転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
入口を作れば、次に問われるのは出口だ。
入れるだけの場所は、やがて溜まり場になる。
溜まれば濁る。
濁れば沈む。
だから、流す。
“途中”に来たものを、どこへ出すか。
それを決めるのが──出口の設計だ。
朝。
詰所のホワイトボードには、新しい枠が追加されていた。
緩衝帯フロー図。
入口。
滞在。
分岐。
出口。
単純に見えるが、ここが一番難しい。
ハルが図を見て言う。
「なんか、迷路みたい」
「迷路だ」
「迷わせるの?」
「違う」
俺は答えた。
「迷ったやつが、詰まらないようにする」
レゴシが頷く。
「詰まると、沈む」
「そうだ」
◇
出口は三つに分けた。
一、内側接続(ステイ区画・前圏観測所)
二、外部再接続(地域協力店・軽負荷施設)
三、別系統移送(安全管理局・医療機関)
そして──
四、保留。
これが一番厄介だ。
ハルが指さす。
「これ、ずっとここにいるやつ?」
「違う」
「違うの?」
「動かないやつを動かすための保留だ」
カナンが聞く。
「どういう意味ですか」
「選ばせる」
沈黙。
ライカが小さく言う。
「選べないから、途中に来るんじゃ……」
「そうだ」
俺は頷く。
「だから選ばせる」
矛盾している。
だが、必要だ。
◇
具体的にはこうだ。
滞在三日。
その間は何も強制しない。
観測のみ。
四日目。
必ず一度、“出口に立たせる”。
内側でもいい。
外でもいい。
別系統でもいい。
選ばせる。
選べなければ?
もう一度戻す。
ただし、二回目は条件が変わる。
誰かと一緒に選ぶ。
レゴシが反応した。
「一緒に?」
「そうだ」
「誰と」
黒狼が笑う。
「俺らだろ」
◇
この“同行選択”は、かなり荒い方法だ。
だが効果はある。
完全に止まった個体は、自分だけでは選べない。
だが、誰かが横にいれば動ける。
それは依存ではない。
借りるだけだ。
ハルが言う。
「ずっと一緒じゃないんだよね」
「一回だけだ」
「それなら……いいかも」
◇
問題は人員だ。
同行役を誰がやるか。
レゴシは当然手を挙げた。
「俺、やる」
黒狼も言う。
「俺も」
カナンが少し迷ってから言った。
「……俺も、できるなら」
ライカは黙っていたが、視線は外さなかった。
ハルがそれを見て、小さく言う。
「焦らなくていいよ」
ライカは頷いた。
◇
午後。
最初の“出口運用”が行われた。
対象は三体。
一体目。
クロウ。
情報提供者であり、滞在三日目。
クロウはあっさり言った。
「外に戻る」
「理由は」
「ここ、静かすぎる」
黒狼が笑う。
「合わねえか」
「合わねえ」
それでいい。
クロウは外部再接続へ回した。
地域協力店の一つ、夜間配送拠点。
クロウの性質には合う。
◇
二体目。
フェレット。
灯り係。
四日目。
出口へ連れて行く。
レゴシが同行した。
「どこ行きたい?」
フェレットはしばらく黙る。
灯りを見る。
出口を見る。
そして、ぽつりと言った。
「……灯り、持っていっていい?」
ハルが目を丸くする。
「え?」
フェレットは続ける。
「外、暗いとこ多い」
レゴシがゆっくり頷く。
「持っていこう」
結果。
フェレットは外部再接続へ。
ただし役割付き。
灯りの運搬と設置。
帰り道の灯りを増やす側へ回った。
これは予想外だが、いい流れだ。
◇
三体目。
バルド。
最も重い。
四日目。
出口に立たせる。
レゴシと黒狼が同行。
バルドは出口で止まる。
「……どこ行っても、壊す気がする」
レゴシが言う。
「じゃあ、壊さない場所に行こう」
「そんなのあるのか」
「ある」
黒狼が鼻で笑う。
「ねえよ」
レゴシが困る。
「いや……ある」
バルドが小さく笑う。
「どっちだ」
黒狼が肩をすくめる。
「壊してもいい場所ならある」
沈黙。
俺が口を開いた。
「前圏観測所」
レゴシが頷く。
「そこで、観測する」
バルドは考える。
長い沈黙。
やがて、言った。
「……壊したら?」
「止める」
レゴシが言う。
「壊れたら?」
「戻す」
バルドは目を閉じた。
そして、頷いた。
「……行く」
◇
こうして、最初の出口運用は成功した。
三体。
それぞれ違う出口へ。
流れた。
詰まらなかった。
これが重要だ。
◇
だが、当然反応は来る。
翌日。
議会。
新しい批判。
“緩衝帯は、責任の所在を曖昧にする”
当然だ。
内でも外でもない。
誰が責任を持つのか。
ルイが言う。
「これは強い」
「分かってる」
「どう返す」
俺は少し考えた。
そして言った。
「責任を分割する」
ハルが顔をしかめる。
「分割?」
「そうだ」
イオリがすぐに補足する。
「入口、滞在、出口、それぞれに責任主体を設定します」
「入口は?」
「前圏観測」
「滞在は?」
「ステイ区画」
「出口は?」
「接続先」
ハルがため息をつく。
「ややこしい……」
「だから制度だ」
◇
さらに問題。
外側。
グレイの動き。
クロウが戻ってきた情報。
「南部で、“途中”に似た場所を作ろうとしてる」
全員が固まる。
「真似か」
「違う」
クロウは首を振る。
「囲うつもりだ」
黒狼が舌打ちする。
「檻か」
「多分な」
つまり。
緩衝帯の概念を利用し、隔離施設を作る。
しかも“途中”と名乗る可能性もある。
最悪だ。
ハルが言う。
「それ、絶対混ざるよ」
「混ざる」
ルイが言う。
「だから先に定義を固める」
イオリが頷く。
「出入り自由、観測開示、強制収容禁止。これを外せば“途中”ではない」
「名前を守るか」
俺は言った。
「名前じゃない」
ハルが言う。
「中身でしょ」
……その通りだ。
◇
夜。
“途中”の見回り。
空いた場所に、新しい獣が一体入った。
若い草食。
震えている。
だが、逃げない。
灯りを見る。
壁の文を見る。
そして、座る。
それだけ。
それでいい。
途中は、それを許す場所だ。
◇
屋上。
イオリが言う。
「流れができました」
「まだ細い」
「ですが、止まっていません」
「それでいい」
少し沈黙。
「次は?」
イオリが聞く。
俺は答えた。
「外だ」
「外?」
「線の外側に、もう一つ作る」
イオリが一瞬止まる。
「それは……」
「分かってる」
難易度は跳ね上がる。
だが、必要だ。
途中の外側にも、落ちる場所がいる。
でなければ、また消える。
◇
出口はできた。
だが、それは終わりではない。
流れを広げるには、さらに外へ手を伸ばす必要がある。
──メインクーンの俺が、“途中の出口”ごと、この世界の外側へ繋げてやる。