『柱島泊地 -鉄屑艦隊- 』 艦隊これくしょん二次創作小説 作:龍改二
第6話です。2日に1話ペースで更新予定です。
第6話. 殲滅許可証とガン・ハルバード
佐世保鎮守府との同盟締結、そして深海棲艦前線基地の撃破から数日。
柱島泊地の朝は、喧騒と共に始まっていた。 かつては波の音と瓦礫が崩れる音しか聞こえなかった廃墟に、今は絶えずカンカンと鉄を打つ音や、艦娘たちが艤装を使って瓦礫を運ぶ、重機のような音が響き渡っている。
提督執務室。 龍壁はデスクの上に散らばった海域図と、隼鷹の艤装から取り外した古い計器のパーツを前に、一人で作業に没頭していた。
「……ちょっと、司令官。また徹夜でガラクタ弄ってたわけ?」
バンッ、と勢いよく扉が開き、お盆を持った叢雲が呆れたような顔で入ってきた。 お盆の上には、湯気を立てる代用コーヒーと、不格好だが栄養満点な配給品のサンドイッチが乗っている。
「本当に馬鹿じゃないの? 艦隊のトップが過労で倒れたら、誰が私の完璧な艤装のメンテナンスをするのよ。……ほら、さっさと食べて。冷めたら海に捨てるわよ」
ツンとそっぽを向きながらも、彼女は龍壁の作業の邪魔にならないよう、デスクの端にそっとマグカップと皿を置いた。
「あはは、叢雲ちゃんは本当に提督のお世話が好きですねぇ」
明石がそう笑いながら、大量の書類の束を抱えて入ってきた。 その顔には、数日前までのどこか無理をしたような翳りはなく、憑き物が落ちたような清々しい明るさがあった。
「おはようございます、龍壁さん! 良い知らせと、ちょっと面倒な知らせがありますよ」
明石は書類の束をデスクにドンと置いた。
「まずは良い知らせ! 佐世保の西村大将から、同盟の証として大量の支援物資が到着しました! 鋼材に燃料、それに……ウチには高嶺の花だった『開発資材』もたっぷりです! 西村大将、『あの男の腕なら、これを一番有効に使えるだろう』って」
「ひゃははっ! 大量のアテに、大量の資材! こりゃあ景気がいいぜ!」
廊下から豪快な笑い声と共に、隼鷹が顔を出した。その後ろには、ふわりと艶やかな微笑みを浮かべた陸奥も続いている。
「提督ゥ、こんだけ資材があるなら、そろそろ酒保と酒蔵を直してくれてもバチは当たんねえよな!? アタシ、もうシラフで飛ばすの限界だぜ!」
「もう、隼鷹ったら朝からお酒の話ばかり。……でも、提督。居住区の改修や、みんなが羽を伸ばせる娯楽施設を直すには十分な量ね。もちろん、あなたの工廠をさらに立派にするのにも」
陸奥は龍壁の肩越しに書類を覗き込み、ふわりと良い香りを漂わせた。
「……で、明石。面倒な知らせってのは何よ」
叢雲が腕を組み、怪訝そうな顔で明石に促す。
明石の表情が、少しだけ引き締まった。
「……本省の、南郷元帥の派閥からです。私たちが佐世保と手を結び、前線基地を吹き飛ばしたという報告が、どうやら向こうの耳にも入ったみたいで」
明石は一枚の電文を差し出した。
「横須賀鎮守府より、『柱島泊地の戦力評価および、今後の進軍ルート策定のための視察団を派遣する』とのことです。……要するに、お偉いさん方の『偵察』と『圧力』ですね。ウチがこれ以上力をつけて本省の脅威にならないか、探りを入れてくるつもりでしょう」
それを聞いた途端、執務室の空気がピリッと張り詰めた。
「ふん。私たちが血と泥に塗れて取り返した海に、後からノコノコやって来て偉そうにするつもり? 腹立たしいわね」
「同感だぜ。アタシの爆撃で、視察団の船ごと追い返してやろうか?」
叢雲と隼鷹が物騒なことを言い出す。
「ダメよ、二人とも。ここで本省に逆らえば、せっかくの佐世保との同盟も、ただの『反乱分子の結託』にされてしまうわ。……ねえ、提督。あなたのことだから、この視察団をどうもてなすか、もう考えているんじゃない?」
陸奥が、面白がるように龍壁の横顔を見つめた。
「明石、まずは西村大将にお礼の打電を頼む」
「了解です! 直ちに暗号回線で打電しておきますね。……本当に、足を向けて寝られませんよ」
明石がパチンとウインクをして、手元のバインダーにメモを書き込んだ。
