「おいおい、マジかよ……」
生い茂る草に隠れながら、5人は驚くべき景色を見ていた。
「ねぇカバル、あれって……」
「あぁ、こいつらゴブリンだろ……なんで牙狼族と……」
「一緒にいやすね……」
なんと、異なる種族の魔物たちが共生しているのだ。
話したとて、信じる者はいないと思うような衝撃映像。
ただひたすら驚愕に目を見開くような光景。
しかしこの事実に対してあまり衝撃を覚えていない男が1人。
「そんなに変なんですか?大鬼族の里もこんな感じだったような……」
「あそこは大鬼族だけだったでしょ?普通、ゴブリンも牙狼族もあんな立派な町を作れる知能や技術力はないはずなの。なのにあれは……」
静江が指さすのは普通のゴブリンにしては明らかに筋骨隆々の個体。
「あそこと、あそこ……あそこも」
他にも、おおよそゴブリンとは思えないような個体が何体もいる。
簡単な話、全てが進化個体だった。
「ホブゴブリン、ってことかよ……しかもあんな数……」
カバルたちは引いていた。
あまりにも異常だからだ。
とはいえその町は活気づいており、良い騒ぎ声が飛び交っていた。
魔物たちが協力して町づくりに勤しんでいるのだ。
「なんか……楽しそうだね」
エレンの言葉に、4人も心の中で同意した。
良い光景だ、と5人が思った時。
「俺たちに何か用か?」
後ろから可愛らしい声が聞こえた。
振り向くとそこにいたのは、喋るスライムだった。
○○○○○
「かーっ、美味ぇ!」
「ちょっとぉ!それ私が育ててたお肉なんだけど!?」
「早いもん勝ちだよ!」
「じゃああっしも!」
「ギドてめぇ!!」
今カバルたちは、魔物の町の家屋の中で騒がしく肉を取り合っている。
その隣で静江は喋るスライムこと”リムル”と話していた。
「まさかスライムさんも同郷だなんて思わなかったよ」
なんと驚くべきことに、このリムルは日本人だという。
前世で刺されて死に、スライムに転生してしまったらしい。
だから人間に対して好意的なのか、と静江は納得した。
「も……ってことは、他にも日本人がいるのか?」
「結構いると思うよ。会った中で言うと私の教え子とか……新くんだってそうだし」
「新くんって……あの黒髪の?」
今加賀美はここにはいない。
町で住民たちと話しているからだ。
「うん。彼も最近この世界に来ちゃったみたいなの。それもスキルを持たずに」
これにはリムルも驚く。
なんとリスクの高い話だろうと。
「何か特殊な能力とかもないんだよな?」
「うん。生身だよ」
「危ない話だな……」
「でも新くんは優しいから、人のために戦っちゃうんだ」
「へぇ、根性あるんだな」
リムルは加賀美とまだ言葉を交わしてはいないが、最初に声をかけた時の雰囲気からなんとなく人となりを判断していた。
正義漢だろう、と。
「シズさんは新くんといつ出会ったんだ?」
「最近だよ。新くんがこの世界に来た日、偶然ね」
「おぉ、すごい話だな。魔物に襲われてるところを……とか?」
「ううん。お腹を空かせて倒れてたよ」
「なんだそりゃ!」
ふざけた話だが、静江は楽しそうに笑っている。
それを見たリムルは、もっと加賀美の話を聞きたくなった。
「話せる範囲で良いからさ、あんたと新くんのこと、もっと教えてくれないか?」
「あはは、長くなっちゃうよ?」
「その方が良いさ。楽しい話は好きなんだ」
○○○○○
魔物の町から少し離れた場所。
「ほあー、カガミさん強いんすねぇ……」
片方は魔物の町で暮らすゴブリンが1人、その名はゴブタという。
進化したホブゴブリンなのだが、見た目は普通のゴブリンと変わらない様相である。
そのゴブタが今、生身の人間にしては素早くパワフルに動く加賀美に舌を巻いていた。
「そのベルト、ほんとに凄いアイテムなんすね」
