転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第十一話:拡張する秩序、揺らぐ本能

 

 制度は、完成した瞬間から腐り始める。

 

 だから、止まるわけにはいかない。

 

 ビースターとしての権限。

 裏市の半合法化。

 国家との接続。

 

 すべてが“線”として繋がった今――

 

(次は“面”だ)

 

 点と線では、支えきれない。

 

 広げる必要がある。

 

 

 ◇

 

 

 市安全管理局との契約から、一週間。

 

 裏市には、明確な変化が現れていた。

 

 監査官の常駐。

 記録の厳格化。

 流通経路の細分化。

 

 そして――

 

「検査だ。全員、順番に並べ」

 

 制服を着た犬の職員が、淡々と指示を出す。

 

 

 以前の“無秩序な活気”は消えた。

 

 代わりにあるのは、“管理された静けさ”。

 

 

(良くも悪くも、変わったな)

 

 

 俺は通りを歩きながら、周囲を観察する。

 

 

「……やりすぎじゃねえか?」

 

 

 ヒグマが隣に並んだ。

 

 

「息が詰まる」

 

 

「その方がいい」

 

 

 俺は即答する。

 

 

「自由は、暴走の温床になる」

 

 

「だが、締めすぎれば反発が来る」

 

 

「分かってる」

 

 

 俺は足を止める。

 

 

「だから、“逃げ道”も用意してある」

 

 

「逃げ道?」

 

 

「“段階的緩和”だ」

 

 

 

 ヒグマは眉をひそめる。

 

 

「ルールを守った者には、制限を緩める」

 

 

「違反すれば、強化する」

 

 

「メリハリをつける」

 

 

 

「……なるほどな」

 

 

 

 ヒグマは腕を組み、納得したように頷いた。

 

 

 

「飴と鞭か」

 

 

 

「単純だが、効果的だ」

 

 

 

 

 だが。

 

 

 

(問題は、別にある)

 

 

 

 俺の視線は、通りの奥へ向いていた。

 

 

 

 そこには――

 

 

 

 入れない者たちがいる。

 

 

 

 登録を拒否された者。

 

 基準に満たない者。

 

 

 

 そして――

 

 

 

 “従う気のない者”。

 

 

 

 

「……あいつら、どうする」

 

 

 

 ヒグマが低く問う。

 

 

 

 

「放置すれば、必ず問題になる」

 

 

 

 

 俺は少しだけ考え――

 

 

 

「分ける」

 

 

 

 

「分ける?」

 

 

 

 

「三つにだ」

 

 

 

 

 指を立てる。

 

 

 

 

「適応可能」

 

 

「保留」

 

 

「排除対象」

 

 

 

 

「……物騒だな」

 

 

 

 

「現実だ」

 

 

 

 

「全員を救うことはできない」

 

 

 

「だから、優先順位をつける」

 

 

 

 

 ヒグマはしばらく黙っていたが――

 

 

 

「……お前、本当に学生か?」

 

 

 

 

「一応な」

 

 

 

 

「嘘だろ」

 

 

 

 

 小さく笑いが漏れる。

 

 

 

 

 だが、空気は軽くならない。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 同時期。

 

 

 

 学園内でも、新たな動きが始まっていた。

 

 

 

「本能教育プログラム、第二段階に入る」

 

 

 

 体育館に集められた肉食獣たち。

 

 

 

 その中心に、レゴシが立っている。

 

 

 

 

「今回は、“実戦形式”だ」

 

 

 

 

 ざわめき。

 

 

 

 

「模擬的な刺激を与え、その中で制御を維持する」

 

 

 

 

 教師が説明する。

 

 

 

 

 だが、視線は自然とレゴシに集まっていた。

 

 

 

 

「……大丈夫か」

 

 

 

 俺が声をかける。

 

 

 

 

「……やる」

 

 

 

 短い返答。

 

 

 

 

 だが、その目は以前とは違う。

 

 

 

 

(いいな)

 

 

 

 恐怖はある。

 

 だが、それに支配されていない。

 

 

 

 

 訓練が始まる。

 

 

 

 匂い。

 

 音。

 

 

 

 本能を刺激する要素が、段階的に強まる。

 

 

 

 

 周囲の肉食獣たちが、わずかに揺らぐ。

 

 

 

 

 だが――

 

 

 

 レゴシは、動かない。

 

 

 

 

 呼吸を整え。

 

 視線を固定し。

 

 

 

 “制御”している。

 

 

 

 

(到達したな)

 

 

 

 一つの境界に。

 

 

 

 

 その時。

 

