転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
価値は、必ず流れる。
止めた場所には、溜まる。
溜まったものは――
必ず狙われる。
夜。
詰所。
机の上に、紙を一枚置く。
「整理する」
俺が言う。
ルイが椅子に深く腰を下ろす。
「ようやくか」
ハルが首を傾げる。
「何の整理?」
俺は、ペンを走らせる。
・流入
・滞留
・流出
イオリが静かに言う。
「資源管理のモデルですね」
「個体を資源と見るならな」
レゴシが少しだけ顔をしかめる。
「……あんまり好きな言い方じゃない」
「だが現実だ」
俺は続ける。
「外では、個体は“価値”として扱われる」
「肉食は労働力」
「草食は商品」
ハルが小さく呟く。
「……知ってる」
◇
ルイが、机に指を置く。
「問題は“滞留”だ」
「そうだ」
俺は頷く。
「ここは、流れを止める場所だ」
「だから、価値が滞留する」
イオリが続ける。
「つまり、“市場から切り離された価値”が集まる」
「そして、それを再び流そうとする勢力が来る」
「回収屋だ」
レゴシが低く言う。
「そうだ」
◇
ハルが腕を組む。
「でもさ」
「何だ」
「誰が得するの?」
いい質問だ。
俺は紙に、さらに書く。
・企業
・裏市場
・行政
「企業は、労働力が欲しい」
「裏市場は、商品が欲しい」
「行政は、“問題を見えなくしたい”」
沈黙。
レゴシが呟く。
「……全部敵じゃないか」
「違う」
俺は首を振る。
「全部、利害が違うだけだ」
◇
ルイが笑う。
「つまり、この施設は」
「三方向から干渉される」
「そうだ」
◇
イオリが補足する。
「監査局も、その一つです」
ハルが目を丸くする。
「え、イオリも?」
「ええ」
淡々とした返答。
「我々は“維持”を求める」
「ですが、“安定しすぎると予算が削られる”」
……なるほどな。
「つまり?」
「適度に問題が必要です」
レゴシが眉をひそめる。
「……それって」
「現実です」
◇
静かな空気。
ハルがぽつりと呟く。
「……全部、綺麗じゃないね」
「最初からそうだ」
俺は答える。
◇
その時。
ノエルが、ボードから振り返った。
「……じゃあ」
「ここって、何なの」
全員の視線が集まる。
俺は、少しだけ考えてから答えた。
「“調整点”だ」
「調整?」
「流れを完全に止めるんじゃない」
「壊れる前に、速度と方向を変える」
ノエルは、少しだけ考えた後――
「……じゃあ、全部止める場所じゃない」
「そうだ」
◇
その認識は、重要だった。
ここは“救済”じゃない。
流れの中の一部だ。
◇
夜。
外。
街の裏側。
暗い路地。
そこに、数体の影がいた。
「……動き出したな」
低い声。
「例の施設か」
「そうだ」
「二体、外に出た」
「確認済みだ」
別の声。
「使えるか?」
「分からん」
短い沈黙。
「だが、“価値がある”」
◇
影の一体が、笑う。
「なら、試すか」
「何を」
「“戻る個体”の価値を」
静かな声。
「外に出て、戻るやつ」
「それは、“管理された資源”だ」
◇
施設。
夜。
ミナが、ボードの前に立つ。
そして、書く。
『外の人 “見てる”』
短い一文。
だが――
意味は重い。
◇
詰所。
「……来たな」
俺が言う。
ルイが頷く。
「認識された以上、当然だ」
イオリが静かに言う。
「次は、“接触”では済みません」
レゴシが拳を握る。
「……来るなら」
ハルが続ける。
「どうするの」
少しだけ、間。
俺は答える。
「“外側の線”を引く」
◇
ここから先は、内側だけの問題じゃない。
外。
市場。
社会。
全部が絡む。
そして、この場所は――
その中心に近づいていく。
◇
夜明け前。
屋上。
街を見下ろす。
光の流れ。
人の流れ。
価値の流れ。
全部が動いている。
止めることはできない。
だが――
曲げることはできる。
◇
俺は、静かに言った。
「ここを、“流れを変える場所”にする」
イオリが頷く。
「了解です」
◇
もう、後戻りはない。
この場所は、社会に食い込んだ。
なら――
徹底的に使う。
――メインクーンの俺が、この世界の“価値の流れ”ごと、書き換えてやる。