ドイツ軍人になった一夏くん   作:強い一夏すこすこ侍

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少佐と副会長の昼食会談

「ふむ。アリーナの使用には申請がいるのか」

 

 千冬への挨拶を終えた一夏とラウラは、少し早めではあるが昼食を摂るために食堂に足を運んでいた。

 注文の仕方をラウラに教え、それぞれ注文した物を受け取り、食事をしながらラウラの質問に一夏が答える形となっている。

 今は、アリーナの使用についての注意点を説明していたところだった。

 

「今までは、一年生は実機を使用しての授業がなかったからアリーナを使う人は少なかったですが、来月からは学年別トーナメントが始まる都合もあってアリーナの使用も今までと同じ様にはいかないと思いま……思うな」

 

 どうにも敬語で話す癖が抜けない。

 率直にやりにくい、と思いながら一夏はラウラに説明を重ねる。

 

「模擬戦をするとなると、アリーナ内を貸し切りにしないとだから、そういった意味でも実戦形式の訓練は組みにくくなると思う」

「その分、他国のISを知る機会が増える。そこをポジティブに捉えるしかあるまい」

 

 実際、セシリアの『ブルー・ティアーズ』に鈴の『甲龍』と他国の第三世代機のISを知る事が出来た。

 それに、『ヴァイスリッター』についてもデータ取り自体はスムーズに出来ている側面は否定できない。

 ところで、とラウラがフォークを置き口を開く。

 彼女の空気が変わったことで、一夏は思わず背筋を伸ばして居住まいを正す。

 

「……件の襲撃で、お前が指揮を執ったと聞くがこの学園の防衛体制はどうなっている?」

 

 かん口令が敷かれているのに、なぜラウラが知っているかと言ったら一夏が報告したからに他ならない。

 おそらく、セシリアや鈴も本国に報告している事だろう。

 とはいえ、コアが未登録の物だったり、首謀者のアタリを付けている事は伝えてはいないが。

 その中で、一夏は報告に際して、防衛の指揮を執った事も報告しており、ラウラはその辺りの事を聞きたいのだろう。

 

「千冬姉曰く、教師部隊も訓練を積んではいるけど、実戦経験は皆無。だから慣れている俺に指揮権を渡したって事らしい」

「ふむ。ざっと教員の経歴も調べてきたが、殆どが代表候補生どまりだったはずだ。軍を経験した者はいなかったと記憶しているな」

「使える機体も学園の訓練機。競技用のリミッターもかけられているのもあって、戦力としても俺の方が上だったのもあるだろうな」

「それに、いくら代表候補生としてISを動かす腕があったとしても、基本は一対一が競技におけるISの基本。部隊を率いた経験などあるはずもない、か」

 

 それでも、一夏に指揮権を渡すのは思い切った判断だ、とラウラは思う。

 軍属と言えど、自身やクラリッサと上官がいる以上、一夏が部隊を率いた経験などそこまでないというのに。

 

「いずれにせよ、お前が部隊を率いて襲撃を退けたのは間違いようのない事実だ。上官としても鼻が高いよ」

「……ここでは、軍の関係を忘れるのでは?」

「なに。たまには、な?」

 

 ふっと笑みを浮かべるラウラはついでとばかりに一夏の更に、自身の定食に追加したサラダを分ける。

 

「相変わらず、よく食べるものだと感心するが、野菜が少ないのはいただけないな」

「……善処するさ」

 

 一夏がしぶしぶといった具合に絞り出した言葉に、ラウラが苦笑を漏らす。

 ドイツにやってきた当初は、誰よりも健康に気を使った生活をしていたというのに、ここまで変わるものか、と。

 

「報告では、副会長に就任したと聞いているが」

「ああ。編入試験だって引っ張り出されて、後は成り行きでな……やるからには真剣にやるつもりだが」

 

 ラウラはわずかに目を細め、満足そうに一夏を見やる。

 