龍壁が淡々と続ける。
「それで、南郷元帥の視察団だが。呉と佐世保の後ろ盾があるとはいえ、柱島は海軍内じゃあまだまだ新興勢力だ。きわめて丁寧にご対応する。……比喩表現じゃないぞ、本当に丁寧に対応するんだ」
執務室の空気がピタリと止まった。
最初に反応したのは、やはり叢雲だった。
「……はぁ!? なによそれ! 私たちを捨て駒扱いする連中の手先に向かって、尻尾を振って媚びへつらえって言うの!?」
叢雲はバンッとデスクに両手をつき、ルビーのような瞳で龍壁を睨みつけた。彼女は誇り高い。自分たちを兵器としてしか見ない上層部に頭を下げるなど、屈辱以外の何物でもないのだろう。
「冗談じゃないわ! 私が完璧な接客なんて……」
と、言いかけた叢雲の言葉を遮るように。
「ひゃははっ! なるほどなぁ。ただのドンパチじゃなくて、狐と狸の化かし合いってわけだ。そういう泥臭い生存戦略、アタシは嫌いじゃないぜ」
先程まで破れたソファでだらしなく胡座をかいていた隼鷹が、ふらりと立ち上がった。
次の瞬間——彼女はボサボサの髪をサッと手で払い、背筋をピンと伸ばし、足元から指の先まで一切の隙がない、息を呑むほどに優雅な『淑女のカーテシー』を龍壁に向けて見せた。
「……ようこそおいで下さいました、視察団の皆様。辺境の泊地ゆえ行き届かぬ点も多々ございますが、我が提督の命に代えまして、精一杯のおもてなしをさせていただきますわ。……どうだ、提督ゥ?」
先程までのガサツな口調が嘘のような、透き通ったお嬢様の声音。 呆気に取られる叢雲と明石の前で、隼鷹はニカッと悪戯っぽく笑い、元の豪快な素振りに戻った。
「アタシの実家、無駄にフォーマルな家系でね。この手の『猫かぶり』は昔から得意なんだよ。ま、シラフじゃ長続きしねえから、接客の前に酒保の準備だけは頼むぜ?」
「……隼鷹、あんた……」
叢雲が目を丸くして絶句している横で、陸奥がクスクスと艶やかに笑い声をこぼした。
「ふふっ、頼もしいわね。提督の意図、私も痛いほど理解できるわ。ここで私たちが牙を剥けば、向こうに『反抗の意志あり』と口実を与えるだけ。だからこそ、最高に無害で、最高に従順なフリをして……連中の目を欺くのね」
陸奥は龍壁の顔のすぐ近くまで身を乗り出し、甘く囁いた。
「ええ、任せて。あの『不退転作戦』の生き残りである私が、恨み言の一つも言わずにニコニコと頭を下げていれば、向こうの連中もさぞかし気味が悪くて、拍子抜けするでしょうからね」
二人は『生存のための政治的偽装』という意図を完璧に汲み取っていた。 不満げだった叢雲も、ふいっと顔を逸らしながら小さくため息をつく。
「……分かったわよ。あんたが『やれ』って言うなら、やってあげるわ。私がヘマをして、あんたの首が飛んだら寝覚めが悪いもの。その代わり、この茶番が終わったら……とびっきり甘いお菓子でも用意して私を労いなさいよね」
「さて、方針は決まりましたね!」
明石がパンッと手を叩き、海域図の上に広げられた『西村大将からの支援物資リスト』を指差した。
「極めて丁寧なご対応、となると……視察団を迎え入れるこの『本部棟』や『応接室』を、急ピッチで見栄え良く直す必要があります。ただ、ここで一つ提督に相談なんですが」
明石は少し声を潜め、技術者としての悪巧みをするような顔つきになった。
「西村大将からもらった資材を『本部棟の見栄え』に全振りして、視察団を完璧にもてなすか。 それとも……表面上は『まだボロボロで貧乏な泊地』を装うために本部棟は適当に誤魔化しておいて、裏でこっそり『工廠の拡張』や『艤装の強化・改修』に資材を横流しするか。 提督、どちらの『偽装』でいきますか?」
「決まってるだろ明石。うちは再建したばかりの泊地だ。本部棟がピカピカだったら、逆に不自然じゃないか」
龍壁もなかなかの悪顔で答えた。
「あははっ! やっぱり提督はそう来なくちゃ!」
明石はポンッと手を叩き、目をキラキラと輝かせた。
「『懸命に掃除したけれど、物資不足でボロボロのままの健気な泊地』……完璧なカモフラージュですね! 相手の同情や侮蔑を誘って警戒を解かせる。その裏で、私は西村大将からの極上の資材を使って、第一ドックの拡張と、新型の工作機械を組み上げちゃいますよ!」
