転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
――最初に理解したのは、「ここは俺の知っている世界ではない」ということだった。
次に理解したのは、「俺が猫になっている」という事実。
そして三つ目に理解したのは――
この世界は、BEASTARSのそれと酷似している、ということだ。
◇
俺は、前世ではただの社会人だった。ブラック企業に疲弊し、理不尽な上下関係と数字に追われ、気づけば命を落としていたらしい。
そして目を覚ました時、俺は“メインクーン”として生まれ変わっていた。
メインクーン。大型の家猫。優雅で、賢く、そして――見た目だけなら無害。
だが、俺は違う。
この身体には、前世の記憶と知識がそのまま残っている。さらに言えば、身体能力も明らかに異常だった。
筋力、反射、感覚。どれを取っても「猫」という枠に収まらない。
理由は分からないが――まあ、俗に言う“チート”というやつだろう。
◇
俺が通うことになったのは、チェリートン学園。
草食獣と肉食獣が共に学ぶ、象徴的な学校。
そして――最も「歪み」が可視化される場所でもある。
「……やっぱり、こうなるか」
教室の空気は、重かった。
肉食獣と草食獣。席は混在しているが、目に見えない“壁”がある。
視線、距離、呼吸。
すべてがぎこちない。
(前世の人間社会と同じだな)
表面上は平等。
だが、内側には恐怖と偏見が渦巻いている。
この世界の場合、それは“本能”という形でさらに厄介だ。
肉食獣は、草食獣を「食べてしまう可能性」を常に抱えている。
草食獣は、それを理解した上で怯えながら生きている。
この構造は、極めて危険だ。
なぜなら――
理性と本能の均衡が崩れた瞬間、取り返しがつかなくなるからだ。
その象徴が、“食殺事件”。
(原作通りなら……)
俺は、ある人物に視線を向けた。
灰色のオオカミ。
不器用そうで、どこか影を背負った存在。
レゴシ。
(あいつが、この物語の中心になる)
だが――
俺は“観測者”で終わるつもりはない。
◇
放課後。
俺は裏庭へと足を運んだ。
理由は単純。
「危険な空気」を感じたからだ。
そして、その直感は当たっていた。
「やめろ……っ!」
「うるさい……! お前みたいな草食が――!」
肉食獣の男子が、草食獣を壁に押し付けている。
瞳は血走り、呼吸は荒い。
本能が、暴走しかけている。
(間に合うか?)
考えるより先に、身体が動いた。
次の瞬間。
“ドンッ!!”
肉食獣の体が、横に吹き飛んだ。
「……は?」
当の本人が、一番驚いている。
無理もない。
俺は、ただ軽く肩を当てただけだ。
それだけで、数メートルは吹き飛んだのだから。
「落ち着け」
俺は、低く言った。
「お前がやろうとしてること、分かってるか?」
「……っ、う、うるさい……!」
再び襲いかかってくる。
だが、動きが単調すぎる。
俺は一歩横にずれ、手首を軽く捻る。
「ぐあっ!?」
それだけで、相手は地面に倒れ込んだ。
「……終わりだ」
完全に制圧。
静寂が戻る。
助けられた草食獣は、震えながら俺を見ていた。
「だ、大丈夫か……?」
「あ、ああ……ありがとう……」
だが、その視線には――
“恐怖”が混じっていた。
(まあ、そうなるよな)
俺は肉食でも草食でもない。
中途半端な存在。
だが今の一件で、“危険な側”として認識されたはずだ。
◇
その日の夜。
俺は寮のベッドに横になりながら、考えていた。
(この世界は、構造的に破綻してる)
共生という理想。
だが実態は、抑圧と恐怖による均衡。
いずれ崩壊する。
ならば――
(壊すか、作り替えるか)
選択肢は二つ。
そして俺は、どちらも選べる力を持っている。
チートじみた身体能力。
前世の知識。
そして、外部視点。
(まずは、観察と介入だな)
レゴシ。
あいつの動きは、確実に世界に影響を与える。
だが――
「そのままじゃ、潰れるぞ」
ぽつりと呟いた。
理性と本能の狭間で、あいつは必ず壊れる。
(だったら――)
俺が、介入する。
この世界の“歪み”を。
そのままにしておくつもりはない。
肉食と草食の共存。
そんな綺麗事が成立するなら、とっくに完成している。
だからこそ――
「現実的な解を、叩き出す」
力も、知識も、立場も。
すべて使う。
そして。
この世界に、“新しいルール”を刻む。
たとえそれが――
誰かの理想を壊すことになっても。
◇
翌日。
俺は、教室の扉を開けた。
視線が集まる。
昨日の件は、すでに広まっているらしい。
ざわめき。
警戒。
興味。
(上等だ)
俺は、ゆっくりと席に座る。
ここからが、本番だ。
観察者は終わり。
これから俺は――
“介入者”になる。
この獣たちの社会に。
そして、いずれ。
この世界そのものに。
牙を立てる。
――メインクーンの俺が。