転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
代償は、消えない。
軽くすることはできる。
分散することもできる。
だが――
ゼロにはならない。
朝。
ステイ区画は、静かに動いていた。
観測者は減った。
ノエルと、もう一体。
黒狼は境界。
レゴシは巡回。
ハルはケア。
イオリは調整。
バランスは取れている。
「……今が一番安定してるね」
ハルが言う。
「一時的だ」
俺は答える。
ルイが頷く。
「均衡は、長くは続かん」
◇
その“揺れ”は、昼に来た。
正面ゲート。
警報が、短く鳴る。
「……誰だ」
モニターを見る。
そこにいたのは――
群れ。
十体以上。
肉食と草食が混ざっている。
「……おいおい」
ハルが顔をしかめる。
「団体さんだね」
レゴシが低く言う。
「普通じゃない」
その通りだ。
この規模で来るのは、“保護”じゃない。
「開けるか?」
「開ける」
即答。
「ただし――」
俺は続ける。
「全員は入れない」
◇
門前。
群れの先頭にいたのは、バッファローの男だった。
「ここがステイ区画か」
「そうだ」
「話は聞いてる」
視線が、こちらを測る。
「連中が来た」
「連中?」
「“回収屋”だ」
……来たな。
「何人やられた」
「三体」
短い返答。
「で、ここに逃げてきた」
「そうだ」
バッファローは淡々と言う。
「ここなら止められるってな」
……皮肉だな。
◇
詰所。
「全員受け入れは無理だ」
ルイ。
「分かってる」
ハルが言う。
「でも外に戻したら、確実にやられるよ」
「知ってる」
レゴシが低く言う。
「……どうする」
俺は、少しだけ考えた。
ここは“止める場所”。
だが、無制限じゃない。
そして今は――
内部安定を優先している。
(なら)
「選ぶ」
◇
門前。
「条件がある」
俺は言う。
「全部は入れない」
群れがざわつく。
「ふざけるな」
バッファローが低く言う。
「命がかかってる」
「分かってる」
俺は一歩前に出る。
「だから選ぶ」
「基準は?」
「今決める」
◇
その場で、判定を始めた。
一体ずつ。
目を見る。
呼吸を見る。
動きを見る。
時間はない。
だが――
迷う余地もない。
「お前、止まれるか」
最初の個体。
「……無理だ」
「関われるか」
「分からない」
……切る。
「次」
次の個体。
「止まれる」
「関われるか」
「……やる」
残す。
◇
十数分。
結果。
六体を受け入れ。
残りを拒否。
沈黙。
ハルが、歯を食いしばる。
レゴシは、何も言わない。
バッファローが、低く言う。
「……それで終わりか」
「そうだ」
「残りはどうなる」
「知らない」
静寂。
「だが」
俺は続ける。
「ここに入ったやつは、守る」
バッファローは、しばらく黙っていた。
やがて――
「……分かった」
そう言って、引いた。
◇
門が閉まる。
外に残った個体たち。
振り返らない。
ただ、去っていく。
ハルが、小さく言った。
「……これ、正しいの?」
俺は答えない。
レゴシが低く言う。
「……正しくはない」
ルイが続ける。
「だが、必要だ」
イオリが静かに言う。
「それが“基準”です」
◇
夜。
受け入れた六体は、それぞれの場所へ。
ミナが、その一体に声をかけている。
ノエルはボードの前。
リナは静かにカップを持っている。
動いている。
この場所は、まだ機能している。
だが――
俺の中には、はっきりと残っている。
**門の外に残した“明日”**が。
◇
屋上。
夜風が強い。
「迷ってますね」
イオリの声。
「当たり前だ」
俺は答える。
「迷わない方が危ない」
イオリは少しだけ頷いた。
「では、続けられます」
「何を」
「このやり方を」
静かな声。
「迷いながら選ぶことができるなら」
俺は空を見る。
何も変わらない夜空。
だが、この場所は確実に変わっている。
守るために切り。
残すために捨て。
進むために迷う。
それでも――
止めない。
――メインクーンの俺が、この場所の“選び続ける覚悟”ごと、背負ってやる。