「リムル殿」
「なんだ?」
「……この戦い、アラタは来ないのであるか?」
同盟締結後、戦闘が始まるまでの時間に、ガビルはそう質問した。
「あぁ、新くんには町を守ってもらおうと思っててさ」
「そうであるか……」
ガビルの目は喜び半分、残念半分というところだった。
「連れてきた方が良かったか?多分もう俺らの町に敵は来ないから、呼ぼうと思えば呼べるけど」
「そうではない。共に戦えないことは惜しいが、リムル殿の言葉を聞くに町は平和なのだろう?アラタが穏やかに過ごせているのなら、我輩としてはそれが1番喜ばしいさ」
「へぇ……意外と大人なんだな」
「それに今の我輩では未熟な部分が多過ぎる。この戦いに勝ち、誇れる自分になってから顔を合わせたいと思っているのである」
「ははっ、なんかかっこいいなお前」
「ハーッハッハ!そうであるか?リムル殿達には嫌な思いをさせた故、張り切っているのだ!」
○○○○○
湿地帯。
リムル達の有利に戦況が進んでいるものの、それはベニマル達のような強者達の力あってこそ。
例えばガビル達蜥蜴人族と、共に連れてきたゴブリン達のみで豚頭族軍と戦ったなら。
「(な、なんという強さ……!)」
残酷な話ではあるがガビルでは、普通の豚頭族であればまだしも、豚頭将軍という上位個体には敵わない。
今戦っているのは豚頭将軍の中で1番の妖気を持つ者ではあるが、豚頭将軍自体はあと何体も後ろに控えている。
それに加えて、雑兵の豚頭族たちが逃げ道と合流を阻む壁のように周りを囲んでいた。
「(こ、これでは部下達が……!)」
敵1体に対し、ガビル側は集団でありながら一方的にやられているという、絶望的な状況である。
ほとんどが名を持たぬ蜥蜴人族やゴブリンで占められている中、ガビルは先頭に立つ者として、名を持つ男として死に物狂いで動いていた。
「ガビル様ー!」
助けを求める部下の方へ駆け。
「喰わせてもらうぞ、トカゲ共!」
「させん!」
今にも仲間を喰らわんとする豚頭将軍の具現化した妖気。
ガビルは手持ちの槍を使い、やっとの思いでそれを弾いていた。
「ぐ……!」
ただ、その槍も豚頭将軍の攻撃の前では積み重なったダメージが限界を迎えたのか、ついに使い物にならなくなってしまう。
つまりガビルは今、丸腰になってしまったのだ。
「っ、まずい!」
そんな時、1匹のゴブリンが餌として狙われてしまう。
涙ながらにガビルを見ていた。
その目が言っている。
助けて、と。
「今助けるぞ!」
その表情が、ガビルにこれ以上ないパフォーマンスを発揮させた。
いつものガビルなら間に合わぬ距離だが、想像以上に早く動けたのだ。
「(っ、ダメだ、このままでは───)」
しかし、理想以下である。
手持ちの槍はもう無い。
自分の体当たりなりで敵をよろめかせることもできない体躯の差。
ゴブリンに襲い掛かる全てを喰らい尽くす妖気。
「(だからどうした!!)」
ガビルは迷わず腕を伸ばす。
ゴブリンと妖気の間に、腕を入れ込むことに成功したのだ。
「っぎ……!」
結果としてゴブリンは助かった。
「大丈夫であるか……?」
「ガ、ガビル様……!」
代償は、ガビルの片腕だった。
ゴブリンは罪の意識からか、顔を青くした。
「何も言うな!」
それに対して。
「お前を助けた勲章なのだ!誇りこそすれ、責める気など我輩には無い!」
ガビルは大声で笑い飛ばした。
まるで味方の抱えるプレッシャーを跳ね除けるように、強気に笑った。
「混沌喰!!」
しかしそんなガビルに対して、豚頭将軍の妖気は無慈悲に襲いかかる。
飢えた彼らに、容赦など存在しないのだ。
ただ獲物を喰らうためだけに動く。
何よりも”飢餓者”。
「(今!)」
それは、ガビルも同じことだった。
「うおおおおっ!!」
残った腕でゴブリンの持っていた槍を、敵の目に向かって力いっぱい突き刺そうと全力疾走する。
水場における蜥蜴人族の強みを最大限に活かして。
「(我輩は勝つ!)」
ガビルが仕掛けようとしているのはカウンターだった。
「(勝って、お前達を───)」
片腕を喪って尚、全てを燃やすような気迫。
ガビルの目的は仲間と勝ち、無事生き残ること。
その為の”勝利”に飢えているのだ。
愚かな自分についてきてくれる仲間のために。
こんな自分を見ても、リムルが蜥蜴人族を救おうとしてくれたこと、自分を尊敬してくれた加賀美の言葉に報いるために。
「無駄だ!!」
その気持ちも相手が同格であったなら、効果を発揮しただろう。
豚頭将軍の妖気はいとも簡単にガビルのもう片方の腕を喰いちぎった。
「ガ、ガビル様ーっ!!」
その惨状に、ガビル陣営からは悲鳴が上がる。
部下達は泣きながら、豚頭将軍に突撃しようと走り出した。
「エサ共が……」
豚頭将軍は、斧のひと振りで蜥蜴人族とゴブリン達をまとめて始末しようと力を込める。
「……ん?」
何故か豚頭将軍は、ガビルの方に視線を向けた。
今ガビルは敵の妖気に捕まり、身動きができない。
加えて両腕を喪っている。
明らかに瀕死、放っておいても死は免れない危険な状態。
それでも。
「来い、豚……将……」
呼吸すらままならない重傷であろうとも、その目は変わらず、倒すべき敵に向けられている。
敵の注意を自分に向けようとしていた。
「我、輩が、ガビル……だ───」
大量に流れる血と、浅い息。
今にも閉じかけているその目。
消えかけている、命の灯火。
「フン、死に損ないが!!」
事切れる前にトドメを刺そうと、豚頭将軍がガビルの頭に向かって手に持っている斧を振り下ろそうとする。
「や、やめろおおおっ!!」
ガビルの部下達は叫んだ。
自分たちを助けてくれたリーダーに何もできず、無惨に殺されてしまうのを止めることすら出来ない、そんな無力感を激しく呪った。
「ガビル様ああああ!!」
蜥蜴人族もゴブリンも、強いも弱いも関係ない。
ただガビルを助けたい、それだけだった。
部下達は身代わりになろうと、豚頭将軍にも臆さず走り出した。
けれども豚頭将軍はそれに見向きもせず、斧を振り下ろした。
ガビルを除いたこの場の誰もが、彼の死を直感した時。
《Clock Over》
───豚頭族軍が、大爆発を引き起こした。