「なるほどなぁ、それで貴様はあのスライムと……」
森のどこかで、加賀美とガビル達は体育座りで輪になっていた。
「そうなんですよ。皆良い奴ばっかりで」
「うぅむ……」
何故こうなったかと言うと、自己紹介がまだだったからだ。
ベニマル達はガビルに対して良い評価をしていなかったが、加賀美は今、認識を改めていた。
このガビルという男は煽てられると調子に乗ってしまう悪癖があるものの、そうでない時は話をしっかり聞くタイプだったからだ。
「思えば、我輩も相応しくない態度だったな……また改めて伺うとしよう」
実際話している内に自分の行動を振り返り、しっかり次に活かそうとしている。
その顔には蜥蜴人族のリーダーと言うに相応しい凛々しさがあった。
加えて森の奥に進む時も、自らが率先して様子を見てから部下を誘導していた。
「なぁアラタ、お前も豚頭族と戦うのか?」
「あぁ。あいつらは友達の仇だからな」
「でもアラタってスキル持ってないんでしょ?危ないんじゃないの?」
ガビルの部下たちは不安げに言った。
せっかく仲良くなった加賀美が危険に飛び込むような真似をしようとしているからだ。
「俺にはスキルがないけど、戦う方法はある。だから大丈夫なんだ」
「そっか……頑張ろうな!俺達も力になるからな!」
「おう!」
それから全員で蜥蜴人族の本拠地へ向かう道中、ガビルは自身を背負う加賀美にしか聞こえない声で言った。
「……我輩は、驕っていた」
「え?」
「ネームドだからと調子づき、褒められたものではない態度で同盟の申し出をしてしまった……その上、あの戦いだ」
部下達はガビルを慕って持ち上げてくれてはいるが、ガビルは心の中で自分とゴブタの実力差を感じていた。
「……恥だ。どれだけ我輩自身を呪おうとも、拭うことのできない恥だ」
普段はここまで後ろ向きな考えを持つタイプではないのだが、その理由は加賀美にあった。
「こんな調子ではいずれ、大切な部下の命も失わせてしまうだろう。いや、今回の戦いで無惨な結果を生んでいた可能性もある」
加賀美と話す中で、ガビルは新しい視点を持った。
自分の行動を正しいと思う側面と、間違っていると思う側面を持つことである。
実際ガビルはネームドであることに良くも悪くもプライドを持っていたようで、他の同族とは一線を画していると傲慢な考えを持っていた。
それが間違いだなどと露ほども思わず。
そして種族の為に戦いたいという気持ちも紛れもない本物であることから、止まれなかったのだ。
「今の我輩に……次期首領としての資格は───」
「ガビルさん」
そんなガビルに対して、加賀美は笑って言った。
「……俺の友達も昔、今のガビルさんみたいに突っ走ってた時があったんですよ」
「アラタの友か……面白い奴なのだろうな」
面白い奴。
以前自分もそう言われたことがあった。
「確かに、面白い奴ですよ」
しかし振り返ってみれば、”アイツ”の方が何倍も面白いのではないか、と強く思う加賀美だった。
「それに、誰よりも凄い奴なんです。なのに、その時は驚く程調子が悪くなってて……」
しかしそんな男でも、誰かがいなければならない瞬間があった。
「照れくさいんですけど、俺がそいつの助けになれた時もあったんです。それからは、その不調が無かったみたいにいつも通りに……いや、もっと凄くなって帰ってきました」
「そうか……お前がそう言うという事は、本当に凄い奴なのだな」
「はい……でも、それはガビルさんも同じなんです」
この言葉にガビルは面食らった。
そんなことを言われるなど夢にも思っていなかったからだ。
「俺はガビルさんを凄いって思ってますよ。こんな大勢の部下に慕われるのだって、人望あってこそでしょ?俺にはできない事だし、尊敬します」
加賀美は後ろに目をやる。
そこには笑って、喜んでガビルについて行く部下が大勢いた。
そこに偽りの感情など一欠片もなかった。
「しかし我輩は……」
「今だって蜥蜴人族のために、後ろの皆のためにどうするか考えてるじゃないですか。自分の為だけに戦ってるような事は、1度も言ってないでしょ?」
そう。
やり方はどうあれ、ガビルはいつだって仲間の事を考えているのだ。
