転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第二十七話:優先順位の刃

 

 全部を守ることはできない。

 

 それは最初から分かっていた。

 

 だが、実際に“選べ”と言われると――

 

 重さが違う。

 

 夜。

 

 詰所の机の上に、三つの項目を書いた。

 

 

 ・回収阻止

 ・情報遮断

 ・内部安定

 

 

 イオリがそれを見て言う。

 

「三つ同時は無理です」

 

「知ってる」

 

 

 レゴシが眉を寄せる。

 

「どれを優先するんだ」

 

 

 俺は少しだけ考えた。

 

 

 ここは“止める場所”だ。

 

 だが、その前提は――

 

 中が崩れないこと。

 

 

「内部安定だ」

 

 

 ルイが静かに頷く。

 

「妥当だな」

 

 

 ハルが腕を組む。

 

「じゃあ、回収は?」

 

 

「通す」

 

 

 空気が一瞬で固まった。

 

 

「……え?」

 

 

 レゴシが思わず声を漏らす。

 

 

「通すって……逃がすのか?」

 

 

「必要ならな」

 

 

「それじゃ意味ないだろ!」

 

 

 珍しく、レゴシが強く言った。

 

 

 だが、俺はそのまま答える。

 

 

「全部止めようとすると、全部崩れる」

 

「中で暴発する方が、よほど被害が大きい」

 

 

 ハルが小さく息を吐く。

 

「……なるほどね」

 

 

 ルイが補足する。

 

「“流すことで保つ”わけか」

 

 

「そうだ」

 

 

 イオリが静かに言った。

 

「では、情報は?」

 

 

「制御する」

 

 

「完全遮断ではなく?」

 

 

「完全は無理だ」

 

「だから“選んで流す”」

 

 

 イオリの目が、わずかに細くなる。

 

「……危険なやり方です」

 

 

「知ってる」

 

 

 ◇

 

 

 翌日。

 

 ステイ区画の運用は、明確に変わった。

 

 

 ・夜間の巡回を減らす

 ・一部動線の監視を緩める

 ・特定の時間帯で“隙”を作る

 

 

 外から見れば、明らかな“劣化”だ。

 

 

「これ、わざとだよね」

 

 ハルが言う。

 

「そうだ」

 

 

「バレるんじゃない?」

 

 

「バレていい」

 

 

 レゴシが顔をしかめる。

 

「……誘ってるのか」

 

 

「そうだ」

 

 

 ◇

 

 

 夜。

 

 “隙”を作った時間帯。

 

 

 共有スペースには、ミナとノエル。

 

 黒狼は見えない位置。

 

 レゴシは巡回を装って外側。

 

 俺とイオリは詰所。

 

 

「来ると思いますか」

 

 

 イオリが聞く。

 

 

「来る」

 

 

 即答。

 

 

 数分後。

 

 

 ――カチ。

 

 

 また、あの音。

 

 

 換気の遮断。

 

 

 そして――

 

 影。

 

 

 今度は迷いがない。

 

 一直線に、ノエルへ向かう。

 

 

(そう来るか)

 

 

 “観測役”を回収する。

 

 情報を持っている個体から抜く。

 

 

 合理的だ。

 

 

 影が、ノエルの腕を掴もうとした瞬間――

 

 

「そこまで」

 

 

 イオリが動いた。

 

 

 速い。

 

 ほとんど無音で、影の進路を遮る。

 

 

 影が跳ねる。

 

 

 だが、逃げ場はない。

 

 

 俺が正面。

 レゴシが背後。

 黒狼が横。

 

 

 完全に包囲した。

 

 

「……詰んだな」

 

 

 影の中から、声が漏れる。

 

 

 その正体は――

 

 イタチ。

 

 

 小型。

 細身。

 動きは鋭い。

 

 

「何人目だ」

 

 俺が言う。

 

 

 イタチは笑った。

 

 

「さあな」

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 拘束されたイタチは、シカよりも軽口だった。

 

 

「いい場所だな、ここ」

 

「壊れかけの連中が揃ってる」

 

「選び放題だ」

 

 

 ハルが顔をしかめる。

 

「最低」

 

 

「事実だろ?」

 

 

 イタチは笑う。

 

 

「外じゃ拾えねえ素材が、勝手に集まる」

 

「しかも手入れ済みだ」

 

 

 ……なるほど。

 

 向こうから見れば、そう見えるか。

 

 

「誰の指示だ」

 

 

「企業、組織、個人……好きに想像しろ」

 

 

 レゴシが低く言う。

 