「ふふっ、本当に悪い人」
陸奥が艶やかに微笑み、龍壁の背中にそっと触れた。
「でも、そういう泥臭くて賢い生存戦略、私は大好きよ。……ええ、連中の前では、最高に『哀れで無力な戦艦』を演じてあげるわ」
「ひゃはは! ならアタシは、ツギハギだらけの服でも着て、涙ぐましくお茶を注げばいいんだな!? まかせとけ、実家仕込みの『没落貴族の令嬢』の演技を見せてやるぜ!」
隼鷹が破れたソファから立ち上がり、わざとらしくヨロヨロと歩く真似をして見せる。
「……はぁ。あんたたち、楽しそうね」
叢雲だけは呆れたようにため息をついたが、その口元は微かに緩んでいた。
「まあいいわ。あんたが工廠を強化してくれるなら、私の艤装ももっと完璧になるってことでしょう? ……視察団の連中には、とびきり渋くて苦いお茶を淹れてやるわ」
* * *
数日後。 横須賀鎮守府からの視察団を乗せた瀟洒な輸送船が、柱島泊地の桟橋に接岸した。
降り立ったのは、軍服に一切のシワや汚れのない、いかにも『本省のエリート』といった風情の将校たち数名。彼らは周囲の崩れかけた防波堤や、錆びついたクレーンを見て、露骨に鼻で笑い、ハンカチで口元を押さえている。
「……酷い有様だな。佐世保の西村大将が後ろ盾になったと聞いて警戒したが……こんな鉄屑の墓場で、一体何ができるというのか」
視察団のリーダー格である中佐がそう吐き捨てた時。 応接室の朽ちかけた扉が開き、隼鷹と陸奥が姿を現した。
「ようこそ、遠路はるばる最前線へ。……お見苦しいところばかりで、申し訳ありません」
陸奥が、どこか儚げで、深い悲しみを帯びた(ように見える)笑みを浮かべて深く一礼する。 その隣では、隼鷹が信じられないほど洗練された、しかしどこか怯えたような完璧なカーテシーを披露した。その手には、叢雲が淹れた、安物の茶葉を使ったお茶が震えるように持たれていた。
「な、なんだ……」
中佐たちは、不退転作戦の生き残りと、歴戦の軽空母が、あまりにも『従順で、すっかり牙を抜かれている』姿を見て、完全に拍子抜けした様子だった。
その工廠の最奥では、明石によって最新鋭の兵装開発準備が進められているとも知らずに。
(……ふふん。チョロいもんね。これで連中、ウチをただの無力な敗残兵の集まりだと勘違いしたわよ)
壁際で控える叢雲が、龍壁にだけ分かるように小さくウインクを送ってくる。応接室の軋むパイプ椅子に腰を下ろした中佐は、すっかり優越感に浸った顔で、龍壁に向き直った。
「……龍壁司令。貴官の苦労はよく分かった。なるほど、これでは近海の防衛すらギリギリだろう。佐世保との同盟も、ただの生存の足掻きに過ぎないというわけだ」
中佐は薄ら笑いを浮かべ、一枚の命令書を机に叩きつける。
「本省からの慈悲だ、龍壁司令。貴官らのような貧弱な戦力でも、海軍の『大義』に貢献できる名誉ある任務を与えよう。 ……来週、本省の主力艦隊が、はるか沖合の深海棲艦の巨大泊地を強襲する。貴官らはその『陽動』として、別ルートから敵陣へ突撃しろ。……何、敵の目を引きつけてくれればそれでいい。上手く囮になれば、本省から『少しばかり』の褒賞を出してやろう」
それは「陽動」という名の、ただの「捨て駒」になれという命令だった。本省の主力部隊を安全に進軍させるために、貧弱な柱島艦隊をすり潰すつもりなのだ。
「陽動……ね。なるほど、よく分かりましたよ、中佐殿。それで、引きつけた敵艦隊はどうするんです?」
「どうする、というと?」
龍壁の問いかけに、中佐は反射的に聞き返した。
「別に、すべて沈めてもよいのでしょう?」
龍壁のその静かで、しかし底知れぬ自信を孕んだ言葉に。 応接室の空気が、ほんの一瞬だけ奇妙な沈黙に包まれた。
「……は?」
中佐は一瞬、自分が何を言われたのか理解できないといった顔でパチクリと瞬きをし……やがて、肩を揺らして下品な嘲笑を漏らした。
「くっ……ははははっ! これは傑作だ! いや失礼、龍壁『少将』殿! 本省から左遷……おっと、この最前線へ赴任されて、少々現実が見えなくなっておいでか!」
