転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第三十三話:外へ出る条件

 

 止める場所は、いずれ“流す場所”になる。

 

 ここに留め続けることはできない。

 外へ出す。

 

 だが――

 

 何を基準に出すか。

 

 そこを誤れば、全部が崩れる。

 

 朝。

 

 詰所の机に、もう一枚の白紙を置いた。

 

 

「次の段階だ」

 

 

 俺が言う。

 

 

 ルイが静かに頷く。

 

「外部連結か」

 

 

「そうだ」

 

 

 ハルが顔を上げる。

 

「……もう出すの?」

 

 

「全員じゃない」

 

 

 レゴシが低く言う。

 

「条件は」

 

 

 俺はペンを取る。

 

 

 そして、三つ書いた。

 

 

 ・単独で自制できるか

 ・外部で関与できるか

 ・戻る意思があるか

 

 

 イオリがすぐに言う。

 

「“戻る意思”ですか」

 

 

「重要だ」

 

 

「なぜ」

 

 

「外は、ここより不安定だ」

 

 

 俺は続ける。

 

 

「戻る場所があると思えないやつは、無理をする」

 

 

 ハルが小さく頷く。

 

 

「……無茶するよね」

 

 

 レゴシも続く。

 

 

「壊れるまで止まらない」

 

 

「そうだ」

 

 

 ◇

 

 

 対象は、すぐに絞れた。

 

 

 ミナ。

 ノエル。

 そして――

 

 ザク。

 

 

 この三体。

 

 

「え、私も?」

 

 

 ミナが少し驚いた顔をする。

 

 

「候補だ」

 

 

「まだ決まってない」

 

 

 ノエルは静かに頷く。

 

 

「……やる」

 

 

 ザクは少しだけ迷ってから言った。

 

 

「……外、行けるのか」

 

 

「試すだけだ」

 

 

 俺は答える。

 

 

「戻ってもいい」

 

 

 ◇

 

 

 テストは、段階的に行う。

 

 

 まずは――

 

 外部接触。

 

 

 施設の外周。

 

 完全な外ではない。

 

 

「ここから先が“外”」

 

 

 俺がラインを示す。

 

 

 ミナは、その線を見つめる。

 

 

「……分かる」

 

 

「何が」

 

 

「違う感じ」

 

 

 いい。

 

 

 ◇

 

 

 最初に出たのは、ノエルだった。

 

 

 一歩。

 

 

 止まる。

 

 

 呼吸。

 

 

「……行ける」

 

 

 二歩目。

 

 

 視線が動く。

 

 

 外の音。

 

 風。

 

 

 だが――

 

 

 戻る。

 

 

「……一回でいい」

 

 

 小さな声。

 

 

「それでいい」

 

 

 俺は頷く。

 

 

 ◇

 

 

 次は、ミナ。

 

 

 線の前で止まる。

 

 

「……怖い」

 

 

 正直だ。

 

 

「怖くていい」

 

 

 ハルが横で言う。

 

 

「怖いまま行って、怖いまま戻ればいい」

 

 

 ミナは、少しだけ笑った。

 

 

「……変なの」

 

 

 一歩。

 

 

 外へ。

 

 

 数秒。

 

 

 そして、戻る。

 

 

「……大丈夫」

 

 

 ◇

 

 

 最後は、ザク。

 

 

 線の前で、長く止まる。

 

 

「……音が違う」

 

 

「そうだ」

 

 

「……でも」

 

 

 深く息を吸う。

 

 

 一歩。

 

 

 外へ出る。

 

 

 その瞬間――

 

 

 肩が、強張る。

 

 

「……ザク」

 

 

 レゴシが声をかける。

 

 

「……いける」

 

 

 だが、声が硬い。

 

 

 二歩目。

 

 

 その瞬間――

 

 

 足が止まる。

 

 

 呼吸が乱れる。

 

 

「……無理だ」

 

 

 小さな声。

 

 

 そして――

 

 

 戻る。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

「どう見る」

 

 ルイ。

 

 

「ノエル、ミナは可」

 

 

「ザクは?」

 

 

「保留」

 

 

 ハルが少しだけ安心した顔をする。

 

 

「無理させないんだね」

 

 

「無理はさせない」

 

 

 イオリが言う。

 

 

「ですが、次は進めます」

 

 

「何を」

 

 

「“接触”です」

 

 

 ◇

 

 

 翌日。

 

 

 外部との接触を作る。

 

 

 相手は――

 

 住民。

 

 

 安全が確認された個体のみ。

 

 短時間。

 

 

「……これ、結構キツいね」

 

 

 ハルが言う。

 

 

「分かってる」

 

 

 レゴシも緊張している。

 

 

「……大丈夫か」

 

 

 ノエルは、静かに答えた。

 

 

「やる」

 

 

 ミナも頷く。

 

 

「……行く」

 

 

 ◇

 

 

 外部接触。

 

 

 距離を取る。

 

 会話はしない。

 

 

 ただ――

 

 同じ空間にいる。

 

 

 数分。

 

 

 何も起きない。

 

 

 だが――

 

 

 それが重要だ。

 

 

 ◇

 

 

 終了後。

 

 

 ミナが、小さく言った。

 

 

「……普通だった」

 

 

 ハルが笑う。

 

 

「それが一番いいやつ」

 

 

 ノエルも頷く。

 

 

「問題ない」

 

 

 ◇

 

 

 夜。

 

 

 詰所。

 

 

「二体、外に出せる」

 

 

 俺が言う。

 

 

 ルイが頷く。

 

 

「早いな」

 

 

「遅くはない」

 

 

 イオリが補足する。

 

 

「適切です」

 

 

 レゴシが小さく息を吐く。

 

 

「……外に出るんだな」

 

 

「そうだ」

 

 

 ◇

 

 

 だが――

 

 

 その時。

 

 

 ノエルが、ぽつりと言った。

 

 

「……戻れるよね」

 

 

 全員がそちらを見る。

 

 

「もちろんだ」

 

 

 俺は即答する。

 

 

「ここは“戻る場所”でもある」

 

 

 ノエルは、少しだけ安心したように頷いた。

 

 

 ◇

 

 

 屋上。

 

 

 イオリが言う。

 

 

「これで、外と繋がります」

 

 

「そうだ」

 

 

「同時に、リスクも増えます」

 

 

「分かってる」

 

 

 少しだけ間。

 

 

「でも、やる」

 

 

 イオリは小さく頷いた。

 

 

 ◇

 

 

 この場所は、変わった。

 

 

 止める場所から。

 

 選ぶ場所へ。

 

 そして――

 

 

 送り出す場所へ。

 

 

 だが、それは終わりじゃない。

 

 

 外に出た瞬間から、また別の物語が始まる。

 

 

 壊れるか。

 

 戻るか。

 

 進むか。

 

 

 それを決めるのは――

 

 

 もう、俺じゃない。

 

 

 ◇

 

 

 夜明け。

 

 

 施設の外を見下ろす。

 

 

 街は、変わらない。

 

 

 だが、この場所は――

 

 

 確実に、世界へ影響を与え始めている。

 

 

 ――メインクーンの俺が、この場所を“外へ広がる起点”にしてやる。

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