朝。
加賀美と静江は大きな門を見上げていた。
「やっと着きましたね!」
「結構長かったね」
入国審査の厳しさに対して、国に入ってからは自由だった。
2人がいるのは武装国家ドワルゴン。
目的地であり、「あのベルト」があると思しき場所だった。
「宿は私が借りてくるから、新くんはベルト探してきていいよ」
「はい!いってきます!」
静江にそう言われ、加賀美は急いでオークション会場へ向かう。
しかし場所は分からない。
「あの、すみません」
「ん?」
なので今は、住民に声をかけて会場への道を聞いていた。
「オークション会場を探してるんですけど……」
「あぁ、会場は向こうにあるが……」
住民は不思議そうに言った。
「ありがとうございます!」
加賀美は感謝の意を示し、急いで会場に向かって走り出そうとした。
その時。
「待ちな兄ちゃん」
住民は何故か加賀美を呼び止めた。
思わず振り返る加賀美。
「一応言っとくが……あれが始まるのは夜だぜ?」
「えっ」
驚くべき情報が飛び出してきた。
なんと、今会場に行っても無駄だったのだ。
住民が不思議そうにしていた理由は、加賀美が閉まっている会場に行こうとしているからだった。
「そ、そうなんですか!?」
「やっぱり知らなかったのか」
オークションが始まるのは夜。
対して今は朝。
開催まで半日以上あった。
「にしても……その様子だと、何かお目当てでもあるって感じだな?」
「あ、はい。最近この国に持ってこられたっていうベルトを……」
「あぁ、あの不思議な帯か」
住民は知っているような反応を示す。
それを見て情報を期待する加賀美だったが。
「残念だが、あれはもう買われたって話だぜ?」
「!」
放たれた言葉は、信じたくないものだった。
驚きのあまり次の言葉が出なかった。
「だ、誰にですか!?」
「流石にそこまでは知らねぇが……まぁ気の毒だったな」
加賀美はがっくりとうなだれた。
せめて誰が買ったかさえ分かれば、やり様もあるというのに。
この国の人間全員に声をかけて回るというのは、気の遠くなる作業だった。
「はぁ……」
思えばこれだけ広く色んな種族が出入りする国とあれば、珍しい品物に食いつく者が現れることは容易に想像できた。
しかし加賀美は漠然と、この国に来ればベルトが手に入ると思ってしまっていた。
甘い考えだった、とため息をこぼす。
「どこにいったんだよ……」
肩を落として立ち尽くしていると、誰かが急に肩をつついてきた。
「うわっ!?」
あまりにも突然なことで、加賀美は思わず変な声を出した。
「ふふ、ごめんね?」
驚きながら振り返ると、悪戯っぽく笑う静江の姿があった。
「し、静江さん……」
「新くん、とりあえずご飯食べない?」
「え?」
静江の急な提案に、加賀美は目を丸くする。
「ほら、今日は起きてからすぐここに向かってたし、朝ご飯まだでしょ?」
「あ……そうですね」
変に焦っていた加賀美はこの言葉で頭を冷やした。
立ち上がり、静江が借りてきたという宿まで歩き始める。
道中足取りは重かったが。
「今日はお肉だよ」
「ほんとですか!?早く行きましょうよ!」
「お肉」
このワード1つですぐウキウキになった。
実に単純である。
そんな加賀美を、静江は想いを含んだ顔で見つめる。
「静江さん?」
「ふふ、なんでもないよ」
「?」
宿にて。
「そっか……もう買われちゃったんだ」
「でも、いつかは取り戻しますよ」
静江の作った肉炒めを頬張りながら、加賀美はいつもと変わらぬ様子でそう言った。
頬張りすぎてタレが口に付いている。
「あれ、思ったより平気そうだね?」
それを拭きながら、静江は意外そうに言った。
「今すぐ」ではなく「いつか」
随分気長な言い方である。
加賀美はあまり事を急いている様子もなく、どちらかといえばそこまで重要視していない様子だった。
「平気って訳じゃないですけど……」
事実、今の加賀美にとってベルトの件は最優先事項ではなかった。
仮にベルトを手に入れて変身出来るようになったとすれば、それは大きな”プラス”になる。
ならばそうならなければ”マイナス”なのか。
それは違った。
「今は変身しなくてもそれなりに戦えると思うんで」
そもそも加賀美は手ぶらで異世界に来た身。
ベルトを持ってきていた訳ではない。
なのでベルトがこの世界にあること自体がとてつもないラッキーであり、それが無くなったとところで状況は元に戻るだけ。
”マイナス”ではなく現状維持、変化なしの”ゼロ”なのだ。
「そっか……」
それはそれとして、ベルトというアイテムが無くなったことで加賀美は必然的に生身で戦うしかなくなってしまった。
それを思った静江は、少し心配そうにしていた。
「大丈夫ですよ!静江さんが修行つけてくれたじゃないですか!」
しかしそれを自信満々の笑みで打ち消す加賀美。
「どんな奴が相手でも戦ってやりますよ!」
静江は加賀美が戦っているところを見ていないながらも、安心感を覚えた。
自分の中の炎が暴れたとしても彼なら、と。
「そういえば、静江さんは何かやりたいこととかないんですか?」
「え?私?」
「だって、今までは俺の用事に付き合ってもらってたじゃないですか」
加賀美は、静江のためにできることなら何でもするつもりでいた。
フューズに話していた通り、今は静江の幸せが1番なのだ。
そのためにベルトが不可欠であるのならば、がむしゃらに手に入れようとしただろう。
しかしそうでもない現状、ベルトに拘る理由はないのだ。
かと言って諦める気は更々ないので、機会があれば手に入れる気でいた。
「なんでも言ってくださいよ!」
「なんでもかぁ。迷っちゃうよ」
目の前の男なら本当になんでも受け入れてくれそうだ。
心の中でそう思いながら静江は微笑む。
そして、色々なことを想像した。
例えば。
「(あの子たちのことをお願いしたい気持ちはある。けど……)」
残した5人の子供たち。
加賀美ならば助けてくれるだろうか。
「(新くんには……帰らなきゃいけない場所がある)」
あと2人の弟子たち。
加賀美ならば、きっと。
「新くんは───」
「はい?」
そして、自分のこと。
思ってしまった。
「───ううん、なんでもないよ」
「そうですか?」
加賀美ならば───
「(……言えないよ)」
最期まで傍にいてくれるだろうか、と。