「それは過去の非効率です」――僕が血を吐いて守った聖女は、合理主義の騎士団長に深淵まで最適化(メスおち)される 作:NTRこそ純愛だよ
冷たく湿った空気が、澱みのように底へ滞留する、王都司令部の地下第三層。
かつては陽の光すら届かない、重罪人を繋ぐための牢獄として使われていたというその窓のない石室が、今日からの彼の新しい「配置場所」であった。
分厚い石の壁は外界の音を完全に遮断し、部屋の中央には、魔力伝導率を高めるための赤黒いぬめりを帯びた術式が、幾重にも床に刻み込まれている。
壁際には、最低限の水分と、彼自身の魔力を強制的に回復させるためのひどく苦い薬液の瓶だけが、まるで家畜の餌のように無造作に置かれていた。
初陣となる防衛戦の出撃直前。
幼なじみの聖女が、この薄暗い地下室へと彼を訪ねてきた。
「――ひどい場所ね。でも、少しだけの辛抱よ」
彼女は、まるで暗闇に怯える幼い子供を諭すような、ひどく優しく、慈愛に満ちた声で彼に語りかけた。
純白の法衣の裾を僅かに引きずりながら歩み寄る彼女の顔には、かつて彼が愛した、あの無垢で、彼を心底必要としてくれる可憐な少女の面影が、精巧な仮面として張り付いていた。
「これからは、あなたが最前線で血を流す必要はないの。騎士団長様の戦術に従えば、被弾そのものを極限まで減らすことができるわ。……もう、あなたに痛い思いをさせなくて済むのよ」
それは、どこからどう聞いても彼を思いやる言葉の形をしていた。
泥臭い自己犠牲の連鎖から彼を解放し、安全な場所で待機させる。愛する男を守るための、聖女としての気高い決断であるかのように聞こえる。
だが、彼の肌は、彼女の言葉の裏側に潜む決定的な「変質」を、無意識のうちに感じ取って粟立っていた。
彼女は、彼から正確に三歩分の距離を保ったまま、それ以上は決して近づこうとしなかったのだ。
以前の彼女であれば、出撃の前には必ず彼にすがりつき、あの蛞蝓(なめくじ)のようにやわらかく蠱惑的な唇を彼の肌に押し当て、互いの体温と鼓動を確かめ合うことで、戦場へ向かう恐怖と不安を紛らわせていたはずだった。
しかし今の彼女の目は、彼を見ていながら、彼を見ていない。
瞳の焦点は彼の顔の少し奥、もっと高次元の、あるいは自分を支配する氷点下の規律へと向けられているように見えた。
そして何より、彼女の身体から漂う匂いが、昨日までとは決定的に違っていた。
かつての、野花のような素朴で温かい香りは完全に消え失せている。
代わりに彼女の陶器のような肌の奥から匂い立ってくるのは、静謐で、冷たく、そしてひどく威圧的な白檀の香り。あの作戦会議室で、彼女の細胞のレベルにまで強制的にすり込まれた、騎士団長の純度が高すぎる魔力そのものの匂いだ。
「それじゃあ、行ってくるわね。ここで、ゆっくり休んでいて。……私の、大切な人」
聖女はそれだけを言い残し、足早に石室を去っていった。
重い鉄の扉が閉ざされ、外から無機質な鍵がかけられる鈍い音が響く。
彼は完全な暗闇と静寂の中に、ただ一人取り残された。
(……大丈夫だ。彼女の心は、僕の腕の中にある)
彼は冷たい石の床に座り込み、自身の腕を強く抱きしめた。
(いざ戦場に出れば、あの男の机上の空論など通用しない。必ず彼女たちは傷つき、僕の流す血を、痛みを求めてくれるはずだ。僕の痛みが、彼女たちを正気に戻す……!)
