『柱島泊地 -鉄屑艦隊- 』 艦隊これくしょん二次創作小説 作:龍改二
第17話です。2日に1話ペースで更新予定です。
第17話. 濃霧の死線
濃霧が視界を白く塗り潰す海域。 重苦しい波音と輸送船団のエンジン音だけが響く。
護衛の任に就いた柱島艦隊は、量産型の汎用護衛艦群とともに陣形を崩さず進んでいた。
『……司令官、レーダーに感あり。識別信号は『青』。味方機……いや、艦娘のコードね』
艤装のモニターを睨みながら、叢雲が訝しげに眉をひそめた。
『こんな霧の中で迷子かい? 提督ゥ、助けに行ってやろうか?』
隼鷹が通信機越しに余裕のある声を上げるが、龍壁は即座に首を横に振った。
「いや、何かおかしい。全艦、対空・対潜警戒態勢。輸送船団を急回避させろ」
龍壁の声に一切の迷いはない。
その直後——輸送船団の元の進行方向、わずか数メートル先の海面が不自然に隆起し、巨大な水柱を上げた。
『……冷たいですね。味方のコードを見て反転・回避するなんて。少しは歓迎できないんですか。……的がブレるでしょう』
濃霧の向こうから、冷気のような女の声が通信機に割り込む。
次の瞬間、超遠距離からの精密狙撃。放たれた二の矢——重巡洋艦級の主砲弾が、輸送船の艦首をかすめ、護衛についていた量産型護衛艦の装甲を紙のように撃ち抜いた。
さらに他方では、回避行動をとった護衛艦の一隻が突如として轟音をあげた。護衛艦は艦首から水しぶきと煙を吐き出し、水底へ突っ込んでいく。
『沈むでち。海軍の犬も、エサも、全部海の底へ落ちるでち……』
海面下から、一切の感情の起伏がない無機質な声が響く。すでに輸送船団の周囲には、潜水艦によって不可視の機雷と魚雷の網が張り巡らされていた。
『チッ……! 敵襲ッ!!』
叢雲がガン・ハルバードを構え、一気に加速しようとした、その瞬間。
『ハハハッ!! 遅ェよ!!!』
狂気に満ちた哄笑と共に、白霧を引き裂いて小柄な影が飛来した。大振りのナイフを片手に持ち、異常な速度のインファイト。まるで『知っていた』かのように叢雲の迎撃の挙動を読み切り、懐へと飛び込んできたのは、味方のはずの艦娘……駆逐艦・
『アタシらのシマでチョロチョロしてんじゃねェよ!!
雪風の凶悪な刃が、叢雲の首筋へと容赦なく振り下ろされる。
海軍の
「『海賊』だ!輸送船団を守り、海域離脱を優先しろ! 今見えたのは狙撃の重巡、潜水艦、前衛の駆逐。……俺の予想が正しければ、敵は四隻。まだ主力の戦艦級がいるはずだ……陸奥!」
『ええ、分かっているわ、提督。私のセンサーが、さっきから最悪なプレッシャーを捉えているもの……!』
大人の色気を帯びた陸奥の声が、戦場に響くのと同時。
輸送船団の側面に広がる濃霧が、猛烈な突進の風圧によって強引に吹き飛ばされた。
『ご名答です。ですが……少しばかり遅かったですね』
霧を引き裂き紫煙を燻らせながら現れたのは、咥えタバコに鋼鉄の巨腕。
本来あるべき防御装甲を一切捨て去り、代わりに『巨大な鋼の2本の腕』を艤装として懸架した戦艦・
『よそ見してんじゃねェよッ!! アンタの首はアタシの
雪風の狂乱のインファイトが叢雲を釘付けにする。叢雲がガン・ハルバードで辛うじてその凶刃を弾き返したその瞬間、上空を切り裂く一筋の閃光。それは、遥か彼方から放たれた超精密狙撃だった。
弾道上には、叢雲を抑え込む雪風がいる。しかし、狙撃手のトリガーに躊躇は一切ない。味方ごと敵を撃ち抜くつもりで、その一撃を放っていた。
