【IF】オルクセン余話 作:砂月
18話『ファリマリア港攻略戦』まで読了推奨
筆者はコミック6巻まで読了済。
小説版は『とあるキャラの生死』を知りたくなく、
コミカライズの範囲までしか読めていません。
そのため、原作小説『オルクセン王国史』と結末や詳細に食い違いが発生します。
この短編では、
エルフィンド軍の『海兵連隊二等少将』
コミカライズ版でいう『まりんこエルフ』を主に添えた、
仮想世界線の話です。
それは、終戦から十数年後のことだ。
わたしは、今、オルクセンとエルフィンドの旧国境付近の村に滞在している。
昔の戦争など、まるでなかったかのように、穏やかな村だった。
いや、そうせざるを得ないのだろう。
異邦人のわたしの目からしても、当時の記録を見ると――白エルフの蛮行を知っても――胸が詰まる。
当時を知る者ならば、戦争という悪夢から、一刻も早く目を覚ましたいはずだ。
もちろん、戦禍の傷跡は未だ生々しく残っている。
たとえば、レーラズの森。
たとえば、かつて黒エルフの住んでいた村。
オルクセン軍とエルフィンド軍の戦場になった、村、都市、港。
慰霊碑を目にすることもあった。
この村とて例外ではない。
離れた場所に、犠牲者の墓地がある。
あの戦いが終わっても、彼らの中では未だ続いているのだろう。
そして。わたしは知っている。
白銀樹も護符もなければ、エルフたちは転生する事が叶わない、とも。
願わくば、それでもなお彼女たちが再びこの世に生まれ落ちることを、祈ろう。
ああ。
話がそれてしまった。
珍しいことに、本当に珍しいことだ。
この村には、白エルフとオークが仲睦まじく開いてる、小さなパン屋があるのだ。
朝の散歩で。
日が昇るより早くから、あたりは香ばしいパンの香りで満たされる。
つい、開店を待ち、焼きたてのパンを手にしたくなるほど、魅力的なのだ。
何せ二人で切り盛りする小さな店だ。
品数は少なく、日替わりで様々なパンが並ぶ。
白パン、ライ麦パン、塩パン。
スコーンやバゲット。黒スグリのパイ。
店主たちが意欲的なのか、我が祖国キャメロットをはじめとする、各国のパンや試作品の焼き菓子が並ぶこともある。
その中でも、必ず毎日店先に並ぶものがある。
ひとつは、エルフィンドの名産を使ったパン。
もうひとつは、オルクセンのどんぐりを使ったパンだ。
オークの店主曰く、
「我らが王が飢饉のために用意し、しかし、そのために使われたことがないものなんだ。王は我らを飢えさせなかった!」
そう、どこか誇らしげに笑って言った。
彼の王の治世に於いて、飢饉はついぞ起こらなかった。
それは、わたしもよく知っている。
街路に落ちるままになった、それ。
それが、今やこの店の名物となっている。
エルフィンドのパンと共に。
頬張れば、パンに練り込まれたどんぐりの甘さが、口いっぱいに広がるのだ。
ほんのりと、それでいて上品な甘さ。
わたしはひとくちで虜になったものだ。
かつては旧式銃を手にオルクセン軍と戦ったという白エルフは、エルフィンドのものだって美味しいのに、と言いたげな目をしていた。
それがあまりにもおかしくて、つい、わたしはもうひとつパンを手にしてしまったのだ。
この二人が結ばれるまで、どれだけの困難があったか、わたしには計り知ることはできない。
しかしながら、この二人のように、両国の民が分け隔てなく手を取り合える――そのような未来に、わたしは期待したい。
さあ、今日はこれで筆を置くとしよう。
明日はまた、あのパン屋に行かなければならないし、旅程も考えねば。
- 終 -
まずは、寛大な原作者様に感謝を。
そして読んでくださった方もありがとうございます。
いわゆる「まりんこエルフちゃん」がハッピーない世界線が欲しくて書きました。
原作者様に怒られたらそっと消します!