蜥蜴人族の本拠地にて。
「親父殿。ただいま戻りました」
「おぉ息子よ。して、ゴブリンからの協力は上手く取り付けることができたのか?」
「は!しかし、オーク相手に籠城というのは一体どういうつもりなのです?」
ガビル達は本拠地に帰る道中、この地下大洞窟という天然の迷路を使い、1対複数の構図で豚頭族を狩る同族たちを見ていた。
同じようにガビル達も豚頭族を討伐していたのだが、蜥蜴人族が手こずるような強さの豚頭族には、未だ会っていない。
本当にいるのかどうか疑わしくなるものの、ガビルの本当の疑問はそこでは無かった。
「そう選択せざるを得ない程の相手なのですか?敵の頭は」
「あぁ、お前には話していなかったな。敵の大将はあの豚頭帝なのだ」
「豚頭帝……伝説で聞いたことがありますぞ」
数百年に1度生まれるという、特殊個体。
首領は知っていたのだ。
その恐怖を。
「現状我らは豚頭帝を確認できる状況ではないと見えます。何故親父殿はそれを……?」
「敵勢力が20万の大軍だからだ。それだけの数を率いることが出来る存在とあれば、答えは1つ」
首領は豚頭帝の恐怖を語った。
世に混乱をもたらす災厄の魔物であること。
そのユニークスキルが、喰った魔物の力を我がものにする、ということを。
「なるほど……我らの思う以上に、敵は脅威であると」
その話を聞き終えた後、ガビルは無謀な挑戦をせずに済んだことを幸運に思った。
もしその軍勢に挑んで仲間が喰われでもしたなら、あったはずの地の利が無くなってしまうことを考えたからだ。
「そういう事だ。加えて強力な者たちから同盟の申し出があった」
「同盟?一体どこの種族から……」
「鬼人だ。さらに、その主は樹妖精から直に豚頭帝討伐の要請を受けているという」
「!」
樹妖精。
森の管理者の名を知らぬガビルではない。
加えて鬼人。
その主というのはすぐにわかった。
「(あぁ、彼らは……我らを救ってくれるのだな)」
あのような態度で出向いたにも関わらず、こうして手を差し伸べてくれた。
「その援軍と合流した後、我らは反撃に転ずるつもりだ。それまで防衛に徹するのが最善だと判断した」
その事がガビルの心を強く打った。
「親父殿、1つよろしいですかな?」
「なんだ?」
「今のところ、状況は我らが有利なように見えます。しかし我輩が戦った時、敵は問題なく討てましたが、豚頭族と思えぬ強さでした。もう少し敵に対して我らの数を増やした方が懸命かと具申します」
「!」
首領は目を疑った。
思えば戻ってきてからというもの、息子は発つ前と比べて別人のように冷静だった。
自信過剰な面は消え去り、攻めっ気が強いその性格も、自分の防衛という判断に従うほど柔軟になっている。
「……そうだな。幸い敵はまだ少数のみがこちらに辿りついている。お前の力も加味すると、多少の余裕も生まれるというもの」
首領はガビルの意見を採用した。
しかしここでガビルから1つ。
「我輩は自由にさせていただきたい。どの場所も余裕を保てる数を配置し、想定外の強敵が現れた際は我輩が出向きます」
「……よかろう。お前が戻ってきたことで我らの数も増えた。今よりその策に移る」
首領は思念伝達で他の蜥蜴人族たちにガビルの提案を伝え、他の者たちもそれに従った。
蜥蜴人族の守りは豚頭族1匹通さない、磐石のものとなった。
○○○○○
「うおおお!かっけぇー!」
魔物の町にて。
加賀美はリムル陣営の戦装束に目を輝かせていた。
「良いなぁ皆、これ着て戦えんのか……」
加賀美が特に目を引かれたのは、ベニマルとソウエイのもの。
「忍者みたいでかっこいいなぁ……若も大将!って感じだし……」
「アラタは変身しちまうからな」
「俺はあれもかっこいいと思うぞ?変身なんて男のロマンじゃないか!」
しょぼくれる加賀美だが、リムルの言葉に自信を取り戻す。
しかし叶うのであれば変身前でもこういう衣装が着たいな、と思った。
「アラタ様」
「ん?」
「少しこちらに……」
そんな時シュナに呼ばれる。
彼女の言うままに隣の部屋に移動するとそこには、1人分のスーツがあった。
「こ、これって……!」
「ふふ、アラタ様用にお作りしたんです」
加賀美は男泣きした。
なんとかっこいいものを作ってくれるんだと。
「よろしければ、シュナがネクタイを───」
「ありがとうお姫様!」
シュナがどうこう言っている間に加賀美はスーツの着用を終えていた。
以前いた日本で戦っていた時も加賀美はよくスーツを着用していたが、今着ているそれは普通の衣服と比べて着心地が抜群だった。
「アラタ様、シュナはご褒美が───」
「若ー!」
「……むぅ」
しかしこの時、加賀美は考えもしなかった。
「どうだ!?」
「あぁ、似合ってるよ。かっこいいぞ」
「リムルさん、どうですか!?」
「似合う似合う。なんか着慣れてるつて感じだな?」
「いやぁサイズも丁度良かったんで……あれ?」
「どうした?」
「俺、採寸なんてされましたっけ?」
誰がどうやってピッタリのスーツを作ったのかを。
「あれ?てっきりされてるもんだと思ってたけど……」
リムルはシュナを見る。
加賀美もつられて視線を向けた。
するとシュナは、意味ありげな笑顔で微笑んできた。
「な、なんか怖いんですけど……」
「ま、まぁ後は新くん次第だから頑張れ!なっ!」
それから加賀美は、シュナと目を合わせられなかった。