TS竜天使娘になったので魔法大学に通いながらダンジョン攻略します 作:Revak
アストレアと透はアーカディアの街を歩く。
転移で一気に行くことも出来るがそれだと風情がないという事で徒歩だ。
徒歩で二十分ほどだがいい運動になるだろうと両者とも納得している。
「聖様ってどういう人なんです?」
アストレアがそう問いかける。
「まぁ、仏教徒だな。仏陀本人から教えを乞うたらしいぞ」
「仏陀って、紀元前の人物ですよね……凄い長生きっすね……」
「俺以外はみんな万年単位で生きてるからなぁ」
全員不老長寿でありアオスに至っては完全な不老不死を実現している。
「そうだ、配信つべに切り替えても結構視聴者居るんだな。ただ、ラノベみたいに一気に視聴者数万人とかは言ってないみたいだが……」
「まぁ、現実はそこまで甘くないんですよねぇ。技術の発展でなんかVRゲームやってるって思われてますし」
「アオスやシエロの奴は魔法の隠匿については特に考えてないからなぁ。まぁバレて国が何かしてきても迎撃ぐらい簡単に出来るしな」
「魔法使いってこえー」
二人は談笑しながらアーカディアの街を歩き大魔道院の寺院に行く。
「でか」
着くなりアストレアはそのでかさを前に呆然とした。
日本にあるどの寺院と比べても大きい寺院だ。
「歴史は古いが改築は毎年のようにしてるからな。見た目だけだ。まぁ魔法を使って建てられたものだしな」
「どれくらい昔からあるんです?」
「二千年ぐらい前かな」
「ふっる」
下手したら日本最古の寺院である。と言っても上述のように改築しているので歴史的価値はあまりないかもしれないが。
寺院の前には門があり、門の前には門番が居る。
門番は二人だ。
片方は改造した和服らしき服を着ている。スカートがついた着物だ。
茶髪に黒目の美少女である。腰には刀を差している。
もう一人は白い全身鎧を纏った男だ。
「お、透さんじゃないですか。そちらの方が例の?」
門番の片方、美少女である斎藤
「初めまして、アストレアです」
アストレアはそう名乗ると同時に小さく頭を下げた。
「どうもー、斎藤一です。そこの透さんの元上司です!」
「上司? 五賢人なのに?」
「五賢人になる前は一般的な秩序の刃の隊員だったからね。今も一さんには頭が上がらないよ」
そう透は苦笑しながら言った。
「それで、認証はすみましたのでどうぞお通りください」
「ありがとうございます」
「ところで秩序の刃にご興味は? 今なら見学ツアー行けますよ!」
「今のところは興味ないですね、すみません」
「そうですか……気に成ったらお気軽に来てくださいね~!」
そうしてアストレアと透は門を通り寺院の中に入る。
寺院の中は広いが透が迷う事無く進むので問題なく進める。
運動場もありそちらでは魔法使い同士が模擬戦をしていた。
寺の中に入り、靴を脱いで上がる。
「おや、お客人ですか?」
そこには聖美恵の使い魔が居た。
虎の獣人の幻獣だ。
金髪金目の女であり頭の上には虎の耳が生え、臀部からは虎の尻尾が生えている。
名を木虎由香という虎の獣人の幻獣だ。
「あぁ。美恵の奴が会いたいらしくてな。ほら、この前話題になってた奴だ」
「アストレアです……話題になってたというのは?」
「いや、秩序の刃が人と幻獣の融合体救出したって新聞に載ってたからな」
「新聞現役なんだ……」
「あぁ、そうでしたか。ようこそ
そう由香は微笑んだ。
「それじゃあ俺たちは美恵に会いたいんだけど、今美恵は?」
「今客室に呼ぶので客室でお待ちくださいね」
「わかった」
そうしてアストレアと透は祈導殿を歩き客室に行く。
透が気にすることなく堂々と客室のドアを開け中に入る。
中の作りは一般的な客室と同じだ。