中佐は階級こそ龍壁より下だったが、本省の威光を笠に着て、完全に龍壁を『肩書きだけの無力な敗残兵』として見下しきっていた。
「敵を倒す? この旧式の駆逐艦と、すっかり牙を抜かれた戦艦、それにツギハギだらけの軽空母でか? 囮の役目すら数十分保つか怪しいというのに!」
中佐は腹を抱えて笑い、やがて涙目になりながら命令書を指でトントンと叩いた。
「ええ、構いませんとも! もし貴官のその『鉄屑艦隊』が、陽動のついでに深海棲艦の群れを殲滅できるというのなら、好きに倒していただいて結構! その時は、本省からの褒賞を弾んで差し上げましょう! ……まぁ、海の藻屑にならなければの話ですがね!」
「……それは重畳。よろしく頼みますよ、中佐殿」
龍壁は深々と、恭しく頭を下げた。
その横で、お茶を注いでいた隼鷹の手が、カタカタと微かに震えていた。
……恐怖ではない。中佐のあまりの滑稽さと、自分たちの提督が仕掛けた『合法的な殲滅許可、言質の確保』という悪辣な罠に、吹き出しそうになるのを必死で堪えているのだった。
陸奥もまた、悲しげな表情でうつむきながら、口角を三日月のように艶やかに吊り上げていた。
(ふふっ……本当に、食えない男。これで私たちは『本省の許可を得て』、堂々と敵を喰い殺せるというわけね)
「では、せいぜい長生きしてくださいよ、少将殿」
龍壁の『虚勢』を聞いて満足しきった視察団は、出された渋いお茶に口をつけることすらなく、さっさと応接室を後にしていった。
数十分後。 桟橋から視察団の輸送船が水平線の彼方へ消えたのを見届けた瞬間。
「ひゃーっはっはっはっは!! 傑作!! マジで傑作だぜ提督ゥ!!」
応接室の窓際で、隼鷹が腹を抱えて床を転げ回り始めた。
「あいつら、完全にウチをただのボロカスだと思ってやがる! あんたの『沈めてもよいのでしょう?』の返し、最高に痺れたぜ! あー笑いすぎて腹いてぇ!」
「本当にね。馬鹿な連中。私たちがどれだけの資材と装備を隠し持っているかも気づかずに、まんまと『自由交戦権』を置いていったわ」
陸奥も被っていた猫を脱ぎ捨て、本来の威風堂々とした大人の笑みを浮かべて、龍壁の肩にトンと肘を乗せる。
「あの手の中佐が本省でデカい顔をしてるなんて、海軍も落ちたものね。……でも、おかげで私たちは存分に暴れられるわ」
そこへ、廊下で聞き耳を立てていた叢雲と明石が入ってきた。
「……ふん。あの生意気な中佐、次来たら絶対に海に叩き落としてやるんだから。……でも、司令官。あんたのあの悪党みたいな交渉術、嫌いじゃないわよ」
叢雲が腕を組んでフイッと顔を逸らすが、そのルビーの瞳は『早く出撃させなさい』とでも言いたげに好戦的な光を放っている。
「提督、お見事です! これで『囮作戦』のフリをして、本省の部隊より先に敵の主力に大打撃を与え、戦果と資源を丸取りする大義名分が立ちましたね!」
明石が、油まみれのタブレットを抱きしめて満面の笑みを浮かべた。
「そして! 彼らが応接室でふんぞり返っている間に、私は西村大将から頂いた資材を使って、工廠の拡張と『新型兵装の開発準備』を終わらせておきましたよ!」
明石はタブレットを操作し、整然とまとめられた『開発資材の一覧表と兵装改修案』を龍壁に提示した。
「さあ、龍壁さん。どんな兵装を開発しますか?腕が鳴りますね!」
龍壁は資材リストを眺めながら短く思案した後、口を開いた。
「…なあ明石。この間の時雨のような、ゼロ距離を想定した近接戦闘用の艤装を持つというのはどうだ?……叢雲の電探マストは長い槍型だ。いっそのこと攻撃に特化して、本物の槍……それも、主砲の機能も内蔵した遠近両用の銃槍として扱えるようにできないか?」
「ゼロ距離での近接戦闘……! なるほど、あの時雨の異常な戦い方から着想を得たんですか!……さすが龍壁さん、頭のおかしさも健在ですね!」
龍壁のエンジニアとしての変態的な発想に、明石は目を輝かせてタブレットをバシバシと叩き始めた。
