静江から後のことを頼まれた時、加賀美は驚くほどすんなり了承した。
静江は安心すると共に意外に思っていた。
「お願いしといて何だけど……新くんは嫌がると思ってたよ」
「こういうことは何回か経験してるんですよ、俺」
「こういうことって……」
───大事な人を失う経験。
加賀美がそう言った時、静江は胸を痛めた。
「静江さんのことを聞かせてもらったんで、俺のことも全部話しますね」
加賀美は自分のことと故郷である日本の全てを話した。
以前話したワームの存在やライダーシステムのことはおさらいがてら簡潔に。
細かいことで言えば、ワームが人を殺して擬態していること。
仲間たちも含めて、多くの人々が大切な存在を手にかけられていること。
自分の弟や、父のこと。
生まれる前から決まっていた「運命」のこと。
「赤い靴」のこと。
ワームでありながら、人と共存する道を選んだ者のこと。
全てを聞き終えた静江が1番印象強く思ったのは、
”マコト”という少年のことだった。
「(……その子の気持ち、わかるなぁ)」
加賀美にとって大きな出来事。
忘れることのない戦いだった。
「……俺は、何度もあいつらに助けられてきました」
加賀美が思い返すのは自分が倒した敵の事ではなく、自分を助けてくれた仲間達。
とても大きな存在。
「だから俺も、誰かを助けたいんです。あいつらがやってくれたように、今度は俺が」
加賀美は拳を胸にドンと当てる。
「静江さんのことは、俺が引き受けます」
○○○○○
「ははぁ、2人は結構長いことコンビ組んでたんだな」
「しかもシズさんの修行……恐ろしいでやんすね」
今加賀美たちはジュラの大森林にいた。
何故こんなことになっているのか。
ある日、ブルムンドでおなじみのカバル、ギド、エレンの3人はフューズにジュラの大森林での調査を頼まれ、愚痴をこぼしていた。
そこを偶然通りかかった静江が加賀美と共に同行する許可をもらったのだ。
「でもシズさんの剣技は綺麗だよな。剣を使う側としては憧れちまうぜ」
「カバルはああいうタイプじゃないでしょ?」
「あっしも同意見ですぜ」
「わかってらぁ。憧れてるだけだよ」
では何故静江がジュラの大森林に向かっているのか。
それはブルムンドから見てジュラの大森林を超えた先に、魔王レオンの居城があるからだ。
静江はその場所を覚えている。
そこにたどり着けば、子供たちを助けられるヒントを得られるかもしれないと思ったのだ。
そのことは既に加賀美にも話している。
加賀美も静江の生徒達を助けるため、魔王レオンに1発かます為に気合を入れて同行していた。
「にしても随分魔物が少なくねぇか?」
ふと、カバルがそんなことを言った。
魔物の出現率が高いということで危険区域扱いされているジュラの大森林であるが、5人は道中魔物にほとんど会わなかったのだ。
「最初の巨大妖蟻くらいしかいなかったよね」
「しかも数匹だけでやんした……」
その巨大妖蟻は、静江が出るまでもなくカバルや加賀美たちで仕留めることができた。
その時静江からもらった魔法道具で戦っていた加賀美だが、はしゃぎ過ぎて森林の木々が少し燃えるという事件が起きてしまった。
これは静江の《炎熱操作》を使えば何も問題は無いのだが、それ即ちイフリートの力。
絶対に使わせる訳にはいかないと、加賀美は炎を出さないようにした。
「試しに巣でもつっついてみっか?」
刺激を求めてか、カバルが恐ろしいことを言う。
「ダメに決まってるでしょ!!」
だがそれを鬼の形相で止めるギドとエレン。
「わ、わかってるよ。言ってみただけだって」
カバル自身、自分の力を過信している訳では無い。
巨大妖蟻の群れに敵わないことなど百も承知。
なので本当に冗談のつもりで言ったのだが、日頃の行いから2人には本気ととられてしまった。
「……仲良しだね、あの子たち」
静江にしてみれば、これからを作る若き芽。
3人の輪は殺伐としたものではない、温かい雰囲気だった。
「緊張感がないのはちょっと怖いけど」
しかし基本的にちょけているので危なかしく思った。
「静江さんはあんまりパーティとか組んでなかったんでしたっけ」
「うん、怖かったんだ。この力で傷つけちゃうんじゃないかって」
加賀美に話した苦く痛い思い出の件を踏まえると、一緒にいたくてもいられないのだ。
「でも───」
だがそれは以前までの話。
「今は新くんがいるから心配してないよ」
今の静江には支えがある。
加賀美も笑顔で親指を立てた。
