地獄に来てしばらく経った頃。
「暇だなぁ……」
加賀美は大分この地に気持ちが馴染んできたのか、今は悪魔達と地に寝そべっている。
「皆はずっとここにいて良いのか?家とか帰らなくて……」
「───!」
「そっか……ありがとな」
言葉を発さない悪魔達だが、加賀美は何となく意思が読めつつあった。
と言うより親指を上げて歯を見せて笑っているので、実に分かりやすかった。
「それにしても、どうやって出れば良いんだ?ここ……」
そう独り言を零すと、1体の悪魔がどこからかホワイトボードと眼鏡を用意し、ボードに分かりやすい図を描き、謎の講習を始めた。
どうやら、加賀美にこの世界について教えるつもりのようだ。
加賀美は悪魔から、ここのシステムと脱出方法を簡単に聞いた。
「───!」
「つまり召喚されるか門から出なきゃずっとここにいるって事かぁ……」
悪魔は頷く。
「門の場所って皆は知らないのか?」
悪魔達に聞けば各々が反応を示すも、”分からない”という事は共通している様だった。
「そっか……」
加賀美は項垂れた。
運良く脱出できない限り、リムル達に会うことが叶わなくなるからだ。
こうやって訳も分からず過ごしている間に、また何かしらの勢力から戦いを仕掛けられているかもしれない。
そうなった時「知らなかったから戦えませんでした」などという事は加賀美自身が許容出来ないのだ。
「ていうかこの門から出たとして、どこに着くんだ?」
加賀美はホワイトボードに描かれた図を見てそんな疑問を浮かべた。
土地勘はほぼ無いに等しいので、知らない場所になど出ようものなら普通に詰みなのだ。
「───!」
「───?」
「───!!」
悪魔達は互いに顔を見合せ、何か相談事を始めた。
1体か2体ボケ担当の様な者がいるのか、他の悪魔達にツッコミがてら吹っ飛ばされたりしていた。
「す、凄い飛んでったな……」
まるで某アンパン戦士と戦うばいきんの様で、吹っ飛んで星になった悪魔達を加賀美は心配した。
その数秒後。
「な、なんだ!?」
加賀美達の隣を何かが凄まじい速度で通り抜けて行った。
その何かは砂埃を巻き上げながら少し離れた所でギャギャギャ、とドリフト音を鳴らし、加賀美達の元へ戻ってきた。
「───!」
「お、おう。おかえり」
なんと、吹っ飛ばされた悪魔達がオープンカーにサングラスという地獄よりもぶっ飛んだ姿で帰ってきたのだ。
親指を立て、車の後部座席を指さした。
乗れ、とでも言うように。
「も、門を探してくれるって事なのか?」
悪魔だというのに、返事はなんとも優しい笑顔だった。
白い歯が煌めいている。
悪魔達はすぐに動き始めた。
「うわっ!?」
加賀美は他の悪魔達に担ぎ上げられながら車に乗せられた。
その後残った悪魔達も全員乗ってきたので、今は1台の車にすし詰め状態なのである。
「うおおおおおーーっ!?」
運転手の悪魔はアクセルを全開にし、加賀美一行はそのまま最高速度で地獄を爆走して行った。
○○○○○
当たり前の事だが加賀美がいなくなってからも、時は進む。
今世界から注目されているテンペストでは、色々な計画が飛び交っていた。
その1つとしてファルムス王国から来た荒くれ者達を、豚頭帝を倒した英雄の一団に仕立てあげよう、というものがあった。
英雄になるのはリーダーであるヨウムという男。
口は悪いながらも実力は立ち、仲間思いで謙虚という英雄にピッタリの男だった。
「ふむ……筋は悪くないのう。伊達に荒れていなかったという事か」
「ど、どうも……まだ一撃も当てられてねぇんだけど」
そのヨウムは今ハクロウに扱かれている。
「ワシとて剣を振るって長い。若造には負けられんよ」
実際ハクロウは疲れた様子も無いのに対して、ヨウムの仲間達は屍の如く転がっている。
残るヨウムも剣を構えているのがやっとという状態だった。
「しかしヨウムよ、ワシはおぬしの今後が楽しみじゃ。最初こそアラタの様な荒々しさを感じたが、段々と隙も少なくなっておるからのう」
「はは……師匠にもっと褒めて貰えるように頑張りますよ。こいつらともね」
転がっている仲間に視線を向けながら楽しそうに言うヨウムは、ここである名前に反応する。
「そういやアラタってのは……リムルの旦那もよく言ってたような……」
「うむ、以前ここで過ごしておった人間の名じゃよ」
「へぇ……今はどっか行っちまってるんですか?」
「豚頭帝との一件が終わった後、いきなり行方をくらましおってな。いる場所も分からない以上、ワシは待つしかないのじゃ」
