『柱島泊地 -鉄屑艦隊- 』 艦隊これくしょん二次創作小説   作:龍改二

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第三章が始まります。
第11話です。2日に1話ペースで更新予定です。


第三章「叛逆の海と罪の亡霊」
第11話. 焦土作戦


『雷神』北上を退け、柱島泊地が海軍内で無視できない『独立した武力と政治力』を確立してから数週間後。

かつて鉄屑の墓場と呼ばれた柱島は、佐世保の西村大将と呉の北条大将という強力な後ろ盾を得て、活気ある前線基地へと変貌を遂げていた。 しかし、その平穏は、一本の『極秘通話』によって打ち破られることになる。

 

提督執務室。 厳重な暗号化が施された大型モニターには、呉の北条と、佐世保の西村の顔が映し出されていた。

「おやっさん、それに西村閣下も。ご無沙汰しています」

龍壁が第一声をかける。

『……しばらくぶりだな、古毅(ふるき)。そちらの艦娘たちも、息災のようで何よりだ』

画面越しに、白髭を蓄えた穏やかな老人、龍壁の旧知であり最大の理解者である北条が、深く重い溜息をついた。

その背後には、豪奢な金髪交じりの茶髪を揺らす一人の艦娘が控えている。

 

『お久しぶりデス、龍壁サン! 柱島の大金星、ミーたちも鼻高々だったデスよ!』

彼女は海軍最強「四方(よも)」の一角、呉の秘書艦である戦艦、「鋼」の金剛。圧倒的な防御力を誇る彼女は、北条を護る絶対の「盾」だ。

画面の分割されたもう一方には、すっかり顔色の良くなった西村と、その後ろで静かに佇む時雨の姿があった。

 

『北上の一件では世話になったな、龍壁司令。おかげで、うちの時雨も随分と落ち着きを取り戻した。……だが、今日通信を繋いだのは、礼を言うためではない』

西村の言葉に、北条が険しい表情で頷き、本題を切り出した。

『単刀直入に言おう。本省の南郷元帥と、舞鶴鎮守府の東雲(しののめ)大将が結託し、ある「極秘の大規模作戦」を立案した。……目標は、 神出鬼没にして最悪の深海棲艦、【戦艦レ級】の討伐だ』

 

「——ッ!!」

その名前が出た瞬間。隣で記録を取っていた明石が、バインダーを取り落とした。 ガチャン、という音と共に、彼女の顔から一瞬にして血の気が引き、呼吸が浅くなる。

『……明石。お前の「過去」を抉るようで済まんな』

北条が痛ましげに目を伏せ、西村が代わって続けた。

 

『戦艦レ級。かつての「女神計画」の失敗により生み出された怪物だ。……海軍のレーダーに映らず、深海の底から突如として現れては殺戮を繰り返す、人類最大の脅威。……お前たちには、これ以上の説明は不要だろう』

西村の言葉に、明石は顔を青くしたまま押し黙っている。

 

『作戦の立案者は、舞鶴の東雲 忠次(しののめ ちゅうじ)大将の方だ。南郷はそれを支援している形になる。東雲は、先の作戦で殉職した元大将、父・忠一の跡を継いだ若き俊英だが……「多くが救われるなら、多少の犠牲は仕方がない」という極端な功利主義者でもある。 奴は、レ級が潜んでいると予測される海域……鉄底海峡(アイアンボトム・サウンド)に、わざと民間人の乗る避難船や、護衛と称した艦娘たちを「餌」として配置した』

 

「……餌、ですって?」

叢雲がギリッと歯を食いしばり、陸奥と隼鷹も空気を凍らせた。

 

西村が苦虫を嚙み潰したような顔で説明を続ける。

『戦艦レ級が餌に食いつき、襲撃を始めた瞬間に、舞鶴の誇る無数の航空戦力をもって、餌ごと海域一帯を「焦土」と化す。それが、作戦の全容だ。……東雲のせがれめ……。父君は誇り高い軍人だったというのに……』

『南郷の奴もこれを承認し、作戦の確実性を上げるため、あの北上を支援という名の逃亡者の粛清役に回しておる』

 

『冗談じゃないネ!!』

呉の金剛が、いつもの明るい口調を消し飛ばし、バンッと机を叩いた。

『守るべきものを餌にして焼き払うなど、海軍の誇りに対する冒涜デス! ミーと提督は猛反対しましたが、本省は聞く耳を持たなイ!』

 

『……ボクも、同意見だ』

佐世保の時雨が、静かに、しかし確かな怒りを込めて呟いた。

『深海棲艦は殺す。……でも、味方を餌にするなんて、ただの卑怯者のやり方だ。西村提督、ボクを出撃させて。レ級も、舞鶴の航空隊も、ボクが全部叩き落とす』

 

