転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第三十八話:基準の拡散

 

 基準は、武器になる。

 

 だが同時に――

 

 模倣される。

 

 朝。

 

 詰所の空気は、いつもより静かだった。

 

 

 昨夜のグレイの言葉。

 

 

 ――「もう始まってる」

 

 

 あれは脅しじゃない。

 

 事実だ。

 

 

「報告」

 

 

 イオリが短く言う。

 

 

「外圏で、類似活動を確認」

 

 

 ルイが目を細める。

 

 

「早いな」

 

 

「準備していたのでしょう」

 

 

 ◇

 

 

 モニター。

 

 

 街区の一角。

 

 

 簡易施設。

 

 

 粗い。

 

 だが――

 

 

 やっていることは同じだ。

 

 

 個体を止める。

 状態を測る。

 選ぶ。

 

 

「……真似てる」

 

 

 ハルが呟く。

 

 

「そうだ」

 

 

 俺は答える。

 

 

「だが、“同じ”じゃない」

 

 

 ◇

 

 

 違いは、すぐに分かった。

 

 

「基準が浅い」

 

 

 ルイが言う。

 

 

「短期でしか見ていない」

 

 

 イオリが補足する。

 

 

「維持の概念が弱い」

 

 

 レゴシが低く言う。

 

 

「……戻る場所がない」

 

 

 その通りだ。

 

 

 あれは、“選んで流すだけ”だ。

 

 

 戻さない。

 

 

 ◇

 

 

 ハルが、少しだけ顔をしかめる。

 

 

「……それって」

 

 

「壊れる」

 

 

 俺は即答する。

 

 

「外でな」

 

 

 ◇

 

 

 問題はそこじゃない。

 

 

 ノエルが、ボードに書いた。

 

 

『外の人 増えてる』

 

 

 短い一文。

 

 

 意味は明確だ。

 

 

 “選ばれたい個体”が増えている。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

「流れが変わったな」

 

 

 ルイが言う。

 

 

「外から来る理由が、“逃げる”から“選ばれる”に変わった」

 

 

 ハルが目を見開く。

 

 

「え、それって……」

 

 

「競争だ」

 

 

 俺は答える。

 

 

 ◇

 

 

 午後。

 

 

 門前。

 

 

 新たな来訪者。

 

 

 単体。

 

 

 中型草食。

 

 

「……ここに来れば、選ばれるって聞いた」

 

 

 小さな声。

 

 

 レゴシが眉をひそめる。

 

 

「誰に」

 

 

「分からない」

 

 

 だが、その目は――

 

 

 “期待”している。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

「……来たね」

 

 

 ハルが言う。

 

 

「想定通りだ」

 

 

 俺は答える。

 

 

 イオリが静かに言う。

 

 

「基準が、外に伝播しています」

 

 

 ルイが低く笑う。

 

 

「“ブランド化”だな」

 

 

 ◇

 

 

 問題は、ここからだ。

 

 

 “選ばれるために来る個体”は――

 

 

 本来の状態じゃない。

 

 

 作る。

 

 装う。

 

 隠す。

 

 

 つまり――

 

 

「精度が落ちる」

 

 

 俺は言った。

 

 

 ◇

 

 

 対策は即断だった。

 

 

「“崩す”」

 

 

 ハルが首を傾げる。

 

 

「何を?」

 

 

「“作られた状態”を」

 

 

 ◇

 

 

 テスト。

 

 

 単純なもの。

 

 

 待たせる。

 

 

 何もしない。

 

 

 時間だけが過ぎる。

 

 

 十分。

 

 二十分。

 

 三十分。

 

 

 その個体は――

 

 

 落ち着いている。

 

 

「……いい感じじゃない?」

 

 

 ハルが言う。

 

 

 だが――

 

 

 俺は首を振る。

 

 

「まだだ」

 

 

 ◇

 

 

 次の段階。

 

 

 “無意味な指示”を出す。

 

 

「そこに立て」

 

 

 立つ。

 

 

「座れ」

 

 

 座る。

 

 

「もう一度立て」

 

 

 立つ。

 

 

 ……従順だ。

 

 

 だが――

 

 

「止まれ」

 

 

 その瞬間。

 

 

 わずかに、遅れる。

 

 

 ◇

 

 

「……見えた」

 

 

 ノエルが言う。

 

 

「何が」

 

 

「“合わせてる”」

 

 

 ◇

 

 

 つまり。

 

 

 “選ばれるために動いている”。

 

 

 本来の状態じゃない。

 

 

 ◇

 

 

 判定。

 

 

「保留」

 

 

 俺は言う。

 

 

 ハルが小さく息を吐く。

 

 

「……厳しくなってきたね」

 

 

「当然だ」

 

 

 ◇

 

 

 夜。

 

 

 外圏。

 

 

 グレイが、別の個体と話している。

 

 

「どうだ」

 

 

「流れてる」

 

 

 短い返答。

 

 

「向こうは?」

 

 

「精度を上げてきてる」

 

 

 グレイが笑う。

 

 

「いいね」

 

 

「じゃあ、次だ」

 

 

 ◇

 

 

「何をやる」

 

 

 隣の個体が聞く。

 

 

 グレイは、少しだけ考えて――

 

 

「“壊す側”を増やす」

 

 

 静かな声。

 

 

「中に入れないなら、外で崩す」

 

 

 ◇

 

 

 施設。

 

 

 夜。

 

 

 ノエルが、ボードに書いた。

 

 

『外 動き 増加』

 

 

 その一文で、全員が理解する。

 

 

 次は、来る。

 

 

 もっと多く。

 

 もっと強く。

 

 

 ◇

 

 

 詰所。

 

 

「……どうする」

 

 

 レゴシが言う。

 

 

 俺は、少しだけ考えた。

 

 

 基準は広がった。

 

 流れも変わった。

 

 

 なら――

 

 

 次は。

 

 

「“外で測る”」

 

 

 ◇

 

 

 ハルが目を見開く。

 

 

「外で?」

 

 

「そうだ」

 

 

「中に来る前に、選ぶ」

 

 

 イオリが頷く。

 

 

「前段階の設置ですね」

 

 

 ◇

 

 

 屋上。

 

 

 夜風が強い。

 

 

 街の光が、流れている。

 

 

 この場所は、もう中心にいる。

 

 

 なら――

 

 

 外に触れる。

 

 

 外で選ぶ。

 

 

 外で止める。

 

 

 ◇

 

 

 俺は、静かに言った。

 

 

「内と外の間に、もう一つ層を作る」

 

 

 イオリが小さく頷く。

 

 

「了解です」

 

 

 ◇

 

 

 基準は、広がる。

 

 

 だが、それを制御できるのは――

 

 

 最初に作った側だけだ。

 

 

 ――メインクーンの俺が、この世界の“選別の構造”そのものを掌握してやる。

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