木の床にテーブルとソファがある。寺院の中とは思えない形だ。
ソファに隣り合うように座る。
そうして少し待つと「失礼します」と声がかかり、襖が開けられる。
入ってきたのは美女だ。
紫色の長髪と紫色の瞳。和服を着ている。
出るとこは出て引っ込むべきところは引っ込んでいる。
腕を見るとそれは逞しく筋肉がついているとわかる。
黒いドレスにも似た服を着ている。
アストレアはその女、聖美恵と目が合う。
美恵はにこりと微笑んだ。
「初めまして、聖美恵です。この祈導殿の長をしています」
「は、初めまして。アストレアです。youtuberやってます」
「配信の方私も見させて貰っていますよ。ダンジョン攻略は順調なようで何よりです」
「きょ、恐縮です」
美恵がアストレアの向かい側に座る。
「それで……今の暮らしで何かご不満などはないでしょうか。いきなり魔法世界に連れてこられ、不安などはないですか?」
優し気な問いかけにアストレアは正直に答える。
「特には、ないです。女の体にも慣れてきましたし、魔法の勉学も楽しいですし……ただ、将来就職はどうしよう、というのはありますね」
「そうですか……でしたら、秩序の刃に就職するのはどうでしょう? 秩序の刃はいつでも入隊を歓迎しますよ」
「秩序の刃……魔法世界における警察のようなもの、でしたっけ。警察と聞くとちょっと……」
「あら、警察ほど気難しい組織ではないですよ。体験入隊も可能なので良かったらぜひ」
「大学を卒業したら考えますね……」
「魔法世界は表世界と違って……少しは治安が悪いですから、何かあったらすぐに秩序の刃に通報を。こちら秩序の刃の電話番号です」
そう美恵は電話番号が書かれたメモを渡す。
「ありがとうございます」とアストレアはメモを受け取った。
「それで、よかったらうちの者と模擬戦でもどうですか? 今の自分がどこまで戦えるのか知るのも悪くはないでしょう?」
美恵はそう提案する。
それにアストレアは乗り気になる。
「そうですね、胸を借りるつもりでちょっと戦ってみたいです!」
そうアストレアは言った。
■
早速秩序の刃の誰かと模擬戦をしよう、という事で祈導殿の訓練場に向かう。
三人並んで歩ていると注目を浴びるがその視線は主に透と美恵に集まる。
五賢人の内二人が居るとなると視線も集めるものなのだ。
訓練場に着いた。
大学の運動場の倍以上の広さを持つ訓練場だ。地面は砂である。
何人か訓練している者たちが居るが、美恵の姿を見ると動きを止めて近寄る。
「聖様! 何かあったんですか?」
一人の男が美恵に近づくとそう問いかける。
「いえ。この方……アストレアさんの模擬戦相手を探していまして。そうですね……あ、ちょうどいいところに」
向こう側から一人の男が歩いてくる。
身長二メートルの大男だ。手足も丸太のように太い。
上半身は裸で短パンと靴だけのの姿である。魔法使いと言うよりモンクに近い格好だ。
オレンジの髪と赤い瞳をしている。
「ゲヴァルトさん、今いいですか?」
美恵はそう男、ゲヴァルトに話しかける。
「なんのようだ?」
ゲヴァルトは秩序の刃の十一番隊の隊長だ。
合法的に暴れる場所が欲しくて秩序の刃に入った人間であり、五賢人への敬意などは持っていない。上司として言う事を聞くぐらいはするが。
「はい。この方、アストレアさんと模擬戦をしてほしく」
その言葉にアストレアは驚愕する。
見るからに強そうな相手との模擬戦だ。出来るわけがないと一般人の感性が訴えかけてくる。
「そうか? 確かに強そうだ、よし、こっち来い」
そう言われ従うしかないとアストレアはついてく。
中央ぐらいに進んだところで二人は止まる。
「武器は使うのか?」
そうゲヴァルトが問いかける。
「は、はい。使います」
「なら構えろ」
