湿地帯での決戦後、この戦いに関わった魔物たちの代表者達ととトレイニーは、戦後の処理について話し合っていた。
そう時間がかかるでもなく、リムルを盟主としてジュラの森で大同盟を結ぶということで話はまとまった。
リムルは盟主にされることを予想していなかったのか、冷や汗が止まらずにいる。
「と、ところで首領。ガビルはどうしたんだ?代表ならあいつが入るだろ?」
それはそれとして、そんな疑問も浮かぶ。
リムルの問いかけに蜥蜴人族の首領は隣の親衛隊長、その副長と共に思いを秘めた顔になった。
「息子は……昨日の深夜、我らの元を去っていきました」
首領は訳を話した。
蜥蜴人族全員の静止も虚しく1人、どこかへ旅立って行ったことを。
「えっ!?」
リムルは驚いた。
あそこまで精神が成長したガビルなら、蜥蜴人族の次期首領には間違いなくなれると思っていたからだ。
「そ、そっか……残念だな」
「しかし息子は必ず戻ると言っておりました故、我らに不安はありませぬ」
蜥蜴人族達もわかっていたのだ。
ガビルが、仲間を守る力をつけるためにいなくなったことを。
「帰ってきた暁にはリムル様の元で、その力を発揮してもらおうかと思っております」
「あ、良いのか?俺からしたら願ってもないことだけど……」
「勿論です。我らの主の元で仕えられるとあれば、息子の思う成長に繋がる出来事が起こるやもしれませぬから」
「そっか……じゃああいつの席も用意しとくよ!」
思わぬ収穫だった。
良い事があったと喜ぶリムルだったが、会議の後に待ち受けている地獄には咽び泣きそうになっていた。
その地獄というのは残った豚頭族達への名付けである。
総勢15万。
ネーミングが適当なものになってしまう程の数の暴力だった。
○○○○○
リムル達の町が目覚ましい発展を遂げつつある一方で、加賀美は知らない場所にいた。
というのも湿地帯での決戦後、加賀美は町へ戻らずここ最近顔を出していなかったということでブルムンドへ戻る選択をしたのだが、森を抜けた先の景色が何故かこの場所だった、というのが事の顛末である。
「どこなんだよここ……」
何気なく歩いたと思えば、知らない場所にいる。
人生2回目の出来事。
最初は膝から崩れ落ちた加賀美だったが、とりあえず場所の把握から始めることにし、今は落ち着きを取り戻している。
「それにしても、なんか……」
そこはおおよそ人の住む世界には見えず、随分荒廃していた。
見渡す限り広大な場所だが、人の姿は見当たらない。
「地獄みたいだな」
とりあえず人に会うまでは動こう。
そう思った加賀美が歩き出した瞬間。
「───!!」
上空から何かが襲いかかってきた。
「うわっ!?」
何事かと思い咄嗟に転がった後すぐに相手に視線を向けた時、加賀美は驚くこととなる。
「!」
襲いかかってきたものの正体は山羊の頭と蝙蝠の翼、黒っぽい下半身という、どう見ても”悪魔”と呼べるものだった。
加えて向こうの雰囲気はただ事ではなさそうなもの。
加賀美が何かをしてしまっていたのか、はたまた理由など無いのか。
明らかに今この場で、加賀美を殺そうとしている。
「変身!」
《Henshin》
迂闊に戦い続けては不味いと悟った加賀美はすぐさま変身し、直後に悪魔をガタックバルカンで攻撃した。
「───!!」
光弾を一気に食らった悪魔は致命傷を負ったのか、勢いよく爆散した。
今地面には、悪魔の体の破片が転がっている。
その場に流れるは数秒程の沈黙。
「こ、これは流石に……」
よろしくない風景を見たガタックは、散っていった悪魔の体を埋葬することにした。
思えばワーム達は死骸も残さず爆散していたので、こういう問題に直面することはなかった。
「ふぅ……」
改めて見ると中々凄惨な光景だったので、今後こういう事があった場合は必ず後始末をしようと心に誓ったのだった。
○○○○○
魔物の町改めジュラ・テンペスト連邦国。
通称テンペストで、リムル達は朝食を食べていた。
「なぁなぁリムル、お前達の言うアラタとかいう奴はいつ帰って来るのだ?」
1人の魔王と共に。
彼女の名はミリム・ナーヴァ。
突如テンペストに来襲したリムルのマブダチである。
最初は挨拶に来ただけという事でリムルと会話しているだけだったのだが、シオンを初めとした鬼人達に突如一斉攻撃を仕掛けられるも、無傷かつ覇気のみで圧倒するというを別次元の実力を見せた、正に格の違う存在。
今はリムルのハチミツによって手懐けられ、共にいるという状況である。
「さーな。そもそもどこにいんのかもさっぱりだし……」
リムル達はため息を吐きながら朝食を口に運ぶ。
豚頭帝の一件から今まではそれなりに日も経過しているのだが、加賀美は未だ戻って来ていない。
リムルだけでなく、一部の住民達も少しフラストレーションが溜まっていた。
「全部報告してから行けって言ったんですけどね、アラタには」
「アラタ様が帰って来られてからが……ふふっ、楽しみです」
主に鬼人達、特にこの2人が。
「全くアラタめ……私達を褒めてないではないか……」
そして怒るように言いつつもその表情は寂しげなシオン。
「アラタはいずれ戻って来るだろう。そう苛立つ必要も無いと思うが」
雰囲気と発言は冷静だが、目の奥はそれ以外許さないと言わんばかりに冷たいソウエイ。
ベニマルとシュナに比べればマシと言えども、各々同じようなものである。
「リ、リムル……なんだかあいつら怖いのだ」
ミリムは少し寒気がしたのか、皿を持ってリムルの隣に移動した。
「まったく……場所が分かれば何がなんでも連れ戻すんだけどな」
「リ、リムル?」
「……一旦胃袋に入れてみるか?」
「み、皆怖いのだ……」
テンペストに来て日の浅いミリムは震えるが、リムルと鬼人達はいつもこんな感じである。
比べて。
「今日も若達は元気じゃのう」
「アラタの好きにさせてやるのが1番だと思うんだけんどな」
クロベエとハクロウは随分落ち着いている。
以前加賀美がガビルに攫われた際ハクロウは刃を研いでいたのだが、「可愛い子には旅をさせよ」の精神が芽生えた事で、加賀美が何処へ行っていたとしても応援する様になったのだ。
「それにしても、アラタが戻ってきた時が怖いのう」
「んだ。あの4人を止める為に、オラも鍛えようかと思ってるだ」
「ほう。ならワシの修行に参加してみるか?」
「良いだべな。オラも暇な時にやらせてもらうだよ」
「ほっほっ。気の向く時で構わんからのう」