───妙だった。
カバルたちと歩いていた時も、同じように魔物の出現率は低かった。
それでも、遭遇はした。
今はどうか。
遭遇どころか、魔物の気配すら無い。
おかしなことに森の奥に進むにつれて、段々と荒廃していくのだ。
段々と加賀美の歩く速度は早くなる。
嫌な予感がしてならないからだ。
大鬼族の里があった場所に辿り着いた時、加賀美が見たのは。
「なんだよ、これ……」
家屋は崩れ、辺り一面が血まみれとなっている凄惨な光景だった。
それを見た時直感的に浮かぶ結論。
大鬼族達の、滅亡。
「……いや、まずは確かめないと」
加賀美は切り替え、里の探索を開始した。
何故こんなことになったのか、誰かが襲ってきたならば犯人は誰なのか。
誰が生きて、誰が死んでいるのか。
その全てを知るために。
「───くそ……」
日も沈み夜がやってきた頃。分かったことはそれなりにあった。
この里が襲われたのはつい先日であること。
今この場に大鬼族は1人としていないこと。
彼らが何者かによって蹂躙されてしまったこと。
少し前に、誰かがこの里に立ち寄っていたことだった。
「くそっ!!」
何も出来なかった自分を恥じ、加賀美は大木を殴りつける。
拳から血が出るが、それを気にしていられないほど荒々しい怒りが込み上げているのだ。
しかしここで、1つの嫌な予感が頭を過ぎる。
「っ、まさか……!」
ジュラの大森林にはもう1つ、多くの魔物が過ごす場所がある。
リムル達の町だ。
もしも魔の手があそこまで伸びてしまっていたなら。
加賀美は走り出した。
万が一が無いように祈りながら。
○○○○○
「(な、なんだこれ……)」
加賀美は今、謎の少女に捕まっていた。
というのも、町に着いて最初に出会ったこの少女にリムルの居場所を聞こうとしたところ、加賀美の顔を見るやその瞬間に飛びついてきたのだ。
「カガミ様……!」
「いでででで!」
しかし魔物なだけあり、その力は人間を大きく超えているので加賀美の体は悲鳴を上げていた。
「良かった……」
体が慣れてきた頃、加賀美は飛びついてきた少女に目を向ける。
綺麗な桃色の髪に白く細い角が2本生えていた。
まるで大鬼族のように。
「ん?」
桃髪の、大鬼族。
「……もしかしてお姫様か!?」
「ふふっ、正解です!」
そう言うと、少女こと姫は顔を上げてぱあっと笑った。
「今は名を頂き、”シュナ”と名乗っております」
「名前って……もしかしてリムルさんから?」
「はい。私だけでなく、お兄様達も名をもらっていますよ」
それを聞き、加賀美は大きく息を吐いた。
大鬼族達は全滅した訳ではなかったからだ。
わずかでも、生き残りがいる。
その事実が加賀美の頭を冷やしてくれた。
「良かった……」
「カガミ様?」
「お姫様も、若も、生きてて本当に良かった」
シュナは加賀美の胸に耳を当てる。
その鼓動はまるで慌てていたかのように早い。
そして「良かった」という言葉。
「カガミ様、もしかして里を……?」
シュナは、カガミが大鬼族の里の惨状を見てしまったのではと推測した。
加賀美は苦しそうに頷いた。
「そうだったのですか……」
「……ごめんお姫様。思い出したくないよな」
実際の光景がどうだったかなど、当事者にしかわからない。
しかしシュナはその当事者である。
実際、その時のことを思い出したのか体は少し震えている。
記憶にも新しいだろうということもあり、加賀美はそれ以上詮索しなかった。
「とりあえず、若達に会いに行って良いか?」
「もちろんです!皆様同じ場所にいらっしゃるので、共に参りましょう!」
「え───おわっ!?」
シュナは再会したことで気分が上がったのか、腕を組んで引きずるような形でカガミをリムル達の元へ連れて行った。
「……これ、ずっとこのままなのか?」
道中あまりに勢いづいているのに加えて情けない絵面なものだったので、加賀美は問うた。
「はい!」
姫はとても良い笑顔で返事をした。
悲しいかな。
人の身では抵抗虚しいだけなのだ。
○○○○○
「お兄様!カガミ様が来られました!」
「なにっ!?本当か───」
シュナにお兄様と呼ばれた青年は駆け寄った時、隣でぐったりしている加賀美を見て全てを察した。