「わかりました」
言われるがままアイテムボックスから大鎌を取り出し構える。
「それじゃあ……行くぞ!」
そうゲヴァルトが突撃した。
初速からマッハを超える突撃だ。
アストレアはエンハンスを使いどうにか視認。大鎌を構え拳の突撃を防いだ。
「やるな!」
防がれたことにゲヴァルトは興奮しそのまま拳のラッシュに移行する。
アストレアはどうにか大鎌で防ぐも押されていく。
アストレアの意識が拳に移ったころ、ゲヴァルトは蹴りを入れる。
そのままアストレアは吹っ飛ばされるも転がることなく着地する。
「お前、本気出してないだろ」
急にゲヴァルトはそう言いだした。
「いや、本気ですけど……」
「いや、正確には本気の出し方を知らない、て感じか? 幻獣とのハーフみたいだが幻獣要素欠片も使ってねぇ」
「い、言われてみれば確かに……」
「本気を出してみろよ。そのうえで叩き潰してやる」
そうゲヴァルトは挑戦的な笑みを浮かべた。
(本気、本気か……)
ならば、とアストレアは己に意識を集中する。
集中して集中して──プツンとアストレアの意識は途絶えた。
「アギャァァァアアア!」
突然アストレアは雄たけびを上げた。
魔力を込めたハウリングだ。聞いた者の精神を揺さぶり恐慌状態にする叫びである。
だが魔法使いはその身にまとう魔力が精神操作から守ってくれるため全員無事だった。
次の瞬間アストレアの体が膨れ上がる。
腕がブクブクと膨れ上がり鱗が生える。体も肥大化し蜥蜴のような体に変わっていく。
尻尾も巨大化し、翼も大きくなり足も巨大化する。
数秒後、そこには立派なドラゴンが居た。
全長七十メートル。
白い鱗に覆われた美しい体形。だが所々に黒いラインがある。
背中からは天使の翼と悪魔の翼が一対ずつ生えている。
頭部は蜥蜴のそれに近く、角が外側に突き出すように生えている。
全体的に細いシルエットだが筋肉はついている。
「あおkshjふいおhfぐぃう」
ドラゴンと化したアストレアは声にならない声と共にゲヴァルトを叩き潰そうと右腕を振り落とす。
ゲヴァルトは防御しようとするがゲヴァルトを突き飛ばし美恵が割って入った。
美恵にアストレアの攻撃が命中し、地面が陥没、巨大なクレーターを残す。
「せいっ!」
そう叫ぶとともに美恵は腕をつかんで上に放り投げる。
アストレアは翼をはためかせ空中に浮き、口を開く。
魔力を貯め、ドラゴンブレスを放った。
紫色の炎のブレスだ。範囲は驚愕の──この訓練場全て。
威力も桁違いに高い。余波の熱で地面が融解するほどの熱だ。
「せいやっ!」
その炎のブレスを美恵は虚空を全力で殴るだけで吹き飛ばした。
そのまま美恵は跳躍。空のアストレアの前に移動。
移動してきた美恵に対しアストレアは拳を繰り出す。
美恵の拳とアストレアの拳が衝突。衝撃波をまき散らした。
空間が軋むほどの衝撃波を前に訓練していた者たちは吹き飛ばされるかと思われたが、透が結界を張ることでそれを防いだ。
「はいはーいここに居ても邪魔だから全員避難すっぞ」
そう言うと透は全員を遠くのところに転移させる。
祈導殿の入り口前まで転移させた。
「な、何が起こってる?」
ゲヴァルトがそう透に尋ねる。
「わがんね。ただあのままだと余波でここら一帯消し飛びそうだから余波消すために戻るわ」
透はそう言うとアストレアたちの元に転移する。
そこではアストレアと美恵が空中で格闘戦を繰り広げていた。
七十メートルという圧倒的巨体と美恵は正面切って殴り合っていた。
拳がぶつかる度に衝撃波が発生し訓練場の砂が吹き飛んでいる。
こりゃあかんと透は結界を張る。訓練場全域を覆うような結界だ。
「ありがとうございます!」
美恵はそう言うと更に力を込めてアストレアを殴る。
