転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第三十七話:節点の代価

 

 節点は、流れを変える。

 

 だが同時に――

 

 全ての流れが集まる場所になる。

 

 朝。

 

 詰所の空気は、静かに張り詰めていた。

 

 

 昨夜の外側の線引き。

 

 その結果が、もう出始めている。

 

 

「報告」

 

 

 イオリが短く言う。

 

 

「中圏外での滞留個体、増加」

 

 

 ルイが眉を上げる。

 

 

「集まっているか」

 

 

「ええ」

 

 

 ハルが不安そうに言う。

 

 

「……囲まれてない?」

 

 

「まだ“観察段階”だ」

 

 

 俺は答える。

 

 

「だが、時間の問題だ」

 

 

 ◇

 

 

 モニター。

 

 

 中圏の外側。

 

 

 点在していた影が――

 

 

 少しずつ、まとまり始めている。

 

 

「……連携してる」

 

 

 レゴシが低く言う。

 

 

「バラじゃないな」

 

 

「そうだ」

 

 

 俺は頷く。

 

 

「誰かが束ねてる」

 

 

 ◇

 

 

 その“誰か”は、すぐに姿を見せた。

 

 

 昼。

 

 

 正面ゲート前。

 

 

 一体の獣が立っている。

 

 

 中型。

 

 細身。

 

 

 種族は――

 

 ハイエナ。

 

 

 笑っている。

 

 だが、目は笑っていない。

 

 

「……管理者はいるか?」

 

 

 軽い声。

 

 

 レゴシが一歩前に出る。

 

 

「用件は」

 

 

「交渉だ」

 

 

 その一言で、空気が変わる。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

 全員が揃う。

 

 

 ハイエナは、椅子に浅く腰掛けた。

 

 

「初めまして」

 

 

 軽く頭を下げる。

 

 

「外の“調整役”だと思ってくれ」

 

 

 ルイが低く言う。

 

 

「名は?」

 

 

「グレイ」

 

 

 短い返答。

 

 

 ◇

 

 

「で?」

 

 

 俺が言う。

 

 

「何を調整する」

 

 

 グレイは笑った。

 

 

「簡単だ」

 

 

「お前らの“流し方”だよ」

 

 

 沈黙。

 

 

 ハルが小さく言う。

 

 

「……何それ」

 

 

 グレイは続ける。

 

 

「ここ、いい場所だ」

 

 

「壊れかけを止めて、整えて、外に出す」

 

 

「最高の“再加工ライン”だ」

 

 

 レゴシの眉が、ぴくりと動く。

 

 

 ◇

 

 

「で、提案だ」

 

 

 グレイは、軽く指を立てる。

 

 

「出す個体、こっちで引き取る」

 

 

「その代わり――」

 

 

 少しだけ間を置く。

 

 

「外の連中、散らしてやる」

 

 

 静寂。

 

 

 ◇

 

 

 ルイが低く笑う。

 

 

「つまり、外注か」

 

 

「そういうこと」

 

 

 グレイは頷く。

 

 

「お前らは内側に集中できる」

 

「外は俺らが回す」

 

 

 イオリが静かに言う。

 

 

「代償は」

 

 

「簡単だ」

 

 

 グレイは笑う。

 

 

「“優先的に流す”だけでいい」

 

 

 ◇

 

 

 意味は明確だった。

 

 

 “価値のある個体”を、向こうに回す。

 

 

 その代わり、外を安定させる。

 

 

 合理的だ。

 

 

 だが――

 

 

「却下だ」

 

 

 俺は即答した。

 

 

 ◇

 

 

 グレイが、わずかに目を細める。

 

 

「早いな」

 

 

「話にならない」

 

 

 俺は続ける。

 

 

「ここは“選ぶ場所”だ」

 

「流す先を外に委ねる気はない」

 

 

 グレイは肩をすくめる。

 

 

「もったいないな」

 

 

「全部抱える気か?」

 

 

「必要な分だけだ」

 

 

 ◇

 

 

 数秒の沈黙。

 

 

 そして――

 

 

 グレイが、笑った。

 

 

「……いいね」

 

 

 その笑みは、先ほどまでと違う。

 

 

「嫌いじゃない」

 

 

 ◇

 

 

「じゃあ、条件を変えよう」

 

 

 グレイは続ける。

 

 

「“売らない”でいい」

 

 

「代わりに――」

 

 

 その目が、鋭くなる。

 

 

「“競合させる”」

 

 

 ◇

 

 

「競合?」

 

 

 ハルが呟く。

 

 

「そう」

 

 

 グレイは頷く。

 

 

「外で、“同じ基準”でやるやつを作る」

 

 

 静寂。

 

 

 ルイが低く言う。

 

 

「……コピーか」

 

 

「違うな」

 

 

 グレイは笑う。

 

 

「“対抗”だ」

 

 

 ◇

 

 

 つまり。

 

 

 同じような施設を、外に作る。

 

 

 基準も似せる。

 

 

 だが――

 

 

 流し先は別。

 

 

 結果。

 

 

 価値の奪い合いになる。

 

 

 ◇

 

 

「断る」

 

 

 俺は即答する。

 

 

 だが――

 

 

 グレイは、笑ったままだ。

 

 

「断れると思うか?」

 

 

 その一言で、空気が変わる。

 

 

 ◇

 

 

「もう始まってる」

 

 

 グレイは、ゆっくり立ち上がる。

 

 

「お前らが外に出した時点でな」

 

 

 沈黙。

 

 

「価値は流れた」

 

「なら、奪い合いになる」

 

 

 ◇

 

 

 ドアへ向かう。

 

 

「選べよ」

 

 

 振り返らずに言う。

 

 

「閉じるか」

 

「広げるか」

 

 

 そして――

 

 

「どっちにしても、俺らは関わる」

 

 

 去っていく。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

 重い沈黙。

 

 

 ハルが、小さく言う。

 

 

「……最悪だね」

 

 

「想定内だ」

 

 

 俺は答える。

 

 

 レゴシが低く言う。

 

 

「……どうする」

 

 

 ルイが静かに言う。

 

 

「閉じれば、外で増殖する」

 

 

 イオリが続ける。

 

 

「広げれば、競合に巻き込まれる」

 

 

 ◇

 

 

 全員の視線が、俺に集まる。

 

 

 少しだけ、間。

 

 

 俺は答える。

 

 

「両方やる」

 

 

 ◇

 

 

 ハルが目を見開く。

 

 

「え?」

 

 

「内側は閉じる」

 

「外側は広げる」

 

 

 レゴシが眉をひそめる。

 

 

「どういうことだ」

 

 

「“基準だけ外に出す”」

 

 

 ◇

 

 

 ルイが理解した顔をする。

 

 

「……なるほど」

 

 

「施設は増やさない」

 

「だが、“やり方”は広げる」

 

 

 イオリが頷く。

 

 

「流れを制御したまま、拡張するわけですね」

 

 

 ◇

 

 

 夜。

 

 

 屋上。

 

 

 街の灯りが広がる。

 

 

 流れは、もう止められない。

 

 

 なら――

 

 

 流れそのものを設計する。

 

 

 ◇

 

 

 俺は、静かに言った。

 

 

「競合するなら、させる」

 

 

「その上で、上に立つ」

 

 

 イオリが小さく頷く。

 

 

「了解です」

 

 

 ◇

 

 

 節点は、ただの点じゃない。

 

 

 広がる。

 

 繋がる。

 

 増える。

 

 

 そして――

 

 

 世界の構造を変える。

 

 

 ――メインクーンの俺が、この場所を“価値の基準そのもの”にしてやる。

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