転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第三十一話:代償の均衡

 

 代償は、消えない。

 

 軽くすることはできる。

 分散することもできる。

 

 だが――

 

 ゼロにはならない。

 

 朝。

 

 ステイ区画は、静かに動いていた。

 

 

 観測者は減った。

 

 ノエルと、もう一体。

 

 黒狼は境界。

 レゴシは巡回。

 ハルはケア。

 イオリは調整。

 

 

 バランスは取れている。

 

 

「……今が一番安定してるね」

 

 ハルが言う。

 

 

「一時的だ」

 

 

 俺は答える。

 

 

 ルイが頷く。

 

 

「均衡は、長くは続かん」

 

 

 ◇

 

 

 その“揺れ”は、昼に来た。

 

 

 正面ゲート。

 

 

 警報が、短く鳴る。

 

 

「……誰だ」

 

 

 モニターを見る。

 

 

 そこにいたのは――

 

 

 群れ。

 

 

 十体以上。

 

 肉食と草食が混ざっている。

 

 

「……おいおい」

 

 ハルが顔をしかめる。

 

 

「団体さんだね」

 

 

 レゴシが低く言う。

 

 

「普通じゃない」

 

 

 その通りだ。

 

 

 この規模で来るのは、“保護”じゃない。

 

 

「開けるか?」

 

 

「開ける」

 

 

 即答。

 

 

「ただし――」

 

 

 俺は続ける。

 

 

「全員は入れない」

 

 

 ◇

 

 

 門前。

 

 

 群れの先頭にいたのは、バッファローの男だった。

 

 

「ここがステイ区画か」

 

 

「そうだ」

 

 

「話は聞いてる」

 

 

 視線が、こちらを測る。

 

 

「連中が来た」

 

 

「連中?」

 

 

「“回収屋”だ」

 

 

 ……来たな。

 

 

「何人やられた」

 

 

「三体」

 

 

 短い返答。

 

 

「で、ここに逃げてきた」

 

 

「そうだ」

 

 

 バッファローは淡々と言う。

 

 

「ここなら止められるってな」

 

 

 ……皮肉だな。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

「全員受け入れは無理だ」

 

 ルイ。

 

 

「分かってる」

 

 

 ハルが言う。

 

 

「でも外に戻したら、確実にやられるよ」

 

 

「知ってる」

 

 

 レゴシが低く言う。

 

 

「……どうする」

 

 

 俺は、少しだけ考えた。

 

 

 ここは“止める場所”。

 

 だが、無制限じゃない。

 

 

 そして今は――

 

 

 内部安定を優先している。

 

 

(なら)

 

 

「選ぶ」

 

 

 ◇

 

 

 門前。

 

 

「条件がある」

 

 

 俺は言う。

 

 

「全部は入れない」

 

 

 群れがざわつく。

 

 

「ふざけるな」

 

 

 バッファローが低く言う。

 

 

「命がかかってる」

 

 

「分かってる」

 

 

 俺は一歩前に出る。

 

 

「だから選ぶ」

 

 

「基準は?」

 

 

「今決める」

 

 

 ◇

 

 

 その場で、判定を始めた。

 

 

 一体ずつ。

 

 

 目を見る。

 呼吸を見る。

 動きを見る。

 

 

 時間はない。

 

 

 だが――

 

 迷う余地もない。

 

 

「お前、止まれるか」

 

 

 最初の個体。

 

 

「……無理だ」

 

 

「関われるか」

 

 

「分からない」

 

 

 ……切る。

 

 

「次」

 

 

 次の個体。

 

 

「止まれる」

 

 

「関われるか」

 

 

「……やる」

 

 

 残す。

 

 

 ◇

 

 

 十数分。

 

 

 結果。

 

 

 六体を受け入れ。

 

 残りを拒否。

 

 

 沈黙。

 

 

 ハルが、歯を食いしばる。

 

 

 レゴシは、何も言わない。

 

 

 バッファローが、低く言う。

 

 

「……それで終わりか」

 

 

「そうだ」

 

 

「残りはどうなる」

 

 

「知らない」

 

 

 静寂。

 

 

「だが」

 

 

 俺は続ける。

 

 

「ここに入ったやつは、守る」

 

 

 バッファローは、しばらく黙っていた。

 

 

 やがて――

 

 

「……分かった」

 

 

 そう言って、引いた。

 

 

 ◇

 

 

 門が閉まる。

 

 

 外に残った個体たち。

 

 

 振り返らない。

 

 

 ただ、去っていく。

 

 

 ハルが、小さく言った。

 

 

「……これ、正しいの?」

 

 

 俺は答えない。

 

 

 レゴシが低く言う。

 

 

「……正しくはない」

 

 

 ルイが続ける。

 

 

「だが、必要だ」

 

 

 イオリが静かに言う。

 

 

「それが“基準”です」

 

 

 ◇

 

 

 夜。

 

 

 受け入れた六体は、それぞれの場所へ。

 

 

 ミナが、その一体に声をかけている。

 

 ノエルはボードの前。

 

 リナは静かにカップを持っている。

 

 

 動いている。

 

 

 この場所は、まだ機能している。

 

 

 だが――

 

 

 俺の中には、はっきりと残っている。

 

 

 **門の外に残した“明日”**が。

 

 

 ◇

 

 

 屋上。

 

 

 夜風が強い。

 

 

「迷ってますね」

 

 

 イオリの声。

 

 

「当たり前だ」

 

 

 俺は答える。

 

 

「迷わない方が危ない」

 

 

 イオリは少しだけ頷いた。

 

 

「では、続けられます」

 

 

「何を」

 

 

「このやり方を」

 

 

 静かな声。

 

 

「迷いながら選ぶことができるなら」

 

 

 俺は空を見る。

 

 

 何も変わらない夜空。

 

 

 だが、この場所は確実に変わっている。

 

 

 守るために切り。

 

 残すために捨て。

 

 進むために迷う。

 

 

 それでも――

 

 

 止めない。

 

 

 ――メインクーンの俺が、この場所の“選び続ける覚悟”ごと、背負ってやる。

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