 

 

 突然、警報が鳴った。

 

 

 

 

「――!?」

 

 

 

 全員が一斉に振り向く。

 

 

 

 

「外部侵入!」

 

 

 

 

 教師の声。

 

 

 

 

(来たか)

 

 

 

 俺は即座に動いた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 正門付近。

 

 

 

 そこには――

 

 

 

 十数体の肉食獣がいた。

 

 

 

 

 だが、様子が違う。

 

 

 

 

 目が、濁っている。

 

 

 

 動きが、不自然だ。

 

 

 

 

(薬か)

 

 

 

 

 人工的に本能を増幅させている。

 

 

 

 

「止まれ!」

 

 

 

 警備員の声。

 

 

 

 

 だが、止まらない。

 

 

 

 

 むしろ――

 

 

 

 加速する。

 

 

 

 

「……厄介だな」

 

 

 

 俺は前に出る。

 

 

 

 

「レゴシ」

 

 

 

 

「……ああ」

 

 

 

 

 二人で、迎え撃つ。

 

 

 

 

 最初の一体が飛び込んでくる。

 

 

 

 

 速い。

 

 だが、制御がない。

 

 

 

 

 俺は最小限の動きで、いなす。

 

 

 

 

 そのまま、地面に叩きつける。

 

 

 

 

 だが――

 

 

 

 次が来る。

 

 

 

 

 連携もなく、ただ突っ込んでくるだけ。

 

 

 

 

(質は低いが、数が多い)

 

 

 

 

 レゴシが一体を受け止める。

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 

 だが、押されない。

 

 

 

 

 踏みとどまり。

 

 

 

 反転させる。

 

 

 

 

(いい判断だ)

 

 

 

 

 戦闘は、数分で終わった。

 

 

 

 

 全員、無力化。

 

 

 

 

 だが――

 

 

 

 

(問題はここからだ)

 

 

 

 

 倒れた個体の一体。

 

 

 

 その口元に、異様な痕跡。

 

 

 

 

 薬物。

 

 

 

 

「……誰がやった」

 

 

 

 俺は低く呟く。

 

 

 

 

 その時。

 

 

 

 

 背後から声がした。

 

 

 

 

「興味深いですね」

 

 

 

 

 振り返る。

 

 

 

 

 そこにいたのは――

 

 

 

 あの狐。

 

 

 

 

「あなたの“システム”に、早速亀裂が入った」

 

 

 

 

「……お前の仕業か?」

 

 

 

 

「まさか」

 

 

 

 

 狐は肩をすくめる。

 

 

 

 

「これは、“外”の動きです」

 

 

 

 

「外?」

 

 

 

 

「あなたが想定しているよりも、広い“外”ですよ」

 

 

 

 

 意味深な言葉。

 

 

 

 

(……別の勢力か)

 

 

 

 

 国家だけじゃない。

 

 

 

 

 もっと別の――

 

 

 

 

「裏市を嫌う者たち」

 

 

 

 

 狐が続ける。

 

 

 

 

「あるいは、あなたの仕組みを“利用したい者たち”」

 

 

 

 

「どちらにせよ」

 

 

 

 

 その目が、鋭く光る。

 

 

 

 

「これは、始まりに過ぎません」

 

 

 

 

 沈黙。

 

 

 

 

 風が吹く。

 

 

 

 

(面倒なことになったな)

 

 

 

 

 だが――

 

 

 

 

 想定外ではない。

 

 

 

 

「……いいだろう」

 

 

 

 

 俺は、小さく呟く。

 

 

 

 

「相手になってやる」

 

 

 

 

 狐が、わずかに笑った。

 

 

 

 

「頼もしい限りです、ビースター」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その夜。

 

 

 

 屋上。

 

 

 

 レゴシとルイが、並んでいる。

 

 

 

 

「……どういうことだ」

 

 

 

 ルイが低く問う。

 

 

 

 

「外部勢力だ」

 

 

 

 

「国家以外の」

 

 

 

 

「裏市を潰すか、乗っ取るか」

 

 

 

 

「そのどちらか」

 

 

 

 

 レゴシが、不安そうに言う。

 

 

 

 

「……どうするんだ」

 

 

 

 

 俺は、少しだけ考え――

 

 

 

 

「先に、見つける」

 

 

 

 

「そして――」

 

 

 

 

 静かに言い切る。

 

 

 

 

「潰す」 

 

 

 

 夜空は、静かだった。

 

 

 

 

 だがその下で。

 

 

 

 

 新たな“戦い”が、始まろうとしていた。

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