転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第三話:裏市潜入と、“捕食”の再定義

 夜の帳が落ちる頃、チェリートン学園の空気は一変する。

 昼間の「共生」という仮面が外れ、より原始的な気配が滲み出す時間帯だ。

 

 そして――その延長線上にあるのが、“裏市”。

 

(さて、どこまで深いか)

 

 俺は学園の裏門を抜け、人気のない路地へと足を踏み入れた。

 風に乗って、微かに匂いが流れてくる。

 

 血と、肉と、恐怖。

 

 この世界において、最も禁忌とされるもの。

 

 だが同時に――

 

 最も需要があるものでもある。

 

(矛盾の塊だな)

 

 数分ほど歩いた先。

 

 そこに、“入口”はあった。

 

 一見すれば、ただの寂れた商店街。

 だが、踏み込んだ瞬間――

 

 空気が変わる。

 

 視線。

 殺気。

 そして、むき出しの欲望。

 

 ここは、“表”ではない。

 

 俺は無言で歩を進めた。

 

 ◇

 

 

 裏市の内部は、想像以上に整然としていた。

 

 肉を扱う店。

 加工品を売る店。

 情報を売る者。

 

 すべてが一つの“社会”として成立している。

 

(秩序はある、か)

 

 無秩序な暴力ではなく、管理された逸脱。

 

 それが、この場所の本質だ。

 

 

「……見ねえ顔だな」

 

 低い声が背後からかかる。

 

 振り返ると、そこには大型の肉食獣――ヒグマが立っていた。

 

 筋肉の塊。

 明らかに、この辺りの“番人”の一人だろう。

 

「新入りか?」

 

「まあ、そんなところだ」

 

 俺は平然と答える。

 

「ガキが来る場所じゃねえ」

 

「ガキに見えるか?」

 

 軽く首を傾げる。

 

 ヒグマは一瞬だけ目を細めた。

 

「……妙な圧だな」

 

「よく言われる」

 

 嘘だが。

 

 

「用件は?」

 

「見学だ」

 

「は?」

 

「この場所の構造を知りたい」

 

 

 数秒の沈黙。

 

 そして――

 

「……面白えこと言うじゃねえか」

 

 ヒグマは低く笑った。

 

「普通はビビるか、欲に負けるかだ。分析しに来たってか?」

 

「そんなところだ」

 

 

「……気に入った」

 

 意外な返答だった。

 

「ただし――」

 

 

 次の瞬間。

 

 巨大な腕が、俺に向かって振り下ろされる。

 

 

(試験か)

 

 

 俺は一歩踏み込み、その軌道の内側へ入る。

 

 肘を軽く押し上げる。

 

 

 “ズンッ”

 

 

 衝撃が地面に流れる。

 

 

「……なに?」

 

 

 ヒグマの目が見開かれた。

 

 

「力任せすぎる」

 

 俺は静かに言う。

 

「効率が悪い」

 

 

 そのまま、手首を軽く捻る。

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

 ヒグマの体勢が崩れる。

 

 

 だが、倒さない。

 

 

 あくまで――

 

 “示す”だけだ。

 

 

「これで十分か?」

 

 

 数秒の沈黙の後。

 

 

「……ははっ」

 

 ヒグマは笑った。

 

「とんでもねえガキだな、お前」

 

 

「褒め言葉として受け取っておく」

 

 

「いいだろう。好きに見て回れ」

 

 

 そう言って、ヒグマは道を開けた。

 

 

(交渉成立)

 

 

 力の提示は、最も分かりやすい言語だ。

 

 

 ◇

 

 

 さらに奥へ進む。

 

 そこで、俺は“それ”を見た。

 

 

 ガラスケースの中に並べられた――

 

 “肉”。

 

 

 明らかに、ただの動物ではない。

 

 

(これが……)

 

 

 この世界の、最も重い罪。

 

 

 だが同時に――

 

 

(これを完全に否定するのは、現実的じゃない)

 

 

 俺は冷静に分析する。

 

 

 需要がある限り、供給は消えない。

 

 禁止すればするほど、地下に潜る。

 

 

 結果として――

 

 より危険な形で広がる。

 

 

(なら、必要なのは……)

 

 

「管理された解放、か」

 

 