それは、己の存在意義を根底から否定された男の、ひどく滑稽で、悲壮な祈りだった。
数時間が経過し、地上で防衛戦の火蓋が切られた。
重厚な地響きと、微かな魔力の振動が、地下深くの石室にも伝わってくる。
彼は床に描かれた術式の中心に座り込み、前線にいる女たちと繋がれた「痛覚転写のパス」に意識を集中した。
これまでは、戦闘が始まれば数分と経たずに、女騎士が受けた斬撃や、魔法使いの少女が負った火傷の痛みが、彼の肉体へと雪崩れ込んできていた。
彼は血を吐き、激痛にのたうち回りながらも、その痛みを自分の存在価値の証明として受け入れてきた。自分が痛い思いをしなければ、彼女たちは死んでしまうのだから。
だが。
一時間、二時間と経過しても、彼の肉体にはかすり傷一つ転写されてこなかった。
痛みが、来ない。
過去の戦闘では、小指の先ほどの擦り傷でさえ、パスを通じて彼に伝わっていた。
しかし今は、完全な静寂が彼の神経を冷たく撫でるだけだ。
それは、騎士団長の戦術が、彼が提示した冷徹な合理性が、前線において一切の淀みなく機能しているということだ。
「……ああ……」
彼は暗闇の中で、震える両手を自分の顔に押し当てた。
痛みが来ないということは、彼がこのパーティにおける「機能」としての役割を完全に失ったことを意味する。
彼が流す血の代償で成り立っていた泥臭い絆は、騎士団長がもたらした「効率」という新しい貨幣の前に、紙くず以下の無価値なものへと暴落したのだ。
自分はもう、彼女たちの英雄ではない。ただ地下室に配置された、二度と稼働することのない古い防具だ。
その喪失感が、彼を空虚の底へと突き落とした。
しかし、騎士団長の構築した冷酷なシステムは、彼をただの「不要な備品」として静かに絶望させておくことすら許さなかった。
防衛戦が中盤に差し掛かった頃。
突如として、彼と女たちを繋ぐ古い魔力のパスが、異様な脈動を始めた。
「っ……!?」
痛みではない。
傷口が裂ける感覚でも、骨が砕ける衝撃でもない。
彼の神経回路に直接流れ込んできたのは、ひどく生々しい、焼け焦げるような「熱」だった。
本来、痛覚という強烈な生存脅威を伝達するための魔力パスが、想定外の「異常な入力」によって最悪のバグを起こしていた。
騎士団長の魔力が冷たく、そしてあまりに緻密すぎるゆえに、女たちの肉体が、その極限の最適化を「自身の生存と生殖の根幹を支配されるほどの過剰な刺激」として誤認し、回路の深淵を強制的に開かされていたのだ。
結果として、激痛の代わりに、彼女たちが感じている情動と身体反応が、ダイレクトに主人公の脳髄へと逆流してきていた。
パスを通じて、彼女たちの「声なき葛藤」が、手に取るように伝わってくる。言葉ではない。悲鳴にも似た強烈な拒絶の情動が、直接彼の脳髄を叩くのだ。
『――第一陣列、踏み込みが浅い。指示通りに肉体だけを動かせ』
戦場全体を覆う騎士団長の氷点下の命令。
その声が響いた瞬間、パスの向こう側にいる女騎士の精神から、激しい拒絶のうねりが伝わってきた。
泥臭くても、傷ついても、愛する男と痛みを分かち合う戦い方こそが自分の存在意義なのだと、彼女の魂が激しく軋みを上げて抵抗しているのがわかる。
だが、騎士団長の魔力によって強制的に最適化された筋肉は、あっさりとその意思を裏切った。
汗でうなじに張り付いた黄金の髪が揺れ、彼女の剣は、恐ろしいほどの速度と無駄のない軌道で敵を両断した。
その直後、彼女の心にあった痛切な葛藤は、自身の肉体が成し遂げた究極の機能美による致死量のドーパミン分泌によって、一瞬で泥濘へと引きずり込まれた。
心は必死に否定し、涙を流しているのに。
彼女の肉体は、絶対的な上位者の命令に従い、自らの意思を完全に放棄して有能な手駒となることへの、暗い悦びと興奮を覚え始めていた。
かつて主人公が庇ってやった頬の傷跡から流れていた冷たい汗は、今は「誇りを捨てて支配される」という背徳的な快感の汗へと変わっている。剣を振るうたびに極度の興奮で内股が擦れ合い、手足として消費されるマゾヒズムが、彼女の健気な抵抗を徐々に溶かしていく。
「やめ、ろ……抵抗しろ……っ!」
主人公は石の床を掻き毟り、その感覚を遮断しようとした。
だが、パスは彼の拒絶など一切許さなかった。
続いて流れ込んできたのは、後衛にいる魔法使いの少女の感覚だった。
『――後衛。詠唱を破棄しろ。私の構築した数式に同調しろ』
少女は泣き叫ぶような情動を放ちながら、自身の不器用な魔力回路を閉ざそうと必死に抵抗していた。華奢な鎖骨を震わせ、彼との泥臭い共闘の記憶だけを守り抜こうとしていた。
しかし、騎士団長から強引に流し込まれたのは、痛みを伴う暴力ではなく、魔法使いとしての彼女の魂を直接焼き尽くすほどの「無慈悲な美しさ」だった。
泥のような不純物が一切ない、神業のように洗練された魔力術式の演算。
