転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第五十話:出口の設計図

 

 入口を作れば、次に問われるのは出口だ。

 

 入れるだけの場所は、やがて溜まり場になる。

 

 溜まれば濁る。

 濁れば沈む。

 

 だから、流す。

 

 “途中”に来たものを、どこへ出すか。

 

 それを決めるのが──出口の設計だ。

 

 朝。

 

 詰所のホワイトボードには、新しい枠が追加されていた。

 

 緩衝帯フロー図。

 

 入口。

 滞在。

 分岐。

 出口。

 

 単純に見えるが、ここが一番難しい。

 

 ハルが図を見て言う。

 

「なんか、迷路みたい」

 

「迷路だ」

 

「迷わせるの?」

 

「違う」

 

 俺は答えた。

 

「迷ったやつが、詰まらないようにする」

 

 レゴシが頷く。

 

「詰まると、沈む」

 

「そうだ」

 

 ◇

 

 出口は三つに分けた。

 

 一、内側接続(ステイ区画・前圏観測所)

 二、外部再接続(地域協力店・軽負荷施設)

 三、別系統移送(安全管理局・医療機関)

 

 そして──

 

 四、保留。

 

 これが一番厄介だ。

 

 ハルが指さす。

 

「これ、ずっとここにいるやつ?」

 

「違う」

 

「違うの?」

 

「動かないやつを動かすための保留だ」

 

 カナンが聞く。

 

「どういう意味ですか」

 

「選ばせる」

 

 沈黙。

 

 ライカが小さく言う。

 

「選べないから、途中に来るんじゃ……」

 

「そうだ」

 

 俺は頷く。

 

「だから選ばせる」

 

 矛盾している。

 

 だが、必要だ。

 

 ◇

 

 具体的にはこうだ。

 

 滞在三日。

 

 その間は何も強制しない。

 観測のみ。

 

 四日目。

 

 必ず一度、“出口に立たせる”。

 

 内側でもいい。

 外でもいい。

 別系統でもいい。

 

 選ばせる。

 

 選べなければ? 

 

 もう一度戻す。

 

 ただし、二回目は条件が変わる。

 

 誰かと一緒に選ぶ。

 

 レゴシが反応した。

 

「一緒に?」

 

「そうだ」

 

「誰と」

 

 黒狼が笑う。

 

「俺らだろ」

 

 ◇

 

 この“同行選択”は、かなり荒い方法だ。

 

 だが効果はある。

 

 完全に止まった個体は、自分だけでは選べない。

 

 だが、誰かが横にいれば動ける。

 

 それは依存ではない。

 

 借りるだけだ。

 

 ハルが言う。

 

「ずっと一緒じゃないんだよね」

 

「一回だけだ」

 

「それなら……いいかも」

 

 ◇

 

 問題は人員だ。

 

 同行役を誰がやるか。

 

 レゴシは当然手を挙げた。

 

「俺、やる」

 

 黒狼も言う。

 

「俺も」

 

 カナンが少し迷ってから言った。

 

「……俺も、できるなら」

 

 ライカは黙っていたが、視線は外さなかった。

 

 ハルがそれを見て、小さく言う。

 

「焦らなくていいよ」

 

 ライカは頷いた。

 

 ◇

 

 午後。

 

 最初の“出口運用”が行われた。

 

 対象は三体。

 

 一体目。

 クロウ。

 

 情報提供者であり、滞在三日目。

 

 クロウはあっさり言った。

 

「外に戻る」

 

「理由は」

 

「ここ、静かすぎる」

 

 黒狼が笑う。

 

「合わねえか」

 

「合わねえ」

 

 それでいい。

 

 クロウは外部再接続へ回した。

 

 地域協力店の一つ、夜間配送拠点。

 

 クロウの性質には合う。

 

 ◇

 

 二体目。

 

 フェレット。

 

 灯り係。

 

 四日目。

 

 出口へ連れて行く。

 

 レゴシが同行した。

 

「どこ行きたい?」

 

 フェレットはしばらく黙る。

 

 灯りを見る。

 

 出口を見る。

 

 そして、ぽつりと言った。

 

「……灯り、持っていっていい?」

 

 ハルが目を丸くする。

 

「え?」

 

 フェレットは続ける。

 

「外、暗いとこ多い」

 

 レゴシがゆっくり頷く。

 

「持っていこう」

 

 結果。

 

 フェレットは外部再接続へ。

 

 ただし役割付き。

 

 灯りの運搬と設置。

 

 帰り道の灯りを増やす側へ回った。

 

