転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

34 / 60
第三十五話:価値の流れ

 

 

 価値は、必ず流れる。

 

 止めた場所には、溜まる。

 

 溜まったものは――

 

 必ず狙われる。

 

 夜。

 

 詰所。

 

 

 机の上に、紙を一枚置く。

 

 

「整理する」

 

 

 俺が言う。

 

 

 ルイが椅子に深く腰を下ろす。

 

 

「ようやくか」

 

 

 ハルが首を傾げる。

 

 

「何の整理?」

 

 

 俺は、ペンを走らせる。

 

 

 ・流入

 ・滞留

 ・流出

 

 

 イオリが静かに言う。

 

 

「資源管理のモデルですね」

 

 

「個体を資源と見るならな」

 

 

 レゴシが少しだけ顔をしかめる。

 

 

「……あんまり好きな言い方じゃない」

 

 

「だが現実だ」

 

 

 俺は続ける。

 

 

「外では、個体は“価値”として扱われる」

 

 

「肉食は労働力」

 

「草食は商品」

 

 

 ハルが小さく呟く。

 

 

「……知ってる」

 

 

 ◇

 

 

 ルイが、机に指を置く。

 

 

「問題は“滞留”だ」

 

 

「そうだ」

 

 

 俺は頷く。

 

 

「ここは、流れを止める場所だ」

 

 

「だから、価値が滞留する」

 

 

 イオリが続ける。

 

 

「つまり、“市場から切り離された価値”が集まる」

 

 

「そして、それを再び流そうとする勢力が来る」

 

 

「回収屋だ」

 

 

 レゴシが低く言う。

 

 

「そうだ」

 

 

 ◇

 

 

 ハルが腕を組む。

 

 

「でもさ」

 

 

「何だ」

 

 

「誰が得するの?」

 

 

 いい質問だ。

 

 

 俺は紙に、さらに書く。

 

 

 ・企業

 ・裏市場

 ・行政

 

 

「企業は、労働力が欲しい」

 

「裏市場は、商品が欲しい」

 

「行政は、“問題を見えなくしたい”」

 

 

 沈黙。

 

 

 レゴシが呟く。

 

 

「……全部敵じゃないか」

 

 

「違う」

 

 

 俺は首を振る。

 

 

「全部、利害が違うだけだ」

 

 

 ◇

 

 

 ルイが笑う。

 

 

「つまり、この施設は」

 

 

「三方向から干渉される」

 

 

「そうだ」

 

 

 ◇

 

 

 イオリが補足する。

 

 

「監査局も、その一つです」

 

 

 ハルが目を丸くする。

 

 

「え、イオリも?」

 

 

「ええ」

 

 

 淡々とした返答。

 

 

「我々は“維持”を求める」

 

「ですが、“安定しすぎると予算が削られる”」

 

 

 ……なるほどな。

 

 

「つまり?」

 

 

「適度に問題が必要です」

 

 

 レゴシが眉をひそめる。

 

 

「……それって」

 

 

「現実です」

 

 

 ◇

 

 

 静かな空気。

 

 

 ハルがぽつりと呟く。

 

 

「……全部、綺麗じゃないね」

 

 

「最初からそうだ」

 

 

 俺は答える。

 

 

 ◇

 

 

 その時。

 

 

 ノエルが、ボードから振り返った。

 

 

「……じゃあ」

 

 

「ここって、何なの」

 

 

 全員の視線が集まる。

 

 

 俺は、少しだけ考えてから答えた。

 

 

「“調整点”だ」

 

 

「調整?」

 

 

「流れを完全に止めるんじゃない」

 

「壊れる前に、速度と方向を変える」

 

 

 ノエルは、少しだけ考えた後――

 

 

「……じゃあ、全部止める場所じゃない」

 

 

「そうだ」

 

 

 ◇

 

 

 その認識は、重要だった。

 

 

 ここは“救済”じゃない。

 

 

 流れの中の一部だ。

 

 

 ◇

 

 

 夜。

 

 

 外。

 

 

 街の裏側。

 

 

 暗い路地。

 

 

 そこに、数体の影がいた。

 

 

「……動き出したな」

 

 

 低い声。

 

 

「例の施設か」

 

 

「そうだ」

 

 

「二体、外に出た」

 

 

「確認済みだ」

 

 

 別の声。

 

 

「使えるか?」

 

 

「分からん」

 

 

 短い沈黙。

 

 

「だが、“価値がある”」

 

 

 ◇

 

 

 影の一体が、笑う。

 

 

「なら、試すか」

 

 

「何を」

 

 

「“戻る個体”の価値を」

 

 

 静かな声。

 

 

「外に出て、戻るやつ」

 

「それは、“管理された資源”だ」

 

 

 ◇

 

 

 施設。

 

 

 夜。

 

 

 ミナが、ボードの前に立つ。

 

 

 そして、書く。

 

 

『外の人 “見てる”』

 

 

 短い一文。

 

 

 だが――

 

 

 意味は重い。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

「……来たな」

 

 

 俺が言う。

 

 

 ルイが頷く。

 

 

「認識された以上、当然だ」

 

 

 イオリが静かに言う。

 

 

「次は、“接触”では済みません」

 

 

 レゴシが拳を握る。

 

 

「……来るなら」

 

 

 ハルが続ける。

 

 

「どうするの」

 

 

 少しだけ、間。

 

 

 俺は答える。

 

 

「“外側の線”を引く」

 

 

 ◇

 

 

 ここから先は、内側だけの問題じゃない。

 

 

 外。

 

 市場。

 

 社会。

 

 

 全部が絡む。

 

 

 そして、この場所は――

 

 

 その中心に近づいていく。

 

 

 ◇

 

 

 夜明け前。

 

 

 屋上。

 

 

 街を見下ろす。

 

 

 光の流れ。

 

 人の流れ。

 

 価値の流れ。

 

 

 全部が動いている。

 

 

 止めることはできない。

 

 

 だが――

 

 

 曲げることはできる。

 

 

 ◇

 

 

 俺は、静かに言った。

 

 

「ここを、“流れを変える場所”にする」

 

 

 イオリが頷く。

 

 

「了解です」

 

 

 ◇

 

 

 もう、後戻りはない。

 

 

 この場所は、社会に食い込んだ。

 

 

 なら――

 

 

 徹底的に使う。

 

 

 ――メインクーンの俺が、この世界の“価値の流れ”ごと、書き換えてやる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。