「待ちなさい、時雨ちゃん。相手が悪すぎるわ」

陸奥が冷静に、しかし鋭い声でモニターに呼びかけた。

「舞鶴の航空戦力……東雲大将の秘書艦は、確かあなたたちと同じ『四方』の一角……」

「正規空母、『鎧』の瑞鶴。……奴の航空隊の練度は、空母をやってりゃあ、知らない奴はいねえ。この海を取り戻した英雄たち……ツルのバケモンどもさ」

隼鷹が割り込むように答え、明石が、震える声で補足する。

「不退転作戦で、元・一航戦の赤城や加賀、そして姉の翔鶴たちが失われたことで、一航戦の座を継いだと聞いています。瑞鶴自身も右半身を失っていますが、右腕と右脚には強固な鎧……サイボーグの義手義足が移植されていて、高出力の近接格闘までこなす、空と海上の支配者です」

 

海軍最強の矛である「北上」と、空を制する「瑞鶴」。二人の「四方」を擁する狂気の焦土作戦。 そして、その中心に現れるであろう、明石の生み出した最悪の亡霊「レ級」。

地獄から溢れ出たような死と絶望が渦巻く戦場を前に、北条が、真っ直ぐに龍壁を見つめた。

『古毅。わしと西村で、政治的な圧力は限界までかける。だが、現場で強行されれば、多くの無辜の命がレ級と味方の爆撃で散るだろう。 ……この地獄の盤面、お前ならどう動く?』

 

北条の真剣な問いかけに、龍壁もまた真剣な眼差しで応えた。

「俺たち軍人は、お上の命令には従わなければならない……それがルールです。でもね、おやっさん。俺が海軍に入ったのは、『ルールを守る』ためじゃない。『人の命を守る』ためです。軍人である前に人として、東雲と南郷を止めなければ。そのためには、瑞鶴と北上を、力ずくでも何とかする必要がある。あなた方のお力を貸していただけますか、『北条閣下』。そして、西村閣下」

 

モニターの向こう側。 北条は、旧知の後輩の「軍人である前に人として」という言葉を聞き……やがて、深く、誇らしげな笑い声を上げた。

『……ふっ、ははははっ! 言った通りだろう、西村。この男は、決して折れんし、決して見捨てん。わしが惚れ込んだ、最高の「馬鹿野郎」だ』

北条は目頭を熱くし、力強く頷いた。

『よく言った、古毅。お上の命令などクソくらえだ。お前がその覚悟を示すなら、わしも老骨に鞭打って、南郷の首に噛み付こう。……行け、金剛!』

 

『イエス、テイトク!』

金剛が、弾かれたように前に出た。そして、彼女の表情から、陽気な「英国淑女」の笑みがスッと消え去り……海軍最強の「鋼」としての、威風堂々たる戦艦の顔つきに変わった。

『……龍壁提督。私の鋼、あなたに預けます。これより先は、命を懸けて命を護る、真の「防衛戦」です』

独特の「訛り」が消えた金剛の声は、信じられないほどの重圧と、透き通るような誇りに満ちていた。

『戦艦と呉の誇りにかけて、あなたのその「叛逆」、最後まで付き合わせてもらいます』

 

画面の分割されたもう一方。 西村もまた、憑き物が落ちたような、清々しい笑みを浮かべていた。

『……全くだ。我々は軍人である前に、命を守る「盾」だったはず。あの不退転の地獄で、それを見失いかけていた私を、お前と時雨が引き戻してくれた』

西村は、背後に控える時雨を振り返った。

『……時雨。お前の血は、もう無意味な殺戮のために流すな。龍壁司令と共に、狂った同胞を止め、弱き者を救うために、その牙を剥け』

 

『……うん』

時雨は青く透き通った瞳で、確かな「意志」を持って頷いた。

『……北上と、瑞鶴。あいつらが人を殺すなら、ボクが先に、あいつらの牙を折る。……柱島の提督……そして、叢雲。……もう一度、一緒に戦おう』

 

海軍最強の「四方」が二手に分かれ、それぞれの正義と命を懸けて激突する。

かつてない規模の【海軍内部抗争(クーデター)】にして【レ級討伐の連合艦隊】が、結成された瞬間だった。

 

「ひゃーっはっはっは!! 聞いたかよ、最高じゃねえか!!」

通信が切れた直後、隼鷹が武者震いするように自身の腕を抱きしめ、獰猛な笑みを浮かべた。

「海軍を真っ二つに割っての、エリートと化け物の同時ぶっ飛ばし作戦! こんなイカれた大舞台、ウチの提督にしか用意できねえぜ!」

 

「……ええ。全く、本当に手のかかる人。でも、だからこそ私の全てを懸ける価値があるわ」

陸奥は、深海のコアが脈打つ41cm連装砲を優しく撫でながら、艶やかに微笑んだ。

「『雷神』北上と、『鎧』の瑞鶴。それに、戦艦レ級。……相手にとって不足はないわね」

 

「……ふんっ。上等じゃない! 司令官が『助ける』って決めたんだから、民間人の船も、囮にされた護衛の艦娘も、私が一隻残らず連れ帰ってあげるわ!」

叢雲が、漆黒のガン・ハルバードを天高く掲げ、ルビーの瞳を熱く燃やした。

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回、「第12話. 女神計画」は5/13の18時頃に投稿予定です。
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