雪風は後ろを見ることもなく、首を軽く、紙一重だけ動かす。
その直後、雪風の頬を掠めた弾丸が、視界を塞がれていた叢雲の頭部を捉える。
『くそッ……!!』
回避は間に合わない。叢雲は本能的に首を捻るが、弾丸は彼女の頬を深く切り裂き、鮮血が舞った。
海賊たちの味方を殺す気の射線。味方もまた、それを前提として動く——。
完璧にイカレた連携を前に、叢雲が焦燥に駆られた声を上げる。
『ぅ……ッ!司令官! このままじゃ防衛ラインがもたないわ!』
海面へ無造作に、火のついたタバコが投げ捨てられる。
ジュッという小さな音を掻き消すように、爆発的な水飛沫が上がった。
『榛名たちの邪魔をするなら……エサごと纏めて海の底へ沈んでください』
鋼の巨腕が、榛名の腕や手指とリンクしているように動き、輸送船の盾に入った量産型護衛艦を虫けらのように鷲掴みにした。
——そして、一切の躊躇なく、ゼロ距離から戦艦の主砲を叩き込む。
凄まじい轟音。一撃で火薬庫を誘爆させられ、木端微塵に粉砕される護衛艦。
その無慈悲な蹂躙を止めるべく、陸奥が立ちはだかる。
『あら、随分と乱暴な子ね……! 深海コア接続、【破城槌】、出力上昇!……撃て!!』
陸奥の主砲から放たれる黒と紅蓮の破壊光線。しかし、榛名はそれを避けるどころか、鋼の両腕を前方へ突き出して合掌させて引き裂くように受け流し、装甲を赤熱させながらも不気味な笑みを浮かべて距離を詰めてくる。
『フフ……随分と物騒なオモチャですね。ですが、私の腕を止めるには少しオツムが足りないようです』
分散された破壊光線が周囲を無差別に焼き散らし、海面下からは潜水艦の無機質な機雷群が輸送船団の退路を削り取っていく。
互いを庇う素振りは一切ない。四人全員の最適な暴力が、結果として完璧な殺戮の包囲網を形成していた。
『提督!敵は完全にこちらを殺しにきているわ!指示を!』
「敵の練度は我々より高い!正面からやりあうな!最優先は輸送船団の保護と、お前らの生還だ! 陸奥、海面を撃って盛大に飛沫をあげ続けろ! 隼鷹、叢雲!輸送船団を引き連れて飛沫の中を突き進め!海域離脱だ、逃げきれ!」
『……あら、深海のコアを積んだ破城槌を、ただの目眩しに使えだなんて。提督も随分と贅沢な命令を下すわね』
陸奥は一瞬目を丸くしたが、すぐに艶やかな笑みを浮かべた。その瞳には、迷いのない龍壁の決断への絶対の信頼が宿っている。
『でも、そういう無茶苦茶なところ、嫌いじゃないわ! ……全門、海面へ俯角! 出力50%、撃てッ!!』
陸奥の主砲から放たれた赤黒い波動が、敵ではなく、至近の海面を容赦なく抉り取った。 凄まじい水蒸気爆発。数万トンの海水が瞬時に沸騰し、数十メートルに及ぶ巨大な白濁の壁となって戦域を完全に覆い隠す。
『……ッ、視界ゼロ。全く、下品な火力の使い方ですね。少しは淑やかにできないんですか』
超遠距離にいた重巡洋艦が、巨大なスナイパーライフルのように改造された主砲から顔を上げ、冷たいため息をついた。濃霧を見通すサーマルスコープをもってしても、物理的に視界を遮断されればトリガーは引けない。
『ヒャッハー! 提督ゥ、最高にイカレた作戦だぜ! 道中の掃海は任せなッ!!』
隼鷹が豪快に笑いながら、飛行甲板から無数の艦載機を盲撃ちで発艦させる。爆雷の雨が輸送船団の進行方向に降り注ぎ、潜水艦が仕掛けていた機雷と魚雷の網を次々と誘爆させ、強引に「安全な水路」を切り開いていく。
