『柱島泊地 -鉄屑艦隊- 』 艦隊これくしょん二次創作小説   作:龍改二

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第20話です。2日に1話ペースで更新予定です。


第20話. それでも

霧の海域を支配する、榛名の激情と雪風の慟哭。

危機を察知した龍壁の切迫した通信が、叢雲たちの耳に響いた。

「叢雲ッ!もう俺たちの言葉は届かないッ!……北上と息を合わせて雪風を止めろ!お前なら、北上の動きが『視える』はずだ!」

『……ええ、司令官! 死ぬ気でこの女と戦った記憶、私の身体(コア)が覚えてる!』

 

叢雲はガン・ハルバードの出力を限界まで引き上げ、青と赤のオーラを全身から噴出させた。今までの死闘——北上の魚雷の弾道、発射のタイミング、そしてその後の死角。かつて敵として刻み込まれたその恐怖の記憶が、今、最高の連携を生むための設計図となる。

 

「北上。個人プレーでは雪風は止められん。今は叢雲と連携してくれ。……『人類の味方』なんだろ?」

『あーあ、ホント癇に障る提督サンだよね。……ま、いいよ。チョロチョロ躱し続けるこのネズミ、ちょっとウザくなってきたところだし』

北上が気だるげに首を鳴らすと、その瞳の奥で冷酷な光が極限まで研ぎ澄まされた。

カチャリ、と彼女の背後で40門の死神が牙を剥く。

 

『そんじゃキメるよ、死体上がりの初期艦チャン。アタシの射線、邪魔したらもっぺん死ぬからね』

『誰に口利いてんのよ! アンタの雷撃、利用させてもらうから!!』

 

肩を並べる北上と叢雲。その後方で「鋼」の金剛は、妹の剛腕を押し止めながら、俯き、目を閉じ、深く、深く息を吸い込んだ。

顔を上げ、再び見開かれたその翡翠の瞳には、揺るぎない決意の光が灯っていた。

『……榛名。私は貴女の姉として、失格かも知れません。貴女の地獄を、何も分かってあげられなかった』

鋼の巨大な大盾が、軋みをあげて押し出される。

『それでも……! 綺麗事だと蔑まれても! それでも私は、貴女を……ッ!!』

 

『うるさいッ! 何も理解できないのなら、もう放っといてくださいよッ! お姉様ァ!!』

装甲を捨てた榛名が、赤く歪んだ巨腕で金剛の盾を殴り続ける。

重金属の塊がぶつかり合い、鼓膜が破れそうになるほどの轟音が連続して鳴り響く。

しかし、金剛は一歩も引かない。やがて榛名の異形の巨腕が特攻の出力に耐えきれず、悲鳴を上げてメキメキとひび割れ始めた。

 

『……チッ。少しは静かにできないんですか。耳障りな鐘も口論も、これで終わりです』

超遠距離で舌打ちをした妙高が、乱戦の隙を突いて金剛への狙撃を試みる。

しかし——

『あら、よそ見は駄目って言ったでしょう?』

陸奥の「破城槌」が、妙高の潜む海域一帯を薙ぎ払うように照射された。直撃こそ免れたものの、強烈な衝撃波と水蒸気爆発が妙高の射撃体勢を完全に崩す。

 

さらに海面下では、伊58が起死回生の魚雷網を再構築しようとした頭上へ、隼鷹の狂気じみた爆撃の雨が降り注いでいた。

『ヒャッハー! 息継ぎの時間は終わりだぜ、潜水艦! 海の底ごと沸騰させてやるよ!!』

『……でちッ!? 深度、維持できない……海が、燃えてるでち……!』

無機質だった伊58の声に、初めて焦りが混じる。

孤立した個の暴力でしかなかった海賊艦隊の連携が、龍壁の指揮の下に結束した柱島・四方連合艦隊の前に、完全に瓦解しつつあった。

 

『存在しちゃいけねえんだ……お前だけは……ッ!』

奇跡を否定し、暴走する「全知」の雪風。理性を焼き切った「獣」が、残像すら置き去りにして一直線に叢雲の首を刈りに動いた。

 

『……【四重雷】』

北上が放つ40門の超高速魚雷。殺到する死の壁が、空間を埋め尽くす。

その直後、雪風の「全知」の直感が無数の魚雷の航跡を瞬時に紐解き、「死の壁」を見透かす。

 

——だが、魚雷の弾幕を抜けた先。

その「回避先の空間」には、北上の死角を完璧にトレースし、待ち構えていた叢雲のガン・ハルバードがすでに振り下ろされていた。

 

