転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第三十二話:内側に入った影

 

 外に残した明日は、消えない。

 

 だが――

 

 内側に入れたものも、また“そのまま”ではない。

 

 受け入れた六体。

 

 その内訳は、意図的に分散させた。

 

 小型草食が二体。

 中型草食が一体。

 肉食が三体。

 

 

 配置もバラした。

 

 同じ動線に固めない。

 視線が偏らないようにする。

 

 

 “群れ”を分解する。

 

 

 ◇

 

 

 午後。

 

 最初に違和感を出したのは――

 

 肉食の一体。

 

 

 オオカミではない。

 

 中型の肉食。

 ジャッカル。

 

 

 名前は、ザク。

 

 

 共有スペースで、座っている。

 

 だが、視線が動かない。

 

 

「……どうした」

 

 レゴシが声をかける。

 

 

「……静かすぎる」

 

 

 小さな声。

 

 

「何が」

 

 

「ここ」

 

 

 視線は、床。

 

 

「外は、音があった」

 

「ここは、音がない」

 

 

 ……来たな。

 

 

 適応拒否。

 

 

 ◇

 

 

 ハルが、ゆっくりと隣に座る。

 

 

「静かなの、嫌?」

 

 

 ザクは少しだけ考えた後――

 

 

「……分からない」

 

 

「でも、落ち着かない」

 

 

 いい反応だ。

 

 

 完全拒否じゃない。

 

 

「じゃあさ」

 

 

 ハルが言う。

 

 

「音、作ろうか」

 

 

 ザクが顔を上げる。

 

 

「作る?」

 

 

「うん」

 

 

 ハルは、机を軽く叩く。

 

 

 トン、トン。

 

 

 単純なリズム。

 

 

「これくらいなら、どう?」

 

 

 ザクは、少しだけ耳を動かす。

 

 

「……それなら」

 

 

 ◇

 

 

 一方。

 

 

 別の問題も同時に起きていた。

 

 

 ノエルだ。

 

 

 ボードの前。

 

 だが――

 

 書かない。

 

 

「どうした」

 

 俺が聞く。

 

 

「……分からなくなった」

 

 

「何が」

 

 

「違和感」

 

 

 ノエルは小さく言う。

 

 

「増えすぎて、区別できない」

 

 

 ……負荷だな。

 

 

 観測が、飽和している。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

「想定内だ」

 

 ルイ。

 

 

「人数が増えれば、ノイズも増える」

 

 

 イオリが頷く。

 

 

「“精度”が落ちています」

 

 

「どうする」

 

 

「削る」

 

 

 俺は即答する。

 

 

「観測対象を絞る」

 

 

 ハルが言う。

 

 

「全部見なくていいってこと?」

 

 

「そうだ」

 

 

 ◇

 

 

 ノエルの前に戻る。

 

 

「全部見るな」

 

 

 ノエルが顔を上げる。

 

 

「……じゃあ何を」

 

 

「一つ決めろ」

 

 

「一つ?」

 

 

「“これだけは見る”ってやつだ」

 

 

 沈黙。

 

 

 数秒後。

 

 

「……人の動き」

 

 

「理由は」

 

 

「一番ズレるから」

 

 

 いい。

 

 

「それでいい」

 

 

 ◇

 

 

 夜。

 

 

 全体は、再び動き始めた。

 

 

 ザクは、リズム音に合わせて呼吸を整える。

 

 ノエルは、人の動きだけを追う。

 

 ミナは、ズレを感じ取る。

 

 リナは、何も見ないことを守る。

 

 

 役割が、分かれている。

 

 

 ◇

 

 

 だが――

 

 

 それでも、影は来る。

 

 

 午前一時。

 

 

 ノエルが、ボードに書いた。

 

 

『人の動き 遅れる個体あり』

 

 

 その対象は――

 

 新規の草食。

 

 

 俺はすぐに動いた。

 

 

 共有スペース。

 

 

 その個体は、確かに“遅れている”。

 

 

 他と、半拍ずれている。

 

 

「……止まれ」

 

 

 俺が言う。

 

 

 反応が遅い。

 

 

 そして――

 

 

 目が合わない。

 

 

 ◇

 

 

 レゴシが横に立つ。

 

 

「こいつ……」

 

 

 ハルが小さく言う。

 

 

「同期、外れてるんじゃなくて……」

 

 

 イオリが続ける。

 

 

「最初から“別”です」

 

 

 ……つまり。

 

 

 混ざっている。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

 拘束。

 

 

 その個体は、最初から反応が鈍い。

 

 

「名前」

 

 

 沈黙。

 

 

「いつからここにいる」

 

 

 無反応。

 

 

 ルイが低く言う。

 

 

「……ダミーだな」

 

 

 俺は頷く。

 

 

「観測も、関与もない」

 

 

 イオリが言う。

 

 

「維持もない」

 

 

 レゴシが、静かに呟く。

 

 

「……全部ない」

 

 

 ◇

 

 

 判断は、早かった。

 

 

「切る」

 

 

 今回は、迷わない。

 

 

 ハルも、何も言わない。

 

 

 ただ、小さく目を伏せた。

 

 

 ◇

 

 

 深夜。

 

 

 その個体は、外へ出された。

 

 

 抵抗はない。

 

 反応もない。

 

 

 ただ――

 

 

 空っぽだった。

 

 

 ◇

 

 

 戻る廊下。

 

 

 ノエルが、ぽつりと言った。

 

 

「……分かった」

 

 

「何が」

 

 

「“中にいる”ってこと」

 

 

 俺は、少しだけ目を細める。

 

 

「説明しろ」

 

 

「見るだけじゃダメ」

 

 

 ノエルは続ける。

 

 

「関わるか、止まるか」

 

 

「どっちかしないと、ここにいられない」

 

 

 ……いい理解だ。

 

 

 ◇

 

 

 夜明け前。

 

 

 ボードの前。

 

 

 書かれたメモは、少し減っていた。

 

 

 だが――

 

 

 質は上がっている。

 

 

 曖昧な違和感は減り。

 

 明確なズレだけが残る。

 

 

 この場所は、また変わった。

 

 

 ただの“選ぶ場所”ではない。

 

 

 “選ばれ続ける場所”だ。

 

 

 そして――

 

 

 そこに残る個体は、もう“受け身”ではない。

 

 

 関わり。

 選び。

 支え合う。

 

 

 それができるものだけが、残る。

 

 

 ◇

 

 

 屋上。

 

 

 イオリが、静かに言った。

 

 

「安定しています」

 

 

「一時的だ」

 

 

「ええ」

 

 

 少しだけ、間。

 

 

「ですが」

 

 

「次の段階に入れます」

 

 

 俺は空を見上げる。

 

 

「……そうだな」

 

 

 守るだけじゃない。

 

 切るだけでもない。

 

 

 外へ出す準備。

 

 

 ここから先は――

 

 “内側”だけでは完結しない。

 

 

 ――メインクーンの俺が、この場所を“外へ繋げる拠点”に変えてやる。

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