「私は生徒会と言う組織を理解できているとは言えないが、それでも副会長という立場の責任は重いことは知っている。そして、お前がそうした重責を果たせるという事もな」

「まあ、中途半端は嫌いだしな」

「それも、知っているとも」

 

 食堂のざわめきは、今日が休みの日ということもあってまだ穏やかな方だ。

 それでも周囲の生徒たちがちらちらとラウラを見ているのを、一夏は横目で感じていた。

 見知らぬ生徒がいる、という事だけではないだろう。

 それはラウラの軍人然とした立ち居振る舞い、無駄のない動作、そして人を圧する気配。

 そのいずれも、この学園ではまず見ないタイプ。それが故に視線が集まるのは仕方がないと言えた。

 だが、当のラウラ本人はそんな視線など意に介さず、静かに食事を進めていたりするが。

 

「……しかし、副会長か」

 

 ラウラは再びフォークを置き、今度は少し柔らかい声音で言った。

 

「ここでの立場は、一夏の方が上になる訳だな。……となると私が敬語で話した方が良いのではないか?」

 

 悪戯っぽく笑うラウラに一夏は肩をすくめてみせる。

 一夏が肩をすくめたその一瞬の気まずさをラウラは見逃さない。だが、彼女はそれを追及するでもなく、むしろ楽しげに口元を緩めた。

 

「どれ、試しにやってみてみようか」

 

 ラウラは冗談めかして言うが、その声音にはほんのわずかに本気が混じっている。

 それを察した一夏がラウラが実行に移す前に口を開く。 

 

「いや、やめてくれ。絶対にやりづらい」

 

 一夏のその反応にラウラは肩を震わせて笑う。

 

「冗談、だ。……とはいえ、有事の際は一夏の指揮下に入る事になる訳か」

「むしろ、また襲撃が起きた時にはラウラに指揮を執ってもらいたいくらいなんだがな」

 

 それは、一夏の偽らざる本心だ。

 その方が一夏自身も気兼ねなく戦えるし、自分よりはるかに良い指揮を執るのは間違いないと胸を張って言える。

 

「仮に、もしまた襲撃があり教官に指名されれば私が指揮を執るが、そうはならないだろう」

 

 それに、とラウラはサラダに添えられていたミニトマトをフォークで刺し、口元に運びながら続けた。

 

「お前の指揮で戦うのも面白そうだがな」

「そうならない事を祈ってるよ」

 

 実際は望み薄だが、と声に出さず一夏は思う。

 そして、実際にまた襲撃が起きた際は、また自分が陣頭に立つことになるのだろう、と漠然と思っている自分もいた。

 千冬や楯無と立場や実力を考えても、指揮を執るべき人間はおり、クラス対抗戦の時の様に外周の警戒をする部隊を率いた様に一夏が大人数を率いる事は無いだろうが、いわゆる小隊規模での指揮を執る事はあるだろう、と。

 それこそ、戦場に限って言えばの話だが、並の教員よりは動ける自信が一夏にはあった。

 

(せめて、訓練機の一部は競技用のリミッターを外してもらって配備したいところだが……)

 

 現状、IS学園に配備されているISは全て競技用のリミッターがかけられている。

 使用するのはほとんどが生徒であり、教員であっても指導に際して使うのが主だからだ。

 これが軍事施設であればリミッターなどかけられておらず、それは一夏の駆る『ヴァイスリッター』も同じだったが、IS学園に来るにあたってリミッターをかけている。

 本来は、IS学園の重要性を考えても、競技用のリミッターをかけられていない機体を配備するべきなのだろうが、如何せんISの機体数に限りがある以上、それも難しい。

 緊急時の為にリミッターを外した機体を眠らせておくよりは、一機でも多く訓練機として生徒に貸し出したいと考えるのはある種当然の判断だった。

 

(普通なら、その判断で間違いはないだろうし、よほどの事態ではない限りは対応できるのも間違いない、か)

