「いやー、新くんがウチに来てくれて良かったよー!」
町の応接室のような場所で、ご機嫌になりながら加賀美の背中を叩くリムル。
一方加賀美は少し疲れていた。
「リムルさん、計算してました?」
「いやぁ?むしろ想定外にベニマル達の気持ちが強くてびっくりしてるんだよね」
現に、加賀美の周りにはリムルの名付けによって進化した”鬼人”たちがいる。
その数6名。
300人いた大鬼族たちのことを考えると、悲しい話である。
「リムル様にも以前話しましたが、俺たちはシズ殿とこいつとは付き合いがありまして……その時色々あったんですよ」
「ベニマルはハクロウ達と新くんと修行してたんだっけ?」
「はい。その中で俺と新が剣を交える機会もありました……まぁ最初で最後でしたけど」
「武器がぶっ壊れたとか?」
「あぁいや、シュナとシズ殿に死ぬ程怒られまして……」
「あ、そういう……」
多分正座しながら聞いていたであろう光景を想像して、リムルは2人に同情した。
「俺はシュナに泣かれかけましたし、アラタに至ってはシズ殿からとんでもない圧をかけられてたような……」
「あの時の静江さんはなんか、いつもと違って滅茶苦茶怖かったんだよな……」
その時のことを思い出し、加賀美とベニマルは共に震え上がった。
「次に同じことがあれぱ、私がシズ様の分まで”お話”しますね♪」
軽やかに言うシュナだが、当の2人は距離をとって恐れ慄いていた。
「お、俺ちょっと散歩してきますね!」
これ以上この場にいるとシュナの圧にやられてしまうと思った加賀美は、逃げるように外へ出ていった。
「はぁ……お姫様ってあんなに怖かったか……?」
その雰囲気は、いつぞやに怒っていた静江とよく似たものだった。
つまりはこの世界における、加賀美の1番の弱点である。
正座で謝罪コースまっしぐらなのだ。
できるだけその事を考えないようにしつつ、加賀美は例の場所から町を見ていた。
「カガミ」
そんな時、1人の男が姿を現した。
「忍者くん……じゃないな。確かソウエイだったっけ?」
その正体は青髪の鬼人、ソウエイだった。
日頃から冷静沈着な部分が強く出ているのか、その声、佇まい共に落ち着いている。
「忍者くんはやめろ」
「悪い悪い。で、どうしたんだ?」
「まだ聞いていないんだろう?里に何があったのかを」
ソウエイの声が少し低くなった。
「!」
加賀美は目を見開く。
その事について聞くタイミングが無いわけではなかった。
だが、聞けなかった。
「お前には話すべきだと思った。あの日のことをな」
それを分かっているソウエイだからこそ、今こうして話す機会を作ったのだ。
「頼む。全部教えてくれ」
「あぁ」
○○○○○
加賀美はソウエイから全てを聞いた。
里を滅ぼしたのは豚頭族の軍勢。
圧倒的な数に大鬼族たちは為す術なくやられてしまったこと。
6人は辛くも生き残り、必死の思いで逃げていたこと。
その最中にリムルと出会い交戦した末、名を貰うに至ったこと。
「今でこそ冷静だが、少し前まではベニマルも怒りに支配されているようだった」
ソウエイの声はいつもと変わらないものだった。
「ソウエイは凄いな……ずっと冷静で」
どちらかというと感情で動くことが多い加賀美は、その様子に尊敬の念を抱く。
「そういう訳じゃない。俺も気持ちは同じだ。だがどんな状況でも、自分のやることを見失うつもりはない」
怒りは胸の内に、頭は冷静に。
強く拳を握りしめるソウエイを見て、加賀美は彼の思いを感じ取った。
「豚共は必ず殲滅してくれる」
その目はどこまでも冷たく、どこまでも敵意に満ちていた。
「よし!」
加賀美は、そんなソウエイの背中を叩く。
「───何を」
「俺もお前たちと戦う!里の皆の仇をとってやる!」
そう声を上げると、ソウエイは小さく笑った。
ソウエイ自身、加賀美を復讐に付き合わせるために話をした訳では無い。
話すべきだと思ったから話した。
それだけの事である。
しかし、加賀美新という男はこういう人間なのだ。
「───頼むから死んでくれるなよ?」
「俺はそう簡単には死なないんだよ」
○○○○○
「なんだこれ?」
加賀美が町に戻ってきた時、町ではゴブタが胴上げをされていた。
「おうアラタ。もう少し早く帰ってきてれば面白いものが見れたぞ」
「面白いもの?」
加賀美が当たりを見回すと、人型の蜥蜴のような魔物たちが驚きに満ちた顔でゴブタ達を見ていた。
その近くではリーダーと思しき者が白目を向いて倒れている。
「お、おーい、大丈夫か?」
加賀美がリーダーを揺さぶるも返事は無い。
「ゴブタの奴、結構良いところを突いてたからな。しばらく起きないぞ、そいつ」
「若、ここで何があったんだ?」
「実はな───」
どうやらこのリーダーはガビルという名前の蜥蜴人族らしく、これからオークと戦うにあたって共闘しようと話を持ちかけてきたらしい。
しかしその話というのが「配下になれ」というものだったらしく、その鼻につく態度から終始イラついていたベニマルやシオン、ランガに代わってゴブタと手合わせをしたところを瞬殺されたという。
「俺も前ちょっと戦ったけど、ゴブタ君って強いよな」
「あぁ、普通にセンスあるぞ。そいつ一撃だしな」
「おぉ、すごいな。よっ……と」
加賀美はガビルを背負って、固まっている蜥蜴人族たちの元へ届けようと歩き始める。
「……む?」
その直後、ガビルは目覚めた。
「誰だ貴様は?なぜ我輩を背負って……はっ!?」
ガビルはこの状況を見て何を思ったのか大きく笑い声を上げた。
そして加賀美の背中をバシバシと叩く。
「そうかそうか!我輩の配下になりたいと申すか!」
「へ?」
「良かろう!経った今より貴様は我輩の部下だ!進めぇい!」
「お、おー!」
ガビルのテンションの上がり方はめちゃくちゃなものだったが、加賀美もテンションが上がったのか、言われるままに走り出した。
「おっ!?中々速いではないか!よーし、付いてこいお前達ー!!」
ガビルのかけ声に、他の蜥蜴人族たちも次々に「ガビルコール」をしながら走り出した。
数秒後には加賀美共々、全員森の奥へ消えていった。
「……えっ?」
残されたリムルたちは、訳の分からない光景に呆然としていた。
しかし分かったことは1つある。
「新くんが拐われたぁ!?」
真っ先に飛び出したのはベニマル。
「殺す!!」
その顔は正にブチ切れと言えるものだった。
「試し斬りにはちと数が多いかのう……?」
ハクロウも歩みは穏やかだが、目がやたらと殺気立っていた。
「私もまだ背負われたことないのに……!」
シオンはよく分からない部分で悔しがっていた。
「ちょちょベニマル!ハクロウ!シオン!ストップストォーップ!!」
リムルは大慌てで大きなスライムになり、3人を止める。
「あ、新くんの場所はソウエイが探してくれるだろうから、俺たちは待機!待機だ!」
「リムル様、オイラも行ってきて良いすか!?」
「ぶっ飛ばすぞお前!!」