「カガミ様」
「うわっ!あ、トレイニーさん。こんにちは」
ある日、加賀美の元に突然現れたトレイニー。
「今日はどうしたんですか?」
「カガミ様の様子を伺いに来たのです。なんでもこの町をお守りになるために待機なされているとか」
「そうなんですよ……」
加賀美は改めて、戦場に行けないことに肩を落とした。
同時に1つ、疑問が浮かぶ。
「あれ?なんで知ってるんですか?」
「ふふ。私はこの森で起きたことは大抵把握しているのです」
加賀美は驚いた。
そんな監視カメラみたいなことができるのかと。
「例えば……あなたの力のことも」
トレイニーは興味深そうに加賀美のベルトへ視線を向ける。
「そうだ!トレイニーさんの力があれば!」
一方加賀美は探られていることなど気づきもせず、名案と言わんばかりに声を上げた。
「え?」
「ほら!森のことが大体わかるんだったら、俺よりもこの町を守るのに向いてるんじゃ……」
瞬間、加賀美の背中に不穏な気配が。
「アラタ様?」
「はっ!?」
要は、シュナの前で堂々とこの町から離れる宣言をしていたのだ。
「ちょ、ちょっと待っててくれお姫様!トレイニーさん、ちょっとこっちに」
「は、はい?」
加賀美はシュナと少し距離を取り、トレイニーと内緒話を始めた。
「さっきの続きなんですけど、トレイニーさんにこの町を守ってもらうことってできますかね?」
「あぁ、構いませんよ。今のところこの町はかなり安全ですから」
「本当ですか!?」
加賀美はシュナの方へ近づき、親指を上げた。
「そういうことだから俺、戦場行ってくる!」
シュナは言いたいことをぐっと飲み込み、ため息に変えた。
「分かりました。その代わり、必ず帰ってきてくださいね?」
「おぉ!皆で帰ってくるぞ!」
加賀美はシュナから許可を貰えたことに喜びながら、戦場へ発つ前に他の住民達にも挨拶回りを行った。
最後に見送ろうとして譲らなかったシュナと。
「どうか、お怪我のないように」
「大丈夫だよ。回復薬もあるんだろ?」
「そういう問題ではありません」
「わ、わかったよ」
「それと!」
「ま、まだ何かあるのか?」
「……お帰りになられた際は1番に、シュナの元へ来てください」
「……おう!」
「なんですか今の間は」
そんな一幕があった。
○○○○○
湿地帯にて。
驚く程順調に進んだ同盟締結後、先制攻撃を仕掛けられたということもあり、あれだけいた豚頭族の軍勢はリムル陣営と蜥蜴人族陣営、ガビルの連れてきたゴブリンたちによってみるみる内に減らされていた。
「うわぁ……」
中でも鬼人達とランガの活躍は目を見張るもので、特にランガの災害にも等しい広範囲攻撃技「黒雷嵐」や、ベニマルが展開した触れた瞬間消し炭になるドーム、「黒炎獄」に関しては上空から見ているリムルも引いていた。
「いやはや、この戦いが終わってからも鬼人達とは仲良くしたいもんだ」
魔力感知を駆使して戦況を見ているリムルだが、一体、他とは明らかに様相の違う個体を見つける。
「───あいつか」
○○○○○
森の中を駆け、湿地帯へ向かう加賀美。
しかしその途中で足を止めた。
「…………」
その場には加賀美しかいないというのに、まるで誰かと対峙しているかのような空気だった。
「お前だろ。ガビルさん達のことずっと見てたの」
そう言って加賀美が1本の木に目を向けると、仮面を被ったピエロのような格好をした男がケラケラと笑いながら姿を見せた。
「やるなぁ自分。ワイに気づいとるとは思わんかったで」
「ガビルさんだって気づいてたんだよ。お前も豚頭族達の仲間なのか?」
「うーん、秘密や。けど安心しいや、自分と戦うつもりは無いで」
「そうか……」
飄々としているが、その仮面の奥には悪意が見え隠れしていた。
加賀美と戦うつもりはない。
