転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
外に残した明日は、消えない。
だが――
内側に入れたものも、また“そのまま”ではない。
受け入れた六体。
その内訳は、意図的に分散させた。
小型草食が二体。
中型草食が一体。
肉食が三体。
配置もバラした。
同じ動線に固めない。
視線が偏らないようにする。
“群れ”を分解する。
◇
午後。
最初に違和感を出したのは――
肉食の一体。
オオカミではない。
中型の肉食。
ジャッカル。
名前は、ザク。
共有スペースで、座っている。
だが、視線が動かない。
「……どうした」
レゴシが声をかける。
「……静かすぎる」
小さな声。
「何が」
「ここ」
視線は、床。
「外は、音があった」
「ここは、音がない」
……来たな。
適応拒否。
◇
ハルが、ゆっくりと隣に座る。
「静かなの、嫌?」
ザクは少しだけ考えた後――
「……分からない」
「でも、落ち着かない」
いい反応だ。
完全拒否じゃない。
「じゃあさ」
ハルが言う。
「音、作ろうか」
ザクが顔を上げる。
「作る?」
「うん」
ハルは、机を軽く叩く。
トン、トン。
単純なリズム。
「これくらいなら、どう?」
ザクは、少しだけ耳を動かす。
「……それなら」
◇
一方。
別の問題も同時に起きていた。
ノエルだ。
ボードの前。
だが――
書かない。
「どうした」
俺が聞く。
「……分からなくなった」
「何が」
「違和感」
ノエルは小さく言う。
「増えすぎて、区別できない」
……負荷だな。
観測が、飽和している。
◇
詰所。
「想定内だ」
ルイ。
「人数が増えれば、ノイズも増える」
イオリが頷く。
「“精度”が落ちています」
「どうする」
「削る」
俺は即答する。
「観測対象を絞る」
ハルが言う。
「全部見なくていいってこと?」
「そうだ」
◇
ノエルの前に戻る。
「全部見るな」
ノエルが顔を上げる。
「……じゃあ何を」
「一つ決めろ」
「一つ?」
「“これだけは見る”ってやつだ」
沈黙。
数秒後。
「……人の動き」
「理由は」
「一番ズレるから」
いい。
「それでいい」
◇
夜。
全体は、再び動き始めた。
ザクは、リズム音に合わせて呼吸を整える。
ノエルは、人の動きだけを追う。
ミナは、ズレを感じ取る。
リナは、何も見ないことを守る。
役割が、分かれている。
◇
だが――
それでも、影は来る。
午前一時。
ノエルが、ボードに書いた。
『人の動き 遅れる個体あり』
その対象は――
新規の草食。
俺はすぐに動いた。
共有スペース。
その個体は、確かに“遅れている”。
他と、半拍ずれている。
「……止まれ」
俺が言う。
反応が遅い。
そして――
目が合わない。
◇
レゴシが横に立つ。
「こいつ……」
ハルが小さく言う。
「同期、外れてるんじゃなくて……」
イオリが続ける。
「最初から“別”です」
……つまり。
混ざっている。
◇
詰所。
拘束。
その個体は、最初から反応が鈍い。
「名前」
沈黙。
「いつからここにいる」
無反応。
ルイが低く言う。
「……ダミーだな」
俺は頷く。
「観測も、関与もない」
イオリが言う。
「維持もない」
レゴシが、静かに呟く。
「……全部ない」
◇
判断は、早かった。
「切る」
今回は、迷わない。
ハルも、何も言わない。
ただ、小さく目を伏せた。
◇
深夜。
その個体は、外へ出された。
抵抗はない。
反応もない。
ただ――
空っぽだった。
◇
戻る廊下。
ノエルが、ぽつりと言った。
「……分かった」
「何が」
「“中にいる”ってこと」
俺は、少しだけ目を細める。
「説明しろ」
「見るだけじゃダメ」
ノエルは続ける。
「関わるか、止まるか」
「どっちかしないと、ここにいられない」
……いい理解だ。
◇
夜明け前。
ボードの前。
書かれたメモは、少し減っていた。
だが――
質は上がっている。
曖昧な違和感は減り。
明確なズレだけが残る。
この場所は、また変わった。
ただの“選ぶ場所”ではない。
“選ばれ続ける場所”だ。
そして――
そこに残る個体は、もう“受け身”ではない。
関わり。
選び。
支え合う。
それができるものだけが、残る。
◇
屋上。
イオリが、静かに言った。
「安定しています」
「一時的だ」
「ええ」
少しだけ、間。
「ですが」
「次の段階に入れます」
俺は空を見上げる。
「……そうだな」
守るだけじゃない。
切るだけでもない。
外へ出す準備。
ここから先は――
“内側”だけでは完結しない。
――メインクーンの俺が、この場所を“外へ繋げる拠点”に変えてやる。