TS竜天使娘になったので魔法大学に通いながらダンジョン攻略します 作:Revak
はて、ここはどこだろうと男は目を開けた。
見たことのない場所だ。
自分の最後の記憶は……自転車に乗っていて曲がった先に居た自動車に引かれたところだ。
つまりここは病院であるはずだろうと男は見当をつけた。
だが、病院にしては妙だ。
何せ壁が白ではなく黒だ。
更には奇妙な物が幾つもある。
何かしらの動物の内臓や人の心臓、頭蓋骨に白骨化した死体。
奇妙なねじ曲がった杖や魔法陣が書かれた机など、邪悪な魔術師の実験室と言われた方がしっくりくる。
「ゴポッ」
何これ、と言おうとしたが口が液体でいっぱいになった。
何故、と思って視線を下げればそこにあるのは緑色の液体だ。
液体に体が包まれている。
そしてそれ以上の問題があった。
(おっぱいがある?!)
視線を下に向ければ足元が見えないぐらいに大きい──百四センチのおっぱいがそこにはあった。
何故、自分は男のはず。男なのに豊胸手術を受けた覚えはないと混乱する。
何が何だかわからない。混乱していると部屋に男が走ってくる。
黒いローブを被った男だ。顔は醜い。
「秩序の刃のクソ共め! 我が崇高なる考えがわからんとは!」
「ゴポっ」
男は何か言おうとしたが液体のせいで声が出ない。
秩序の刃とは何だろうかと疑問を抱く。
「圧政もこれまでだ! わが神の手によってお前たちは今日滅ぶ!」
わーはっはっは! とローブの男が叫ぶ。
そこに女が現れた。
部屋に入ってくるのではなく突如現れたのだ。
上下とも黒い服の上顔を仮面で隠している女だ。女にしては背が高く百七十五センチもある。
「これがお前の切り札か?」
女が可憐な声で問いかけた。
「そうだとも! 我が神よ、その力でこの世を浄化するのです!」
ローブの男の手元に魔法陣が浮かんだ。
そこから魔力の光が迸り男が入っている培養液が詰まった器に直撃し、破壊した。
男の体が落ち、緑色の液が溢れ出る。
「ぐぇ」
べちゃっと、男は地面に投げ出された。
男はぬるぬるしながら立ち上がる。
「えーと、すみません。誰かこの状況説明してくれません?」
「……な、何故? 神よ! その力を振るうのです!」
ローブの男が懇願するように叫んだ。
「いやあの、お……私神じゃないです。ただの一般人です」
その台詞に仮面の女が笑った。
「どうやらお前の目論見は破れたらしいな。いや、当然の帰結とでもいうべきか……」
仮面の女が手を振るった。
それだけでローブの男の両腕がねじ曲がって消えた。
「?!」
男は見たことない現象を前に目を点にした。
次の瞬間ローブの男は時が止まったかのように固まった。
「さて、そこのお嬢さん。もう大丈夫、助けが来ましたよ」
「あ、あぁ、どうも……? いやあの何も状況わかってないのですが……」
「ふむ。自分が死んだという事は覚えていますか?」
「お、覚えてます。なぜそれを?」
「そこの男は死んだ人間を核に幻獣……まぁ魔物や妖怪と融合させた。貴女はその融合された被害者という訳です」
「……なるほど? それで女に成っていると?」
「あれ? 元は男なので?」
「はい。ていうか自分女ですよね? こんなでかい胸持ってて男とかだと怖いんですが」
「ちゃんと女ですよ。ただ……鏡見て貰った方が早いですね」
仮面の女が指を鳴らすと姿見が出現する。
「わぁ、美女だ」
鏡に映ったのは美女であった。
身長百九十二センチの長身。
肌は白く銀髪碧眼の美女だ。釣り目の厳しそうな女教師を彷彿とさせる。髪は長く腰の上まで届いている。
胸はでかく百四センチもある。そのくせ腰は細くケツは百二センチとでかい。
側頭部には白い竜の角が一対生え、背中からは魔法で出来た白い天使の翼が一対生えており、頭上には一部欠けた天使の輪が浮いている。尻には白い竜の尾が生えている。
どれも実体を持たなない魔法の産物だ。
淫紋が刻まれている。
「え、淫紋?」