調子づいている時でさえ、自分がのし上がった後の種族のことを無意識に考えている。
その事は話をする中で加賀美にもわかった。
「ガビルさんが皆のことを考えてるように、皆もガビルさんのためになろうと必死なんだと思います。そんな良い奴らがいたら、ちょっとの間違いなんてすぐ取り返せますよ。そしたらきっとガビルさんは、もっと凄くなって帰ってくるんです」
「アラタ……」
「もちろん俺だって協力しますよ。ガビルさんの部下ですからね」
会って間もないというのに、加賀美はガビルの良い所を多く見つけていた。
先程のように、こちらの話を確り聞く真面目な本来の性格。
部下達を思う気持ち。
自分の行いを悔やみ改めようと考えられるところ。
「今のガビルさんだったらきっとなれますよ。誰よりも強くて、誰よりも凄い蜥蜴人族に」
「……っ!」
今この時も皆を導くリーダーとして、涙をすぐに拭えるところ。
「あぁ、任せておくがよいぞ!我輩こそが誰より貴き蜥蜴人族族長の息子、ガビルである!行くぞお前達!全速前進だ!!」
大歓声が上がる。
加賀美もライダーベルトの力を最大限発揮して足の回転を早めた。
「アラタ」
「はい?」
「……いや、何でもない。この言葉はまた、然るべき時に届けさせてくれ」
「ははっ、わかりました」
今のガビルは、紛れもなく誇り高い蜥蜴人族だった。
○○○○○
その日の夜、リムル達は会議を開いていた。
豚頭族の軍勢の驚くべき総数やその行動理由の推測、その軍を率いているのが恐らく特殊個体であることなど、集められた限りの必要な情報を話し合っているのだ。
敵については大体話し終えたものの、場は殺気立っていた。
「新くん帰ってこねぇんだけど?」
「あの蜥蜴共、丸焼きにしてやろうか……」
「千切り、いや万切りにしましょうかのう」
「私の許可無くアラタ様を連れていくとは……許せませんね」
主にリムル、ベニマル、ハクロウ、シュナのせいで。
「シュ、シュナ様。落ち着いてください」
「なんですかシオン?私は至って冷静ですよ?ねぇ?」
「は、はいぃ……」
いつもは何でも言えるシオンであるが、この時ばかりはシュナの気迫に大人しく引き下がってしまった。
「……カガミには、我らと戦う意思があるとの言質は取っています。決戦までには我々と合流するかと」
ソウエイの言葉を聞いて、4人は気を静めた。
「ソウエイ、まだ何かありそうだな?」
「は……リムル様に取り次いで欲しいと、偵察中の分身に接触してきた者がいまして……」
「えぇ……変な奴なら会いたくないんだけど……」
「変……ではありませんが、大変珍しい相手でして」
ソウエイは言った。
樹妖精、と。
途端に場がざわつき始める。
その言葉に前世のゲームでの姿を思い出したリムルは、ソワソワしながらこの場に呼ぶよう促した。
「うお!?」
するとその場に1枚、木の葉が舞う。
瞬間、激しくも優しい風が吹いた。
「───初めまして、”魔物を統べる者”お呼びその従者たる皆様」
知的な声がその場に響くも、ベニマルを始めとしたリムル以外の者たちは警戒を隠さなかった。
「突然の訪問相すみません。わたくしは樹妖精のトレイニーと申します。どうぞお見知りおき下さい」
その言葉と共に現れたのは、正に森の妖精と呼べる美女だった。
その姿を見たリムルはイメージ通りだと喜んでいた。
「俺はリムル=テンペストです。初めましてトレイニーさん」
トレイニーが現れてからというもの、リムル以外の者たちの戸惑いが収まらない。
なんでも最後に姿を現したのは数十年も前のことだとか。
窓の外からもその姿を一目見ようと住民達が集まっている。
「ええとトレイニーさん?今日は一体なんのご用向きで……」
大賢者から樹妖精が森の最上位存在であること。
「樹人族の守護者」または「ジュラの大森林の管理者」とも呼ばれていること。
これらを聞いたリムルは「社長が直々に視察に来た」ようなものだと解釈し、この騒がしさに納得した。
「本日はお願いがあって罷り越しました」
「お願い?」
「リムル=テンペスト……魔物を統べる者よ」
トレイニーの言葉によって、これからリムル達は更に気を引き締めることとなる。
「あなたに、豚頭帝の討伐をお願いしたいのです」