 思考が形になり始める。

 

 

 倫理と現実の折衷案。

 

 

 この世界には、それが決定的に欠けている。

 

 

「……興味あるのか?」

 

 

 声がした。

 

 

 振り向くと、小柄なウサギの女性が立っていた。

 

 

 白い毛並み。

 どこか達観したような目。

 

 

 ハル。

 

 

(なるほど、ここで来るか)

 

 

「観察してるだけだ」

 

 

「変わってるね」

 

 ハルは肩をすくめた。

 

「普通は、もっと……反応するよ?」

 

 

「してるさ、内心ではな」

 

 

「ふーん?」

 

 

 彼女はじっと俺を見る。

 

 

「君、怖くないの?」

 

 

「何が?」

 

 

「ここ。肉。……私」

 

 

 少しだけ挑発的な声音。

 

 

「怖がる理由がない」

 

 

「へえ」

 

 

 ハルは小さく笑った。

 

 

「面白いね、君」

 

 

「よく言われる」

 

 今度は本当だ。

 

 

「名前は?」

 

 

「まだ言う必要はない」

 

 

「ケチ」

 

 

 軽口を叩きながらも、ハルの視線は鋭い。

 

 

(観察されてるな)

 

 

 この世界で生き抜いてきた者の目だ。

 

 

「君、何しに来たの?」

 

 

「見に来た」

 

 

「それだけ?」

 

 

「それだけで十分だ」

 

 

 ハルは数秒黙り込んだ後、ふっと息を吐いた。

 

 

「……まあいいや」

 

 

「深入りするなよ」

 

 

 そう言って、彼女は去っていく。

 

 

(原作より、少し距離があるな)

 

 

 だが問題ない。

 

 

 接点は、これからいくらでも作れる。

 

 

 ◇

 

 

 裏市を一通り見終えた後、俺は入口付近に戻ってきた。

 

 

「どうだった?」

 

 

 ヒグマが腕を組んで待っている。

 

 

「想像以上に“まとも”だった」

 

 

「はは、褒めてんのかそれ?」

 

 

「一応な」

 

 

 俺は少しだけ考え、続けた。

 

 

「ここは、必要悪だ」

 

 

 ヒグマの表情が変わる。

 

 

「……ほう?」

 

 

「完全に潰せば、もっとひどくなる」

 

 

「分かってんじゃねえか」

 

 

「だが、このままでもいずれ破綻する」

 

 

「……」

 

 

 沈黙。

 

 

「だから」

 

 

 俺は言う。

 

 

「いずれ、手を入れる」

 

 

「……誰が?」

 

 

「俺が」

 

 

 

 数秒の静寂。

 

 

 そして――

 

 

「……くくっ」

 

 

 ヒグマは笑い出した。

 

 

「いいねえ。ガキのくせに、デカいこと言う」

 

 

「言うだけじゃ終わらせない」

 

 

「だったら、楽しみにしてるぜ」

 

 

 その言葉は、半分は嘲笑。

 だが、半分は――期待だ。

 

 

 ◇

 

 

 帰り道。

 

 夜風が、少しだけ冷たい。

 

 

(これでピースは揃い始めた)

 

 

 レゴシ。

 ハル。

 裏市。

 

 

 すべてが、この世界の“歪み”を構成する要素。

 

 

(あとは――どう組み替えるか)

 

 

 俺は立ち止まり、空を見上げた。

 

 

「……面倒だが」

 

 

 小さく呟く。

 

 

「やる価値はある」

 

 

 

 理想論ではなく。

 

 暴力でもなく。

 

 

 現実的な“解”。

 

 

 それを、この世界に叩き込む。

 

 

 そのために――

 

 

「まずは、足場固めだな」

 

 

 学園内での影響力。

 裏市とのパイプ。

 

 

 そして――

 

 

 レゴシという“核”。

 

 

 あいつを中心に据えれば、変化は加速する。

 

 

(問題は……)

 

 

 原作通りに進まないことで生じる、“予測不能”。

 

 

 だが。

 

 

「それも含めて、楽しむか」

 

 

 俺は再び歩き出す。

 

 

 チェリートン学園へ。

 

 

 次の一手を打つために。

 

 

 ――この世界を、“作り替える”ために。

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