「どこなんだよここはぁ!!」
草木広がる野原で、1人の男が叫ぶ。
男の名前は加賀美新。
日本人の青年だ。
「えーっと、さっきまで俺はあいつの家にいて、飯作ってもらおうとしてて……」
今まで何があったか、自分が何をしていたかを繰り返し思い出す。
漏れなく念入りに。
「確かトイレに行こうとしてドア開けたら……」
その後瞬きして目を開いた結果、こんな状況になっていた。
「なんでだよ!」
辺りを見回すが、知っている土地ではない。
「ここ絶対日本じゃないよなぁ」
周りには建物などもなく、人が通る気配はなかった。
しかし道と思しきものが見つかったので、加賀美はその道を辿ることにした。
「はぁ、腹も減ってるのに……どうなってんだよ」
しかしその道は長く、歩いても歩いても景色は変わらない。
加賀美自身普通の人間なので、突然疲れもするし、眠くもなるし、腹も減る。
この長い長い道を、生きている内に渡り切れるとは思えなかった。
「でも、やるしかないよな」
しかし、「歩き続ければ必ず何かが見つかる」
その1点のみで加賀美の足は動くことを辞めない。
「景色も綺麗だし、悪くないよな」
この男の真っ直ぐさは、誰にも負けないのだ。
ひたすら歩き続けていた加賀美だったが、ついに体力の限界が来てしまった。
「(くっそぉ……最後にあいつに美味いもん作らせてやりたかったな……)」
綺麗な原っぱでうつ伏せに倒れる。
程よく冷たい風と自然の香りが、ついてはいけない眠りを誘った。
「(次、会ったら……絶対……)」
加賀美は何とか堪えようとするが、体の力が完全に抜けてしまった。
意識を手放す直前聞こえた足音には気づくことなく。
「───ん?」
目が覚めた後はあの世か、などと考えていた加賀美だったが、寝て起きるように目を開けた時、見える景色は何も変わっていなかった。
少し違うとすれば、そこは木陰だった。
「あれ?生きてる……」
うつ伏せで倒れたはずの自分が、何故か仰向けで横になっている。
ゆっくり起き上がり、自分の頬を叩く。
「現実だ……」
眠る直前に感じた空腹もそのままに、急激に波が来た。
「と、とりあえず何か食べないと……」
「はい、どうぞ」
「!」
勢いのままに渡された果物にかぶりつく。
途中渡された水もしっかり飲みながら、一欠片も残さず食べ切った。
「ふぅ、助かった……」
「よかった」
「ありがとうございます、助けてもらったみたいで」
加賀美は自分の隣で座っている、仮面を被った女性に頭を下げる。
「気にしないで。どうしても気になっただけだから」
恩を着せる素振りも見せない女性に、加賀美の頭がますます下がる。
「(いつか必ず、この恩は返さないと)」
「私はシズ。あなたは?」
「あ、加賀美です。加賀美新」
シズは驚いた表情を見せた。
「加賀美新……あなた、故郷はどこ?」
「日本です」
「あはは、私と一緒だ」
シズは笑いながら仮面を外し、その可愛らしい顔を見せた。
その外見は10代後半に見える。
「ごめんね、私ほんとは井沢静江っていうの」
「井沢さん……」
「静江でいいよ」
加賀美も驚いた。
何も知らない土地で、その国の人間ではなく言葉の通じる日本人に出会えたのだから。
「じゃあ加賀美くんも召喚されたのかな?」
「召喚?なんの事ですか?」
「あれ、違った?異世界から来たんでしょ?」
「へ?異世界?」
静江の話によるとここは外国ではなく異世界らしく、彼女のような人間は「異世界人」と呼ばれるらしい。
例えば日本だけでなく中国、アメリカ、ロシアなど、国を問わず元いた地球からやってきた人間のことを言うのだとか。
要は加賀美もである。
「あれ、あまり驚いてないね?」
「今まで色々あったんで……てことは、静江さんも日本からこの世界に?」
「えぇ、魔王レオンに呼び出されたの」
「魔王レオン?」
聞き馴染みが無さすぎる単語に、加賀美はきょとんとした顔になる。
「あ、加賀美くんは知らないよね」
それを見た静江は、この世界の話を沢山した。
魔物や魔王や勇者という存在。
様々な国があること。
「スキル」と呼ばれる特殊能力が存在すること。
それとは別枠の「異世界人」
その中でもこの世界に無理やり呼び出された者達が「召喚者」と呼ばれること。
「じゃあ、静江さんは魔王レオンって奴にいきなり?」
「うん」
それを聞いた加賀美は拳を握り締め、わなわなと震える。
「そんな酷い話許すわけにはいきません!俺がその魔王に一言行ってきますよ!」
「え!?」
「で、その魔王はどこですか!?」
「え、えっと……それが分からなくて、今探してるの」
「だったら俺も付き合いますよ!探しに行きましょう!」
先程まで死にかけていたことなど無かったことのように気合十分の加賀美。
「か、加賀美くんがそこまでしてくれることないよ?」
「いや、俺もその魔王にムカつきました!意地でも見つけに行きます!」
思わぬ押しの強さに静江はたじろぐ。
「と、とりあえず今は落ち着いて。真っ直ぐ行ったとこに国があるから、今はそこでしっかり休んで欲しいんだけど……」
「あっ……確かにそうですね」
「でしょ?美味しいご飯もいっぱいあるから───」
一旦宥められそうな雰囲気を感じ、静江がそっちに意識を向けさせようと話を続けようとした時。
「あっ、ぐ……!」
静江の身体から、抑えきれない何かが飛び出そうになる。
「静江さん?」
静江が蹲っているのを見て小さくない異変を感じ、加賀美は駆け寄る。
「静江さん!」
「ダメ……来ないで……!」
ただごとではない状況でありながら、静江は身体を抑えながらも加賀美を心配していた。
「離れて……っ加賀美くん……早、く……」
しかし加賀美にとっては、自分の事よりも苦しんでいる静江の方が問題だった。
「くそ、どうすれば……!?」
何とか頭を回すが、対処法など浮かぶはずもなかった。
そんな中で。
「か、仮面……私に……」
「仮面!?仮面がいるんですね!?」
絞り出された言葉を何とか聞き取った加賀美は急いで仮面を拾い、静江の顔につけた。
「はぁ……はぁ……!」
「静江さん!大丈夫ですか!?」
「ありがと……加賀美くん……」
そう言い残して静江は気を失った。
事態は何とか収まったものの、また新しい問題ができてしまった。
「……っ!静江さん、静江さん!」
呼びかけても返事がかえってこず、加賀美は焦る。
しかし。
「……くそっ!」
彼女をどうすれば助けられるかを必死に考える中で、静江の「真っ直ぐ行ったところに国がある」という言葉を思い出した。
そこまで辿り着けば、病院か何かで彼女を見てもらえる。
「とりあえず、国に行かないと!」
そう思ってからの行動は早く、見るからに疲弊している静江を背負い、落ちないよう上着で固定して加賀美は走り出した。