『輸送船団、アタシたちの航跡から一ミリでも外れたら沈むわよ! ついてきなさい!!』
叢雲はガン・ハルバードの推進器を全開にし、雪風の凶刃を弾き飛ばした反動を利用して一気に後退。陸奥と並び、巨大な水柱のトンネルの中を輸送船団と共に強行突破する。
『……チッ。逃げ足の速いウサギどもだ!……オイオイオイ、なに一服キメようとしてんだ榛名ァ! そのでけえお手々で捕まえてこいよ!増援呼ばれたらメンドイだろォが!』
『はあ?榛名は大丈夫ですけど?弾除けのクズ共がいくら増えようと、握り潰して沈めるだけです』
雪風が八つ当たりのように喚き散らし、榛名が鋼の巨腕を苛立たしげに鳴らすが、柱島艦隊の徹底した離脱機動の前に、海賊たちの連携は一時的に空転した。
「明石、呉のおやっさんに情報を伝えろ!それと横須賀……南郷元帥と北上にもだ!」
龍壁の指示と同時に、指揮艦の司令室、龍壁の隣で通信と技術支援を担う明石の指が、コンソールを高速で叩き込む。
「了解です、提督! 呉の北条大将へ、現海域の戦闘データと海賊艦隊の識別信号を暗号通信で送信します! ……ええ、間違いなく南郷元帥と、あの北上の耳にも入るように『わざと』経路を細工しておきました!」
かつて禁忌の研究に手を染めた明石だが、今は龍壁の手足としてその卓越した頭脳を完璧に回している。
轟音と白波の壁を抜け、輸送船団はどうにか敵のキルゾーンからの離脱に成功しつつあった。 しかし、レーダー上では依然として4つの所属不明な識別信号が、一定の距離を保ちながらこちらを追尾してきている。
『司令官、どうにか致命傷は避けたわ。でも連中、まだ諦めてないみたい。このままだと、呉の勢力圏まで案内することになるわよ』
息を切らせながらも、叢雲が艤装の冷却音を響かせながら龍壁に次の指示を求めた。
「叢雲、照明弾を海賊どもの頭上に上げろ。深海棲艦の残党に襲わせて、そのうちに逃げ切れ!」
『本当に、アンタって人は悪辣な手を使うわね……! でも、最高よ!』
叢雲は口元に好戦的な笑みを浮かべ、ガン・ハルバードの先端から上空に向けて特殊照明弾を撃ち上げた。 パラシュートを伴って降下する強烈なマグネシウムの光が、濃霧の一部を不自然なほど白日のように照らし出す。その異常な光源と熱源は、周辺海域をうろついていた深海棲艦の残党たちにとって、これ以上ない「極上の標的」だった。
『……眩しいですね。これではスコープが焼けてしまいます。少しは大人しくできないんですか』
超遠距離で舌打ちをする狙撃手の冷徹な声。
『チィッ! 海軍のクソが、深海魚どもにアタシらを売りやがった!! 舐めやがって、上等だ、全部バラしてやる!!』
群がってくる無数の深海棲艦の気配を察知した雪風が、狂気を含んだ怒声を上げる。 海賊艦隊の足が、深海棲艦との泥沼の戦闘によって完全に止まった。
『目標、輸送船団から深海棲艦の群れへのヘイト移行を確認! 完璧だわ、司令官!』
叢雲が安堵と興奮の入り交じった声で報告を上げる。輸送船団は追撃を振り切り、完全に安全圏へと脱出した。
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次回、「第18話. 不退転の落とし子たち」は5/25の18時頃に投稿予定です。