それは本当かもしれない。
「ガビルさん達の邪魔をしない保証はないんだな」
だからといって、目の前のピエロを放っておくわけにはいかない。
加賀美はガタックゼクターを手に取り、戦闘開始の合図として宣言した。
「変身!」
《Henshin》
ガタックに変身し、何が来ても良いように構える。
「……しゃーない、ちょっと遊んだろか」
それを見たピエロが仕掛けようとした時。
「フン!」
ガタックは両肩の砲口からいくつもの光弾を発射した。
「なっ!?ちょ待っ───」
その速度は凄まじく、ピエロはあっという間に光弾に飲み込まれ爆発した。
しかし。
「───ふー危ない危ない、いきなりやられるとこやったで」
当のピエロ本人は瞬時に回避したのか、上空から降りてきた。
何でも無さそうにケラケラと笑っている。
「おもろいなぁ自分。せっかくやし名前教えてくれへんか?」
その仮面から覗く目は、ガタックを見つめていた。
トレイニーと同じように興味深そうな目で。
「加賀美新だ」
「カガミ・アラタね……ワイはラプラス。よろしゅう」
ラプラスの雰囲気が変わった。
「ほな、いくで」
「!」
何かが起こる、と直感したガタックは気を引き締める。
ラプラスもこれからガタックに一撃を加えようというところ。
両者の間に言葉はなく、緊迫した空気が流れる中。
「そこまでです。森を乱す者は見逃しませんよ」
トレイニーの声がその空気を霧散させた。
「これはこれは。まさか森の管理者さんにお会いできるとは思わんかったで」
先程の雰囲気から一転、ラプラスは最初のふざけた態度に逆戻りした。
「話すことはありません。あなたを排除します」
トレイニーは構わず風の精霊を呼び出した。
「おー怖」
容赦する気持ちは一切見えないので、ラプラスは手を挙げて勝手に戦闘を終了した。
「ま、ここは不利になってもうたっちゅうことで、ワイは引かせてもらおかな」
そんなことを言ったかと思えば、突如現れる煙。
「また会おな、カガミはん」
「待て!」
ガタックが走り出すも、時すでに遅し。
ラプラスは姿を消してしまった。
「くそ……」
その場に残ったのはガタックとトレイニーの2人。
「カガミ様。状況は思わしくありません。急いで湿地帯へ」
「はい!」
○○○○○
「───てことがあったんや」
「なるほど。それでやけに楽しそうだったのか」
「そやな。ただ危なかったで。懐の水晶が割れたらどないしよか思たわ」
「それは困るな。私もそれを楽しみにしているんだ」
「……なぁ、見たことあるか?ベルト巻いて変身するような奴」
「やり方はどうあれそういう事例はあるよ。全く同じではないだろうがね」
ラプラスと話しながら茶を用意している男は、加賀美よりもリムルたちに比重を置いているようだった。
現にラプラスの話も聞いてはいるが、そう重く受け止めてはいない。
「ふーん……そうかい」
ただ実際に見たラプラスと、話にしか聞いていないクレイマンではどうしても認識の差は生まれるというもの。
加賀美を実際に見たラプラスが感じたものは、異物感。
「(あれははっきり言ってワイらとは別もんや。深く考えたところで何もわからん)」
それが分かっているからこそ、ラプラスは記憶の隅に留める程度にし、水晶に映る湿地帯での戦いを楽しむことにした。
「ま、ええか!ほらクレイマンもはよ座りや!見逃すで!」
「ま、待ってくれ。今お茶を───」
若干ラプラスに振り回されているように見えるこの男の名はクレイマン。
その二つ名は”人形傀儡師”。
十大魔王が一柱である。
「なぁお菓子とかないんか?」
「……あるよ。美味しいやつだから、皆が集まった時用に取っておいたんだが……」
「ええやんええやん!ワイらでナイショで食うとこ!な!」
「はぁ……」