「ふざけるな」

 

 

「ふざけてねえよ」

 

 

 イタチの目が、少しだけ鋭くなる。

 

 

「ここは“市場”だ」

 

 

 静かな声。

 

 

「お前らが作ったな」

 

 

 ◇

 

 

 その言葉は、重かった。

 

 

 ルイが腕を組む。

 

「否定はできんな」

 

 

 ハルが呟く。

 

「……でも、それって」

 

 

「必要な場所でもある」

 

 

 俺が言った。

 

 

 イタチを見る。

 

 

「お前らがどう見ようと関係ない」

 

「ここは止める場所だ」

 

 

「止めてどうする」

 

 

「選ぶ」

 

 

「誰が」

 

 

「俺が」

 

 

 即答。

 

 

 イタチは、一瞬だけ黙った。

 

 

「……気に入らねえな」

 

 

「知るか」

 

 

 ◇

 

 

 尋問後。

 

 イタチは隔離された。

 

 

 だが、問題は終わっていない。

 

 

 ルイが言う。

 

「これで三体」

 

「ノエル、シカ、イタチ」

 

 

 ハルが続ける。

 

「まだいるよね」

 

 

「いる」

 

 

 イオリが静かに言った。

 

「ですが」

 

 

 全員がそちらを見る。

 

 

「“動ける数”は減っています」

 

 

 俺は頷いた。

 

 

「そうだな」

 

 

 観測。

 役割分担。

 誘導。

 

 

 自由に動ける余地を削った。

 

 

 その結果――

 

 

「次は、別の手が来る」

 

 

 レゴシが低く言う。

 

 

「どういう」

 

 

「直接じゃない」

 

「もっと“壊す側”の動き」

 

 

 ……いいな。

 

 読めてきている。

 

 

 ◇

 

 

 その夜。

 

 異変は、静かに始まった。

 

 

 ミナの部屋。

 

 

 呼吸が乱れる。

 

 脈が早い。

 

 

「……来たな」

 

 

 俺は扉の前で言った。

 

 

 中に入る。

 

 

 ミナが、震えている。

 

 

「……音」

 

 

 小さな声。

 

 

「何が聞こえる」

 

 

「……同じ音が、繰り返してる」

 

 

 レゴシが耳を澄ます。

 

 

「……聞こえない」

 

 

 ハルも首を振る。

 

 

「私も」

 

 

 イオリだけが、少しだけ目を細めた。

 

 

「……微弱音」

 

 

「何だ」

 

 

「外部からの干渉です」

 

 

 その瞬間。

 

 

 俺は理解した。

 

 

 直接取れないなら、壊す。

 

 

 精神的に。

 

 

 内部から崩す。

 

 

 ◇

 

 

 ミナの呼吸が荒くなる。

 

 

「止めろ」

 

 

 俺が言う。

 

 

「無理です」

 

 

 イオリが即答した。

 

 

「音源が特定できない」

 

 

「じゃあどうする」

 

 

「遮断ではなく、上書きします」

 

 

 ハルがすぐに動いた。

 

 

「音、入れる!」

 

 

 レゴシが頷く。

 

「低音でいいか?」

 

 

「いい!」

 

 

 換気音に近い、一定の音を流す。

 

 

 ミナの呼吸が、少しずつ落ち着いていく。

 

 

 ◇

 

 

 数分後。

 

 

 静寂。

 

 

 ミナは、浅く息をついていた。

 

 

「……助かった」

 

 

 ハルが小さく言う。

 

 

 イオリが冷静に言った。

 

 

「これは“テスト”です」

 

 

「何の」

 

 

「どこまで壊せるか」

 

 

 沈黙。

 

 

 レゴシが拳を握る。

 

 

「……やらせるかよ」

 

 

 俺は、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「優先順位は変えない」

 

 

 全員がこちらを見る。

 

 

「内部安定を守る」

 

 

 だが――

 

 

「そのために、“外を削る”」

 

 

 イオリがわずかに頷いた。

 

 

「ようやく、踏み込みましたね」

 

 

 ◇

 

 

 夜明け前。

 

 俺は一人で廊下に立つ。

 

 

 ここはもう、ただの保護施設じゃない。

 

 

 守るだけでは足りない。

 

 止めるだけでも足りない。

 

 

 “切る”ことが必要になる。

 

 

 そして、その対象は――

 

 外だけじゃない。

 

 

 内側にも及ぶ。

 

 

 ――メインクーンの俺が、この場所を“守るために壊す”段階へ進めてやる。

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