「新くん無事か!?」
加賀美が変身した直後、タイミングよくリムルたちが駆けつけてきた。
カバル達はイフリートだけでなく、召喚された多数の火炎蜥蜴を見てすぐさま戦闘態勢に入る。
「聞いちゃいたが、マジでイフリートとはな……」
圧倒的な格上に少し臆すも、静江の為に戦うと決めたことを思い出すと、すぐに落ち着きを取り戻す。
「いい機会もらっちまったな!」
「超大物相手、滾りやすぜ……!」
「シズさん、待ってて!」
エレンの魔法もあり、中位の精霊である火炎蜥蜴を相手に問題なく立ち回れていた。
目立った怪我もしていない3人を見て安心したリムルは自らも戦おうと思考を巡らせる。
「リムルさん」
「うん?」
「ここは俺に任せてください」
仮面の奥の加賀美の顔は、あくまでもイフリートに向けられていた。
リムルはその思いを察する。
「わかった。シズさんのこと、頼むよ」
そして、ランガをカバル達の方へ走らせた。
「エレン!その魔法俺に向けて撃ってくれ!」
「えぇ!?」
「早く!」
リムルに言われるがままに、エレンは”水氷大魔槍”を撃ち込む。
するとリムルはそれを体内に飲み込み、自身の持つスキルによって全方位攻撃の”水氷大魔散弾”へと昇華させ、多数の火炎蜥蜴たちを一瞬にして消滅させるという規格外の力を見せた。
「よし!」
しかしここで予想外の出来事が起こる。
「っ、まさかこいつ───」
一体の火炎蜥蜴が消滅する直前、カバルたちに向かって自爆攻撃をしかけたのだ。
これをカバルとギドはエレンを庇うように背中で受ける。
「ぐあ!!」
その威力は相当なものでカバルの張っていたバリアを貫通して尚、3人をダウンさせる程だった。
3人とも重傷度合いに差はあれどその場を動くことすら困難になってしまったのを見て、リムルはランガに安全な所へ運ぶよう命じた。
「3人は後で回復させるから、丁重にな!」
「心得ました!リムル様、カガミ殿、ご武運を!」
立ち去るランガをイフリートは追いかけない。
今のランガにイフリートに対する敵意がないからか。
若しくは目の前のスライムの脅威を感じ取ったからか。
それとも。
「…………」
イフリートは次の手とでも言うように大量の分身を出した。
その分身たちが一斉に爆炎を放とうとする。
「ヤバ───」
リムルが助けに入ろうと思った時、ガタックはベルトに装着されているガタックゼクターの大顎を操作した。
「キャストオフ!」
《Cast off》
すると上半身を覆っている堅牢な装甲が一気に吹き飛び、その勢いでイフリートの攻撃諸共分身体を消し飛ばした。
《Change Stag Beetle》
その後両頬を軸にクワガタの大顎の様な角が持ち上がったことでガタックの姿はサナギのような見た目からクワガタの成虫のようなものへフォームチェンジした。
その姿の名はライダーフォーム。
仮面ライダーガタックとしての基本形態であり、加賀美にとって何よりも慣れ親しんだ姿である。
「おぉ!」
これにはリムルも驚いた。
しかしイフリートは冷静に呟く。
「……炎化爆獄陣」
その時、ガタックの足元に巨大な魔法陣が現れる。
その魔法陣の範囲内全域を、炎が包もうとする。
この技は直径百メートルの範囲内を超高温の熱と炎で満たし、対象を燃やし尽くすまで継続するスキル。
「あっぶね!」
リムルは危険を察知し、咄嗟に魔法陣の射程範囲外まで距離をとった。
「(なぁ大賢者、ひとつ聞きたいんだけど)」
その最中、魔法陣が出現する直前にガタックが呟いた言葉を思い返す。
「(”クロックアップ”ってなんだ?)」
○○○○○
走ることもせず静かに歩みを進める。
”そこ”に行くのを躊躇っているようなガタックに対して、イフリートの動きはとてつもなくゆっくりだった。
まるで時が止まっているかのように。
《One》
ガタックはイフリートに向かって一直線に進みながら、ガタックゼクターのボディについたスイッチを押す。
《Two》
2度目。
《Three》
躊躇わず3度目。
