転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第三十六話:外側の線引き

 

 流れを曲げるなら、境界を外に置くしかない。

 

 内側で守るだけでは遅い。

 外で“どこまで踏み込ませるか”を決める。

 

 外側の線を引く。

 朝。

 

 詰所のホワイトボードに、新しい図を描いた。

 

 施設を中心に、同心円。

 

 内圏(ステイ区画)/中圏(外周)/外圏(街区)

 

 

「三層で管理する」

 

 

 俺が言う。

 

 

 ルイが頷く。

 

 

「外圏は触れない。中圏で制御、内圏で保持、か」

 

 

「そうだ」

 

 

 ハルが図を見て言う。

 

 

「外に線を引くって、どうやって?」

 

 

 イオリが答える。

 

 

「“接触の条件”を定義します」

 

 

「条件?」

 

 

「誰が、どこまで近づけるか」

 

 

 レゴシが低く言う。

 

 

「……許可制にするのか」

 

 

「完全な許可制は無理です」

 

 

 イオリは首を振る。

 

 

「だから“反応で線を可視化する”」

 

 

 ◇

 

 

 その日から、中圏に“反応点”を置いた。

 

 

 目立たない。

 だが、確実に分かる仕掛け。

 

 

 ・特定位置での匂い変化

 ・足音の反響差

 ・視線の誘導

 

 

 普通の通行者は気づかない。

 

 だが――

 

 “見ている側”は反応する。

 

 

 ◇

 

 

 夕方。

 

 

 最初に引っかかったのは、二体。

 

 

 中圏の角。

 

 

 匂いの変化点で、足が止まる。

 

 

「……来たな」

 

 

 俺はモニターを見ながら言う。

 

 

 レゴシが身を乗り出す。

 

 

「回収屋か」

 

 

「可能性が高い」

 

 

 イオリが補足する。

 

 

「“線”を探っています」

 

 

 ◇

 

 

 現場。

 

 

 二体の肉食。

 

 

 イタチとキツネ。

 

 

「……ここ、変だな」

 

 

 キツネが言う。

 

 

「匂いが切れてる」

 

 

 イタチが低く笑う。

 

 

「やっぱりな」

 

 

 視線が、施設方向へ向く。

 

 

「“線”引いてやがる」

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

 ルイが静かに言う。

 

 

「認識されたな」

 

 

「想定内だ」

 

 

 俺は答える。

 

 

 ハルが少し不安そうに言う。

 

 

「これ、逆に挑発してない?」

 

 

「してる」

 

 

 即答。

 

 

 ◇

 

 

 夜。

 

 

 その“返答”は早かった。

 

 

 中圏の反応点。

 

 

 意図的に、踏み込まれる。

 

 

 一歩。

 二歩。

 

 

 そして――

 

 

 止まらない。

 

 

「……突破してくる」

 

 

 レゴシが低く言う。

 

 

「止めるか」

 

 

 その問いに、俺は首を振る。

 

 

「まだだ」

 

 

 ◇

 

 

 肉食二体は、中圏を越える。

 

 

 だが、内圏の手前で――

 

 

 足が止まる。

 

 

 空気が違う。

 

 

 “中”の密度。

 

 

「……ここから先は違うな」

 

 

 キツネが言う。

 

 

「入るか?」

 

 

 イタチが笑う。

 

 

「試すか」

 

 

 その瞬間――

 

 

 レゴシが現れた。

 

 

 無音。

 

 

 だが、圧がある。

 

 

「……そこまでだ」

 

 

 低い声。

 

 

 肉食二体が、わずかに身構える。

 

 

「警備か?」

 

 

「違う」

 

 

 レゴシは短く言う。

 

 

「“線”だ」

 

 

 ◇

 

 

 数秒の対峙。

 

 

 キツネが、肩をすくめる。

 

 

「今日はここまでにしとくか」

 

 

 イタチも頷く。

 

 

「様子見だ」

 

 

 二体は、ゆっくりと引いた。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

 ハルが息を吐く。

 

 

「……来たね」

 

 

「来たな」

 

 

 ルイが言う。

 

 

「これで“外側の線”は成立した」

 

 

 イオリが続ける。

 

 

「少なくとも、“認識される線”としては」

 

 

 ◇

 

 

 だが――

 

 

 問題はそこじゃない。

 

 

 ノエルが、ボードに書いた。

 

 

『外 “待ってる”』

 

 

 短い一文。

 

 

 俺はそれを見て、理解する。

 

 

「……中に来ない」

 

 

 レゴシが言う。

 

 

「外で待つ気だ」

 

 

 ハルが眉をひそめる。

 

 

「それって」

 

 

「“戻る個体”を狙う」

 

 

 イオリが静かに言う。

 

 

 ◇

 

 

 つまり。

 

 

 施設は守れても――

 

 

 出た瞬間を狙われる。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

 沈黙。

 

 

 ルイが低く言う。

 

 

「どうする」

 

 

 俺は、少しだけ考えた。

 

 

 内側の線は引いた。

 

 外側の線も見せた。

 

 

 だが――

 

 

 その間が、空いている。

 

 

(なら)

 

 

「“同行”を入れる」

 

 

 レゴシが顔を上げる。

 

 

「護衛か」

 

 

「違う」

 

 

 俺は首を振る。

 

 

「“観測付き外出”だ」

 

 

 ハルが理解した顔をする。

 

 

「一人で出さない?」

 

 

「そうだ」

 

 

 イオリが頷く。

 

 

「外でも“役割”を持たせるわけですね」

 

 

 ◇

 

 

 その夜。

 

 

 新しいルールが決まる。

 

 

 ・単独外出禁止

 ・ペアでの外出

 ・観測者同行

 

 

 ノエルが、小さく言った。

 

 

「……じゃあ私は、外でも見る」

 

 

「そうだ」

 

 

 俺は答える。

 

 

 ◇

 

 

 屋上。

 

 

 街を見下ろす。

 

 

 流れは変わらない。

 

 

 だが――

 

 

 線は引いた。

 

 

 内側。

 

 外側。

 

 そして、その間。

 

 

 全部、管理する。

 

 

 ◇

 

 

 イオリが隣で言う。

 

 

「拠点化が進んでいます」

 

 

「そうだ」

 

 

「もう“施設”ではありません」

 

 

 少しだけ、間。

 

 

 俺は答える。

 

 

「最初からそのつもりだ」

 

 

 ◇

 

 

 ここは、止める場所じゃない。

 

 

 流れを変える場所。

 

 

 そして――

 

 

 外と内を繋ぐ、節点だ。

 

 

 ――メインクーンの俺が、この場所を“世界の流れを制御する一点”にしてやる。

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