転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
節点は、流れを変える。
だが同時に――
全ての流れが集まる場所になる。
朝。
詰所の空気は、静かに張り詰めていた。
昨夜の外側の線引き。
その結果が、もう出始めている。
「報告」
イオリが短く言う。
「中圏外での滞留個体、増加」
ルイが眉を上げる。
「集まっているか」
「ええ」
ハルが不安そうに言う。
「……囲まれてない?」
「まだ“観察段階”だ」
俺は答える。
「だが、時間の問題だ」
◇
モニター。
中圏の外側。
点在していた影が――
少しずつ、まとまり始めている。
「……連携してる」
レゴシが低く言う。
「バラじゃないな」
「そうだ」
俺は頷く。
「誰かが束ねてる」
◇
その“誰か”は、すぐに姿を見せた。
昼。
正面ゲート前。
一体の獣が立っている。
中型。
細身。
種族は――
ハイエナ。
笑っている。
だが、目は笑っていない。
「……管理者はいるか?」
軽い声。
レゴシが一歩前に出る。
「用件は」
「交渉だ」
その一言で、空気が変わる。
◇
詰所。
全員が揃う。
ハイエナは、椅子に浅く腰掛けた。
「初めまして」
軽く頭を下げる。
「外の“調整役”だと思ってくれ」
ルイが低く言う。
「名は?」
「グレイ」
短い返答。
◇
「で?」
俺が言う。
「何を調整する」
グレイは笑った。
「簡単だ」
「お前らの“流し方”だよ」
沈黙。
ハルが小さく言う。
「……何それ」
グレイは続ける。
「ここ、いい場所だ」
「壊れかけを止めて、整えて、外に出す」
「最高の“再加工ライン”だ」
レゴシの眉が、ぴくりと動く。
◇
「で、提案だ」
グレイは、軽く指を立てる。
「出す個体、こっちで引き取る」
「その代わり――」
少しだけ間を置く。
「外の連中、散らしてやる」
静寂。
◇
ルイが低く笑う。
「つまり、外注か」
「そういうこと」
グレイは頷く。
「お前らは内側に集中できる」
「外は俺らが回す」
イオリが静かに言う。
「代償は」
「簡単だ」
グレイは笑う。
「“優先的に流す”だけでいい」
◇
意味は明確だった。
“価値のある個体”を、向こうに回す。
その代わり、外を安定させる。
合理的だ。
だが――
「却下だ」
俺は即答した。
◇
グレイが、わずかに目を細める。
「早いな」
「話にならない」
俺は続ける。
「ここは“選ぶ場所”だ」
「流す先を外に委ねる気はない」
グレイは肩をすくめる。
「もったいないな」
「全部抱える気か?」
「必要な分だけだ」
◇
数秒の沈黙。
そして――
グレイが、笑った。
「……いいね」
その笑みは、先ほどまでと違う。
「嫌いじゃない」
◇
「じゃあ、条件を変えよう」
グレイは続ける。
「“売らない”でいい」
「代わりに――」
その目が、鋭くなる。
「“競合させる”」
◇
「競合?」
ハルが呟く。
「そう」
グレイは頷く。
「外で、“同じ基準”でやるやつを作る」
静寂。
ルイが低く言う。
「……コピーか」
「違うな」
グレイは笑う。
「“対抗”だ」
◇
つまり。
同じような施設を、外に作る。
基準も似せる。
だが――
流し先は別。
結果。
価値の奪い合いになる。
◇
「断る」
俺は即答する。
だが――
グレイは、笑ったままだ。
「断れると思うか?」
その一言で、空気が変わる。
◇
「もう始まってる」
グレイは、ゆっくり立ち上がる。
「お前らが外に出した時点でな」
沈黙。
「価値は流れた」
「なら、奪い合いになる」
◇
ドアへ向かう。
「選べよ」
振り返らずに言う。
「閉じるか」
「広げるか」
そして――
「どっちにしても、俺らは関わる」
去っていく。
◇
詰所。
重い沈黙。
ハルが、小さく言う。
「……最悪だね」
「想定内だ」
俺は答える。
レゴシが低く言う。
「……どうする」
ルイが静かに言う。
「閉じれば、外で増殖する」
イオリが続ける。
「広げれば、競合に巻き込まれる」
◇
全員の視線が、俺に集まる。
少しだけ、間。
俺は答える。
「両方やる」
◇
ハルが目を見開く。
「え?」
「内側は閉じる」
「外側は広げる」
レゴシが眉をひそめる。
「どういうことだ」
「“基準だけ外に出す”」
◇
ルイが理解した顔をする。
「……なるほど」
「施設は増やさない」
「だが、“やり方”は広げる」
イオリが頷く。
「流れを制御したまま、拡張するわけですね」
◇
夜。
屋上。
街の灯りが広がる。
流れは、もう止められない。
なら――
流れそのものを設計する。
◇
俺は、静かに言った。
「競合するなら、させる」
「その上で、上に立つ」
イオリが小さく頷く。
「了解です」
◇
節点は、ただの点じゃない。
広がる。
繋がる。
増える。
そして――
世界の構造を変える。
――メインクーンの俺が、この場所を“価値の基準そのもの”にしてやる。