転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
基準は、武器になる。
だが同時に――
模倣される。
朝。
詰所の空気は、いつもより静かだった。
昨夜のグレイの言葉。
――「もう始まってる」
あれは脅しじゃない。
事実だ。
「報告」
イオリが短く言う。
「外圏で、類似活動を確認」
ルイが目を細める。
「早いな」
「準備していたのでしょう」
◇
モニター。
街区の一角。
簡易施設。
粗い。
だが――
やっていることは同じだ。
個体を止める。
状態を測る。
選ぶ。
「……真似てる」
ハルが呟く。
「そうだ」
俺は答える。
「だが、“同じ”じゃない」
◇
違いは、すぐに分かった。
「基準が浅い」
ルイが言う。
「短期でしか見ていない」
イオリが補足する。
「維持の概念が弱い」
レゴシが低く言う。
「……戻る場所がない」
その通りだ。
あれは、“選んで流すだけ”だ。
戻さない。
◇
ハルが、少しだけ顔をしかめる。
「……それって」
「壊れる」
俺は即答する。
「外でな」
◇
問題はそこじゃない。
ノエルが、ボードに書いた。
『外の人 増えてる』
短い一文。
意味は明確だ。
“選ばれたい個体”が増えている。
◇
詰所。
「流れが変わったな」
ルイが言う。
「外から来る理由が、“逃げる”から“選ばれる”に変わった」
ハルが目を見開く。
「え、それって……」
「競争だ」
俺は答える。
◇
午後。
門前。
新たな来訪者。
単体。
中型草食。
「……ここに来れば、選ばれるって聞いた」
小さな声。
レゴシが眉をひそめる。
「誰に」
「分からない」
だが、その目は――
“期待”している。
◇
詰所。
「……来たね」
ハルが言う。
「想定通りだ」
俺は答える。
イオリが静かに言う。
「基準が、外に伝播しています」
ルイが低く笑う。
「“ブランド化”だな」
◇
問題は、ここからだ。
“選ばれるために来る個体”は――
本来の状態じゃない。
作る。
装う。
隠す。
つまり――
「精度が落ちる」
俺は言った。
◇
対策は即断だった。
「“崩す”」
ハルが首を傾げる。
「何を?」
「“作られた状態”を」
◇
テスト。
単純なもの。
待たせる。
何もしない。
時間だけが過ぎる。
十分。
二十分。
三十分。
その個体は――
落ち着いている。
「……いい感じじゃない?」
ハルが言う。
だが――
俺は首を振る。
「まだだ」
◇
次の段階。
“無意味な指示”を出す。
「そこに立て」
立つ。
「座れ」
座る。
「もう一度立て」
立つ。
……従順だ。
だが――
「止まれ」
その瞬間。
わずかに、遅れる。
◇
「……見えた」
ノエルが言う。
「何が」
「“合わせてる”」
◇
つまり。
“選ばれるために動いている”。
本来の状態じゃない。
◇
判定。
「保留」
俺は言う。
ハルが小さく息を吐く。
「……厳しくなってきたね」
「当然だ」
◇
夜。
外圏。
グレイが、別の個体と話している。
「どうだ」
「流れてる」
短い返答。
「向こうは?」
「精度を上げてきてる」
グレイが笑う。
「いいね」
「じゃあ、次だ」
◇
「何をやる」
隣の個体が聞く。
グレイは、少しだけ考えて――
「“壊す側”を増やす」
静かな声。
「中に入れないなら、外で崩す」
◇
施設。
夜。
ノエルが、ボードに書いた。
『外 動き 増加』
その一文で、全員が理解する。
次は、来る。
もっと多く。
もっと強く。
◇
詰所。
「……どうする」
レゴシが言う。
俺は、少しだけ考えた。
基準は広がった。
流れも変わった。
なら――
次は。
「“外で測る”」
◇
ハルが目を見開く。
「外で?」
「そうだ」
「中に来る前に、選ぶ」
イオリが頷く。
「前段階の設置ですね」
◇
屋上。
夜風が強い。
街の光が、流れている。
この場所は、もう中心にいる。
なら――
外に触れる。
外で選ぶ。
外で止める。
◇
俺は、静かに言った。
「内と外の間に、もう一つ層を作る」
イオリが小さく頷く。
「了解です」
◇
基準は、広がる。
だが、それを制御できるのは――
最初に作った側だけだ。
――メインクーンの俺が、この世界の“選別の構造”そのものを掌握してやる。