 これは予想外だが、いい流れだ。

 

 ◇

 

 三体目。

 

 バルド。

 

 最も重い。

 

 四日目。

 

 出口に立たせる。

 

 レゴシと黒狼が同行。

 

 バルドは出口で止まる。

 

「……どこ行っても、壊す気がする」

 

 レゴシが言う。

 

「じゃあ、壊さない場所に行こう」

 

「そんなのあるのか」

 

「ある」

 

 黒狼が鼻で笑う。

 

「ねえよ」

 

 レゴシが困る。

 

「いや……ある」

 

 バルドが小さく笑う。

 

「どっちだ」

 

 黒狼が肩をすくめる。

 

「壊してもいい場所ならある」

 

 沈黙。

 

 俺が口を開いた。

 

「前圏観測所」

 

 レゴシが頷く。

 

「そこで、観測する」

 

 バルドは考える。

 

 長い沈黙。

 

 やがて、言った。

 

「……壊したら?」

 

「止める」

 

 レゴシが言う。

 

「壊れたら?」

 

「戻す」

 

 バルドは目を閉じた。

 

 そして、頷いた。

 

「……行く」

 

 ◇

 

 こうして、最初の出口運用は成功した。

 

 三体。

 

 それぞれ違う出口へ。

 

 流れた。

 

 詰まらなかった。

 

 これが重要だ。

 

 ◇

 

 だが、当然反応は来る。

 

 翌日。

 

 議会。

 

 新しい批判。

 

 “緩衝帯は、責任の所在を曖昧にする”

 

 当然だ。

 

 内でも外でもない。

 

 誰が責任を持つのか。

 

 ルイが言う。

 

「これは強い」

 

「分かってる」

 

「どう返す」

 

 俺は少し考えた。

 

 そして言った。

 

「責任を分割する」

 

 ハルが顔をしかめる。

 

「分割?」

 

「そうだ」

 

 イオリがすぐに補足する。

 

「入口、滞在、出口、それぞれに責任主体を設定します」

 

「入口は?」

 

「前圏観測」

 

「滞在は?」

 

「ステイ区画」

 

「出口は?」

 

「接続先」

 

 ハルがため息をつく。

 

「ややこしい……」

 

「だから制度だ」

 

 ◇

 

 さらに問題。

 

 外側。

 

 グレイの動き。

 

 クロウが戻ってきた情報。

 

「南部で、“途中”に似た場所を作ろうとしてる」

 

 全員が固まる。

 

「真似か」

 

「違う」

 

 クロウは首を振る。

 

「囲うつもりだ」

 

 黒狼が舌打ちする。

 

「檻か」

 

「多分な」

 

 つまり。

 

 緩衝帯の概念を利用し、隔離施設を作る。

 

 しかも“途中”と名乗る可能性もある。

 

 最悪だ。

 

 ハルが言う。

 

「それ、絶対混ざるよ」

 

「混ざる」

 

 ルイが言う。

 

「だから先に定義を固める」

 

 イオリが頷く。

 

「出入り自由、観測開示、強制収容禁止。これを外せば“途中”ではない」

 

「名前を守るか」

 

 俺は言った。

 

「名前じゃない」

 

 ハルが言う。

 

「中身でしょ」

 

 ……その通りだ。

 

 ◇

 

 夜。

 

 “途中”の見回り。

 

 空いた場所に、新しい獣が一体入った。

 

 若い草食。

 

 震えている。

 

 だが、逃げない。

 

 灯りを見る。

 

 壁の文を見る。

 

 そして、座る。

 

 それだけ。

 

 それでいい。

 

 途中は、それを許す場所だ。

 

 ◇

 

 屋上。

 

 イオリが言う。

 

「流れができました」

 

「まだ細い」

 

「ですが、止まっていません」

 

「それでいい」

 

 少し沈黙。

 

「次は?」

 

 イオリが聞く。

 

 俺は答えた。

 

「外だ」

 

「外?」

 

「線の外側に、もう一つ作る」

 

 イオリが一瞬止まる。

 

「それは……」

 

「分かってる」

 

 難易度は跳ね上がる。

 

 だが、必要だ。

 

 途中の外側にも、落ちる場所がいる。

 

 でなければ、また消える。

 

 ◇

 

 出口はできた。

 

 だが、それは終わりではない。

 

 流れを広げるには、さらに外へ手を伸ばす必要がある。

 

 ──メインクーンの俺が、“途中の出口”ごと、この世界の外側へ繋げてやる。

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