だが、アストレアも同等の力を発揮し拳をぶつける。
身体能力強化は魔法による足し算だ。
そして、アストレアの魔法のコピー条件は相手を肉眼で視界内に入れる事。既に美恵の身体能力強化魔法もコピー済みで使用しているのである。
美恵は更に身体能力強化魔法を行使するがそれに合わせアストレアも身体能力強化魔法を行使する。
本気の姿となったアストレアに同時に発動できる魔法数の制限は無くなった。
空間系魔法は透が空間操作で打ち消し、
透が指をちょちょいと動かすことで美恵をアストレアの尻尾あたりに転移させる。
転移した美恵はアストレアの尻尾を掴む。
そのままぐるぐると回し、地面に向かって放り投げた。
ズドン、とアストレアが地面に着弾し大きなクレーターを残す。
「ギャァァァアアア!」
アストレアは叫び再びドラゴンブレスを放つ。
紫色の炎の波。更にはこれには低確率で即死させる効果を持つ。と言っても美恵は即死に対し完全耐性を持っている為通じないが。
「せいっ!」
紫色の炎を美恵はまたしても空を殴ることで衝撃波を生み出し蹴散らす。
その炎に隠れるようにアストレアが突撃。拳を突き立てる。
アストレアの拳と美恵の拳が衝突した。
下から追い上げるようにアストレアが攻撃をし──徐々にアストレアのが勝っていく。
美恵は咄嗟にはじく事で攻撃を避け、アストレアの腹に殴打のラッシュを入れる。
「どりゃややややや!」
アストレアの鱗がバキバキと割れダメージを受ける。
「オォォオオオオ!」
アストレアはアルゲティを多重化して放つ。無数の魔力光線が美恵を襲う。
美恵は空を蹴って移動することでアルゲティを回避する。
アストレアの体から植物の根が生え、肉体を形作り再生していく。
「ウギャァァァァ!」
再度雄たけびと共にアストレアは美恵に殴り掛かった。
■
「……どこ、ここ」
アストレアは真っ白な空間に居た。
上も下も左右も真っ白で平衡感覚がおかしくなりそうな空間だ。
「目覚めたか、私」
そこに声がかかる。
なんだ、とアストレアは声の方を見る。
そこには全裸になった、少し変わったアストレアが居た。
「私が居る?!」
「うむ。そうだ、私だ」
そこに居たのは角と尻尾がない全裸のアストレアだ。
「状況説明をしよう。自分が今どうなってるかわかるか?」
全裸のアストレアはそう話しかけてくる。
混乱しながらもアストレアは回答する。
「どうって……本気を出そうとして……自分に意識を集中して……そしたらここに居る?」
「そうだ。本気、つまり幻獣としての能力を解放した結果理性を失った今自分は暴走状態にある」
「え、暴走?! やばくないそれ?!」
「ちょっとヤバいが、まぁ五賢人が二人も居るからどうにかなっている。もう少しは大丈夫だ」
「あと少しだけじゃん大丈夫なの! どうにかしないと!」
「うむ。そうだ。その方法を自分に伝えに来た」
「あ、そうなんだ……ていうかあなた誰? もう一人の僕的な奴?」
「それに近いな。私は複数の幻獣と人間を融合させた存在だとはシエロ様から聞いただろう? その融合させられた天使の幻獣が、私だ」
「そうなんだ……え、てことは体奪っちゃった的な感じ?」
「にはならない。今忘れているだけでお前も私だ。いずれ記憶を取り戻し人格の再統合が行われる」
「えっなんか怖い」
「いずれ来るから諦めろ。それで、だもとに戻る方法だが……」
「どうすれば戻れるの?」
「魔力を高めるイメージだ。そうすれば自然と元に戻る」
「わかった……もう一度貴女? お前? と会う事は?」
「ないだろうな。私は緊急事態故コピーしておいた魔法から作られた擬人格に近い存在だ。まぁ大本は天使の自分なんだが……ま、そこはいい。さ、早く戻れ」
「了解!」
そうしてアストレアは魔力を高めた。