「あの子たちと冒険するもの楽しいから、今は結構ドキドキしてるんだ」
良い意味で何が起きるか分からないという、言い換えれば「ワクワク」ともとれる感情。
静江は今、冒険をエンジョイしていた。
「このまま封印の洞窟まで歩いてしまいだな、こりゃ」
「あの扉、錆びてて開けづらいから苦手でやんす……」
「しかもなんか怖いしねぇ」
「……封印の洞窟?」
「前に話した暴風竜がいた洞窟だよ」
「あぁ、最近いなくなったっていう……」
加賀美はカバル達に封印の洞窟について詳しく聞いた。
「まず扉か超デケェ。しかも魔物がうじゃうじゃいんだ。どれもクソ強ぇ。普通ならまず生きて出られねぇな」
「しかしここはあっしのスキルで姿を消して、安全に探索できるから問題ありやせんぜ」
「もしもの時は私の魔法もあるしね!」
強気な物言いの3人だが、これからその洞窟に向かっていることを思い出すと、揃ってため息を吐いた。
「2人が来てくれたらめちゃくちゃ心強ぇんだけどなぁ……」
カバルはそう言いながら2人をチラリと見る。
「数は多い方が安心でやんすからねぇ……」
ギドもカバルと同じようにわざとらしく視線を送る。
「効率も良いもんねぇ……」
そしてエレンも。
何が言いたいか、ここまで分かりやすいことが未だかつてあっただろうか。
流石の加賀美にも3人の思惑は見通せた。
「俺たちはこの先に用があるんだよ。まずはそれを済ませないと……」
そう、今の2人にとって重要なのはジュラの大森林を抜け出すこと。
封印の洞窟まで寄り道して時間を食ってしまうのは、あまり良しと言えなかった。
「……その用事が終わってからなら手伝えると思うけど、結構時間がかかっちゃいそうなの」
静江と加賀美とて、3人の手伝いをする分には吝かではない。
加賀美にしてみれば気の良い友人たち。
静江にしてみても楽しい時間を過ごさせてくれる良い冒険者たち。
断る理由は特にないのだ。
”時間”という、何よりも大きなネックを省けば。
「なら俺達もその用事に付き合うぜ!」
カバルの発言に4人は驚く。
「旦那……あっしらも賛成ではありやすが……」
「あん?どうしたよ?何そんな心配してんだ?」
「だってさぁ……ギルマスに怒られちゃうかもしれないしぃ……」
ギドとエレンは懸念した。
時間をかけ過ぎた結果、ブルムンドに帰ってフューズから「どこで油を売っていたんだ」という、鬼の大説教を食らうことを。
実際封印の洞窟の探索は最優先事項。
急ぎの用事であることはフューズも口酸っぱく言っていた。
だからこそ寄り道などしようものなら。
その結末は想像にかたくなかった。
だが。
「良いじゃねぇかよ。ギルマスだって許してくれるさ。ちゃーんと探索するための”意味のある寄り道”だからな」
カバルはなんでもないように言った。
「そもそも最優先事項であると同時に”危険項目”だ。安全に気ィ使って説教されんのもおかしいだろ」
「うーん……」
エレンは悩む。
心の中では加賀美や静江と共に冒険をしていたい。
しかしこんな堂々と言いつけを破ろうとしているリーダーを見て、背筋が凍りつつあるのもまた事実。
「急ぎだって言われちまったせいで装備も整えてねぇしな。実際問題、俺達には”死なないための要素”が足りねぇ」
カバルは2人を見る。
「この2人はめちゃくちゃ強ぇ。お前らも見てたろ?戦ってるとこをよ」
3人は白々しく探索を手伝わせようとしていたが、その時言っていた言葉は世辞ではない本音。
この2人が手伝ってくれるということは、とてもありがたい話なのだ。
「だからよ、俺たち3人で2人の要件をさっさと終わらせてやろうじゃねぇか!先にこっち手伝ってもらうのは申し訳ねぇし」
結局意地でも譲らなさそうなカバルに対して、2人は折れた。
それはそれとして、安全性が向上したことを喜んだ。
「……てな訳でよろしくな!お2人さん!」
「お、おう。ありがとう」
「危ないことでもあるから、ダメだと思ったらすぐ逃げてね?」
「おうよ!」
カバルは何故か自信満々の様子だった。
つられてギドとエレンも気合いを入れ直す。
「ギルマスでも何でもかかってきなさーい!」
「よーし、あっしもぶちかましやすぜ!!」
そんなこんなで魔王レオンの居城へ行くメンバーが3人増えた。
楽しい5人組は、元気に歩みを進め始めたのだが。
「とりあえずこのパーティは、カバルが盾ね!」
「旦那、姐さん達を守る時は大の字でお願いしやす!」
「せめて剣は持たせろよ!?」
この時は誰も思わなかった。
森の奥で、魔物の町ができているなどと。