男──女は己の腹の少し下に刻まれている子宮とハートマークをくっつけたようなマークをなぞった。
この体は一体何なのか、疑問が深まる。
「服も必要だな」
仮面の女が指を鳴らすと服が出てくる。
薄青い患者衣だ。
「これを着るといい。流石に下着の類は無くてね……」
「あ、ありがとうございます。裸だと問題ありますからね……」
そうしていそいそと女は患者衣を着る。
「さて、君は自分に何が起こったか把握しているか?」
「いえ、何も。死んだと思ったら女に成って試験管に入ってるしで何が何だかわかりません」
「まぁ、そうだろうな……詳しい話は後日、今はここから脱出しましょう」
ついてきてください、と仮面の女が先導し進む。
「軽く自己紹介をしましょう。私は板倉透。秩序の刃に所属している魔法使いです」
「えっと、市川拓斗です。十九の浪人生でした」
「あらお若い。ちなみに私は九十六です」
「え、九十歳? とてもそうは見えないですが……」
「まぁ魔法で不老にしているので、私は寿命も克服しているので老いないんですよ」
「まほーってすげー。てか魔法あるんですね」
「信じられませんか?」
「いや、自分の角とかわっかとか尻尾見たら信じざるを得ないですね……」
「まぁ、それもそうですね」
などと話しながらローブの男の研究施設を進む。
内部は洞窟のような作りになっている。石の地面や壁が露出している。
道中人型の石の残骸などがちらほらと見受けられる。
「ここが出口です」
そうして洞窟を出るとそこは山の中だった。
「ここは……」
「群馬県の山奥ですね。ここから更に転移します。手をつなぎましょう」
「わ、わかりました」
この歳で手をつなぐというのも恥ずかしいと思いながら拓斗は透と手をつないだ。
そうした瞬間二人は塔の目の前にいた。
幾つもの塔が途中から生えている奇妙な白い塔だ。
「ようこそ、アルカナスパイヤへ」
塔から一人の少女──否男が出て来た。
歳は十六かそこらだろう。赤い髪に赤い瞳の美少女に見える男の娘だ。
少女服の上に白衣を纏っている。
「じゃあ透、僕の部屋まで転移よろしく」
「はいはい」
透が指を鳴らすと次の瞬間アルカナスパイヤの最上階、男の娘──シエロの自室に転移した。
ちゃんと玄関に転移し靴を脱ぐ場所がある。
拓斗以外靴を脱いで部屋に上がり、ソファに座る。
シエロと透が並び向かい側に拓斗が座る。
「それじゃあ、まず自己紹介。僕は五賢人、まぁ魔法世界のトップの一人、シエロだ。よろしくね」
「市川拓斗、です。一般人です」
「うんよろしく。さて、少し頭に触れてもいいかな? 詳しく君を見たいからね」
「わかりました、大丈夫です」
そうしてシエロが拓斗のこめかみに触れる。
五秒ほど触った後「もう大丈夫」と手を離した。
「うん。じゃあ最初に聞くけど……君、元の体に戻りたい?」
「絶対に戻らないといけないとかじゃないなら戻りたくないです」
その台詞にシエロと透の二人は目を点にした。
「だって念願の美女にTSですよ。元に戻りたい訳ないじゃないですか」
「うーん思ったよりイかれてるね。まぁいいけど。それじゃあ次は君の今後だ」
「今後……実験動物とかにされるんです?」
「いやしないよ。解析は今ので済んだから。君がその体で過ごしたいっていうのならば魔法世界に来てもらう」
「魔法世界……ハリーポッターみたいな裏側の世界、ですか?」
「まぁ大体そんな感じだね。魔法大学で魔法世界と魔法について勉強してもらうことになる。といっても君は普通に魔法が使えないけど」
「魔法が使えないのに魔法の勉強を……?」
「君の固有能力というか、君自身の才能と体の融合の果てというか……まぁ、まずは君の正体から話そうか」
離されたのは拓斗の体の秘密についてだ。
まず、拓斗は二千二十六年に事故死した魔法の才能を持つ一般人だ。
魔法の才能を持つとは言うが五賢人並みとかいうことはなく一般的な魔法使い程度の才能の持ち主である。
