「武装国家ドワルゴン?」
朝。
いつも通りに朝食を食べながら、2人は話していた。
「少し気になるお話を聞いたの。不思議な帯があるんだって」
「帯?」
「うん。どうやって作ったかもわからなくて、この世界で作ろうとしてもできないんだって」
加賀美の手が止まる。
「つまり、この世界のものじゃ無いって事ですか?」
この世界のものではない、特殊な帯。
加賀美が気にならないはずがなかった。
静江が店主から聞いた帯の特徴を伝えると、加賀美は驚愕の表情を見せた。
「それって……」
「前に新くんが言ってたベルトってどんな形なの?」
「その店主さんが言ってた特徴……全部当てはまってます」
「え!」
機械的、この世界の物ではない、何かをはめ込む場所がある。
ここまで特徴が一致して、違うものであるとは思えなかった。
「じゃあこれからの目標はドワルゴンに行って、そのベルトを取り戻すことかな?」
「そうですね。急いでそこに行かないと」
「じゃあご飯食べ終わったら行こうか」
食後に急いで荷物を整理し、国を出る準備を整える。
2人ともそこまで大掛かりな荷物はなく、身軽なままだった。
そして国の門を潜り、開放された外の景色を見た。
2人が歩みを進めていくと、いつぞやの木陰が。
「なんか久しぶりですね、この景色」
結構な距離があったというのに、2人は特に疲れもせず辿り着いた。
「そうだね。私たちが初めて会った時以来かな?」
思えば、あの出会いから結構な時間が経過していた。
「あの時静江さんに助けてもらえなかったらと思うと……」
この地で生を終えていたかもしれない。
「私も。あの時新くんが止めてくれなかったら本当に……」
また、誰かを燃やし尽くしていたかもしれない。
「あれからイフリートって奴は出てきてないんですか?」
「うん。最近は力も使ってないし。でも……これからは油断できなくなるから」
「その時は、俺が止めて見せますよ」
「うん、頼りにしてるよ」
仲間として。
「そういえば、ここからドワルゴンまでってどのくらいあるんですか?」
「うーん、1、2週間くらいじゃないかな?」
「えっ!?」
とんでもない距離だった。
徒歩1、2週間。
その間食料は問題ないとして、風呂はどうするのだろうか。
ましてや静江は女性の身。
そういう所は気にするのではないか。
加賀美が色んな思いを巡らせていると。
「私のことは気にしなくていいよ?途中に別の国もあるし」
加賀美は内心ホッとした。
しかしベルトの件は急がなくてはならない。
出来るだけ早く着いてくれ。
そう心から願った。
その間数日野宿をしていたのだが、加賀美は静江の逞しさに驚くばかりだった。
そしてある日の朝。
「多分今日中にはブルムンド王国に着くと思うよ」
「よーし、ひとまず最後のひと踏ん張りですね!」
2人は慣れたように歩き始めた。
「せっかくだし……新くんが日本にいた時のこと、教えてくれない?」
道中、静江からそんなことを言われた。
「俺のですか?」
「うん」
何から話そうか。
加賀美は迷った。
「お友達のこととか、結構気になるよ」
これまで色々な体験をしていた。
その中で最も印象に残った、自分にとって大きな出来事は。
「変な奴はいっぱいいましたね」
「変な人?」
「はい。どんな事でも頂点に立つとか言う奴がいて」
「わぁ、個性的な人なんだね」
「はい。世間知らずのお坊ちゃんなんですけど、大事な人のためなら命だって懸けられる奴なんです。俺の上司がそいつにアプローチされてて……」
「あはは、楽しそう」
実際最初こそ呆れていたものの、時が経つにつれて、その思いは叶いつつあった。
「あの人もなんだかんだ嬉しそうにしてましたよ」
しかし、その結末は。
そこまでは言わなかった。
「そんな人に想われたら嬉しいだろうね。ちょっと憧れちゃうな」
加賀美は察した。
イフリートの件を踏まえると、大切な人をいつ傷つけてしまうかも分からない。
悲しい話だと思った。
「それで、他にはどんな人がいたの?」
そんな加賀美の思いを察してか、静江はすぐ別の話をするよう促した。
「あ、えっと……キザな奴もいて。化粧の職人なんですけど、実際すごい技術で」
自分もメイクを施されたことは、死んでも言えなかった。
「人のお化粧をする職人さんってこと?」
「はい。静江さんがそいつに会ってたら、間違いなく声掛けられてましたよ」
「お化粧かぁ……した事ないなぁ」
その男が静江の言葉を聞いたら間違いなく言うだろう。
「勿体ない」と。
「いつかしたいな」
実際静江の外見は儚げな美少女。
ダイヤの原石だった。
「国に着いたら、そういうの探しませんか?」
加賀美は思った。
静江はやりたいことを捨てる事が多い人生だったのではないかと。
「嬉しいけど……上手くできるかな」
「大丈夫ですって!俺も勉強しますから!」
「あはは。じゃあその時は新くんに見てもらうよ」
1つ、楽しみができた。
お互いにそう思った。
「あとは仲良しの兄弟とかもいましたけど……あいつらの話はいいです」
「え、なんで!?」
「ふざけた記憶しかないんですよね……」
話せる範囲ならば、の話である。
実際には心強い味方なので良いところもあるのだ。
「あとこいつだけは外せないって奴が1人います」
「どんな人なの?」
「自分が世界で1番偉いって本気で思ってる奴なんですよ」
何度も言っていた。
自分は「天の道を往き、総てを司る男」だと。
「そいつは本当に凄い奴で……でも妹には弱かったり、意外とふざけることもあったりして……」
思わず笑みがこぼれる。
「ほっとけない友達です」
思えば、元の世界で最後の見たのはその2人だった。
トイレのドアを開けると異世界に放り出される。
なんとも奇想天外な話である。
「ふふ、私もいつか会いたいな」
会わせたいような、会わせたくないような。
どちらにせよ静江が混乱するのは確定しているので、加賀美はいかにカバーするかを考えていた。
「あ、着いたよ」
そんな話をしていると、気づけばブルムンド王国に到着した。
「思ったより早く着きましたね」
とはいえ、日は暮れつつあった。
2人は手早く入国審査を済ませ、適当な宿を借りた。
部屋に荷物を置いてラフな服に着替えると、静江は張り切った様子で言った。
「よーし、じゃあ私はご飯作るから、新くんはお風呂入っておいでよ」
「!?」
早々に、第1の試練が始まった。