 

 訓練機の数だけでも十数機に上り、専用機持ちも全学年合わせて八名と並みの国家を上回る数のISが集まっている。

 訓練機の数だけでもドイツの十機を上回っているのが事実だ。

 仮にシュヴァルツェ・ハーゼに『IS学園を落とせ』という命令が下っても、部隊で所有する三機のISではこちらがリミッターを外して、学園側がリミッターをかけている条件だとしても、学園を落とすのは難しいだろう。

 無論、何機かは落とせるだろうが。

 

「……なにやら考え込んでいるようだが、食事の手を止めてまでする事か?」

 

 口を噤み、食事の手を止めて考え込んだ一夏に対して、ラウラが苦笑交じりに口を開く。

 指摘された一夏は軽く頭を振って切り替えつつ、こちらも苦笑交じりに返す。

 

「会長に防衛体制の見直しを命令されたからな、かな。今ならハルフォーフ大尉の気持ちがよくわかる」

「それは結構。お前もいずれはウチを離れてどこかの部隊の副官、もしくは部隊を率いる事になるだろう。今の内に慣れておくといい」

 

 ドイツに配布されているISのコアの数は十個。その内、研究用や開発用に回されているコアを差し引くと、実際に軍で稼働しているISの数は八機程度だ。

 その内、三機がシュヴァルツェ・ハーゼに配備されているのは、いささか過剰ともいえる。

 新しい部隊が編制されたとしても、階級から言えば、副官を務めているクラリッサが任官されるのが本来の流れだが、ドイツが一夏を自国の人間だと強くアピールするために()とした部隊を新設するのだろうとラウラは思っていた。

 おそらく、IS学園を卒業すると同時に部隊編成が行われるのではないか、と。

 

(IS学園における他国のISの情報収集の功で大尉に昇進。部隊編成の功で少佐に昇進ってところかな)

 

 対象無理やりだが、一夏の年齢で部隊を率いるにはそれくらい無茶な昇進をさせなければならないし、そもそも一夏の年齢で中尉という階級を与えられているのも異例と言えるのだ。

 一夏が部隊から離れる事に思うところが無い訳ではないが、いつまでも一隊員として置いておくわけにもいかない事もラウラは十分理解していた。

 

「部隊を率いるのは性に合ってないんだがなあ」

「それは私も同じさ」

 

 まさか、という一夏の視線を受け流しながらラウラは食事を終えた。

 見れば一夏も食事を終えており、二人は示し合わせたかのように揃って立ち上がり、トレイを持つ。

 

「教官やお前が言っていた通り、IS学園ではことISに関する事はあまり学べないかもしれないのだろう」

 

 だが、とトレイを返却しながらラウラが続ける。

 

「ここではお前は誰かの上に立つ、という意味では学びはあるだろうし、部隊に居たのでは学べない事も多いだろう」

「確かに、それはそうだな」

 

 あのままドイツに居れば、ISに関することは今以上に学べていただろうが、指揮の面ではラウラやクラリッサがいる以上、あまり学べなかったかもしれない。

 けれど、IS学園では人の上に立つことに関してはより多くの学びがあるのは事実だろう。

 

「今、お前が命じられている防衛体制の再構築も、お前のこれから(・・・・)を考えれば必要な要素だ。私が言うまでもないだろうが、しっかりやれよ」

「はっ、肝に銘じます」

 

 思わず、といった風に背筋を伸ばして鋭い返事を返した一夏が我に返って苦笑を漏らす。

 そんな一夏の様子にラウラが声を上げて笑う。

 

「さて、ではアリーナの申請方法に教えてもらおうか。それとも、多忙を極める副会長殿にはたかが一生徒にかける時間は無いかな?」

「とんでもない。少佐殿のご命令とあれば喜んで」

 

 からかうように言葉を交わすと、一夏はラウラを連れてアリーナの申請に向かうのだった。

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