魔法の才能は研鑽するか特化型の魔法使いでもない限り自覚することがあまりないので気づかず暮らし、そして死んだ。
それに目を付けたのがローブの男、和則という男だ。
和則にはある目的があった。自分が作り出した神──という幻獣を使い人類を支配するという目的が。
幻獣というのは人の想いが折り重なって生まれる生きた魔法のようなものだ。
天使や悪魔、妖怪やアンデッドの姿と能力を得て生まれるがこれらは幻獣が先ではなくそう言った作品の方が先だ。
人のそうした空想への想いが空想を実在させるのである。
和則は六つの幻獣を材料にして作り始めた。
天使、竜、ドライアド、死神、フェンリル、サキュバスである。
それらを融合させたがどうしても安定しない。
そこで和則は仕方なく魔法の才を持っている一般人を核にすることにした。
それが拓斗という訳だ。
結果拓斗はベースとなった天使の姿でこの世に新しく生まれ落ちたのだ。
今の年代は二千百年であり、和則は時空魔法を使い過去の魂を使ったのだ。
今の時代から人をさらえば問題だが過去からならいいだろという考えで和則はさらった。
結果今の二千百年に拓斗が再誕した訳だ。
「なるほど……異種族合成マンという訳ですね」
「そうだね、分類としては幻獣と人間のハーフが近い。まぁ厳密には違うけど」
「幻獣のハーフなんているんすか」
「いるよ。親となった幻獣の力を引き継いだりするね。その体と君自身の魔法の才が合わさって、君は今コピー能力を持っている」
「コピー、ですか。星のカービィみたいな?」
「それの上位互換かな。コピー対象は視界内……カメラ越しじゃない相手を視界内に入れる事。同時に発動できる魔法は七つまで。コピーした魔法は幾らでもストック可能。ただし普通に魔力は消費するって感じだね」
「視界内に入れるだけとかコピー系の中でも最強じゃないですか」
「まぁ、そうだね。今の君は僕と透二人の魔法を扱える」
「つよいっすね」
「魔法の練度とかもそのままコピーだからねぇ。君カタログスペックだけならとんでもないよ」
あっはっはとシエロが笑う。
「と、そうだ。これからの君についてだが……」
「普通の暮らし……は出来ませんよね。どうなるんです?」
「まぁ、魔法大学に通ってもらって、三年は学生寮で暮らしてもらうかな。そのあとは表世界に戻るも魔法世界で暮らすもご自由にって感じで」
「あ、監視とか拘束とかはないので?」
「大量虐殺とか市場破壊とかするようなら拘束も殺害もするけど君そんなつもりないでしょ。だからしないよ」
「わかりました! じゃあこれから女体の暮らしを楽しみます!」
ふんす、と拓斗は胸を張った。
「女性の体で暮らすなら名前も変えた方がいい。男の名前だと問題あるだろう」
透がそういった。
「この体の名前……ラミエルとかそういう天使っぽい名前がいいですね」
「まぁ中身に天使入ってるし……自分でつけるかい?」
「私ネーミングセンスないので……できればお二人につけてもらえると……」
照れながら拓斗は言った。
うーん、と透とシエロが悩み一分後シエロが口を開いた。
「アストレア、てのはどうだい?」
「いいですね!」
「ちなみに元ネタはギリシャ神話の神だけど、まぁ天使だし似たようなものでしょ」
「……えぇ。まぁいいですけど」
こうして拓斗はアストレアになった。
シエロがぱん、と手を叩いた。
天井からにゅっとシノビが降りて来た。
黒装束を着たまごう事無き忍者だ。布の上からでもわかる筋肉質な体をしている。顔も隠しているがいかついだろう。
「お館様。ご用は」
「アストレアを大学まで案内してやってくれ。このアーカディアの街も案内した方がいいな」
「畏まりました。ではアストレア殿、行きましょう」
「わか……て、服はどうします?」
「貰っちゃっていいよ。あと当面の生活資金は後で部屋に渡しに行くから」
「ありがとうございます。いつか必ず返します」
「利息とかないし返せないようなら返さなくていいからねー」
そうしてアストレアと忍びが部屋を出て行った。