「ハァッ!」
「……油断しないで!」
「!」
静江との模擬戦で、加賀美は攻めに移れるまでになった。
剣術では静江の方が上でも、加賀美には攻めっ気があった。
その勢いや馴染み深い双剣での動きは、確実に有効打を与える要因となっていた。
「はい、そこまで」
「いてっ!」
加賀美が大隙を晒したことで木刀を顔にくらい、模擬戦は終了となった。
「攻めに集中し過ぎて周りが見えなくなっちゃうのは、ちょっともったいないね」
「うぐ……もう1回お願いします!」
「ふぅ、新くん元気だねー。でも私の方が疲れちゃったから休憩!」
それを聞いた途端、加賀美も地面に倒れ込んだ。
「……新くん、今日はここまでにして、後で装備を見に行かない?」
「装備って……」
「うん。これから使う武器とか、防具とか。いっぱいあるから良いものが見つかると思うよ?」
「おぉ!」
先程まで疲れ切っていたというのに、加賀美はすぐ起き上がり、少年の様に目を輝かせた。
実は加賀美自身かっこいい装備を見るのを楽しみにしていたのだ。
「早く行きましょう静江さん!」
現金な様子に静江は苦笑する。
「今は少し汚れちゃってるから、お風呂入ってからね」
「あ、はい」
2人は1度帰宅した。
そして入浴を済ませ、いざ装備を見に行こうかという時。
「じゃあ行こっか、新く───」
「はい!準備万端ですよ!」
身支度を済ませた静江が振り替えると、遠足前の小学生のようにワクワクした顔の加賀美がいた。
「(新くんって、意外と子供っぽいのかな?)」
かくいう静江も、少し心が躍っていた。
外に出て店に入った途端、加賀美は感激しながら店中をウロウロしていた。
静江はその後ろをついてまわる。
「どんな装備が欲しいとかあるの?」
「剣はやっぱり2本欲しいです」
「うんうん、鎧は?」
「できれば青いやつが良いですね」
「わぁ、結構決まってるんだね?」
「ちょっとこだわりが……」
ここで加賀美はあることを思い出した。
「そういえば静江さんって、鎧とか着ないんですね」
「うん、結構重いから私とは相性が悪いかも」
そもそも静江程強ければ要らないと言うべきか。
「新くんもできるだけ軽い鎧にした方が良いとは思うけど……」
「確かに……」
加賀美は全身を鎧で固めて魔物にタックルでも仕掛けようかと思っていたが、重い事によるデメリットを考慮して基本は剣で攻撃を捌き、万が一攻撃が当たってしまった時の保険として鎧を着ることにした。
「(でも、絶対青いやつにするぞ!)」
しばらく装備を見回っていると、加賀美に電流が走った。
「こ、これは……!」
「どうしたの?」
静江が覗き込むと、そこにはクワガタの角のような2本1対の双剣が。
「これにします!」
ウキウキで店主の方に持っていくと、店主は珍しそうに言った。
「あぁそれはな、使い辛いってんで人気が無かったんだよ。値段はそうだな……これくらいにしとくぜ」
「!?」
その値段は、加賀美の持ち金と同額だった。
要は全財産である。
「(ぶ、武器ってこんなに高いのか……!?)」
「新くん?」
あまりにも悩むものだから、気になった静江が声をかける。
しかし、加賀美は迷いを振り払うように強気に宣言した。
「買います!」
「まいどあり!」
帰り道、先程までの元気はどこへやら。
全財産を無くした加賀美は見るからにへこんでいた。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫です……」
加賀美がへこんでいる理由。
鎧もめぼしいものが見つかったのだ。
しかしその値段は武器とほぼ同額。
つまりもう一度今まで稼いだ額を稼ぎ直さなければならない。
「よし、いっぱい仕事するぞぉ!」
「うん、頑張ってね!」
それはそれとして。
宿に帰ってから買った武器をそっと仕舞い、いずれ買う鎧を手にするその日まで封印することにした。
それから、日常に少し変化が訪れた。
「おはようございます、静江さん」
加賀美がいつものように起き、朝食をどこの店で済まそうかと考えていると。
「あ、おはよう新くん」
何故かエプロンをつけた静江の姿が。
「エプロン?」
「うん。今日から私がご飯作ろうと思って」
「……静江さん料理できるんですか!?」
「新くんがお仕事してる間にちょっと勉強してたんだ」
なんと、知らぬ間に料理を勉強していた静江が料理番になったのだ。
料理を勉強していた理由は、暇な時間が多いからだった。
「全然気づきませんでしたよ」
「ここ最近仕事と修行ですぐ寝ちゃってたもんね」
というのも、今は加賀美が鎧を買うための金を貯めるしかやる事がなく、それまで静江は大人しく待っているしかなかった。
資金の足しにしようとクエストに行こうとすると、加賀美が止めるからだ。
これには2つの理由がある。
「それにしても、わざわざ俺の分も作ってくれるなん、て……」
「最初はこんがらがってたんだけど、結構楽しくてさ」
1つ目は自分のために静江に働かせてしまうこと。
2つ目は彼女の体調を心配してのこと。
「ちょっとハマっちゃったんだ」
加賀美はやむを得ない場合以外、静江にイフリートの力を使わせたくなかったのだ。
その結果、こうなった。
「(こ、これは……)」
「今日はシチューだよ!」
「シチュー!?」
今目の前にあるのは、シチューと言うより炭だった。
黒いシチューとも言えない、炭。
イフリートの力を料理中に使ってるのではなかろうか。
食欲以外の理由で、加賀美は唾を飲む。
「い、いただきます」
「ふふ、結構上手くできたんだ!」
この出来に比べて静江の表情の、なんと自信ありげなことか。
恐る恐るスプーンで1掬いし、何も考えず口に運ぶ。
「ど、どうかな?」
「あぁ、結構───」
瞬間、とてつもない腹痛が加賀美を襲った。
まるで即効性の毒のように。
「お、美味しいです……」
しかし漢、加賀美新。
静江に不安そうな顔はさせまいと持ち前の根性で耐え抜き、その毒を表情には出さなかった。
「良かった!」
すると、静江は嬉しそうに笑った。
この笑顔が見れただけで、加賀美がそう思った瞬間。
「いっぱい作ったから、好きなだけ食べてね!」
「はい……」
ほぼ死刑宣告に等しい言葉が放たれた。
ここで加賀美は1つの目標を作った。
「(俺以外の人に絶対食べさせちゃダメだ!)」
「新くん?」
「静江さん」
「はっ、はい?」
加賀美があまりに真剣な目で見つめるものだから、静江は少し緊張してしまう。
「これから俺以外の人に、絶対料理を作らないでください」
「なんで?」
何故か。
静江の疑問は当然のことだった。
しかし理由は単純。
人死にが出るからである。
かといって正直に言えるはずもなく、加賀美は気持ちで勝負を仕掛けることにした。
「とにかく、絶対です。お願いします」
「う、うん。わかった……」
あまりに真面目な表情で言うものだから、静江は素直に頷いた。
何とかもぎ取れた勝利だった。
「(よし、犠牲は減らせたぞ!)」
「(そんなに美味しかったのかな?嬉しいなぁ)」