魔法の真理を探求する者としての知的好奇心と本能が、彼への愛という防壁を内側から食い破っていく。今まで学んできた魔法がすべて無価値に思えるほどの絶望と、それを遥かに上回る強烈な恍惚。
少女の背筋が弓なりに反り返り、ローブの下で内股がガクガクと震える。彼女の身体の最も奥深い粘膜が、知性を凌辱される極限の悦びに熱を帯びてじっとりと濡れていく感覚が、主人公の脳髄に叩き込まれた。
「やめろ……うぁぁっ……!」
そして、最も致命的な感覚の同調が、彼を襲う。
幼なじみの、聖女だ。
『――聖女。陣形の要として、私の魔力を分配しろ。すべてのノイズを遮断し、私だけを感じろ』
ドクン、と。
主人公のへその下、丹田のあたりに、重く熱い疼きが走った。
聖女の心は、狂おしいほどに主人公への愛を叫び、必死に理性を繋ぎ止めようとしていた。暗闇の地下室で待つ彼のためだけに祈ろうとしていた。
だが、昨日あの作戦会議室で施された「初期設定(キャリブレーション)」の記憶は、彼女の肉体の奥底に、致死の猛毒として完全に根を張っていた。
冷徹な魔力が子宮の裏側を撫で上げた瞬間、彼女の厚い理性の防壁は、ドロリとした甘い熱流によっていとも容易く蹂躙され、決壊した。
主人公への愛情と猛烈な罪悪感が、冷徹な雄の力によって、卑猥な被虐嗜好へとすり潰されていく。
銀糸の髪が汗で陶器のような肌に張り付き、あの蛞蝓のように柔らかかった唇がだらしなく半開きになって、甘い絶頂の吐息を漏らしている情景が、主人公の脳裏に視神経を焼くようにフラッシュバックした。
「やめろ……やめてくれ……っ! 彼女は、僕の……僕が、守って……っ!」
主人公は絶叫し、己の腕の肉が裂けるほど強く爪を突き立てた。
血が流れ、鈍い痛みが走る。
だが、その自傷による痛みすらも、パスを通じて流れ込んでくる彼女たちの「牝としての快感」の濁流の前にいとも容易く飲み込まれ、ドロドロに溶かされていく。
自分の痛みで世界を保つことすら、今の彼には許されなかった。
「あ、ぁ……嘘だ、そんな……」
主人公は、自身の股間が、熱を帯びて醜く勃ち上がっていることに気づいた。
彼女たちは即座に屈服したわけではなかった。涙を流し、主人公への愛に縋り、必死に抵抗していた。
それなのに、あの男は彼女たちの心など一切無視して、その肉体をいとも容易く開発し、強制的な絶頂へと作り変えてしまったのだ。
そして自分自身もまた、己の痛みで彼女たちを引き戻すことすらできず、あろうことか愛する女たちの絶頂を受信して、強制的に雄として発情させられている。
「うぁぁぁぁぁぁぁっ!! 違う、僕は……こんなの、違うっ!!」
主人公は自身の肉体を呪って床に嘔吐した。
それは、自分がどれだけ血を流しても守れなかった彼女たちの尊厳が蹂躙されていく過程を、最も醜悪な「観測装置」として見せつけられるという、底なしの絶望であった。
戦局は完全に騎士団長の計算通りに進み、最終局面へと突入していた。
『――全軍、最終制圧陣形。一の無駄も許さず、蹂躙せよ』
その瞬間。
女騎士の剣術が、魔法使いの魔力が、そして聖女の光の加護が、一つのシステムとして完全に同期した。
三人から同時に放たれた、悲痛な罪悪感と、それを何倍も上回る声なき絶頂の情動が、魔力のパスを通じて主人公の脳を白く焼き切った。
彼女たちは、あの男の忠実な手足として機能し、敵を殲滅するという行為を通じて、雌としての極限の高揚感へと同時に到達したのだ。
「ああ……ぁ……ああぁぁ……っ」
やがて、地上での戦闘が完全に終結した。
魔力のパスの激しい脈動は収まったが、繋がりそのものが切断されたわけではなかった。
パスを通じて、彼女たちの戦闘後の「余韻」が、静かに、そしてねっとりと伝わってくる。
荒い呼吸を整えながら、彼女たちの身体の奥底に燻り続ける、満たされた熱。
主人公は、冷たい石の床に嘔吐物とともにまみれ、自身の醜く濡れた股間を抱えながら、力なく横たわっていた。
心は抵抗していた。涙を流してくれていた。
だが、彼女たちの肉体は、確実にあちら側へと書き換えられてしまった。
終わりのない鬱屈と絶望の余韻に、彼の精神が暗く沈んでいこうとした、その時。
――カツ、カツ、カツ。
不意に、分厚い鉄の扉の向こうから、戦いを終えた彼女たちの足音が近づいてくるのが聞こえた。
「早く……早く彼に伝えてあげなきゃ……っ」
「ええ、私たちが誰も傷つかずに済んだことを……私たちの愛の祈りが、彼を痛みの連鎖から解放したのだということを……!」
ひどく弾んだ、そしてまだ奥底にあの男に与えられた甘い熱を帯びた女たちの声が、地下室の廊下に響く。
愛する彼のためを装いながら、その実、支配者に開発された悦びを必死に覆い隠すための、醜悪な自己正当化。
その白檀の匂いにまみれた女たちが、今、この扉を開けようとしている。
自らの最も惨めな状態を晒したまま、主人公は凍りついたように扉を見つめた。
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