『な……ッ!?』

『視えてるんでしょ!? なら、逃げ場がないことも分かるはずよ!!』

北上の面制圧と、叢雲の点突破。二つの極限の暴力が完全に噛み合い、雪風の直感が「死」を告げる。

 

『アタシが死んだら、アイツらは何のためにッ!……ァァァアアッ!!』

雪風が狂乱の叫びを上げて空中で強引に身を捻った。

 

『……分かってるわ、司令官。「殺すな」でしょ?』

叢雲は手首を返し、ガン・ハルバードの高熱の刃を消滅させる。

戦場には存在しないはずの「視えない一撃」。死の気配を見透かす全知の瞳に、その一閃は映らない。

雪風の鳩尾へ、叢雲の強烈な「峰打ち」が、完璧なタイミングで叩き込まれた。

 

『ガッ……ァ…………!!?』

肺から空気が根こそぎ吐き出され、雪風の小柄な身体が「く」の字に折れ曲がる。白目を剥き、狂気に満ちていた彼女の意識は一瞬にして刈り取られ、糸の切れた人形のように海面へと崩れ落ちた。

 

『前衛が落ちたわ! ……チェックメイトよ、スナイパーさん』

陸奥が妖艶な笑みを浮かべながら、漆黒の破壊光線を孕んだ主砲を、超遠距離の妙高が潜む方角へピタリと固定した。

『そこから一歩でも動けば、海ごと蒸発させるわ。大人しくしなさい』

『ヒャッハー! 泥水すする時間は終わりだぜ、モグラっ子! 次に妙な波音立てたら、上から特大の爆雷(プレゼント)を落としてやるよ!!』

上空を制圧した隼鷹の爆撃機が、海面下の伊58の頭上で旋回を続ける。

 

前衛の崩壊を悟った妙高は、スコープから静かに目を離した。

『……ッ、なに静かになってんですか。前衛が落ちては、私の狙撃も無意味です。……降伏します』

冷たいため息と共に、妙高の艤装が沈黙する。それに呼応するように、海面下からも伊58の無機質な声が響いた。

『……浮上するでち。トラップ、全解除でち』

 

残るは、一人。

 

『ア、アァ……! また、私だけが……!? 嫌です、もう独りは嫌です!! 榛名は、榛名は……ッ!!』

雪風が沈み、仲間たちが無力化された光景を見て、巨腕の戦艦・榛名の瞳に凄まじい恐怖と狂乱が走った。自分だけが生き残る地獄のフラッシュバック。彼女は悲鳴を上げる鋼の腕を振り上げ、周囲を見境なく殴りつけようと暴れる。

 

『司令官!私を金剛の援護に…!』

「ダメだ叢雲。金剛さんに任せろ。……彼女の戦いだ」

龍壁の判断に、動きかけた叢雲の足が止まる。

 

(龍壁提督……感謝します)

金剛は絶対防御の大盾に最大限の力を込めると、自ら左右に弾き割るように解除した。

弾き上げられる榛名の鉄腕。

防御を捨てた妹に対し、姉もまた盾を捨て、戦艦としての素の腕力のみで真っ直ぐに踏み込む。

 

『嫌…ッ! 来ないでくださいッ! お姉様ァッ!!』

『それでも私は……貴女を独りにはしません!! 榛名ァッ!!』

恐怖と錯乱の中、再び巨腕の艤装が振り下ろされる。その無機質な鉄の塊に纏わりつく感情は、怒りや憎しみだけではない。誰かにすがりたいという悲鳴と、自分だけが救われることへの拒絶。矛盾する二つの絶望が、巨大な拳を形作っていた。

金剛はそれを避けることなく、両手で真正面から受け止めた。 凄まじい衝撃。金剛の足元の海面が爆発したように割れるが、彼女は一歩も引かない。

そして、自らの骨を軋ませながら、限界を迎えていた榛名の「巨大な2本の鋼の腕」を、力任せに粉砕した。

 

『もう、いいのです。もう……一人で戦わなくても、いい……!』

砕け散る鋼の破片の中、金剛はそのまま妹の身体を強く、ただ強く抱きしめた。 絶望を燃料に暴れ続けた異形の装甲が剥がれ落ち、そこには、ボロボロになって涙を流す一人の少女の姿だけが残されていた。

榛名は金剛の腕の中で数度震えた後、静かに糸が切れたように意識を失った。

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回、「第21話. 恥ずかしながら」は5/31の18時頃に投稿予定です。
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