ある日、加賀美は帰宅した途端声高らかに言った。
「ついにゲットしたぞー!」
その手にはお目当ての青い鎧が持たれており、念願の目標達成となっていた。
ガッツポーズする加賀美を見て、静江は張り切った様子で言った。
「じゃあ私、お祝いにご飯作ってくるね!」
「!?」
鎧の防御力は内臓に使えないだろうか。
加賀美は出来もしないことを考えながら、現実逃避していた。
「じゃああとは実戦経験だけど……」
静江は自分お手製の料理をたらふく詰め込み、限界と戦う加賀美をよそに、これからについて話した。
「新くんには冒険者登録をしてもらいます」
「冒険者登録?」
聞き馴染みのない単語であったが、ワードから察することはできた。
静江曰く、クエストを受けるためには冒険者になる必要があり、そのためにはランクに応じた試験に合格する必要があるという。
試験は調査、採取、討伐という風に部門が分かれており、今加賀美が受けるべきはもちろん討伐部門の試験だった。
○○○○○
「静江さんに言われて来てみたけど……」
静江が共に行くと周りがざわつくことを考慮して、加賀美は1人で試験に臨んだ。
家で封印していた剣と、先程買った鎧を携えて。
「その魔法陣から1歩でも出ればお前は失格になる。試験内容はシンプル。これから召喚される魔物たちに勝つ。それだけだ」
「よろしくお願いします!」
まずはEランクの試験が開始された。
「いでよ、狩猟犬」
試験官が召喚したのは犬だった。
まるで魔物には見えない外見だが、そのサイズと気性の荒さは凶悪と言えた。
狩猟犬は加賀美を見つけるや否や、唸りながら襲いかかってきた。
「(静江さんの攻撃に比べたら!)」
しかし加賀美はかの英雄と普段から手合わせをしている身。
加えて慣れ親しんだ双剣。
Eランク程度であれば、勝利するのは難しくなかった。
「よし!」
○○○○○
加賀美が試験をこなしている一方で、静江は街を歩いていた。
「(今頃新くんは試験かな。どのランクまでいくんだろ)」
今の加賀美であれば問題なく冒険者になれるであろうことを予期し、合格祝いに何か買おうとしていたのだ。
装備等は動きづらくなってしまうので除外し、何かしらの魔法道具を探していた。
「(新くんは魔法が使えないから、それを補えるものがいいな)」
しかし国によって装備の制作技術は異なる。
より良い道具が欲しければ技術水準の高い国に行くしかないのだ。
ただ今はこの国の中でできるだけ良いものを探すしかなく、静江の買い物は難航していた。
「(うーん、どれにしようかな……)」
静江が並べられている魔法道具や武具の前で考え込んでいると、店主が声をかけてきた。
「アンタ、アラタの連れだろ?探してるものがあるから見繕わせてもらうぜ」
サングラスと逞しく生えた髭。
職人の雰囲気が漂っていた。
「あ、ありがとうございます。えっと───」
店主は静江の話を聞き、奥の倉庫へ消えていった。
どうやら店に並んでいるものとはまた違った”何か”があるらしく、結構な物音と共に店主は戻ってきた。
「今うちで用意できるのはこの辺までになるが……」
店主が持ってきたのは腕輪型、指輪型の魔法道具だった。
「こいつらには武器に魔法を纏わせる効果がある。アラタが魔法を使えないってんなら、こいつを使えば解決よ」
静江が探していた条件におおよそ当てはまっており、値段も苦にはならなかった。
「これ、2つとも買います」
「まいど」
良いプレゼントが手に入ったと、静江は満足気だった。
店を出ようとした時、店主は言った。
「アンタら、もうこの国を出ていくのか?」
「えぇ、近々」
「だったらここ最近、商人間で広まってる噂を教えとくぜ」
「噂?」
「あぁ。所謂オークション会場で、最近変なもんが出回り始めたんだ」
「(オークション……競売の事ね)」
静江は思った。
変なものとは?
「変なものって?」
「あぁ。俺もちらりと見たんだけどよ、ごちゃごちゃした形の帯さ。物珍しい造形だったぜ」
「帯……」
ごちゃごちゃした形で、物珍しい造形。
派手だとか、そういう意味だろうか。
静江がそう思っていると、店主は気になることを言った。
「問題はな、誰がどう作ったか全くもって不明なところなんだ」
「え……?」
「やけに機械的な帯らしいんだが、同じものを作ろうとしてもできないらしい」
機械的な帯。
全く想像がつかなかった。
「あまりにも買い手がつかねぇってんで、最近別の国に回ったんだよ」
「その国って?」
「武装国家ドワルゴンさ」
武装国家ドワルゴン。
歴史あるドワーフの王国だった。
「あそこならいろんな種族のやつがいるからな。買い手もつくだろ」
「なぜそんな噂を私に?」
「あんた、アラタの助けになるマジックアイテムを探してんだろ?」
「えぇ、色々な国を回って探そうと思ってるけど……」
「だったら丁度いいぜ」
店主の目つきが変わる。
「その帯はな、ひょっとしたらマジックアイテムじゃねぇかって説があるんだ」
「!」
驚く静江を尻目に、店主はその帯の特徴を話した。
「作り手がどんなやつかは知らねぇが、意味もなくあんな造形にするとは思えねぇ」
店主はあくまで商人間でのくだらない説だと付け加え、馬鹿らしそうに笑った。
「ま、その帯だけで効果が得られるかどうかは分からねぇけどな。実際、何かをはめ込む所があった。そいつと繋がる他のパーツがあるんだと思うぜ」
しかし、くだらない話と一蹴するにはやけに具体的で、その話は静江の胸に残った。
「そのパーツが何かは見当もつかねぇが、向こうに行くことがあったら帯だけでも見に行くといいさ。意外とアンタらのお眼鏡に適うかもな」
「……ありがとう」
「良いってことよ。アラタによろしく言っといてくれや」
次に行くならドワルゴンが良いかもしれない。
そう思いながら帰宅路を歩いていると、試験を終えてきたであろう加賀美とバッタリ出会った。
「あ、静江さん」
「お疲れ様。試験どうだった?」
「Cランクの試験には合格しましたよ!」
Cランク。
魔物のランクで言えば、戦闘訓練を受けた兵士より強い。
その試験に合格した上に目立った外傷のない加賀美を見て、静江は魔物と戦う分には問題ないと判断した。
そして。
「はい、合格祝い」
先程買った腕輪と指輪を渡した。
「なんですかこれ?」
「これはね、新くんの武器に魔法を纏わせられるの」
「おぉ!ありがとうございます!」
静江の思った以上に加賀美は喜んだ。
その理由は試験中、とある問題が起きていたからだ。
「魔法が使えないって言ったら、Bランクの試験辞退させられたんですよ……」
「あはは……」
Bランクの試験で召喚される予定だったのは下位の悪魔だった。
物理攻撃が効かず、剣しか持ってない加賀美では実力以前に勝ちようがなかったのだ。
「でもこれがあればそういう相手とも戦えるんですよね!」
「うん。かなり戦いやすくなると思うよ」
加賀美の冒険者登録も済み、相応の装備も揃った。
諸々の準備が、ついに完了したのだ。