが私の機体では……)

 

 正体不明機は明らかに、機動力に特化した強襲用の機体。

 それでも一夏の機体なら、速度を活かし離脱する事は可能だ。

 だが、万能機のシュヴァルツェア・レーゲンではあの機体から逃げ切れない。

 もし、あの機体の操縦者が凡庸な腕だったら可能だったかもしれない。だが、高速機動下にこれだけ精密な射撃が出来ている事を踏まえると明らかにあの操縦者の技量はかなり高い。

 顔はバイザーに覆われていて全体は確認できないが、口元を見るに自分達とそう変わらない年齢だという事はわかる。

 

「逃げるのか。ドイツの遺伝子強化素体(アドヴァンスド)

「貴様、なぜそれを……!」

 

 ラウラは、遺伝子実験に生み出された強化人間である。

 この事は、ドイツ国内、そしてドイツ軍内でも殆ど知る者は無い。

 それを知っている事に一瞬、ラウラの動きが鈍る。

 

「ふっ。この程度の揺さぶりで動揺するとは、やはり大したことないな」

 

 襲撃者の口元が嘲笑によって歪む。

 右手をさっと振ると、機体から装備がパージ。そのまま地上に落下すると思われたそれは、まるで意思を持っているかのようにラウラ達に向かって飛来し、レーザーを放つ。

 二人にはこの兵器には見覚えがあった。

 現在、IS学園にも通っているイギリスの代表候補生の専用機に装備されている武装。

 独立した機動とレーザー射撃が可能な所謂ビット兵器。

 イギリスの誇る第三世代兵器だ。その名は──

 

「──BT兵器!?」

 

 合計六基。ラウラと一夏に1人につき3基ずつに分けられたビット兵器から、レーザーの雨が降り注ぐ。

 一夏の方はまだ余裕を持って回避が出来ているが、徐々にラウラのシュヴァルツェア・レーゲンには被弾が増えてきた。

 

「ハーゼ2よりコマンドポスト! 正体不明機の装備にイギリスのBT兵器を確認! うちはいつからイギリスと戦争状態になった!?」

『ハーゼ2。こちらでも映像を確認した。ハーゼ1及びハーゼ2は引き続き当戦域からの離脱を優先せよ。友軍ががあと600ほどで到着する』

「はいはい、了解しましたよ! 友軍には可及的速やかに来てくれって言っておいてくれよ! 10分間も逃げ続けられるとは思えないからな!」

 

 ヤケクソ気味に叫んだ一夏は通信を切った。

 ちなみに、敵に声を聞かれると正体が露見するので開放回線(オープンチャンネル)ではなく個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)で叫ぶというなんとも器用な事をしていたりする。

 

遺伝子強化素体(アドヴァンスド)の方は、まだ調整段階のようだな。先にそちらから潰すとしよう」

「ッ……!」

 

 彼女の言葉通り、ラウラに降り注ぐレーザーの密度が増える。

 それまで一夏に回していたビットを彼女に集中しだしたのだ。

 通常なら、そうはさせじと一夏は邪魔をするために動く。あるいは、自身への攻撃が薄くなったのを幸いに、攻撃のチャンスとする。

 しかし、交戦の許可が降りていない以上、一夏には何も出来ない。

 見ているだけしか出来ない己の不甲斐なさに、思わず拳を握りしめた。

 

(このままだと落とされるのも時間の問題だ。だったら懲罰覚悟で……)

 

 上手く行けば、ここであの正体不明機を撃墜させる事だって出来るかもしれない。

 そうすれば、情報が漏れることもない。徐々に反撃する方向に傾き出した一夏に、ラウラから通信が入った。

 

「ハーゼ2。私のことはいい。離脱しろ」

「しかし……!」

「私に攻撃が集中している今なら逃げ切れる。このままだとどうせ2人まとめて落される。だったらお前だけでも逃げた方がまだマシだ」

 

 ビットから放たれたレーザーが、シュヴァルツェア・レーゲンの装甲を吹き飛ばす。

 もはや一刻の猶予もなくなりつつある。

 一夏は選ばなければならない。

 

 ラウラを見捨てて、一人逃げるか。

 ラウラと共に、ここで落されるか。

 あるいは、命令無視をして戦うか。

 

 一番上は、軍人としては取らなければならない選択肢だ。

 上官であるラウラの命令でもある。

 真ん中と一番下は、軍人として論外だ。

 

 だが、一夏はここにはない選択肢をとった。

 離脱でもなく、反撃でない。ラウラを襲うレーザーをその身でもって受け止める。

 

「ぐぅうう!」

「一夏!?」

 

 レーザーが命中し、ヴァイスリッターの装甲が弾け飛ぶ。

 衝撃が身体を突き抜け、思わずくぐもった声を漏らす。

 彼に庇われることを想像していなかったのだろう。思わずと言った風に、ラウラが一夏の名前を叫んだ。

 

「その声は、男か? それに、一夏……?」

 

 射撃の手を止め、銃を下ろす。

 一夏とラウラは意図がわからず、怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「白い方の操縦者。貴様は男だな? そして名前は一夏」

「…………」

「答えないか。まあいい、おそらくだが貴様の名字は織斑。そうだろう?」

「……っ!」

 

 名字を当てられた一夏が、息を呑む。

 その動揺を察したのか、襲撃者は口角を上げる。

 

「そうか、やはりそうなんだな! 織斑一夏、よもや貴様がISの操縦者とはな!」

 

 女性にしか動かせない筈のISで男性の操縦者が現れた事は、確かに驚かれることだ。だが、この襲撃者の驚き方はそれとは違う。

 

「つまらない任務だと思っていたが、よもやの再会が出来るとは。ISを動かせることは驚いたが、考えてみれば貴様は私で、私は貴様だ(・・・・・ ・・・・・)。動かせぬ道理は無いというわけだ!」

 

 ひとしきり、声を張り上げて笑った襲撃者は、何を思ったかバイザーを解除し、素顔をさらけ出した。

 マスクの下に隠されていた顔が顕になり、それを見た一夏とラウラは思わず息を呑む。

 年齢はやはり一夏やラウラと同じく十五程だろう、だがその顔は間違いようが無かった。

 

「千冬姉……?」

「教官!?」

 

 自身の姉、そして尊敬する師匠の顔を、二人が見間違えるはずがなかった。

 だが、襲撃者は首を横にふる。

 

「違う。私は織斑千冬ではない。私は貴様だ。織斑一夏」

「意味がわからないな。何を言っている?」

「そうか、貴様は知らないのか。──いや、あの女が教えるはずもないか」

 

 忌々しそうに吐き捨てると、彼女は一夏達の周囲に飛ばしていたビットを回収する。

 

「今日のところは退いてやろう。……邪魔も入りそうなことだしな」

 

 彼女の言葉通り、もうまもなくドイツ軍の増援が到着する。

 本来は、作戦失敗なのだろうが、彼女の表情に落胆の色は無かった。

 

「いずれ、決着をつけるその時を楽しみにしているぞ、織斑一夏」

「待て、お前の名前は──」

「──マドカ。織斑マドカだ」

 

 飛び去る彼女の背中を、一夏とラウラはただ見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 その日、何者かの手によって、ドイツ軍にISを操縦できる男性がいることが明らかにされ、世界が揺れた。

 

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