「時雨は不死身の再生力に任せて強引に武器を敵の装甲にねじ込んでいましたが……ウチの叢雲ちゃんの『超高速機動』なら、被弾する前に敵の懐に潜り込み、致命の一撃を突き立てて離脱する『
明石は興奮気味に、叢雲の背負う12.7cm連装砲と13号電探付きマストのホログラム設計図を空間に投影する。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
当の叢雲が、信じられないといった顔で龍壁と明石の間に割り込んできた。
「私が、あの狂犬みたいに敵に突っ込んで直接ぶった斬るの!? ……いくら司令官の調整が完璧でも、駆逐艦の装甲でゼロ距離が前提なんて……!」
「だからこそ、『絶対に被弾しない速度』と『一撃で装甲を紙のように引き裂く刃』が必要なんだよな、提督ゥ?」
隼鷹がニヤニヤと笑いながら、叢雲の肩をバンバンと叩く。
「……ふふっ。面白そうじゃない。あなた、本当に私たちの艤装を極限まで尖らせるのが好きね」
陸奥も艶やかな笑みを浮かべ、叢雲の少し震える肩に優しく手を置いた。
「大丈夫よ、叢雲ちゃん。あなたの後ろには私の41cm砲と、隼鷹の爆撃が控えているわ。……それに、司令官があなたに『死ね』なんて言うはずがないもの」
陸奥の言葉と、龍壁の『お前ならやれる』という静かな信頼の眼差しを受け、叢雲は顔を真っ赤にして、バッとそっぽを向いた。
「……わ、分かったわよ! あんたがそこまで言うなら、やってあげる! その代わり、少しでもバランスが狂ってたら承知しないんだから!」
* * *
その日の午後、工廠の第一ドック。 龍壁と明石は、西村から送られた『同盟の証』を惜しげもなく投入し、叢雲の兵装改修に取り掛かっていた。
「龍壁さん、そっち抑えててください」
「朝比奈、そこ持ち上げてくれ」
元・海軍工廠のエースコンビの手にかかれば、砲身と電探マストは瞬く間に芸術的な『近接複合兵装』へと変貌していく。槍型マストの先端にある電探を主砲へと置換。砲撃の反動を殺すためのスタビライザーは、そのまま近接時のスイングを加速させる『姿勢制御スラスター』へと転用。さらに砲身の先端部には、超高熱で対象を溶断する『単分子プラズマブレード』の発生機構が組み込まれた。
「……バイタルライン、再接続。叢雲ちゃん、持ってみて!」
明石の合図で、作業台から降りた叢雲が、新しく生まれ変わった自身の艤装——鈍く黒光りする『槍』を手に取った。
「……っ!」
叢雲は目を丸くした。 先端にブレード機構を組み込んだにも関わらず、重量のバランスは以前より遥かに手に馴染み、まるで自分の腕がそのまま伸びたかのような錯覚すら覚える完璧な仕上がり。
「ブレード、起動するわよ……!」
叢雲が艤装に力を込めた瞬間。 ブォンッ! と空気を焼き切るような鋭い音と共に、砲身の先端から青白い高熱の刃が形成された。
彼女はそのまま流れるようなステップで踏み込み、傍らに置かれていた分厚い重巡洋艦クラスのテスト用装甲に向かって、一閃——。
まるで熱したナイフでバターを切るように、分厚い鋼鉄の装甲が斜めに両断され、ズシンと重い音を立てて床に滑り落ちた。
「うわぁ……! 完璧な切断面! やりましたね、龍壁さん!」
明石がコンソールの前で小躍りするように歓声を上げる。
そして、コホンと一つわざとらしい咳払いをすると、今度は腰に手を当てて、たっぷり自信を含んだ顔で叢雲を振り返った。
「ふふん、どうです叢雲ちゃん! 私と提督の最高傑作……名付けて、『ガン・ハルバード』です!!」
叢雲は自身の切っ先を見つめ、やがて刃を収めると、誇らしげな、そして心底嬉しそうな顔で二人を振り返った。
「ふん。明石のネーミングセンスはともかく……まあ、悪くないわね。これなら、戦艦級の首だって一瞬で跳ね飛ばせそうよ。……ありがと、司令官。私のために、ここまでしてくれて」
彼女は照れ隠しのように顔を背けながらも、その手は新調された『槍』を愛おしそうに強く握りしめていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回「第7話. 誘蛾灯作戦」は、5/3の18時頃に投稿予定です。