転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
制度は、完成した瞬間から腐り始める。
だから、止まるわけにはいかない。
ビースターとしての権限。
裏市の半合法化。
国家との接続。
すべてが“線”として繋がった今――
(次は“面”だ)
点と線では、支えきれない。
広げる必要がある。
◇
市安全管理局との契約から、一週間。
裏市には、明確な変化が現れていた。
監査官の常駐。
記録の厳格化。
流通経路の細分化。
そして――
「検査だ。全員、順番に並べ」
制服を着た犬の職員が、淡々と指示を出す。
以前の“無秩序な活気”は消えた。
代わりにあるのは、“管理された静けさ”。
(良くも悪くも、変わったな)
俺は通りを歩きながら、周囲を観察する。
「……やりすぎじゃねえか?」
ヒグマが隣に並んだ。
「息が詰まる」
「その方がいい」
俺は即答する。
「自由は、暴走の温床になる」
「だが、締めすぎれば反発が来る」
「分かってる」
俺は足を止める。
「だから、“逃げ道”も用意してある」
「逃げ道?」
「“段階的緩和”だ」
ヒグマは眉をひそめる。
「ルールを守った者には、制限を緩める」
「違反すれば、強化する」
「メリハリをつける」
「……なるほどな」
ヒグマは腕を組み、納得したように頷いた。
「飴と鞭か」
「単純だが、効果的だ」
だが。
(問題は、別にある)
俺の視線は、通りの奥へ向いていた。
そこには――
入れない者たちがいる。
登録を拒否された者。
基準に満たない者。
そして――
“従う気のない者”。
「……あいつら、どうする」
ヒグマが低く問う。
「放置すれば、必ず問題になる」
俺は少しだけ考え――
「分ける」
「分ける?」
「三つにだ」
指を立てる。
「適応可能」
「保留」
「排除対象」
「……物騒だな」
「現実だ」
「全員を救うことはできない」
「だから、優先順位をつける」
ヒグマはしばらく黙っていたが――
「……お前、本当に学生か?」
「一応な」
「嘘だろ」
小さく笑いが漏れる。
だが、空気は軽くならない。
◇
同時期。
学園内でも、新たな動きが始まっていた。
「本能教育プログラム、第二段階に入る」
体育館に集められた肉食獣たち。
その中心に、レゴシが立っている。
「今回は、“実戦形式”だ」
ざわめき。
「模擬的な刺激を与え、その中で制御を維持する」
教師が説明する。
だが、視線は自然とレゴシに集まっていた。
「……大丈夫か」
俺が声をかける。
「……やる」
短い返答。
だが、その目は以前とは違う。
(いいな)
恐怖はある。
だが、それに支配されていない。
訓練が始まる。
匂い。
音。
本能を刺激する要素が、段階的に強まる。
周囲の肉食獣たちが、わずかに揺らぐ。
だが――
レゴシは、動かない。
呼吸を整え。
視線を固定し。
“制御”している。
(到達したな)
一つの境界に。
その時。
突然、警報が鳴った。
「――!?」
全員が一斉に振り向く。
「外部侵入!」
教師の声。
(来たか)
俺は即座に動いた。
◇
正門付近。
そこには――
十数体の肉食獣がいた。
だが、様子が違う。
目が、濁っている。
動きが、不自然だ。
(薬か)
人工的に本能を増幅させている。
「止まれ!」
警備員の声。
だが、止まらない。
むしろ――
加速する。
「……厄介だな」
俺は前に出る。
「レゴシ」
「……ああ」
二人で、迎え撃つ。
最初の一体が飛び込んでくる。
速い。
だが、制御がない。
俺は最小限の動きで、いなす。
そのまま、地面に叩きつける。
だが――
次が来る。
連携もなく、ただ突っ込んでくるだけ。
(質は低いが、数が多い)
レゴシが一体を受け止める。
「……っ!」
だが、押されない。
踏みとどまり。
反転させる。
(いい判断だ)
戦闘は、数分で終わった。
全員、無力化。
だが――
(問題はここからだ)
倒れた個体の一体。
その口元に、異様な痕跡。
薬物。
「……誰がやった」
俺は低く呟く。
その時。
背後から声がした。
「興味深いですね」
振り返る。
そこにいたのは――
あの狐。
「あなたの“システム”に、早速亀裂が入った」
「……お前の仕業か?」
「まさか」
狐は肩をすくめる。
「これは、“外”の動きです」
「外?」
「あなたが想定しているよりも、広い“外”ですよ」
意味深な言葉。
(……別の勢力か)
国家だけじゃない。
もっと別の――
「裏市を嫌う者たち」
狐が続ける。
「あるいは、あなたの仕組みを“利用したい者たち”」
「どちらにせよ」
その目が、鋭く光る。
「これは、始まりに過ぎません」
沈黙。
風が吹く。
(面倒なことになったな)
だが――
想定外ではない。
「……いいだろう」
俺は、小さく呟く。
「相手になってやる」
狐が、わずかに笑った。
「頼もしい限りです、ビースター」
◇
その夜。
屋上。
レゴシとルイが、並んでいる。
「……どういうことだ」
ルイが低く問う。
「外部勢力だ」
「国家以外の」
「裏市を潰すか、乗っ取るか」
「そのどちらか」
レゴシが、不安そうに言う。
「……どうするんだ」
俺は、少しだけ考え――
「先に、見つける」
「そして――」
静かに言い切る。
「潰す」
夜空は、静かだった。
だがその下で。
新たな“戦い”が、始まろうとしていた。