抑揚もなく機械的に響く音声は、無慈悲にも聞こえた。
『新くん』
心に浮かぶのは、いつものように自分を呼ぶ声。
『コラ、ダメだよ新くん!』
時には怒り。
『新くん大丈夫?』
時には寄り添いながら。
『……新くん』
時には、誰よりも愛おしそうに。
今まで色々な彼女を見てきた。
『これから先の全ての時間を、私と生きてくれませんか?』
これからもそうしたかった。
『今はすっごく幸せだから』
ずっとそうあって欲しかった。
『私が戻って来れなくなったら……君に私を殺して欲しいの』
そんなことを願わせたくなかった。
けれど───
『最期まで、新くんといたいから』
ガタックは駆け出す。
「ライダー、キック……!」
その言葉と共にガタックゼクターの大顎を操作する。
《Rider Kick》
同時に、超エネルギーがガタックゼクターを通して頭部から右足に収束される。
『ありがとう、新くん』
全てを終わらせる一撃を宿しながら、ガタックは雄叫びを上げた。
「うおおおおおおっ!!!」
そして宙に浮くイフリートに向けて飛び上がり、腰を軸にして回転蹴りを放った。
しかしイフリートは微動だにしない。
それはダメージが無いから───ではなかった。
《Clock Over》
同じくして、時が動き始める。
○○○○○
リムルが大賢者に質問した瞬間、爆炎が舞い上がった。
しかし、それは魔法陣からではない。
リムルは驚愕した。
イフリートの体が、大爆発を引き起こしたからだ。
「───なんだ今の!?」
あまりにも一瞬の出来事に、思わず固まる。
「と、とりあえず新くんの勝ち……なのか?」
炎が消えた時、そこには無傷で静江を抱えるガタックがいた。
「新くん!」
「リムルさん、静江さんをどこかで休ませてあげてくれませんか?」
「っ、あぁもちろんだ!」
リムルは黒嵐星狼に擬態し、すぐに町へ向かおうとする。
しかし共に来ようとしないガタック。
「お願いします……俺も後で行きます」
「……わかったよ。待ってるからな」
静江を町へ運ぶ最中、リムルは先程の光景を思い返す。
イフリートが魔法陣を出して炎を出現させようとしたかと思えば、それより先にイフリートの体が爆発した。
大賢者と話した中で、分かったことは2つ。
炎化爆獄陣は、発動してから炎が出現するまでの時間が限りなく短い。
一瞬なのだ。
その限りなく短い時間の中で、勝負は決した。
ガタックの持つ能力については、何も分からなかった。
リムルはなんとなくで考える。
「(とてつもなく早い……ってことかな?凄いな)」
この世界の魔物たちであれば、その未知数な力に警戒心を強めるもの。
だが、このリムルという男は。
「(新くんが一緒にこの町を守ってくれたら超安心なんだけど……)」
おおよそ普通とはかけ離れたことを考えていた。
しかし今はそんなことを話している場合では無いので、すぐに思考を切り替える。
「……ん」
「シズさん!目が覚めたのか!」
「その声、スライムさん……?」
「すぐに町で休ませてやるからちょっとだけ待っててくれ!」
「そっか……皆が助けてくれたんだね」
静江は自分の状態から大体の流れを察し、リムルに、カバルに、ギドに、エレンに、そして加賀美に。
「ありがとう」
最大の感謝を述べた。
○○○○○
1人残った加賀美。
戦いも終わったので、既に変身は解除されている。
腰に巻かれたライダーベルトに触れながら、初めてガタックに変身した時のことを思い出す。
『甘いな、相変わらず』
友人は、そんなことを言った。
加賀美はその時、こう返した。
『俺は俺にしかなれない。でも……これが俺なんだ』
その気持ちは今も変わらない。
加賀美新という男は結局、加賀美新でしかないのだ。
「お前だったら、今の俺になんて言うかな……?」
だからこそ、自ら選んだ結果を悔やむことなど決してない。
それでも、そう思わずにはいられなかった。
「───天道」
今は会うことも叶わなくなった友に、思いを馳せる。
その問いかけに返ってきたのは、柔らかい風だけだった。