「あぁ。これをつけると魔物とも結構戦えるようになるんだ」
ライダーベルトには変身だけでなく、装着者の肉体を活性化させるという効果がある。
その恩恵を受けた今、加賀美はかなりのパフォーマンスを発揮していた。
2人は元々組手をしていたのだが、今は休憩して雑談している最中である。
「ところで肉食わなくて良いんすか?他の人らは皆食ってるっすけど……」
ゴブタが指さすのは4人が焼肉を食べている家屋。
そこから漂う肉の香りは、加賀美の食欲をそそった。
「そろそろ俺も行こうかな」
「せっかく来てくれたんだからゆっくりしていってくださいっす!」
ゴブタに背中を押されて家屋に入ると、満腹になったようで腹をさすっているカバルたちがいた。
「おかえり、新くん」
「あ、静江さ───」
出迎えてくれた静江の声の方へ振り向くと、そこに彼女の姿はなかった。
「あれ?」
「へへ、結構上手いだろ」
視線を下に向けると、リムルがイタズラ成功を喜ぶようにぽよぽよと跳ねていた。
「シズさんから聞かせてもらったぜ。新くん」
「えっと、リムルさん?」
「あぁ、俺がリムル=テンペストだ。好きに呼んでくれて良いよ。それより飯食ってくれないか?まだ君だけもてなせてないんだよ」
リムルは肉が山盛りになっている皿を加賀美に差し出す。
加賀美は何を言うでもなく手を合わせる。
「いただきます!」
そしてブラックホールのように肉を吸い込んでいく。
「ほぉー、よく食うな」
「さっきまでゴブタ君と組手してて、ちょうど腹減ったから戻ってきたんですよ」
「あぁ、そういうことか」
リムルは加賀美を見つめる。
「?」
「僕は悪いスライムじゃないよ!」
しばらくの沈黙。
スライムボディでありながら、リムルは冷や汗が吹き出る感覚になった。
「し、知らない?ゲームのセリフなんだけど……」
「俺そういうの疎くて……」
「君くらいの歳なら皆やってると思ってたんだけどなぁ……」
実際、加賀美は最近までゲームどころではない人生を歩んでいたので知らないのも無理はなかった。
「あ、そうそう。言ってなかったけど、俺元々日本人なんだよ」
「……えっ!?」
その後、リムルと加賀美は現代日本トークを繰り広げていたのだが、1つ妙なことがあった。
どうにも話が噛み合わない。
加賀美にとって聞き馴染みのない話が多過ぎるのだ。
そしてリムルにしてみれば、加賀美は20歳そこらの青年だというのに話す内容が古過ぎる。
「1つ聞きたいんだけど……新くんのいる日本って西暦何年?」
「2006年です」
リムルの中で、点と点が繋がった。
「やっぱそういうことかぁ……」
リムルと加賀美、そして静江。
三者共に同郷でありながら、それぞれ違う時代を過ごしている。
何とも奇妙な事実だった。
「俺のいた時代は新くんのいた時代よりずっと先なんだよ。流石にシズさん程離れちゃいないけど」
加賀美は驚くと同時に納得した。
どうりで話が噛み合わなかった訳だ。
リムルの時代がやたらと発展しているのもそのためか、と。
「ん?そういえば静江さんは……?」
「あ、そうだったな。ランガ!」
「ハッ、我が主よ!」
リムルが名を呼ぶと、影から1頭のオオカミが出てきた。
「す、すげぇ……かっけぇ……」
男子たるもの、「かっこいい」という言葉にはいつでも憧れる。
ランガはその毛並みや顔つきもさることながら、額の星模様から金色の角が生えているという、まさにかっこいいを凝縮したような見た目だった。
「シズさんが向こうで待ってるから行こうぜ!」
「我に乗れ、シズ殿の相棒よ!」
リムルは慣れたように飛び乗り、ランガも加賀美に催促する。
「うおおおお!」
少年心をくすぐられた加賀美は、喜んで飛び乗った。
「では行くぞ!」