「……シュナ、アラタは人間なんだ。会えて嬉しいのは分かるが、もう少し丁寧に扱え」
「申し訳ございません。つい……」
2人は加賀美を来客用のベッドへ運んだ。
数分後。
「───はっ!?」
加賀美は目を覚ました。
「おう、起きたか」
「カガミ様、おはようございます」
声のした方へ顔を向ける。今目の前にいるのはシュナ、そして彼女と同じ特徴を持つ赤髪の青年だった。
赤髪の大鬼族。
「もしかして若か!?」
「ふっ、気づくのが遅いな」
加賀美は驚いた。
その体躯は、以前の若と比べて一回りほど小さくなっている。
荒々しいものから爽やかなものに変化を遂げたと言うべきだろうか。
しかし内に秘めるエネルギーは驚く程増えており、外見も人間寄りになっていた。
「今はリムル様から頂いた名の、”ベニマル”を名乗ってる」
「そっか……良い主を見つけたんだな」
加賀美は以前、倉庫でライダーベルトを探していた時のことを思い出していた。
「あぁ。最初はシズ殿の仮面をつけてたもんだから怒り狂って殺そうとしたんだが、寛大なお方でな。何も気にしてないとよ」
「えっ?」
後にリムルは、この時のことを「死ぬ程怖かった」と身を震わせながら語っていた。
力では上回っているものの、気迫が異常だったからだ。
「お兄様。カガミ様は昨日、私達の里にいらっしゃったみたいなんです」
「っ……そうだったのか」
若の表情が重いものに変わる。
「すまなかったな。もてなしどころじゃ無くなっちまって」
「そんなこと気にするわけないだろ。俺の方こそ少し早く里に行ってれば、皆を……」
自分と静江を受け入れてくれた気の良い住民たち。
知らないところで彼らがあんなことになっていた事実は、加賀美を激しく後悔させていた。
「……実は、お前とシズ殿のことはリムル様から聞いた」
しかし、悔しさを覚えているのはベニマル達も同じだった。
「お前がシズ殿と戦っている時に、俺たちは何もできなかった……」
ベニマルは拳を突き出す。
「だからこれからは、互いに助け合っていこう」
「……おう!」
加賀美もそれに合わせて、拳を突き出した。
「そういえば、お前の家はどこにあるんだ?」
「へ?」
「ん?お前もこの町に住んでるんだろ?さっきまでは外出していたんじゃないのか?」
「あれ?リムルさんから聞いてないのか?」
「何がだ?」
「俺、この町には───」
今の加賀美は、この町ではなくブルムンドを拠点にしようとしていた。
あそこにはフューズを初めとした知り合いが沢山いるので、そこを離れるのは少し寂しいからである。
「カガミ様」
シュナは加賀美の袖を引く。
「また、どこかへ行ってしまわれるのですか……?」
そう言って、寂しげな目を向けてきた。
加賀美はぎょっとする。
「そ、そういうことじゃないぞ。皆が戦う時は俺だってすぐ───」
シュナの目には涙が浮かんでいた。
「!?」
加賀美はより大慌てする。
これを拒否するのは如何なものか、と。
そんな2人を見ながらベニマルは。
「(こうなればシュナの勝ちか……シズ殿といた時も、泣かれた時は大焦りしてたしな……)」
心の中で謝罪していた。
自分もシュナに賛成だからだ。
「わ、わかったよ……」
結局、加賀美はシュナに根負けすることとなった。
「お姫様がそうして欲しいならそうするから……」
お人好しな性分に加え、辛い状況に身を置いている彼女達の気持ちを優先した故の結果である。
「〜っ、カガミ様!」
加賀美の言葉に嬉しくなったシュナは、たまらずベッドに飛び込んだ。
「どわっ!?」
勢いそのまま、加賀美に激突した。
「うふふ、言質は取りましたよっ!」
喜ぶシュナを見て、加賀美は気づいた。
嵌められたことに。
思わず天を仰ぐ。
「シュナがこれだけ弾けるのも中々ないからな。アラタがいてくれて助かる」
「若もそっち側だったのか……」
「当たり前だろ。お前にいて欲しいというのはシュナだけの望みじゃないからな」
口に出していなかっただけで、若も加賀美を帰す気は無かったのだ。
「にしても、泣くのはダメだろ……」
加賀美新、魔物の町に移住決定(期限付き)。
「お姫様も、いつの間にこんな演技上手になったんだ?」
「いや、今のは普通にシュナの本音だろ。なぁ?」
「そうですよ?」
「あれ?」