とはいえ戻って来る事は確信しているので、ハクロウの心に焦りは無い。
「ははぁ……俺もいつか会ってみたいっすね」
ヨウムは魔物の町で過ごす人間、という珍しい存在に興味を持った。
「いつ戻ってくるかもわからんからのう。おぬしが年老いてからかもしれんぞ」
しかしそれ以上に。
「マジっすか?体が動く内に手合わせしときてぇなぁ……」
男としての気持ちが疼くのだった。
○○○○○
すし詰めドライブも案外慣れたもので、加賀美はリラックスして爆走オープンカーに乗っていた。
「結構走ってるけど、ここって国とか無いのか?」
というのもこの地獄のような場所はあまりにも広いが、イメージするなら広大な砂漠の様な感じなのだ。
栄えた地だとか、目立つ建築物だとかは未だ見当たらない。
「───!」
悪魔達は両手をクロスさせて「✕」を作った。
どうやらそういったものは無いらしい。
それとは別に何かを説明しようとしていたが、何も無しに伝えるのは難しいと思ったのか、メモ帳を取り出して図を描いた。
それは色んな姿の悪魔を縦に描き、上にいくに連れて偉くなるシステムについて伝えている図だった。
「へぇ、結構種類あるんだな、悪魔って」
「───!」
「皆はどの辺のランクなんだ?」
加賀美がそう問うと、悪魔達はドヤ顔で1番下を指さした。
「そ、そっか」
加賀美は思わず車から転げ落ちそうになるも、何とか持ち直す。
同時に、一番下の存在だというのにこの周りの悪魔達の何と自由な事かと少し見習いたい気持ちも芽生えていた。
「あんまり悪魔の呼び方とか知らないんだけど、1番上の奴らは何ていうんだ?」
「───!」
「げ、ん、しょ……原初?」
悪魔達曰く、この世界では生きた年数がそのまま偉さに繋がるらしく、原初というのは名前の通り、最初に生まれた最も長命の悪魔。
この世界におけるトップオブトップだという。
「じゃあその原初ってのに会いに行けば門の場所がわかるんじゃないか?」
「───……」
悪魔達は微妙そうな顔をした。
加賀美は自分の言っている事が間違っている、という意味の表情ではなさそうな事から、この悪魔達はその原初に会いたくない理由があるのかと考察した。
「なんかめちゃくちゃ怖いとか?」
悪魔達は頷いた。
そして全員が指をこめかみの横でくるくると回した。
これは加賀美も日本で見た事がある。
”頭がおかしい”という意味のジェスチャーである。
この地獄の様な場所でも通じるのかという思いはさておき、元組織の一員として気になる事もあった。
「い、一応お偉いさんなんだろ?どっかで聞かれてる可能性とか……」
少し焦りながら加賀美が聞くと、悪魔達は大笑いしながら手を横に振った。
その可能性が限りなく低いどころか、0%だと断言するように。
「───!」
「───!」
悪魔達はお互いに顔を見合せ数秒考えるも、改めて笑い飛ばしていた。
つまりは「下っ端の自分達の事なんてあのイカれ連中が見てる訳ないだろ」という事なのだ。
「ま、まぁいっか!」
慎重なのか大胆なのか分からない悪魔達に若干振り回されながらも、加賀美は目的を見つけた。
「俺さ、その原初ってのに会いに行くよ。それで門の場所教えて貰うことにする」
今のところここから脱出できる可能性が最も高いのはそれなのだ。
悪魔達もそれに納得した様で、加賀美を原初のいる場所の近くまで送ってくれるという。
「良いのか?会いたくないんじゃ……」
その言葉に対して、全員が笑顔で返した。
任せとけと言わんばかりに強気なものだった。
それにお巫山戯の要素と共に頼もしさを覚えた加賀美は思わず笑ってしまった。
「よーし、頼むぞ皆!」
「───!」
悪魔達はまたもやどこから出したか分からないラジカセを担ぎながら、出発の準備をした。
先程までサングラスをつけている者とそうでない者だけだったのが、今はバンダナを巻いている者までいる。
地獄では浮くはずの格好の加賀美が逆に埋もれていた。
滅茶苦茶である。
「───!」
そして運転手はアクセルを全力で踏む。
今の悪魔達にブレーキは無い。
最初からフルスピードで走る気しか無いのだ。
「うおおおおははははっ!やっぱすごいなぁ!」
加賀美はその爆走オープンカーがジェットコースターの様に楽しかったものだから、周りの悪魔達が原初達の事を思い浮かべて舌を出しながら嫌そうな顔をしている事に気づかなかった。
「クフフフ、面白そうな事をしていますねぇ」
それを離れたところから眺める、”黒”い存在にも。